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LOCAL LETTER

さようなら、繋がるだけの関係人口。関わる人も、地域も豊かにする「還流」への挑戦

AUG. 16

SHIMANE

拝啓 地域も関係人口も消耗する関係性からの脱却を目指すアナタへ

本土から3時間フェリーに乗った先にある離島、島根県隠岐郡海士町(あまちょう)は「ないものはない」をキーワードに、地域の魅力化に向けて先進的な取り組みを進めてきたまちです。

人口2,300人ほどのこのまちには、毎年たくさんの若者が「大人の島留学」という制度を活用して来島し、地域の中で暮らし、そして、島を離れて行きます。

一般財団法人島前ふるさと魅力化財団が運営する「大人の島留学」は、地域おこし協力隊の制度を活用し、定住を目指すのではなく、一定期間隠岐島前地域(海士町、西ノ島町、知夫村)に住み、働く機会をつくる取り組みです。

東京をはじめ様々な場所から隠岐諸島へ人が流れ、そこからさらに様々な場所に人が流れていく。大人の島留学は、そういった人の還流を目指しています。

大人の島留学事業の立ち上げ時からかかわり、同財団で大人の島留学事業プロジェクトリーダーを務めるロドリゲス拓海さんに、大人の島留学という仕組みを通した、若者が訪れたくなる地域づくりについてお聞きしました。

大人の島留学の仕組みがどのように生まれ、どのようにまちの魅力化につながるかについて前編記事にてお届けしました。後編となる本記事では、定住を目的としない政策を進める中での課題と新たな挑戦についてお伝えします。

海士町の関係人口であることが「価値になる」仕組みづくり

大人の島留学生の多くは、3ヵ月や1年の滞在期間を終えると島を離れ、様々な場所へ旅立ちます。海士町はこの「卒業生」たちとのつながりを途切れさせず、「還流」する仕組みを考えています。

大人の島留学は卒業生を生み出す制度なんですよね。他の地域から来た人の90%ぐらいは帰っていきます。帰った後も地域と関わり続けることに価値を見出せるような仕組みを作りたいんです」(ロドリゲスさん)

その取り組みの一つが、「海士町アンバサダー制度」。これは関係人口を活用したファンコミュニティづくりの試みで、Web3技術を用いて島外の人々を地域経営に巻き込むことを目指しています。

ロドリゲス拓海 氏 一般財団法人 島前ふるさと魅力化財団 大人の島留学事業プロジェクトリーダー / 1996年生まれ。東京都日野市出身。2018年、大学在籍中に休学をして、島前教育魅力化プロジェクトのインターンとして隠岐國学習センターで勤務。2年間のインターン後、復学するもコロナ禍に突入し島に残り続けることに。同時期にスタートした大人の島留学事業に参画し、運営事務局メンバーとして従事。
ロドリゲス拓海 氏 一般財団法人 島前ふるさと魅力化財団 大人の島留学事業プロジェクトリーダー / 1996年生まれ。東京都日野市出身。2018年、大学在籍中に休学をして、島前教育魅力化プロジェクトのインターンとして隠岐國学習センターで勤務。2年間のインターン後、復学するもコロナ禍に突入し島に残り続けることに。同時期にスタートした大人の島留学事業に参画し、運営事務局メンバーとして従事。

「今、関係人口が報われない仕組みになってしまっていると思うんです」とロドリゲスさんは指摘します。

関係人口であることが価値として認められるようにすることで、大人の島留学の卒業生であることが新たな価値をもたらすのではないかと考えています。

それができれば、還流という人の流れづくりと合わせて、この地域にいろんな視点が持ち込まれる。そうやって地域がいい意味で変化していくことを狙っています」(ロドリゲスさん)

具体的には、関係人口の人々と島留学生との交流を促進していく予定とのこと。

「これまでの海士町の取り組みを通して海士町のことを応援したいと言ってくれている関係人口の人たちに、大人の島留学の卒業生を巻き込んでいく。関係人口の人たちが大人の島留学生と関わっていくことが価値になっていくような仕組みづくりを考えています」(ロドリゲスさん)

定住人口だけを考え、人を地域固有のものとしてとらえるのではなく、流れていくものとしてとらえなおすことで、人口2,300人のまちに何倍もの可能性が生まれていくのかもしれません。

