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LOCAL LETTER

ひとつの地域に縛られない時代へ。首長公募、二重の住民登録——仕組みが変えるまちの未来

MAR. 17

ZENKOKU

拝啓、まちを自分ごとで捉え活動する市民を増やす方法が知りたいアナタへ

※本レポートは、2024年11月に開催された「SHARE SUMMIT 2024」から、トークセッション『ACTIVE CITIZENS 公民連携で作る持続可能な地域・社会』を記事にしています。

行政主導から市民主導へ。これからの地域づくりには、アクティブシティズン(行動的・能動的な市民)の存在が不可欠です。では、どうすれば市民の主体性を引き出し、持続可能な地域づくりを実現できるのでしょうか。

本セッションでは、地域活性化の最前線で活躍する4名のゲストが、市民の当事者意識を高め、新しい関係性を構築するための具体的な施策を語りました。

前編では、地域課題の本質と、行政・企業双方に求められる発想の転換をお届け。

後編にあたる本記事では、日本初の市長後継者公募や、NFTを活用したデジタル住民票の発行、二重の住民登録制度の提案など、ゲストが取り組む具体的な施策を通じて、市民参加型の地域づくりのあり方に迫ります。

日本初、市長を公募。国内外から209名の手が上がる

高橋氏(以下敬称略):日本が縮小していく中で、政府の役割は、利益の配分から負担の配分に変わってきます。そこで非常に重要なのは、情報公開と説明責任です。ただ、日本はそこに時間もお金も職員も配置していなかったので、こういう合意形成に非常に不慣れというか。

だからアクティブシティズン、市民も主体的になっていこうという話なんです。当事者意識を持って動いていこうということです。

高橋 博之氏 株式会社雨風太陽 代表取締役 / 1974年、岩手県花巻市生まれ。青山学院大卒。 代議士秘書等を経て、2006年岩手県議会議員に初当選。翌年の選挙では2期連続のトップ当選。震災後、復興の最前線に立つため岩手県知事選に出馬するも次点で落選、政界引退。2013年NPO法人東北開墾を立ち上げ、地方の生産者と都市の消費者をつなぐ、世界初の食べもの付き情報誌「東北食べる通信」を創刊し、編集長に就任。2015年当社設立、代表取締役に就任。

石山氏(以下敬称略):そういった、市民を主体的にアクティブにしていくという活動について、まさに東さんにお伺いしたいです。

今、東さんは全国で初めて、市長の後継候補を求人サイトで公募するという新たなチャレンジをされています。そこについてご紹介いただければと思います。

石山 アンジュ氏 一般社団法人シェアリングエコノミー協会 代表理事 / 1989年生まれ。「シェア(共有)」の概念に親しみながら育つ。シェアリングエコノミーを通じた新しいライフスタイルを提案する活動を行うほか、政府と民間のパイプ役として規制緩和や政策推進にも従事。デジタル庁シェアリングエコノミー伝道師。

東氏(以下敬称略):2023年の統一地方選挙において、市長選挙の4分の1が無投票でした。町村長になると5割が無投票。日本全体の4割から5割が消滅可能性都市と言われながら、その責任を一番負うべきである首長が無投票で決まっている。その構造的状況はおかしいと感じていました。

どうしてこんな状況なのかと考えたときに、首長に挑戦する壁があまりにも高すぎると気がついたんです。

まず、市長選挙に出るにあたって何を準備したらいいのかもわからない。政治家の二世三世の人はお金も親から引き継ぎ、選挙の戦い方も引き継げます。さらには名前も売れている。スタート地点が違いすぎる。この状況をどうやって打破できるかと考えたときに、公募というシステムが重要なんじゃないかと考えました。

実は、首長選挙に住所要件はありません。経営的資質を求められているからです。だから、居住地は問わないんです。そういう実態を考えたときに、公募と馴染むんじゃないかなと。

