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LOCAL LETTER

起業の失敗談をしくじり先生から学ぶ。地域起業のヒントと教訓

JUL. 10

拝啓、起業に興味関心はあるものの、不安も持ち合わせているアナタへ

起業に関心はあるが一歩踏み出せずにいる。起業家からしくじりを含めたリアルな声を聞いてみたい。そんなアナタのために開催された『【しくじり起業】〜起業の挫折乗り越えるまでの失敗談ばかりのセミナー〜vol.1』。

今回の前編では、しくじり先生2人による授業内容をお届け。しくじりに隠された起業のヒントとは。

空き家を活用した飲食業とレンタル事業を展開。ノリで起業した先にあった、しくじり経験とは

まず1人目のしくじり先生として話をされたのは、コミュニティスナックや空き家を改装したレンタルスペースなどを手がけている、よしの ゆうみ氏。起業の経緯からしくじり経験、そこから得た学びなど、赤裸々にお話しいただきました。

よしの氏:山形県新庄市在住のよしのゆうみです。東京都日野市出身で、新庄市に移住して9年です。新庄市は父親の故郷で元々ご縁がありました。私の人生テーマは『笑って生きる』で、起業はそのための手段でした。しくじりは沢山経験してきたので、参考になると幸いです。

よしの ゆうみ氏
よしの ゆうみ氏

私自身は、一般社団法人最上のくらし舎の代表理事をして今年で6年目。賛助会員形式でモグラーという会員制度を採用し、会員制の待ち合わせの場であるコミュニティスナックCandy山形の店主や、空き家を改装して喫茶やレンタルスペース事業を行うなど、メンバーたちと複数の事業を手がけています。

実は私は、何も知らないのにノリで起業しちゃいました!普通は勉強してから起業しますが、本当に何も知らないで起業しちゃったんです。

都内から山形へ移住。起業スイッチが入ったきっかけは、東日本大震災

服飾系の大学でイベント制作を学ぶ学部を卒業した後、歌舞伎町の制作会社に入社。エンタメ業界やコンテンツ制作などを経験し、そこで数年働きました。

2011年、東日本大震災が起きエンタメ業界は完全にストップ。あの時、「私がやってることは社会に必要ないのかな」と思わされました。同時に都内はパニック状態。片や、父親の故郷である山形県新庄市からは「インフラ関連は止まっているけど、食べ物もあるし、暖も取れるし、意外と大丈夫だよ」と言われ、「なぜこんなに違うのか」と衝撃を受けたんです。

都会は全国から食材が届くので常に買い手なのに対して、地方は作り手である場合が多い。東日本大震災を通して「暮らしを自ら作りたい」と思い始め、起業スイッチが入りました。

地域おこし協力隊として移住後、信用金庫・日本財団の支援を受けて起業

そこでまず私は、地域おこし協力隊として新庄市に移住。コワーキングスペースの運営を担当しました。生業のタネがコンテンツ制作・エンタメ系だったので、イベントを沢山企画したところ、たまたま空き家の所有者と、空き家を使いたい人と、空き家バンクの活用方法に悩む行政の人がいたので、空き家プロジェクトをやることになったんです。

新庄信用金庫の方が事業計画を書いてくださり、日本財団がローカルで事業を起こす方に対して支援する立ち上げ金「わがまち基金」が無事に通過し、1,000万円ほどが新庄信用金庫に入金され、順調にプロジェクトは進みました。

本格的にやっていくには、母体となる組織をしっかり作ろうということで起業。意外とあっさり空き家も改装でき、飲食とレンタル事業を開始したんです。

理想と現実を切り離す。順調だった起業・事業が一転した、しくじり経験

ここからは、実際に私がカフェを営業していく上で陥ったしくじり経験をいくつかご紹介します。

マンツーマンが好きな私がお客様と話し込んでしまった結果、客単価が低下。「地域の人と会話しながら場を盛り上げたい」という理想は実現したのですが、売上は伸びず

また、不得意なことも全部自分でやらねばと思い、苦手分野である経理にも着手その結果、負のスパイラルにハマったんです。理想を追い効率が悪化。それで誰にも任せられなくて、事務処理などを滞納して放棄しました。