消費だけで終わらない。豊かさを生み出せる人づくりへ

関係人口の価値を高めるだけではなく、大人の島留学の仕組み自体もさらなる進化を目指しています。

地域の人と一緒に1年間楽しい経験をする、ということを提供するだけの大人の島留学からは卒業しようと思っています。島留学での経験が参加者にもたらす変化を可視化したい」とロドリゲスさんは語ります。

「1年という期間で、地域への愛着が得られた経験だけではなく、自分が行動したことによって得られる経験をどれくらいできるのか。それを作り込んでいきたいと思っています。そうなってはじめて、海士町の本当の魅力や、本当の豊かさが見えてくるんじゃないかなと」(ロドリゲスさん)

ロドリゲスさんは、海士町の豊かさと、島留学生が従来求めてきた豊かさの違いにも注目します。この違いによって、参加者はモラトリアムや休暇的な1年を過ごす傾向へ。現在の仕組みだけでは、本質的な変化をもたらすには不十分かもしれないと語ります。

大人の島留学に参加する人は、今の社会の消費する・されるというシステムに何かしら疑問を持っていたり、離れたいと思っていたりする人が多いと思います。

でも、島に来て島の豊かさをただ消費するだけの人として終わって、また帰っていってしまうと、『消費人間』としては変わらないままになってしまう。

新しいステージに進む中で、島で得られた豊かさが活かされる世界を描かないと、地域がただただ消費される関係で終わってしまうと思うんです」(ロドリゲスさん)

真の変化は自ら何かを生み出す経験や、消費者から生産者への立場の転換を通じて得られると考えているといいます。

「島留学生を見ていても、一歩踏み出すことを積み重ねてきた人が、やっぱりすごくいい経験をして帰っていると思いますね」(ロドリゲスさん)

地域を消費して帰るだけにしないために、事務局が本当にやるべきことは何か、事務局スタッフにも常に考えてもらっているとのこと。例えば、島留学生たちが暮らすシェアハウスでの問題解決や研修の内容決定において、参加者の主体性を重視するアプローチを取っているそう。

 「島留学生は『お客さん』ではなく、『仲間』。島留学生自身が動けば解決できることもきっとあると思うんです。いつまでも受け身なまま時間を消費してしまわないよう、島留学生ができることを事務局がやってしまわないよう心がけています」(ロドリゲスさん)

海士町の持つ豊かさは何か、価値は何か。答えを持たずに探し続ける

消費するだけで終わらない経験ができて初めて、この地域が人におよぼす豊かさ、与えられる豊かさってなんだろう、という会話ができるのではないか」とロドリゲスさんは考えます。

「海士町の人がよく言う海士町のいいところが本当のいいところなのかは、あまり問われていないと思っているんです。

確かに、人との繋がりが密であるとか、その通りなんですが、まだ言葉にできないものがきっとどこかにあって、一緒に見つけてくれる仲間をどれだけ呼び寄せられるかが大事なのではないかと思います」(ロドリゲスさん)

海士町のシンボル的なお祭り「キンニャモニャ祭り」でのロドリゲスさん
海士町のシンボル的なお祭り「キンニャモニャ祭り」でのロドリゲスさん

日々、手探り感をすごく大切にしています。大人の島留学の価値はこれだと決めつけた瞬間に、魅力はなくなっていくんじゃないかという感覚は常にあります。

大人の島留学の中身や価値を決めていくのは、これから来てくれるまだ見ぬ若い人たち。そう捉えた時に、まだ見ぬ人たちと大人の島留学をつなぐための幾つものステップがある。

さらに、その大人の島留学に来てくれた人たちがまた地域に関わり続けるという選択をしてくれるまでにもやはりステップがあります。それらのステップに課題があるとき、運営側はその課題は何かを明確にしていく必要がある。

そして、そういった課題を解決するのは僕たちではなく、関わってくれた人たち。我々がすべきは課題の明確化だと常に意識しています」(ロドリゲスさん)

他の自治体が「これから地域おこし協力隊員を毎年50名受け入れよう」と考えたとき、大きな仕組みを作ろうとしたり、大きな変化を追求しようとしたりしてしまうかもしれません。

しかし、そういった方法を採らず、まちの価値は何なのかを深く考え、手探りであることを大切にしながら試行している海士町。その姿勢から、見えてくる本質があるのではないでしょうか。

Editor's Note

編集後記

まちづくりには必勝法がないからこそ、徹底的に地域や人に向き合い、課題を問い続けてきたことこそが、海士町が若者にとって魅力的な町であり続けるために取り組んできたことの本質なのかもしれないと感じました。

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