Tourism Centre
観光センター
「地域経済をともに創る。」を合言葉に、全国の産学官の実践者たちが一堂に会する、地域経済サミット『SHARE by WHERE(通称:SW)』。
今年は8月26日に、北海道上士幌町でリアルとオンラインのハイブリッド開催を行う中、今回はSWの特別編として6月23日~25日に長野県松本市・乗鞍(のりくら)国立公園で開催した「乗鞍ゼロ・カーボンサミット」の一部始終をご紹介。
現在、松本市が主体となり中部山岳国立公園内にある松本市乗鞍観光センター及び、周辺の再整備計画が進んでいる乗鞍。「次世代の観光センターの役割と実装」と題し、登壇者4名がそれぞれの立場で語りあう参加型オープンセッションが実施されました。その中でも本レポートでは、日本全国でキャンプ場や宿などのプロデュースを手がける、株式会社VILLAGE INCの橋村和徳さんのトークに注目。
今まさに、 「今後の観光センターの在り方」を考えているという乗鞍メンバーに、橋村さんが投げかけた問いとは。
中部山岳国立公園内に位置し、日本を代表する傑出した山岳景観を誇る乗鞍高原は、ゼロカーボンパーク第一号に選ばれており、現在は政府が支援する「脱炭素先行地域」として持続可能な地域づくりのあり方を模索し続けている場所です。
そんな乗鞍で今進んでいるのが、松本市乗鞍観光センター及び周辺の再整備。
当初は「団体が合宿等で乗鞍に来た際に一同に会せる場が欲しい」という地域からの要望で、約40年前に設立されたのだそう。現在は指定管理制度を使い、管理の委託を行っているものの、時代の変容と共に施設のニーズが大きく変わったことで、2階の集会スペースは稼働率が低いのが現状だといいます。
今回のセッションで司会を務めた、ゲストハウス雷鳥のオーナーであり、乗鞍のキーマンの一人である藤江佑馬さん。観光センターの建替えに対し、「センターの生まれ変わりは、乗鞍の50年後を見据えたビッグチャンス」と話します。
そんな中、全国のローカルで数々のプロデュースを手掛けてきた橋村さんは、未来へと続いていく観光センターをつくるため “基本構想” に対する重要性を説きます。
「今回のSWがまさにそうですが、乗鞍の人だけでなく外部の人も巻き込みながら、基本構想を本気で考えることが重要です。それはいわば御旗の部分なので、言い方が悪いかもしれませんが、そこにしっかりお金をかけていく。
お金をかける=コンサルにお願いするという意味ではなくて、地域に対してコミットメントできる変態を集めてきて、対価を発生させながらブレストをすること。発言者に責任をもたせる設計が必要なんです」(橋村さん)
更に橋村さんは、未来の予測が難しいVUCAの時代だからこそ、設計については柔軟性をもたせておくことが大切だと話します。
「観光センターの完成予定が令和8年とお聞きしましたが、暗に “4年後に完成形を出す” のはもう時代遅れで。今求められるのは、プレオープンのエリアを展開しながらの設計。だって4年もの月日があったら、いろんなことができますからね。コロナが予期できなかったように、今は何が起こるかわからない時代。つまり基本構想はゆるぎなく、でも設計には柔軟性を持たせておくことで、時代の変化に対応できる。必要なのは調整です」(橋村さん)
新しい観光センターに対して「ビジターセンター的な役割も期待する」と話すのは、登壇者の環境省・目﨑 浩児さん。学びを提供する場である必要性についても話が膨らみつつも、話は次第に「新しい観光センター運営者の選定方法」へ。それを受け橋村さんは、「選定方法次第では、頑張らない仕組が生まれてしまう可能性がある」と恐れを示します。
「経験上、構想をつくる人と管理者が別になるのはよくないと思っています。構想をつくる段階から管理候補者が入っていないと、極端なことを言えば、管理者は構想を実現しない可能性が生まれますし、構想を考える側もコミットメントが求められません。結果的に双方が実現に対して責任をとらなくなる可能性が生まれてしまうので、 “発言したなら自分がやる可能性” を持たせる。結論、指定管理者制度が悪いわけじゃなく、頑張らなくてもお金が入ってくる仕組があるのがいけないということです」(橋村さん)
