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LOCAL LETTER

FC今治に魅了される官民が続出中? 心の豊かさを軸に、スポーツクラブが行う “まちづくり” のいま

OCT. 26

拝啓、スポーツを通じて行う「まちづくり」を知りたいアナタへ

スポーツは「する」のが好きですか?
それとも「応援する」のが好きですか?

プレイヤーとして「する人」。観て「応援する人」。ボランティアやマネージャーとして「支える人」。スポーツの門戸は広く、老若男女も言葉も関係なく、誰もが参加することができます。そんなみんなの想いが集まる集積地が、スタジアム。

様々な人がフラットにつながり、地域の憩いの場にもなるスタジアムは、まるでシリコンバレーのような無限の可能性を秘めている場所でもあります。

そこで今回は、「スポーツ × まちづくり」に精通した豪華4名、矢野将文氏(株式会社今治.夢スポーツ 代表取締役社長)、テイト永渕氏(三浦工業株式会社 企画統括部長)、井上貴至氏(内閣府 地方創生推進事務局)、米田惠美氏(公認会計士 米田公認会計士事務所 代表)のトークをお届け。

前編では、愛媛県今治市のFC今治の事例をもとに「スタジアムを通じたまちづくり」について、白熱した内容をご紹介します。

FC今治に魅了された、官民より多彩メンバーが集結。

米田氏(モデレーター:以下、敬称略):本日、モデレーターを務めます公認会計士の米田と申します。私は、以前までJリーグの理事をしていて、今は官民連携やソーシャルセクターと連携し、スポーツを通じて社会課題を解決していく活動をしています。

2020年にJリーグへ上がられたFC今治さんとは、私が理事を務めていたタイミングと入れ違いになってしまい、関わりがありませんでした。ですが、色々な方から「FC今治さんとは話したほうがいい」と言われ続け、ようやく少し前にお仕事で接点ができたところです。

写真右上> 米田 惠美(Emi Yoneda)氏 公認会計士 米田公認会計士事務所 代表 / 高校時代から社会システムデザインに興味をもち、慶應義塾大学在学中に公認会計士の資格を取得。監査法人勤務を経て、2013年に独立。組織開発・人材開発会社の副社長、Jリーグフェローを経て、2018年3月からJリーグの常勤理事として、官/民/スポーツの連携を推進する社会連携本部を立上げるなど、ハンズオンの各種経営改革を2年間に渡り実施。
写真右上> 米田 惠美(Emi Yoneda)氏 公認会計士 米田公認会計士事務所 代表 / 高校時代から社会システムデザインに興味をもち、慶應義塾大学在学中に公認会計士の資格を取得。監査法人勤務を経て、2013年に独立。組織開発・人材開発会社の副社長、Jリーグフェローを経て、2018年3月からJリーグの常勤理事として、官/民/スポーツの連携を推進する社会連携本部を立上げるなど、ハンズオンの各種経営改革を2年間に渡り実施。

米田:今日のセッションでは、FC今治さんの「難しい挑戦」に魅了されてきたメンバーで、お伝えしていきます。それでは、皆さんにも自己紹介をお願いできればと思います。

矢野氏(以下、敬称略):株式会社今治.夢スポーツ代表取締役社長の矢野です。私は愛媛県出身で、十数年前に地元に戻ってきました。たまたま知人を通じてサッカー元日本代表監督の岡田武史さんがFC今治の代表になった翌日にお会いしまして。そこで「一緒にFC今治でやらないか」と声をかけられ、そのご縁で6年半突っ走ってきたところです。

Jリーグの舞台にも立つことができたり、まだ家を建てたことがないのにスタジアムの建設を任せられたりと、刺激的な毎日を送っています。今日は「地域 × スポーツ」という切り口で、お話できれば嬉しいです。

写真右下> 矢野 将文(Masafumi Yano)氏 株式会社今治.夢スポーツ 代表取締役社長 / 愛媛県出身。2000年東京大学工学系研究科修了後、ゴールドマン・サックス証券入社。債券営業部に所属し、金融法人の有価証券運用を支援する業務に従事。地元に戻り、愛媛大学農学研究科で林業を専攻。その後、岡田武史氏とのご縁があり、経営企画室長等を経て現職。賑わいの拠点となる“里山スタジアム”建設に取り組む。
写真右下> 矢野 将文(Masafumi Yano)氏 株式会社今治.夢スポーツ 代表取締役社長 / 愛媛県出身。2000年東京大学工学系研究科修了後、ゴールドマン・サックス証券入社。債券営業部に所属し、金融法人の有価証券運用を支援する業務に従事。地元に戻り、愛媛大学農学研究科で林業を専攻。その後、岡田武史氏とのご縁があり、経営企画室長等を経て現職。賑わいの拠点となる“里山スタジアム”建設に取り組む。