そんな時、業務委託で提携していた企業がコロナの影響で倒産。契約が緩かったために支払われるべき80万円ほどが払われず、雇用していたスタッフにも迷惑をかけてしまい、本当にショックを受けました。

理想の店はできず、且つコロナの影響で人との交流が遮断され、自信喪失の日々が到来。コロナによる営業停止は、無我夢中だった私に考える時間を与えてくれたのだと、今ようやく思えるようになりました。

なぜ起業するのか? しくじり先生が伝える、起業に大事な「思い」と「手段」のマッチ

私自身、自分がやりたかったことを改めて考えると、出てきた答えは、“コミュニケーションの場を作ること” でした。私にとって飲食事業は、あくまでも “コミュニケーションの手段” だったんです。そもそも飲食事業は、全くの未経験でした。

そこで最終的に、事業計画の見直しを外部に依頼。飲食事業も外部の経験者にお願いをして0から組み立て、とにかく餅は餅屋」に立ち返りました私はイベント企画が得意なので、改装した場所やその周辺を含めて、どういうイベントができるかを考え直して、事業全体を見直しました。

最後に、この一連の流れで一番印象に残っている言葉をご紹介します。新庄信用金庫の方に言われた「どんな綺麗な事業計画よりも、やる人間の肝を見ているという言葉です。

私は一度決めたことはやり遂げる性格で、新庄信用金庫の方には「事業計画に変動はあるけど、ゆうみちゃんのやる気にかけて一緒にやる」と言ってくださり、良い意味でプレッシャーを感じながら、今でも一緒に仕事をさせていただいています。

これからもし起業を考えている方がいるのであれば、どういう想いでその事業をやるのか、そしてその想いに手段としての事業がマッチしているのかを意識していただけると良いと思います。

Web制作事業とプロジェクションマッピング事業で起業。未経験が招いた、しくじり経験とは

続いて2人目のしくじり先生としてお話をしてくださったのは、Web制作事業やプロジェクションマッピング事業をしている武田 悠 氏です。

武田氏:僕は山形県酒田市出身で、ここが地元です。株式会社AddWillを3年前に立ち上げ、Web制作事業とプロジェクションマッピング事業をしています。

武田 悠 氏
武田 悠 氏

観光資源にプロジェクションマッピングを掛け合わせて地元を元気にしたいと思い23歳で起業。3年で約20ヶ所のプロジェクションマッピングを手がけていまして、庄内のプロジェクションマッピングはほぼ全て弊社がやっています。

起業の話をすると「順調ですね」とお声を頂くことも多いのですが、実は山ほどしくじり経験をしています。今回は中でもとびきり痛く、初めて「逃げたい」と思った話をさせていただきます。

僕のしくじりは「激甘リサーチの上、安易な発想で受注し、痛い目を見ちゃったこと」です。

大手広告代理店で新人賞・最速昇進を達成。起業スイッチが入ったきっかけは、コロナ

中学の頃に観た孫正義さんのYouTubeの影響もあり、起業を志しました。「IT分野なら間違いない」と、プログラミングを習得。高校も大学も工業系に進学し、情報分野を学びました。

僕自身が好きなものは、ディズニーやチームラボ。ファンタジーやキラキラしたものに関心がありました。

就職は大手広告代理店に技術職として入社。周りは高学歴が多い中、勉強を頑張ってきた成果が出て、新人賞受賞と最速昇進。当時は、言い知れぬ無敵感を得ていました。

またプログラマーだったので、トライアンドエラーが得意。「何とかなるっしょ精神」みたいなものも常に持っていました。

東京で1年ほど過ごした頃、コロナが蔓延。リモートワークで家にこもる機会が増え、「このままで良いのか」という想いが芽生えたと同時に、地元企業で早期退職者募集が始まったり、家族が働く会社では売上50%減になっていたり。この現実を知った時、地元は僕が何とかする!と思い、起業スイッチが入りました。