「僕は、意見を出す段階からアドバイザー契約を結ぶことも大切にしていて。無償でアドバイスをして、結果的には他の事業者が実行するというケースを少なからず僕も経験してきました。アイデア泥棒や時間泥棒が一番よくないですし、こうした不安があると、結果的にコミットメントからも遠ざかってしまうので、アドバイザー契約を結んで、必ず指定管理者制度へも手を挙げさせてもらう土俵をつくる。熱量を維持させる制度設計も必要だと考えています」(橋村さん)
登壇者たちの意見を聞き、「次世代の観光センターの役割と実装」をテーマに約10分ほどのグループディスカッションを行った参加者たち。「センターの機能にガイドツアーをもたせること」や「観光センター内のセントラルスペースの活用方法」といった意見が出る中、「地域の人たちが、自分事として考えられる提案が必要」という発言に対し、橋村さんは一つの疑問を投げかけます。
「何かを作り上げていく際に、一方的にこちらの思惑を寄せていくと、置いていかれる人が出てしまうケースが多々あります。置いていかれる人が地元の人だとなお危険で。だからこそ、地元ももちろんですが、外から参画する人も “どっちも自分事になっている” は最低要件だと思いますね」(橋村さん)
さらに、「何がほしくて、何故ほしいのかを深ぼることが大事」だと話す橋村さん。
「つくったのに『欲しいって言ってた人が結局来ない』もよくあるケース。なので、しっかりと意見を聞くことは当然ですけど、正直なところ、実行者本人が自分が欲しいと思うものを深掘り実現していくことが大事です。結局、やり切れた人しか自分事として行動できる人はいないんですよ。だから、地元の人・外の人で括るんではなく、動けるところからどんどん進めていくのがいいと思いますね」(橋村さん)
観光センター建替えにあたり「基本設計とプロセス」がキーワードとして見えてきた今回のオープンセッション。参加者の話を受けた、のりくら観光協会長・宮下了一さんは、未来に乗鞍観光センターを残していくことへの想いを教えてくれました。
「建物は何十年も残っていく。つまりは、今の課題感だけで建物をつくったらきっと失敗してしまう。今の乗鞍はマイカー規制を行っていますが、それも今後どうなるかわからないですし、バスターミナル機能もなくなるかもしれない。『今欲しい物、今の課題』といったところに議論が集中しそうだけど、未来を見据えて幅広く考えたほうがいいと思っています」(宮下さん)
今回のまとめとして、橋村さんは改めて「結局、プレイヤーにならない人が設計をしてはいけない」と強く言及します。
「制度設計と基本構想が肝になる。重複しますが、自分事として考えられる人たちを軸に進めていくことが大事なんです」(橋村さん)
産官学が一同に集い、共創精神で行われた本サミット。オープンセッションだけでなく、滝行体験や川サウナ、BBQなどのワークタイムを通して密度の濃い時間を過ごしました。その中でも再確認したいのが、乗鞍をキーワードに、産学官の垣根を越えフラットに対話を行えたこと。利害を超えた、どうしたら地域がより良く、面白くなっていくかに貪欲なメンバーたちが交わりました。
8月26日開催のSWでは、約50名の登壇者が各議題についてセッションを実施。今年はどんな化学反応が起きるのか!産官学での更なる可能性を見いだします!
Editor's Note
松本市、長野県庁、環境省、そして全国から有志で集まった起業家精神の方々が乗鞍へ集結し、濃い議論が繰り広げられた今回のオープンセッション。まとめでも書きましたが、立場に関わらず全ての人がフラットに、一つの目的のために話し合うということの大切さを強く感じました。
8月26日開催のSW、どんな展開になるのか乞うご期待です!
YURIKA YOSHIMURA
芳村 百里香