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※本レポートは、2024年11月に開催された「SHARE SUMMIT 2024」から、トークセッション『ACTIVE CITIZENS 公民連携で作る持続可能な地域・社会』を記事にしています。
縮小社会を迎えた日本では、人手不足や予算不足など、地域が抱える課題は深刻さを増すばかりです。そんな中、行政と企業がどのように連携し、持続可能な地域づくりを進めていけばよいのでしょうか。
本セッションでは、地域活性化の最前線で活躍する4名のゲストが、能登半島地震から見えてきた課題や、行政・企業それぞれの役割、そして具体的な連携の方法について語りました。
前編では、地域課題の本質と、行政・企業双方に求められる発想の転換に迫ります。
石山氏(モデレーター、以下敬称略):2024年を振り返り、この1年の経済社会、そして地域の現場の変化、今感じられていることをシェアしていただけますか。
高橋氏(以下敬称略):今年1年、能登に入って復旧や復興に携わっていたんですけど、目に見えて顕在化している課題は人手不足です。
僕は過疎を慢性的な災害だと考えています。過疎地は地域作りや田畑の管理など、地域を維持していくために必要な活動量が維持できない。そういう人手不足の問題が災害時に一気に顕在化したのが今回の能登の震災です。
高橋:僕は、能登の事例は日本の分水嶺(ぶんすいれい / 物事の方向性が決まる分かれ目のたとえ)だと言っているんです。今回、「限界集落みたいなところに税金を使って復興させることに意味があるのか」という集約化の議論が露骨に、結構早い段階で出てきているのがこれまでの災害と違うなと。
東日本大震災のとき、こういう議論は露骨に行われなかったんです。13年間で、それだけこの国も年老いたということでしょう。
災害があろうがなかろうが、そういう都市の消費社会を支えてきた中山間地域・過疎地と我々社会がどう向き合うか。そろそろ答えを出さなければいけないときに、2024年元旦に能登の災害があった。
これから先、能登がどのように復興するかは、前例になると思っています。毎年のように水害が起きているから、ここの復興は能登モデルでいいでしょう。地方活性の現場も能登モデルでいいでしょう。という積み重ねが、日本の未来を作っていくことになるので。
石山:まさに分水嶺と。この能登の状況を我々がどう捉えていくかは、これからの地域作りに関わっていくということですね。行政の現場からはいかがでしょう。
菅野氏(以下敬称略):人手不足は慢性的な災害だと言われると、その通りなのかもしれません。すぐに解決するのでもありませんし。
菅野:私たちの方で考えているのは、やっぱり公民連携をしていきたいということです。
公民連携ができる補助金はたくさんあるんです。むしろ多くの補助金は公民連携が前提となっているくらいです。
国家公務員だった頃はそれが見えていました。しかし、自治体に身を投じて、補助金を活用するための課題が2つあると感じました。1つは課題が整理されていないこと。課を超えた全体の課題や優先順位が整理されていないんです。もう1つは、誰と組んだらいいかがわからないこと。やはり紹介者が必要ではないかと感じています。
東氏(以下敬称略):我々の地域で言うと、市民の皆さんが現状をどう変えていこうかと考えて、議論が活発になってきていることがポイントだと思っています。
東:例えば盆踊りのような自治会ごとにおこなっているイベント。これはお互いの顔を知る場として大事なものだと思っています。災害時、避難所などで顔見知りじゃない人たちと運営するのと、お互いに知った人で運営するのと、全然違うんじゃないかなと。
ただ、近年はやはりマンパワーが不足してきているので、合同で開催をしていこうとか、両地区の真ん中にある学校でやってみようとか、こういう流れが着実に起きています。
やはり人手不足という課題があるからこそ、これまで取り組めなかったことに挑戦し始めている年にもなっていると感じています。
石山:こういった広域連携が求められる中で、現状や課題にも触れていきたいです。高橋さんは能登で様々な地域自治体を見てきたと思うんですけれども、現状は正直どうですか。
高橋:正直、広域連携は全然できていないです。北陸3県は市民活動が全国的に低調な地域だと言われています。地域によると思うんですけど、能登は非常に奥ゆかしい。
結局、平時にできないことが緊急時にできるわけがないじゃないですか。だから、平時からNPOと民間、あるいは被災自治体、それから国の役割というのをあらかじめ想定して、どういう連携をすればいいのか決めておかないと、混乱の元になります。
おそらく2025年以降、今度は南海トラフ地震の事前防災や事前復興の問題を考えていくことになると思います。こういう問題を日常から考えていくことが大事ですし、実はそれがまち作りにも繋がっていきます。
石山:災害に備えて平時をつくっておくことは、人口が減っている地域にも当てはまると思っています。どの地域も人口が減っていて、予算も減っていき、行政の職員も減らさざるを得ない。また地域の担い手となる現役世代も高齢化の中で減っていくとなると、その平時をどうやってつくっていくか。
予算も人口も減っていくという中で、どういった発想の転換が必要だと思われますか。
東:まず「やめる」ということです。何か課題を解決するというと、新しいことをオンしていく発想になりがちです。それとは逆に、あれもこれもと目の前の課題を解決する状況から、不要なものを取り除くのが首長の役割だと思っています。そうすると余白ができて、そのときにようやく深刻な課題を考える心の準備ができていく。
僕はこの8年間、とにかく心や予算のゆとりづくりを考えてきました。ですので、やめていくことが最も大切なことだと思っています。