「チームラボのようなプロジェクションマッピングをやろう!」と思いつき、すぐに上司に辞意を伝え、地元にUターン。その時の貯蓄は70万円。そこから起業のために色々使い、30万円になりました。

とにかく行動あるのみ。機械の購入とプレゼンから応援者を集めて起業

当時の僕は、プロジェクションマッピングに関しては全くの素人。貯金残高30万円の状態から、まず20万円のプロジェクターを購入し、残金10万円に。使い方がすぐには分からず、結局その日やったのは映画鑑賞のみ。

翌日さすがに焦りを感じ、プロトタイプを制作。家の掃除機をプロジェクションマッピングで緑に光らせました。

後日、庄内を元気にする人が抱えている悩みや新たに始めたいことについてプレゼンし、参加者がアイディアを出し合って応援するイベント『TEAM SHONAI』に参加し、「僕はこれからプロジェクションマッピングをやって庄内を良くします!」と発表。その結果、チャンスが到来します。

本来300万円級の案件を、15万円で受注。甘い見積もりが招いた、しくじり経験

行政から「玉簾の滝をプロジェクションマッピングしてみない?」と声が掛かり、「やります」と即答。

更には相場も調べず甘い見積もりをした結果、15万円で受注したんです。今なら分かるのですが、本来200〜300万円の案件。後ほど大変後悔をします。

それから各所で告知もされ、どんどん話は進んでいきました。

本番2週間前。20万円のプロジェクターで滝にテスト投影。しかし全く写らない。なぜなら僕が買ったのは家庭用だったからです。

通常は400万円クラスの明るさ20,000lmのものがないと写りません。レンタル料は1日80万円。とてもじゃないが借りられない。

追い詰められた僕は、色々な所に電話を掛け、幸運なことにある企業から無償で借りられることに。ただし借りられるのは前日当日のみで、1週間かけて東京から届きました。

しかし再び事件が発生。前日リハでプロジェクターの電源がつかず。真っ暗な中で光る故障ランプ。この時「15万円を返して土下座しよう」と思いました。本当に逃げたかったです。

でもまた奇跡が起きて。助けを求めて色々な所に再び電話を掛けたところ、10,000lmのものなら貸し出せる地元の企業さんが現れました。「お願いします!明日現場に届けてください」と言うと、なんと当日届けてくれたんです。

イベントは19時開始でしたが、18時50分にようやく映像を確認。これでイベントが回ると分かった瞬間から、会場の隅でずっと泣いていました。

終了後、参加者のおばあちゃんから「こんな綺麗なものを見たのは初めてだ。作ってくれてありがとの」と言ってもらえた時、これからもこれをやって皆を喜ばせようと誓ったんです。

自分を過信しすぎない。でも、起業は難しいことじゃない。しくじり先生が伝えたい「起業」について

今回の教訓は、過信せずちゃんと調べてから仕事すること当たり前ですが大事なことです。

そして、スタート時に無知であることは、そんなに悪いことじゃないとも思っていますもしリサーチを重ねて高額なプロジェクターが必要だと分かったら、プロジェクションマッピングは諦めていました。無知がゆえに突破できたと考えると、決して悪いことでもないのかなと。

皆さんにお伝えしたいのは、起業はそんなに難しいことじゃない。なぜなら、皆が言うリスクとは「収支が合わなくなること」ではないかと。収支は「収入ー支出」でできています

基本収入のことばかり考えがちなのですが、支出のことも考えるべきで。究極の話ですが、支出が0円なら収入が1円でも成功とにかくこの式がプラスになれば良いんです。

起業すると本当に楽しいです。代表になったら繋がれる人たちも面白い活動をしている方が多くて。そういう人たちと繋がるのは人生において大事なのかなと。ここから沢山の方が起業していただけたら嬉しいです。

Editor's Note

編集後記

成功話を聞くことはあっても、なかなか失敗談を聞く機会ってありませんよね。今回起業家のお二人からしくじり話を聞いたことで、起業が身近に感じられました。起業に関心のある方に届くと幸いです。

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