東 修平氏 大阪府四條畷市長 / 1988年大阪府四條畷市生まれ。京都大学で、修士(工学)を取得後、外務省に入省。2017年1月、28歳で初当選。以降5年間、全国最年少市長。完全無所属。市民中心のまちづくりを掲げ、対話を重視した市政運営を行う。公民連携による施策を多数展開し、11年ぶりの人口の社会増を実現。また、徹底した行財政改革により、31年ぶりの財政構造の健全化を達成。公約の達成を一定果たしたことから、2期8年での退任を発表。特定政党の支援や政治家2世でなくても、熱意や素質ある人物が市長となり、活躍できる社会の実現をめざしている。

東:公募した結果、3週間で209名が集まりました。北海道から沖縄までにとどまらず、海外からも応募がありました。

石山:民間からの応募は多かったんですか。

東:209名中7割以上が民間企業の方でした。僕はもっと公務員が多くなるかなと思っていました。年代は20代から60代。最高齢で76歳ぐらいの方がいました。応募要件は、25歳以上の日本国民。そこを満たしていれば誰でも応募可とさせていただきました。求めたのは情熱だけなんです。

2024年10月15日で応募は終わり、書類選考で27名まで、ウェブ面談を経て6名まで絞りました。最後は市民の皆さんも一緒に、この6人の方を面接させていただきました。

NFTを使ったデジタル住民票、勝因は的確なターゲティングとスピード感

石山:菅野町長はまた別の視点からアクティブシティズンの取り組みをされています。NFTを使ったデジタル住民票を作られ、町の人口の2.8倍の申込みがあったとのこと。 この背景をぜひご紹介いただきたいです。

菅野氏(以下敬称略):急激に人口も減少しているので、関わりしろを持った方々がほしいなと。ぜひ関係人口になって、あわよくばいつか来て欲しい。ただそのために、最初に繋がるきっかけがないと、と考えたんです。

まずは経済的に余裕のある方と20代の若い方をターゲットとしました。ターゲティングをしたなかでいくつかマーケットがあったんですけど、そのうちの1つがWEB3.0分野だったんです。WEB3.0に興味のある層は所得がある方と若い人。ターゲットとかぶっていたので、そこを取り込みたいと。

そう考えていた頃、政府の出した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」のパブリックコメントが、「WEB3.0の法律を整備する」という表記から「WEB3.0を推進する」という表記に変わりました。これはいけそうだと思って案を出したんです。

菅野 大志氏 山形県西川町長 / 西川町出身、2001年財務省東北財務局入局。内閣官房まち・ひと・しごと創生本部、同デジタル田園都市国家構想実現会議事務局などを経て2022年町長就任。公務員と金融機関職員が交流する「ちいきん会」の運営や会社経営など、パラレルワークに取り組む。

菅野:その結果、2023年に実施したデジタル住民票NFTは、13,000件も申し込みがあったんです。値段も最大10,000円 までつり上がりました。その1年後、前・安芸高田市長の石丸さんが辞める直前の知名度があるときにデジタル住民票を出したのですが、ここまで値段は上がりませんでした。

改めて公民連携はスピードが大事なんだなと実感しました。

また、シェアリングエコノミー的な考えをデジタル住民の方とのつながりづくりに生かしています。まず、東京都杉並区の高円寺に公営の居酒屋を作りました。あと何回もイベントをすると、デジタル住民の方に来てもらえるんです。

石山:しかも公園の命名権もデジタル住民票を持っている人が決められるんですよね。

菅野:2025年6月に新設されるカヌーセンターの命名権をNFTオークションにかけたんです。一回まちに来た方がお世話になったということで、150万円で買ってくださいました。

オークションなので入札にもあまり手間はかかりませんでした。

二重の住民登録制度で、新しい関わり方を増やしていく

石山:地域に住んでいなくてもその地域に主体的に関われる新しい手法を試行されているのが、西川町なのかなと思います。

高橋さんは現在復興人材を関係人口で作っていくという取り組みをされていて、さらに石川県に第二住民票発行を仕掛けられている真っ最中だと思います。復興への関わり方、取り組みについてお話しいただけますか。

