YAMAGUCHI
山口
※本レポートは株式会社WHEREが主催するトークセッション「地域経済サミットSHARE by WHERE for Student in 長門 – 次世代教育と産業創出 -」のSession1「【起業家精神】挑戦が次々に生まれるまちづくりとは?」を記事にしています。
「まちづくりをしましょう」という掛け声は多く見受けられますが、いざどこからはじめようかを考えたときに止まってしまうことはないでしょうか。
まちづくりのヒント探しは、自分の興味関心があるところからはじまっていることに案外気がついていないのかもしれません。
本記事では自分の「好き」をまちづくりに生かして起業した登壇者に、自らの経験を語っていただきました。
平林(モデレーター):地域経済サミットSHARE by WHEREは今回で5回目の開催になります。今回ははじめての「学生版」地域経済サミットです。いろいろな方に登壇していただきますが、この場では「対話すること」をとても大切にしているので台本はありません。共通のテーマだけお渡ししております。
セッションを進めるなかで疑問が出てきたり、ここをもう少し聞きたいなどありましたらぜひ申し出てください。皆さんと一緒につくっていく時間を楽しんでいただければと思います。
それでは自己紹介をお願いします。
関根氏(以下、敬称略):東京の高円寺にある、小杉湯という銭湯でCOOを務めている関根江里子と申します。
前職の株式会社ペイミーは金融 ×テクノロジーのスタートアップの会社で、給与サイクルを早めるサービスを行っていました。学生の頃から含めて5〜6年ほど在籍しておりましたが、そのなかでITサービスやテクノロジーを通じて社会を見ていくことにすごく違和感がありました。
小さいころから銭湯が好きで、その「好き」に向き合うなかで「社会に必要なのは銭湯である」「銭湯を経営したい」と思い、昨年の1月に株式会社ペイミーを退職して、全くコネクションもないところから銭湯のアルバイトをはじめました。アルバイトの最低賃金の契約をして、ゴミ捨てからのスタートです。
今では銭湯以上に自分が好きだと思える職業はない、天職だと思っています。小杉湯の2号店を来年原宿に出しますが、ここから3号店、4号店と出して、社会に銭湯を残していく事業をやっていきたいと思います。
佐々木氏(以下、敬称略):株式会社FoundingBaseの代表取締役CEOをしております、佐々木と申します。
FoundingBaseは、全国20拠点くらいで教育事業・ 道の駅の運営・遊休地を活用したグランピング運営などの「地域をよりよくする事業活動に取り組む組織」として活動しています。
山口県では美祢市で運営する公営塾「mineto」を経営しています。
新卒後に株式会社リクルートで就職関連の営業をした後、2009年25歳の時に外国人留学生の就職インフラを日本につくる会社をリクルートの先輩と一緒に創業しました。それを4年半行った後に今の会社を30歳の時に立ち上げ、創業10年目になります。
田口氏(以下、敬称略):株式会社HafH Co-Living Operationsの代表取締役CEOの田口です。
「HafH」とは「ホームアウェイフロムホーム」の略で、好きな場所で好きな時間を好きな人たちと暮らす「第2の故郷」という意味です。起業家精神の教育、地域活性や人材輩出をベースに事業を展開しています。
以前はサイバーエージェントに10年おり、大学生のキャリア教育を中心に担当していました。いつか高校生向けにもこのような事業をやりたいと思っていて今回のご縁につながっています。
山口県長門市には去年の5月から毎月定期的に来ていて、かなり詳しくなりました。皆さんに良い形で長門をお伝えできたらと思います。
平林:今回のテーマで大事にしたいことは「起業家を生み出すこと」ではなく「起業家精神」です。
10年先、 20年先にどうなるかわからない。時代が読めなくなった時に現状に対してどう打開策をつくるかが起業家精神です。挑戦も失敗も共有していくことが大事なので、その観点で今日は話していきたいと思います 。
関根さんは「銭湯は1つの社会であり、1つのまちである」とおっしゃっていますが、それについて詳しくお話しください。
関根:人間は無自覚のうちに同質で集まっていて、学歴や家庭環境のように、似た何かに紐付けられて自分の周りのコミュニティができ上がっています。 一見それだけが自分の周りの社会だと思いがちです。
でも銭湯で働いていると、昨日まで普通だったおばあちゃんが今日は認知症になっていたり、小さな子が500円を握りしめて1人でお風呂に入りに来たりなど、自分が知っている社会の範疇では目にしない多種多様な人たちに出会う。それまで自分が見てきたものは氷山の一角だったこと、いかに偏っていたかを銭湯は感じさせてくれます。
関根:「自分の手触り感がある小さな社会を見ることができる場所」、それが銭湯でした。そこから社会の捉え方がガラッと変わりました。
平林:スマホから出てくるような自分に最適化された情報、ネット上の世界がメインだった状況から、リアルな世界へと見方がシフトしたんでしょうね。銭湯はいろいろな世代が混ざり合うので、違和感を自覚することも多いですか?
