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※本レポートは、株式会社WHEREが主催するトークセッション『地域経済サミットSHARE by WHERE in 東海 – 結ぶ東海 -』のSession2「スポーツ×まちづくり|よい関係性からよいシナジーを生み出す」を記事にしています。
日常へ溶け込んでいく、スポーツ。
アナタの暮らすまちにも地域に根付いたクラブチームや、そのまち由来の競技があるかもしれません。
いまやスポーツは単なる競技を超え、地域活性化や経済発展の重要な要素となっています。特に近年、大規模なスポーツ施設の建設や国際大会の開催が、まちづくりや地域のブランディングに大きな影響を与えています。
このトークセッションでは、「スポーツ×まちづくり」をテーマに、スポーツを通じた新しい地域づくりについて議論を交わしています。
スポーツ界や行政、施設運営を担う民間事業者など多様な分野での経験を持つプロフェッショナルが集まり、「スポーツ×まちづくり」の可能性と課題を追求しました。特別セッションの様子を一部お届けします。
古里氏(モデレーター、以下敬称略):皆さんこんにちは。本日モデレーターを務めさせていただきます、株式会社リトルパークの古里です。私は岐阜県と北海道、山形県と3拠点で生活をしています。元々金融機関で働いていて、金融の立場からいろいろなまちづくりの取り組みに関わってきました。
古里:本日は、各セクターでそれぞれスポーツに関わってる方が集まっていますね。まず個々の皆さんのお取り組みをご説明していただきたいと思います。
上村氏(以下敬称略):IGアリーナ(愛知県新体育館)を運営している株式会社愛知国際アリーナの上村と申します。来年2025年7月に開業のIGアリーナは、今年まで大相撲名古屋場所を開催しているドルフィンズアリーナの後継となる新築移転のアリーナです。現状の3倍にあたる、1万7,000人分の観客席を用意するという国内アリーナ最大級の規模を予定しています。
IGアリーナという名称は、ネーミングライツ*契約により今年の2月に発表いたしました。
*ネーミングライツ…公共施設等に名前を付与する代わりに、当該団体からその対価等を得て、施設の持続可能な運営に資する方法
ネーミングライツを与えられた「IGグループ」は今世界約20の地域で展開されていて、日本でも20年近く営業しています。オンラインの証券会社としてさらに認知を拡大したいという課題をお持ちでした。
そこで、さらに会社の知名度を広げるためにネーミングライツ契約を結んでいただきました。アリーナのネーミングライツ契約価格としては国内最高額でのディールとなります。
上村:そもそもIGアリーナが誕生する背景には、老朽化していた県の施設を新しくしようとする愛知県のプロジェクトがありました。新しい施設では、国際大会の運営やコンサートの開催ができるようにしたいという要件があり、そのプロジェクトに我々が入札し、今に至ります。
そもそも施設の運営には民営と公営がありますが、この2種類は全然違っています。公営だとなかなかビジネス視点で考えにくかったり、プロのスポーツチームにとって必ずしも使いやすいわけではないという課題があります。
一方で民営化すると、建設地として大規模な土地が必要ですので、なかなかアクセスがいい場所がない状況があります。
それに対して、我々はその中間ともいえるPFI事業*として、公と民が連携して一緒にプロジェクトを進めています。アリーナの規模の施設をこの形態で運営するというのは比較的新しいやり方かと思います。
PFI事業*…民間の資金やノウハウなどの活用により、公共施設等の建設や整備等にかかるコストの縮減する手法
古里:公共のお話も出てきましたので、次は行政の立場でスポーツに関わってきた猪股さんの取り組みをお伺いしたいです。
猪股氏(以下敬称略):以前、文部科学省で地域スポーツを担当してる時がありまして、日本中の地域のスポーツクラブをどうやって盛り上げていこうかを考えました。地域のいわゆる「総合型地域スポーツクラブ」のようなお子さんからおじいちゃんおばあちゃんまで、みんなが日々スポーツと関わることができるコミュニティづくりに関わっていました。
猪股:スポーツ×まちづくりを考える時、ターゲットが誰なのかが、継続して運営していく上でとても大事だと思うんです。加えて運営に関しては、行政がうまくサポートできることが理想的です。
「予算だけ用意してあとはお任せ」というように、行政が地域のクラブや民間と距離を取ってしまうことが多い。私はそこを課題に感じています。
取り組みを一過性のものにしないためにはお金も必要です。民間と組んでまちおこしにつなげていく、やはり行政の力が必要だと思います。
古里:まちづくりをスポーツという切り口で考える場合、どういう立てつけがよいのでしょうか?
