SHIROSATO, IBARAKI
茨城県城里町
地域での評判も品質も良いモノなのに、全国的に見れば圧倒的に「知名度」がない。
地域に訪れるたびに、そんなモノに出会うことが多々あります。
「茨城県城里町で作られるお茶は古内茶(ふるうちちゃ)と言って、地域ではとても評判が良いお茶なんです。でも、うちには知名度がない。この地域は年々、後継者不足や過疎化も大きな課題になっています。この課題をなんとかできないかと、イベントの企画を始めたんです」
そう語るのは、茨城県城里町で地域おこし団体として活動する「チャレンジしろさと」の代表を務める高萩和彦氏。
高萩氏が「チャレンジしろさと」のメンバーらと、2019年から始めた「古内茶庭先カフェ」では、お茶農家さんが自宅や神社の庭先を解放し、家庭ごとのお茶とお茶請けでおもてなしをする。
各農家の少しずつ違うこだわりの古内茶はもちろん、贅沢なお茶請けを楽しみに、地域外から訪れるお客様も多く、第1回目の開催では1日に1,000食、今回開催した第2回目には1日850食がはけたという。
今回はこのイベントを始めた高萩氏と、実際に2019年11月16日に開催された「古内茶庭先カフェ」を取材する中でみえてきた「地域でイベントを始める時のポイント」をまとめました。
「チャレンジしろさと」では、これまでも城里町内で地域のイベントやツアーを実施しており、すでに地域の人との繋がりやイベントノウハウは持っている状況。そんな中で、高萩氏が最も気をつけていたのが「運営側が手を出し過ぎないこと」だったという。
「最初から、私たちで仕組みをつくって、地域の人たちに “ここはこうしてください” “あそこはこうです” とお願いすることもできますが、これでは地域のためにならないと思っていました。かといって、地域の方に丸投げをするのもいけない。どこまでに関与し、どこからを地域の方に任せるのか、このバランスが難しかったですね」(高萩氏)
地域の人の考えや力を全面に出してもらうために、自分たちが関わるべきところと、任せるべきところを常に見極めながら、試行錯誤をしていたという高萩氏。
「実際に地域の方にお声がけした時にも、“すぐにやってみよう!” とはなりませんでした。初めての試みですからね。皆さんもちろん不安を抱かれます。ならば、まずは試験的な形で、身内だけで一緒に実施してみないかと提案しました」(高萩氏)
「試験実施なら」と、お茶農家さん3軒と一緒に2019年11月に第0回目の古内茶庭先カフェを開催。身内とはいえど、大反響を呼んだ古内茶庭先カフェは、本格的に実施する方向で話が進んでいった。
地域の方に主体的に動いてもらうためには「一つ一つ段階を踏むこと」も大切だという高萩氏。具体的にはどんな段階を踏んでいったのだろうか。
「古内茶庭先カフェの提案をした時もそうでしたが、初めてのことをやるのに、いきなり “やろう!” と前向きになる方はそう多くありません。だからこそ、しっかりと段階を踏んでいくことが大事なんです。第0回の古内茶庭先カフェが無事終了し、本格的に実施していこうという流れになった時、私たちは地域の方を連れて古内茶庭先カフェのモデルとなったイベントへ視察に行きました」(高萩氏)
実は古内茶庭先カフェは、静岡県大沢地区の縁側カフェをモデルにしたイベント。農家さんも含めて、実際にイベントの視察に行くことで、メンバー全員に共通の具体的イメージを持ってもらったそう。
「実際にやっているところをみることで、具体的なイメージを持つことができますし、“これなら自分たちにもできるかもしれない” という自信が沸き、モチベーションをあげることにも繋がります」(高萩氏)
一つ一つ段階を踏まえながら、皆さんのモチベーションを上げ、かつ、実際にどうしたらできるのかのノウハウを蓄積し、第1回目の古内茶庭先カフェを実施。1回目の反省を踏まえ、第2回に望んだという。