高橋:石川は東日本大震災のときの福島に似ていて、早期に広域避難をせざるを得ない人たちが相当数いました。ただ、福島には避難指示が出ていたんですが、今回石川には避難指示が出ていない。ですので冷酷な話、選択の問題になっているんです。能登に残りたくても残れない、と若い人を中心に金沢へ出ていってます。

復興の主体として故郷に関わりながら、避難先でも市民権を得ている、両方の状態にしなくてはいけないと思います。

石山:実際、地域では高齢の方や財界の地域の方もいる中で、いろいろ決めていかなきゃいけない。そんな中で、新しいものを取り入れていくために、市民にどう理解をしてもらうか、どう合意形成をしていくのかなどお伺いしたいです。

東:やっぱり丁寧に説明することです。簡単なように聞こえるんですけど、これに尽きると思っています。

僕は、地域の皆さんと公開の場で対話会というのをやっています。今も四條畷市役所のホームページに全て、ノーカットで、議事録付きで上がっています。当然予定調和ではないですから、様々な質問が来ますし、それにお答えをし続けます。それを何度も何度もやり続けることが大切なんだと思うんです。納得はできないけれども、理解はできると思ってもらえるか。それを怠らないかどうかなんだと。

市長として8年間やってきた意思決定で、僕は1つも説明できないものはない。絶対100%説明しきれる意思決定しかしてきてないです。

菅野:私も同じです。議会議員とのコミュニケーションもそうですけれども、私たちも、毎週対話会を開催しています。例えば、公民連携するとまず「なんでうちの企業じゃないんだ」とお声をいただくことがあります。そこで、理由も踏まえて説明しています。

高橋:全国で車座対話を開催している経験から、対話においては自己開示が大切だと感じています。肩書きなども全部なしにして、自己開示を人前でやる。そうすると一歩踏み出すというか、勇気が出てくるんです。自己開示したことからすごく変わっていったという声はたくさん聞きます。

これからの公民連携のため、自治体の、企業の、理想のかたち

石山:公民連携について、まず行政の立場から、どんな企業とだったら公民連携しやすいか、公民連携をしていく上で企業さんに期待することなど、お伺いしていきたいです。

菅野:自治体側で必要なのは適切な情報開示です。公民連携を促したいなら、地方活性の計画、再生計画とか戦略などを本気で書いて、民間企業の方が見つけやすく、わかりやすい形で届けることが欠かせません。

高橋:ベストなのは二重の住民登録制度です。これを最初に石川でやった後、全ての市町村の財源確保のために全国展開していきたいです。要はふるさと納税の返礼品合戦じゃなくて、自分の地域にどう関わってくれるかの知恵比べをみんなでやっていこうということです。

二重の住民登録制度には、災害の広域避難の話と、先の国会で成立した「二地域居住促進法」の2つの文脈があります。この法律は、都市住民の働き方が多様化している中で、2ヶ所3ヶ所と往来をして生活の質を高めていきましょう、というものです。

対して過疎の方からすると人手不足なので、そういう人たちに来てもらいたい。この2つがマッチしているのが今石川なので、ここで一歩前に進めたいなと思っています。

石山:例えば、そこに住んでいるのに住民税を払っていないので、地域の人に冷たい目で見られるとか、選挙も行きたいのに行けないとか。関れば関わるほど思いが強くなっていくのに、なぜかオフィシャルに認められない課題を、まさに高橋さんが切り込んで具体的に進めようとしてらっしゃいます。

石山:また、以前イベントに参加してくれた大学生がこう話してくれたんです。「石川に通って復興に関わりたいんだけど、毎回新幹線代かかるし、そこに住めるかというと2倍で家賃もかかる。こういった問題も何とかしてほしい」と。