関根:銭湯にいると周りの人のことがよく見えて来るし、普段自分がシャットアウトしている情報が入ってくる。そのなかで自分とは違う人のことに気がつきますが、小杉湯は「銭湯は社会課題を解決する場所ではない」ということを断言しています。
関根:銭湯は「高齢者の方のケアの場所」や「子どもたちを受け入れる保育の場である」とおっしゃる方がいます。嬉しいことですが、社会課題を解決するためには医療行為や保育のように専門的な領域が必要です。
銭湯は専門家ではないからこそ、人が来ます。 私たちが「ここはケアの場所です」と言った瞬間に高齢者の方は来なくなり、「ここは貧困家庭のお子さんの場所です」と言った瞬間にそういう子が来れなくなってしまう。
自分とは違う環境に生きる人たちが、当たり前のようにただお湯をシェアする、そのためだけにこの場所があります。銭湯は社会課題を解決するのではなく、社会課題を受容する場所なのです。違和感を違和感として捉えるのではなく、受け入れるのです。
平林:佐々木さんは自治体とも連携してまちづくりをやり続けていますが、挑戦が生まれやすいまちづくりの土壌は、どういうところにあるのでしょうか。
佐々木:多くの自治体と関わって思うことは、行政側が“しなやかさ”や“なめらかさ”を持っていると「できる・できない」ではなく「どうやるか」という議論がしやすくなって、いろいろな人がそこに関わりやすくなることですね。
佐々木:例えばキャンプ場の管理・運営には行政の予算がつきます。 予算の使途を見直せば他に再投資できる可能性がある。ところが実際には前例踏襲で硬直化した使い方をする。そのことを再考できるのが、“しなやかさ”と“なめらかさ”がある自治体だと思います。
平林:相手と対立するとか向かい合う関係性ではなく、隣同士に座って一緒に同じ方向を見ていく形なのかなと思いながら聞いていました。 田口さんはどういうスタンスでしょうか。
田口:山口では地元の方々や高校生も含めそれぞれの想いを汲んで、未来に向かって進むための議論をしています。 人に出会うたびにプロジェクトがはじまる感覚です。
観光地って1度行ったら相当感動しない限りリピートはしませんよね。でもそこで出会った人ともう1度会って何かしたいと思えば再訪しますし、事業も考えます。
平林:人と出会うといえば会社を立ち上げたばかりの頃、人脈も実績もゼロだったので1年半のあいだ旅に出て、家無しで人づてに紹介されて各地を回ったことがありました。
平林:現地の方から「どこから来たの?」と聞かれて「東京からです」と答えると「じゃあ今日俺ん家泊まってけば?」って感じで。話を聞いていると皆さん幸せそうなんです。こんな人たちと向き合ったらもっと楽しくなりそうと思えて、そこが転換点で今の仕事につながっています。
関根:少し前の起業家って社会に物申すタイプがとても多かった。でも最近は社会課題を解決するコンテンツが出揃っていて、社会を批判したり否定したりしない、ポジティブな社会への問いかけが増えました。これって私が銭湯という柔らかい業界にいるからかなとも思いますが、皆さんはどう思われますか。
佐々木:FoundingBaseは元はイノベーションフォースワンという名前で、「50年後の日本をイメージする」をテーマとして島根県の萩・津和野ではじめました。産業の衰退・少子高齢化が既に起こっている地域の変革を掲げていましたが 、現場のメンバーと地元の方たちとがイノベーションではなく協働する方向になったので、2014年にFoundingBaseに社名変更して事業を進めました。
田口:学生時代から10年間ほどIT業界にいましたが、サイバーエージェントを退職した後はIT界隈には敢えて所属していません。
アナログな界隈の方が、人間らしくベーシックな原理原則に基づいたコミュニティがたくさんあります。コミュニティがたくさんある方が広がりができる。そのなかで組織を持ってマネジメントをすることで、教育に対しての概念がかなり変わりました。
田口:今までの教育論は「100の能力を120とか130に伸ばしなさい」というものでしたが、僕はそれを全てやめました。「能力が100あっても40とか50しか出ていないのは何故か」、それは自分がやりたいことや想いの方向にエネルギーが出ていないから。だったら50しか出ていないものを80くらいに伸ばしたらどうだろうかと。
田口:もともと持っていたものをみんなが引き出せれば全体の能力が上がる。そうすると会社側はパフォーマンスが上がる環境を用意して提案できます。会社が叱咤激励することなく、メンバーが自発的に頑張ってくれる方法をつくることに注力していきます。
高校生も同じで「これをしなさい」ではなく「誰かに言われなくても勝手に頑張りたいと思える環境を僕らが頑張ってつくるからやってみて」というスタンスです。相手の想いを聞いて実現可能性があるなら「一緒にやろう」と提案すれば、かなり変わると思っています。
まちづくりにはしなやかさやなめらかさが必要なこと、個人の課題を許容して実現の可能性を高めることをお話いただいた前編。後編では、まちづくりの価値観を共有するために必要な、人と人との関係性を保つためのノウハウを語っていただきます。
LOCAL LETTERのプロジェクトの1つである、「域経済サミットSHARE by WHERE」。「地域経済をともに創る」を合言葉に、全国の産学官の実践者たちが一堂に会して繋がり、学び合い、共創するサミットをあなたも覗いてみませんか。
Editor's Note
まちづくりは時として硬直化しやすい面があるからこそしなやかさやなめらかさが必要なこと、課題を許容して個人の目標を実現しやすい方向へ持っていくことの重要性を、登壇者は自らの経験をもとに語ってくださいました。
KAYOKO KAWASE
河瀬 佳代子