「第1回目の開催で前例ができたことにより、周りの農家さんも “これなら私たちにもできそうだ” と、第2回目の開催では新しい農家さんも参戦してくれました。地域の方は皆さん結束力があるので、お互いにいろんなアイディアを出し合いながら進めていけたことが嬉しかったですね」(高萩氏)
今回のイベントには、20代や30代の若い人も参加しており、運営側で取っていたアンケートには「お茶が好きで参加した」という方も多かったそう。これがまた運営者や農家さんたちのモチベーションアップにも繋がっていく。
「最近は、和紅茶なんかも開発されていて、若者にも親しみやすくなっていますし、実際にお茶を飲んでくれた方は “美味しい!” と驚きの声をくださる方も多いんです。ただ単に今までは縁がなかったから飲んでいなかっただけで、美味しさがわかれば飲んでくれる方はたくさんいます。だからこそ、イベントを通じてより多くの方にまずは古内茶を知ってもらえたら嬉しいと思っています」(高萩氏)
今後どのように「古内茶庭先カフェ」を実施していくのかはまだ明確に決めておらず、地域の人たちと一緒にプロセスも楽しみながら今後を模索していきたいと話す高萩氏だが、古内茶庭先カフェを実施する上で、明確なルールは決めていたという。
「古内茶庭先カフェに出店する方は、古内茶を使ったものを提供する、もしくは、古内地区に関わるものを提供する、というルールを決めていました。基本的には地域の農家さんに出店していただくことをメインに考えていましたが、古内地区に関わるものを使ってくださるのであれば、地域内外問わず、ぜひ参加して欲しいと呼びかけました。地域だけの力では足りない部分もあるので、外部の肩の力も借りて発展させてもらおうと思っています」(高萩氏)
「小原さんは、もともと私が小原さんのお店に私が通っていたことがきっかけで、古内茶庭先カフェへの協力をお願いしました。小原さんとも話すんですが、城里町は、まさにこれから地域を盛り上げていこうとしている地域なので、既存のルールや決まりがなく、新しいことに挑戦できる町です。まだまだ発展する可能性があるからこそ、城里町で0からつくっていくことを小原さんをはじめ、関係者全員が楽しんでくださっていて、本当に心強いです」(高萩氏)
個人の繋がりが広がり、共感を呼び、新しいものが生まれ、さらに繋がりが広がっていく。古内茶庭先カフェをきっかけに、繋がりの連鎖が起こり、新たなものが生み出されるこの一連の流れが嬉しくて仕方ないと高萩氏は楽しそうに話す。
「この地域は今、とても面白くなってきているんです。どんどん人口が減少して、まちも廃れていく中で、これ以上過疎化が進めば、まちはあっという間に廃れてしまうという状態。それを今まさに食い止めようと、古内茶庭先カフェ以外にもいろんな動きが生まれています。いろんなプレイヤーも集まってきていて、あとは上がっていくしかない状態です」(高萩氏)
常に相手の目線に立ち、相手が自分事として地域に関われるよう仕掛けづくりを行う高萩氏だが、取材の最後に、強いメッセージとして「自分の力だけでは、何一つ実現できなかった」とも語ってくれた。
「今の古内茶庭先カフェがあるのは、私の力ではなく、茨城県と城里町、そして何より地域の方の熱量と協力のおかげだと思っています。城里町は、これからさらに面白くなりますよ」(高萩氏)
次回の「古内茶庭先カフェ」の情報は、公式Facebookで発信していきます。古内茶庭先カフェをきっかけにまずは観光として、城里町に足を運んでみてはいかがでしょうか?
Editor's Note
目の前に広がる茶畑を眺めながら、お茶とお茶請けを楽しみ「どちらから来られたんですか?」「もうあそこのお茶は飲まれましたか?」なんて、隣になったお客さん同士で会話を弾ませる。
東京から電車で約1時間30分。ブレケル・オスカル氏の「城里町は血圧が下がる」という言葉に、自分でも驚くほど大きくうなずいてしまうほど、豊かに流れる時間が、ここにはありました。
NANA TAKAYAMA
高山 奈々