菅野:その通りですね。減らすと町民から文句を言われることもあると思うんです。だけど私は町長に着いたとき、職員だけで運営していたお祭りをなくしました。持続可能性がなく、職員のモチベーションも上がらないからです。今は予算をつけるときに、持続可能性を1つのポイントとして見ています。
石山:実際、地域では高齢の方や財界の地域の方もいる中で、いろいろ決めていかなきゃいけない。そんな中で、新しいものを取り入れていくために、市民にどう理解をしてもらうか、どう合意形成をしていくのかなどお伺いしたいです。
東:やっぱり丁寧に説明することです。簡単なように聞こえるんですけど、これに尽きると思っています。
僕は、地域の皆さんと公開の場で対話会というのをやっています。今も四條畷市役所のホームページに全て、ノーカットで、議事録付きで上がっています。当然予定調和ではないですから、様々な質問が来ますし、それにお答えをし続けます。それを何度も何度もやり続けることが大切なんだと思うんです。納得はできないけれども、理解はできると思ってもらえるか。それを怠らないかどうかなんだと。
市長として8年間やってきた意思決定で、僕は1つも説明できないものはない。絶対100%説明しきれる意思決定しかしてきてないです。
菅野:私も同じです。議会議員とのコミュニケーションもそうですけれども、私たちも、毎週対話会を開催しています。例えば、公民連携するとまず「なんでうちの企業じゃないんだ」とお声をいただくことがあります。そこで、理由も踏まえて説明しています。
高橋:全国で車座対話を開催している経験から、対話においては自己開示が大切だと感じています。肩書きなども全部なしにして、自己開示を人前でやる。そうすると一歩踏み出すというか、勇気が出てくるんです。自己開示したことからすごく変わっていったという声はたくさん聞きます。
石山:公民連携について、まず行政の立場から、どんな企業とだったら公民連携しやすいか、公民連携をしていく上で企業さんに期待することなど、お伺いしていきたいです。
菅野:自治体側で必要なのは適切な情報開示です。公民連携を促したいなら、地方活性の計画、再生計画とか戦略などを本気で書いて、民間企業の方が見つけやすく、わかりやすい形で届けることが欠かせません。
菅野:提案を受ける立場としては、「自治体のためにこういう商品をこうしました」という工夫があるとぐっときますね。
東:公民連携をしていくことは前提なので、私は首長に着任して、公民連携指針という指針を作りました。四條畷市の場合、ホームページにこの課題で公民連携をしたいという内容がリストで上がっています。申請フォームもありますし、どういう手順で公民連携が進んでいくかも全部開示しています。ですので、誰でもホームページでマッチングできるスキームになっています。
どういう企業とやっていきたいかでいうと、三方よしがきっちり成立しているとすごくいいなと思います。
東:例えば、子供服の企業。こういうところは、服の入れ替えをしないといけないので、たくさんの服を廃棄せざるを得ないんです。廃棄するのには処分料がかかります。廃棄予定の服を四條畷市に寄付していただくと、企業は寄付金控除を受けられるのでお得になります。
我々はこの服を1万円分のギフトボックスに詰めて、赤ちゃんが生まれた家庭に渡しに行きます。その時、お母さんやお父さんに「なにか1人で子育てに悩んでいたら相談してくださいね」と言って回るんです。
今は、インターフォンがあるために職員が訪ねてもなかなかドアを開けてくれません。けど、そこは大阪なんで、ギフトボックスがあれば開けてくれる家が増えたんです。やはり課題を抱えている家ほど開けてくれなかったりする。そういうときに担当職員が、部屋が散らかっていて、申し訳ないけど虐待の恐れがあるかもしれないとかメモをしておいて、また数週間後に訪問したりしています。
この財源は本来捨てるはずだったものなので、誰も損していませんし、むしろ家庭も含めて幸せになっている。こういう枠組みでやっていけるのが公民連携の理想かなと。
石山:企業の立場から、高橋さんにもお話を聞いていきたいです。
基本的に、企業というのは利潤追求が一番だから、自分のサービスを拡大させたいという思いがあるわけですよね。とはいえ、公共の現場というのは様々な人がいて、必ずしもサービスを利用できる人ばかりでない。そういった公共意識というものを民間企業がどう持てるかというのは、公民連携においてすごく重要だと思うんです。
これから企業はどうやって公共意識を高めていけばいいのか。
NPOから株式市場に上場された高橋さん。ソーシャルインパクト、IPO、事業性と社会性との両立など、ここに込められたメッセージも含めて、ぜひお伺いしたいです。
高橋:日本はやっぱり遅れていますね。僕らは社会性と経済性の両立を謳って、昨年末にNPO起源の企業としては初めて東証に上場しました。1年やってみて、インパクトで株を買ってくれる人はいないという難しさを感じています。
ここでも株主の人にどう説明していくのかというのが非常に大事です。結局事業ってパッションから始まっているじゃないですか。主観なんですよ。誰の目にも明らかな客観的な課題はほとんど残っていないので、僕は主観で「都市と地方の分断って課題だよね」と示します。
それに同意した人が集まって、やがてそこに出資してくれる人もいて、サービスを使ってくれる人もいて、社会課題として認識されていく。非営利活動が事業に転じていくまでって、結構時間がかかることなんです。
企業は短期的に指標を置いてしまうので、「できない」という判断が早すぎると思っています。非営利活動というのは、営利活動に繋がる種を、社会的資産を、増やしていく。人的ネットワークもそうだけれども、その辺を少し長い目で見た方がいいと思います。
Editor's Note
東さんも、菅野さんも、「対話」を大切にされている印象を受けました。しっかりと向き合い、結果を出していく首長の姿ってこうなんだなと。そして、東さんの三方よしの事例がとても興味深かったです。こうやって「良し」が循環する社会を目指していきたいですね。
Natsuki Mukai
向 夏紀