猪股:例えば「健康増進」などから考えてる人は沢山います。ただ、私は単純にスポーツが好きですし、スポーツは「お祭り」と一緒だと思っています。スポーツのコミュニティには喜びや感動が生まれやすい。人が集まって盛り上がりが生まれるのは、スポーツもお祭りも同じことです。
皆さん、生まれ故郷のお祭りを想像していただければと思うんですが、お祭りって知らない人と喋るところから、自然とコミュニティが生まれますよね。スポーツ現場も僕は同じだと思っていて、お祭りと同じように、スポーツもまちづくりに繋げられると考えています。
古里:まちづくりにおけるスポーツはお祭りという考えはすごく響きました。次にトップリーグに所属するチームとして、マーケティングに対してどう考えてらっしゃるか、プロサッカークラブである名古屋グランパスのお話をしていただけたらと思います。
小西氏(以下敬称略):私が名古屋グランパスの社長になったのは2017年です。その時にまずビジョンを考え、そこで1つのスパイラルにたどり着いたんです。
小西:まず目指したのは、強くて、見て楽しいサッカー。我々の商品はサッカーですので、強くて見て楽しくないとプロではない。まず商品としてのサッカーの魅力を重視した点がポイントです。
次に目指したのが、「町いちばん」のクラブになることです。ホームタウン活動*を通じて、お客様が試合に来てくださり、グッズを買ってくださる。そうして、よりクラブを愛していただく。
*ホームタウン活動…Jクラブでは、本拠地として定めた特定の市町村を「ホームタウン」と呼ぶ。Jリーグ規約において「Jクラブはホームタウンにおいて、地域社会と一体となったクラブ作り(社会貢献活動を含む)を行い、サッカーをはじめとするスポーツの普及および振興に努めなければならない」とされている
その結果としてスポンサー様がついてくださって、安定的経営基盤ができていく。
そしてまたチームが強くなって、人々に愛されて、経営基盤が強固になる。
これをぐるぐる回して、名古屋から世界を目指していく。名古屋グランパスではこうしたビジョンを掲げています。
小西:我々は、日本で1番マーケットが広いクラブです。愛知県は760万人の人口を抱えています。東京にはJリーグのクラブが3つもありますし、神奈川県に至っては6つ、静岡県でも4つあります。クラブあたりの人口を考えると、愛知県が圧倒的に多いんです。
そうしたお客様に届けるものとして、私はホームゲームを「作品」と考えています。
名古屋グランパスのホームゲームがある日は、90分間の試合を中心とした、一日の作品をつくっている。作品をいかに美しく、そして楽しくするためにどうしたらよいかを考えて、色々な活動を展開しています。
お客様にとってはやっぱり勝つのが1番なんですが、スタジアムでは美味しいグルメやイベントなどの試合以外の楽しみもある。本当にそこでお祭りをやっているようなものです。
小西:たとえば、コンサートでは、音楽を通してお客様に感動を届けています。ただ、それは「予定調和の幸せ」とも言えます。対してサッカーは「いくさ」で、結果は誰にもわからない。負けたらがっくりしますが、勝ったら頭の中はお花畑状態。つまりサッカーの試合は予期できない結果を伴った、すごいエンターテイメントなんです。
また、スタジアム以外では、様々な場所でイベントを開催させてもらうことなどもあります。通常、民間企業ではなかなか開催できない場所でイベントを開催することもあります。これはサッカーというスポーツが、公共性を認めていただいているからできることですよね。
このようにいただいた公共性を活かして、社会活動していく。それが地域のスポーツクラブのあるべき姿だと思ってやってます。
古里:試合がある時にはもちろん、そうじゃない時もすごいインパクトで地域と関わってるんだなとなおさら実感をしました。
次に皆さんに投げかけたいんですが、地域とスポーツのポテンシャルをどう捉えるか、今後の展望を含めて教えてもらいたいと思います。
上村:壮大なポテンシャルがあるはずなのに、まだまだ日本では取り切れてないなと思ってます。
ラグビーワールドカップ2019日本大会のときに、私は組織委員会で運営をやっていました。海外のチーム同士の試合のパブリックビューイングが大盛りあがりでした。日本以外の国同士の対決でも盛り上がることができる。そういう文化が日本でもできると、その時実感しました。
そうやって会場での試合観戦だけでないスポーツの楽しみ方が広がっていくと、その先にあるのはライフスタイルとしてのスポーツです。
映画を見に行くこと、居酒屋に行くことと同じように、スポーツ観戦がライフスタイルとして日常化していくことが理想です。先ほど話されたような、お祭りだったり戦だったり、ドキドキする筋書きのないスポーツというコンテンツは、まだまだ日本人が楽しみつくす余地があると感じています。
猪股:2年後の愛知でアジア大会、アジアパラ大会を開催しますが、現在、55会場が決まっていますが、愛知県内だけでは入りきりません。そこで隣の岐阜や静岡、東京、京都、大阪、兵庫などたくさんの都道府県と一緒になって開催予定です。
私はこれは、多くの方にスポーツを楽しんでもらう一つのチャンスだと捉えています。
特にアジアパラ競技大会は日本で初めての開催なので、ぜひ多くの方に会場に足を運んでいただきたい。スポーツの素晴らしさを目の当たりにしてもらいたいと考えています。
小西:グランパスでは、取り組みのひとつとして、パブリックビューイングを公共の場で実施しています。そうするとアウェイの試合でも、何百人もの方にお越しいただくことがあります。
あとは、地域の方とのタッチポイントをつくることが大事だと思います。例えば、グランパスでは毎年30回ほど、小学校に職業講話として訪問しています。チームの栄養士の方が食育の話をしたり、グランパスでプロだった者が自分のキャリアについて話したり。こうしたタッチポイントをまちのいたるところに設けています。
他にも、チラシをタッチポイントに活用しています。QRコードをつけてアンケートに回答いただき、その情報をマーケティングに活用するんです。そうして最終的にはスタジアムに来てくださいねと、流れをつくっています。
前編記事では、スポーツが地域に与えるインパクトについて理解を深めました。後編記事では、いかにしてその価値を多くの人に届けていくのかを、更に深掘りして語っていきます。
Editor's Note
スポーツは「祭り」であると考えると、地域とスポーツがより近い関係性にあるのだと感じられました。またスポーツの特徴であり、「結果のわからない感動」という視点は、色々な答えが簡単に分かってしまう現代だからこそ光る価値で、そういった強みを活かせばまだまだ広げていく余地が多分にある産業なのだとイメージが湧きました。
Yusuke Kako
加古 雄介