テイト氏(以下、敬称略):三浦工業株式会社に勤めているテイト永渕(通称:テイト)と申します。もともと、機械のエンジニアとして入社しましたが、海外で働くのが夢で、それが叶い米国で9年ほど技術サポートをした後、4年ほど前に帰国を命じられ、今はCSRという地域活性化に関する担当として、FC今治さんのまちづくりにも関わっています。

個人的な活動として、愛媛・松山を中心に「たてヨコ愛媛」というコミュニティも立ち上げました。本日はよろしくお願いいたします。

写真左上> テイト永渕(Tate Nagafuchi) 氏 三浦工業株式会社 企画統括部長 / 三浦工業でCSR・ブランディング・情報システムを担当し、現在FC今治新スタジアムの防災拠点づくりプロジェクトにも関わる。2000年に機械エンジニアとして入社し、2008年より9年間アメリカ駐在を経験。帰国後仲間とともに愛媛で最も面白い人たちが集まる社会人コミュニティ「たてヨコ愛媛」を立上げる。ニックネームはテイト(Tate)。
写真左上> テイト永渕(Tate Nagafuchi) 氏 三浦工業株式会社 企画統括部長 / 三浦工業でCSR・ブランディング・情報システムを担当し、現在FC今治新スタジアムの防災拠点づくりプロジェクトにも関わる。2000年に機械エンジニアとして入社し、2008年より9年間アメリカ駐在を経験。帰国後仲間とともに愛媛で最も面白い人たちが集まる社会人コミュニティ「たてヨコ愛媛」を立上げる。ニックネームはテイト(Tate)。

井上氏(以下、敬称略):大阪出身の面白くない大阪人の井上です。総務省に入り、長年地域を元気にする仕事をしてきました。一昨年まで愛媛県に出向し、その際に矢野さんやテイトさんにもお世話になりました。出向中は、全国の青少年を集めて実施する次世代リーダー育成型ワークショッププログラム「Bari Challenge Universityも見させてもらって、FC今治の成長を間近でみたりと、とても楽しい2年間でした。

私自身は、出会った人と事例を繋げながら、新しい花を咲かせる “地域のミツバチ” として活動をしています。どうぞよろしくお願いいたします。

写真左下> 井上 貴至(Takashi Inou)氏 内閣府 地方創生推進事務局 / 2008年総務省入省。15年4月から自ら提案した地方創生人材支援制度の1号で鹿児島県長島町に赴任。7月から副町長(29歳は史上最年少)。17年4月からは愛媛県市町振興課長。19年4月から現職。週末は地域の隠れたヒーローを訪ね歩く。座右の銘は「ミツバチが花粉を運ぶように全国の人をつなげたい」。ブログ「地域づくりは楽しい」が好評。
写真左下> 井上 貴至(Takashi Inou)氏 内閣府 地方創生推進事務局 / 2008年総務省入省。15年4月から自ら提案した地方創生人材支援制度の1号で鹿児島県長島町に赴任。7月から副町長(29歳は史上最年少)。17年4月からは愛媛県市町振興課長。19年4月から現職。週末は地域の隠れたヒーローを訪ね歩く。座右の銘は「ミツバチが花粉を運ぶように全国の人をつなげたい」。ブログ「地域づくりは楽しい」が好評。

米田: “地域のみつばち” のようなあだ名があるの、とてもいいですね。今、井上さんからご紹介いただいた「Bari Challenge University」は、FC今治さんが行なっている教育事業の一つです。

今回、このセッションを主催しているWHEREのボランティアメンバーの中にも、「Bari Challenge University」の出身者がおり、矢野さんが登壇されると聞いて大騒ぎしていました。(笑)蒔いた種が全国に広がっているのを実感しますね。

サッカーだけではなく、心の豊かさを大切にする「社会づくり」に貢献するスポーツクラブ。

米田:ここからは、今治.夢スポーツの理念やこれまでやってきたことなどをお伺いしたいです。

矢野:今治市はもともと野球のまちでした。当初は「野球もサッカーも含め、スポーツで活気あるまちづくりをやる」ことを住民に伝えるところから、今治.夢スポーツの活動は始まりましたね。

一方で、岡田氏が2014年のW杯の日本惨敗を受けた際に、「武道にはある型(一貫したスタイル)がサッカーはないのでつくりたい」と考えており、そのような構想も裏テーマとしてありました。

矢野:岡田氏と初めて会った時から、彼は「俺は次世代のために働きたい。自分は物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会づくりに貢献する」と言い続けていて。企業のミッションステートメントとしては、スライドの内容を掲げています。