復興に関わりたいと思う人の受け皿もそうですし、行政の支援というものがすごく重要なんだなと思ったんです。

高橋:結局地域を担うのは誰でもいいと思っていますし、中の人と外の人っていつまで分けるんだろうとも思っています。今の社会では、居住の意思と居住の実態がずれ始めているんですよ。なので、僕はそこに住んでいる人だけで決してやらなくてもいいと思っています。

それを踏まえて、今石川では「認定登録制度」をしようとしています。つまり、関係人口の可視化です。人材バンクや人材のプールにもなるし、有望なマーケットになります。

そして、これを全国でやることが肝だと思っています。西川町のように任意でやっているところはあるんです。だけど、これは日本全体でやって、国民運動にするということがすごく大事なんじゃないかと思っています。

菅野:関係人口の二拠点居住推進、全国で広げていくのは是非。時々住民に「関係人口ばっかり大事にして」と言われるんです。ばっかりじゃないんですけど。

デジタル住民票やNFTの売上を、今は全額高齢者支援基金に入れているんです。ですので、高齢者の方や地元の方がいろんなことができるようになったのは、住民票を買っていただいてる皆さんのおかげなんだよと。お金の面でも、マンパワーの面でも、見せる工夫を少しずつしています。

菅野:でもこれってすごく大変な作業なので、そういった法律面や制度面で反映されれば、今のような苦労は全然いらなくなるのかなと思っています。

高橋:今の菅野さんの話、わかります。僕は岩手に住んでいますけど、そこにずっと住んでいる人からすると、いろいろやってくれてるけどどうせ東京に帰るんだろという目でみんな見てるんです。

だから、僕はお上がお墨付きを与えることが大事だと思っています。ふるさと住民登録制度を作って、税まで注ぎ込む。もはやこれからはこういう人も住民なんだとすれば、地域の側も受け止め方が非常に変わると思うので、大事だなと。

アクティブシティズンをめざして、今私たちができること

石山:最後にアクティブシティズンな社会を広げていくために最初の一歩をどう踏み出せばいいのか、ぜひメッセージも含めていただけたら。

東:私は今回、後継者の公募をやらせていただいたときに、どれぐらいの人が応募してくれるか全くわからなかったんです。しかも3週間という短期間で、応募の意思決定をするにはちょっと重たい案件かなと。だけど、そうではなかった。市町村において首長という存在は1人しかいないですし、やっぱりそこに果敢に挑んでいくことで頑張っていこうという機運が高まっていると思っています。

東:どういうふうに挑戦していけるのか。今は全然世の中に情報開示されていませんが、市長任期が終わったら、熱意と素質がある方が首長になれる世の中を作っていきたいと思っています。そういう方がいたら、ぜひ手を挙げていただいて。ともに先頭に立って走っていくことで、アクティブシティズンが増えていけばいいなと思います。

菅野:私は小さい町で危機感もあるので、とにかく挑戦をガンガンしていきたいなと思っています。人口の社会減が止まるような、西川町みたいな地域にするにはどうしたらいいのだろうと思わせる自治体になっていきたいです。

菅野:これからは自治体も腹をくくらなくてはいけないです。私は職員の1割を投じて「つなぐ課」という課を作って、住民の課題と企業のテーマがマッチングするような課を作ったんです。やっぱりそれぐらい本気でやらないと公民連携も進みません。

高橋:僕はもっとみんなわがままになったらいいなと思っています。ヨーゼフボイスという現代アーティストが「社会彫刻」という言葉を使っているんですけど、要は社会って作品で、我々がやっている事業っていうのは、まさにアート活動なわけです。自分の中に湧き上がってきた止められない心の動き、その衝動に素直に従う。要するに、わがままになるということですよね。民間企業の人も含めてわがままになればいいと思います。

本セッションのご登壇者(左から東氏、菅野氏、石山氏、高橋氏)

Editor's Note

編集後記

私も遠方の、思い入れのある地域に関われないことに対して、もどかしい気持ちを抱いていました。だけど、二重の住民登録制度が全国に広がれば、私もその地域に関われるようになるのかもしれない。少し明るい未来が見える気がします。

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