【ミッションステートメント】1.社員に始まり、より多くの人たちに夢と勇気と希望、そして感動と笑顔をもたらし続けます / 2.多様な人が集まり活気ある街づくりに貢献します / 3.世界のスポーツ仲間との草の根の交流を進め、世界平和に貢献します / 4.地球環境に配慮して事業活動を行います
【ミッションステートメント】1.社員に始まり、より多くの人たちに夢と勇気と希望、そして感動と笑顔をもたらし続けます / 2.多様な人が集まり活気ある街づくりに貢献します / 3.世界のスポーツ仲間との草の根の交流を進め、世界平和に貢献します / 4.地球環境に配慮して事業活動を行います

矢野:「サッカーでまちを盛り上げます」と、サッカーの試合をリアルで見たことがないご年配の方に言っても理解はしてもらえません。

反対に、井上さんにも参加をしていただいた「Bari Challenge University」という若者向けのワークショップイベントでは、全国から多数の応募があったりもして。1年目は定員100名の応募に関して400名の応募があり、東京大学教授・鈴木寛さんの研究室の方も落ちてしまって、東大より難しい」と言われてしまうほどでした。

外からの反響をまちの人がみて、「なにか面白いことをしているな」と、少しづつ理解をしてもらえるようになったと思います。最初から「スポーツ」や「サッカー」という切り口だけではなかった数年間でしたね。

米田:今治.夢スポーツは、視座が高いと感じています。地域密着でホームタウン活動をしており、J3は試合運営するだけでも大変なのに、教育事業にしっかりとした投資をしていることがすごいです。私は全クラブを見てきましたが、今治はすごく芯が通っているクラブだと感じています。

環境に優しく、防災拠点としても活用できる「里山スタジアム」。

米田:テイトさんと井上さんにお伺いしたいのですが、今治.夢スポーツと関わるきっかけはなんだったのでしょうか?

テイト:私たち三浦工業という会社は、「環境に貢献する」という理念があります。当時からCO2を削減して地球温暖化を防ぐことに力を入れており、今は脱炭素に会社も舵を切っています。

さらに、企業として売り上げ・利益を追求するのではなく、地域貢献・社会貢献をし、企業としての価値を上げていかないといけないとも考えていて。そんな想いを持つ弊社社長の宮内が、岡田代表と出会い、岡田代表の魅力にどんどん引き込まれていった形です。

矢野:代表の岡田も、宮内社長と気が合うと話していました。

テイト:宮内社長も未来志向タイプなので、岡田代表と気があったのだと思います。「里山スタジアム」は、環境に優しいまちづくり・防災拠点づくりという2つの理念を掲げています。この理念に貢献するために、弊社商品の燃料電池と、水処理システムを導入させてもらっていて、日頃から環境に貢献しながら、例えば被災時にスタジアムに集まれば、電気・水・温水を供給できるようなインフラのバックアップにもなります。

いつも弊社の社員は、「FC今治さんと仕事をすると楽しい」と言っていて。FC今治の皆さんは熱量を持っていらっしゃり、前向きで楽しいワクワクが伝わってくるので、仕事をしていると僕自身も楽しいですし、本当に尊敬しています。

米田:三浦工業さんは、社員6,000人程の大企業です。会計士的な目線でいうと、統合報告という報告書を作っている企業は、大体素敵な会社さんなのですが、中でも三浦工業さんの統合報告は、100年のスパンで物事を捉えられており、未来志向のレポートとなっているのでぜひみてください。あとで、「統合報告 三浦工業」と検索をかけてもらえたらと思います。井上さんはいかがですか?

井上:総務省から2年間、愛媛県に出向をしていたとき、「出向中は全力で愛媛のことを楽しもう」と思っていて。出向中、岡田代表は、岡田メゾット(主体的にプレーできる自立した選手と自律したチームを育てることを目的としたサッカー指導の方法論の体系のこと)をサッカー少年に幼少期から導入するために、サッカーの監督をやるだけではなく、ゼロからチームや、スタジアムを自分たちでつくろうと、夢の溢れる仕事をしていました。

働いている皆さんもとてもイキイキしていますし、大手企業に勤めていた方が入社することもあるので、今治.夢スポーツに行く度にとても能力の高い方にお会いでき、新しいプロジェクトにも挑戦されていたので、傍にいるのが本当に楽しかったですね。

印象に残っているのは、岡田代表が「良いサッカー選手か、そうでない選手かの違いは、100mを最後まで全力で走るかどうか」だと言っていたことで、その話を聞いて、私も全力で仕事をしようと思いましたね。

今治出身で株式会社サイボウズの青野社長と一緒にFC今治に寄付をしたこともありました。ぜひ、皆さんも「いいな」と思ったら、その土地に足を運んだり、寄付をしたりと、ぜひ行動に移してもらえたらと思います。

ガウディのように未完のスタジアムであり続ける、里山スタジアムプロジェクト。

米田:新しいスタジアムを作る「里山スタジアムプロジェクト」は、人類にとって重要な挑戦だと私は思っています。行き過ぎた金融偏重の資本主義や物質主義に対する挑戦など、このプロジェクトには色々な挑戦がありますが、里山スタジアムの挑戦について、お話お伺いできればと思います。

矢野:里山スタジアムを作る理由として、1つは、スタジアムを作らないと上のリーグに上がれないので、要件を満たすという意味もありますが、せっかくスタジアムを作るからには、“面白い場所” を作ろうと考えています。

私たちが考える “面白い場所” は、人が賑わい、当事者間が生まれる場所で。「里山」という名のごとく成長・変化をしていく。木々が茂っていくように、スタジアムにくる人が成長していく。あるいは人の集まりによって、文化が成長していく。そんな場所を “面白い場所” と定義し、「里山スタジアム」と呼んでいます。

矢野:「里山」というと、いろんな意味がありますが、藻谷浩介さんが書かれている『里山資本主義』の場合は、お金だけに依存しないサブシステムを、自ら作っていこうという話ですよね。私たちの場合は、「心の豊かを大切にする社会づくりに貢献します」と掲げているので、掲げた以上、里山スタジアムは365日賑わう場所であり、当事者感をもって動ける場所。そして、人間としての価値が高まる場所であり、結果として、心の豊かさを大切にする社会づくりに貢献できる場所にしたいと思っています。

米田:熱量のあるお話が本当にワクワクします。以前矢野社長は、「皆さんの夢を乗っけていく、ガウディのように未完のスタジアムであり続ける」ともおっしゃられていましたが、後ほど、皆さんの「自分だったらこういう夢がある」も知れたらと思っております。

井上:今治市というと、「しまなみ街道」や「海賊」など海のイメージが強かったのですが、なぜ「里山スタジアム」という名前にしたのでしょうか?

矢野:今治市には、海はいくらでもあります。当初は、スタジアムを海に浮かべられないかという話や、船で日本中をスタジアムが移動できないかという話もありましたが、お金がかかりすぎてしまい断念しました(笑)。

今治市に残っている土地も多くない中で、市が保有しており、かつ、使われていない5.8ヘクタール平地を紹介してもらい、今治市から30年間無償でお借りすることができたので、今の場所にスタジアムをつくることに落ち着きました。

矢野:名称は、「里海スタジアム」でもよかったのですが、海に関係することをやろうとすると、水族館など作らないといけず、やはりお金がかかりすぎてしまいます。さらに、環境問題にも関わってきた代表の岡田が最近言っているのが、「ヒーリングヴィレッジ(心を癒す場所)」。私たちが作るスタジアムは、ヒーリングヴィレッジにしたいと山を選びました。

子ども達のための「しまなみ野外学校」や、企業様向けの研修なども行なっていますが、この間は、今治市街地から現地まで車で、30分ほどで行ける山を借りてキャンプ場を作りました。

米田:いいですね。私の個人的な里山スタジアムの構想をばらしますと、市全体をアクティビティにしてしまい、あちこちに五感が刺激をされる場所を作りたいなと思っています。FC今治のサポーターさんがキャストになり、町中の人がおもてなしをします、といったことができればいいなと夢を膨らませています。

※本記事は2021年2月に開催された、地域経済活性化カンファレンス「SHARE by WHERE」の登壇内容をレポート記事にしたものです。

Editor's Note

編集後記

私は、幼い頃から後ろ指さされて笑われてしまうくらい大の運動音痴です。スポーツができない自分が嫌いで、スポーツとは無縁な生活を送ってきました。そんな私を変えたのは、中学生の時。サッカー好きの父が、サッカーワールドカップの日本代表の試合をスタジアムのチケットを取ってくれ、観に連れて行ってくれました。

生だからこそ感じられる試合の熱気。応援する楽しさ。試合後の高揚感。その時に、スポーツには色々な携わり方があって、運動ができなくても応援することや支えることでもスポーツに携われることを知りました。

スタジアムは、プレイヤーだけでなく、老若男女関係なく誰もが入れる場所。今治.夢スポーツの構想をきくだけで、ワクワクが止まりませんし、スタジアムの完成が本当に楽しみになりました。

これからもSHARE by WHEREの応援をよろしくお願いします!

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