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※本レポートは、株式会社WHEREが主催するトークセッション『地域経済サミットSHARE by WHERE in 東海 – 結ぶ東海 -』のSession2「スポーツ×まちづくり|よい関係性からよいシナジーを生み出す」を記事にしています。
日常へ溶け込んでいく、スポーツ。
アナタの暮らすまちにも地域に根付いたクラブチームや、そのまち由来の競技があるかもしれません。
いまやスポーツは単なる競技を超え、地域活性化や経済発展の重要な要素となっています。特に近年、大規模なスポーツ施設の建設や国際大会の開催が、まちづくりや地域のブランディングに大きな影響を与えています。
このトークセッションでは、「スポーツ×まちづくり」をテーマに、スポーツを通じた新しい地域づくりについて議論を交わしています。
スポーツ界や行政、施設運営を担う民間事業者など多様な分野での経験を持つプロフェッショナルが集まり、「スポーツ×まちづくり」その可能性と課題を追求しました。特別セッションの様子を一部お届けします。
前編記事では、スポーツが地域に与えるインパクトについて理解を深めました。後編記事では、いかにしてその価値を多くの人に届けていくのかを、更に深掘りしていきます。
古里氏(モデレーター、以下敬称略):ここまでのお話で、スポーツは体験型のエンターテイメントなんだなっていうのを改めて実感をしました。祭りのような「ハレ」の体験を通して、地域の人達がロジックを飛び越えてつながっていくポテンシャルが十分にあるのだと。
猪股氏(以下敬称略):どの自治体にもトップチームがあるわけじゃないと思うんです。ただ、その地域ごとに、伝統的にうちは「野球のまち」だとか、うちのまちは力士がたくさん出ているから相撲が人気だとか。さまざまな色がある地域はすごく多い。まずは、各地域がそれを大切にしたら良いと思います。
ただ、それが自己満足で終わってしまっているまちもたくさんあります。もっと行政が地域の取り組みと連携して、まちの特色として前面に出していけば「スポーツ×まちづくり」はさらに面白いと思うんです。
これまでJリーグが人気になって、今度はBリーグが成功して。至る所に1万人を超える規模のアリーナがどんどんできてきています。
そこからさらにスポーツだけじゃなく、音楽などとの融合が生まれてエンタメの世界がどんどん進んでいくはず。施設を持つ地域には、必ず何かしらの特色が生まれてくると考えています。
上村氏(以下敬称略):そういう意味では、愛知県は課題が明確化されていました。名古屋グランパス、中日ドラゴンズといった、観客規模も大きなチームがあり、スポーツが盛んな県である一方で、観客収容人数が2万人弱のアリーナがありませんでした。
そこで来年2025年にはIGアリーナ(愛知県新体育館)を作って、大相撲名古屋場所やフィギュアスケートのグランプリファイナルなど、これまで人数の制限があったり、誘致が難しかったスポーツが開催できるようになります。
さらにIGアリーナは、「ハイブリッドエンターテイメント・アリーナ」を標榜しており、新たなスポーツと音楽の殿堂として、どちらのエンターテインメントも充実して行えることを強みにしています。天井の高さや興行主の利便性を高めることで、エンターテインメントの枠を広げていく予定です。
また、サブアリーナも設けており、こちらは部活動利用の際、チームでひとりが数千円出せば使えるようなリーズナブルな価格設定です。観るスポーツの後に、実際にするスポーツとして楽しむ機会も提供できます。
古里:やはりハード面とソフト面がうまく混ざっていくっていうのはすごい大事なんですね。元々スポーツの業界の中では、ハードはハード、ソフトはソフト、というある種分断された状況だったんですか。
猪股:基本的には、ハードは行政が住民の税金を基に作ってきました。当然、行政サイドが運営をする場合は儲ける発想がないので、住民の皆さんのことだけを考えれば良い。
そのため、まちの体育館や運動場は1回使っても一人100円程度のところが大半でした。今はそれを変えようと、民間発のスタジアムがたくさんでてきています。
猪股:ニュースにもなっていますが、国立競技場は毎年10億円以上赤字が出るという試算だったようです。そこで、今はドコモなどが中心となって、「自分たちが運営すれば黒字にできる」と声を上げています。最新技術を投入して、ドーム型でなくても雨の中でコンサートができるようなことを考えているという話です。
これからは、このような取り組みがどんどん増えて、日本のスポーツ施設は変わっていくと思います。
上村:それこそJリーグの頑張りによって、ホームタウンや地域公共財としてのスポーツが注目されています。世界大会など含めプロチームが施設を使うことによって、地域の満足度が高まる。そして、住環境の向上や税収も上がっていくという研究が、海外では進んでいます。
古里:公園でも、民間のその手法を取り入れて、場の価値を高めながら収益もちゃんと生む取り組みが進んでいますよね。結果的に市民の方の利用価値を上げるような事例が増えています。
古里:地域住民の満足というと、先ほど「タッチポイント」のお話が小西さんから出ていましたね。
小西氏(以下敬称略):タッチポイントづくりの大事な取り組みの一つに、スクール事業があり、愛知県の至るところにサッカースクールを設けています。
サッカーの練習を通じて、健康になり、友達ができます。そこから将来プロを目指すもよし、そして勉強のために体を鍛えるもよしです。
小西:チアリーディングもいろんなところでやってます。チアを習う子どもたちが沢山いるんですが、なかなかアウトプットの機会がないんです。そこでグランパスとコラボしてもらい、試合会場だけでなく、いろいろなイベント会場などで踊ってもらっています。
こうしたときには、サッカー、バスケット、そしてバレーと、各種スポーツの垣根を取っ払ったコミュニケーションを意識しています。会場で他のスポーツのチケットの案内をするなど、お客様を相互乗り入れするようにしています。
今は、お客様が多様なスポーツをキョロキョロしながら、スポーツの輪が広がってる状況です。そうやってスポーツがどんどん広がるという未来が、近いと感じています。
また、グランパスでは様々なステークホルダーとのコミュニケーションも意識しています。
例えば、就任して1年半の間で、ホームタウンである愛知県内54の自治体の全ての首長の元に足を運びました。訪問するとすごく喜んでいただけるんです。
お客様やスポンサーだけとのコミュニケーションだけではなく、様々なレイヤーとのコミュニケーションがとても大事だと思います。
古里:スポーツは、いろんなロジカルなものを飛び越える体験型の強烈なエンターテイメントである。そして地域住民とのタッチポイントの設計と、民と行政がコミュニケーションを取りながら連携して進めていくのかが重要ということですね。
古里:最後に会場からも質問を聞いてみたいと思います。
質問者:貴重なお話、ありがとうございました。北海道の北広島市役所のものです。スポーツ×まちづくりは様々な分野を発展させる力があるなと思っています。
今北広島でも、教育、観光、国際交流、いろんな分野で掛け合わせが起き始めてる状況です。皆さんが取り組まれている中で、「これはよい」と手応えを感じる地域との掛け合わせがあればぜひ伺いたいです。
猪股:スポーツを通じたツーリズムをもっと出していいんじゃないかな。
アジア大会とアジアパラ大会で、海外からのお客様たくさん来ていただけるはずです。そこでまずは名古屋を観光してもらい、それだけでなく京都、奈良も含めて、観光のエリアを広げたいなと考えています。
小西:私もスポーツツーリズムをこの週末実践しました。
兄が山口県から出てきて、まず土曜日に到着して中日対阪神戦を見ました。そして、その夜は名古屋の美味しいご飯を食べました。日曜日はグランパス対柏レイソルの試合を見て、前半0対1で負けていたところから後半2点取って逆転勝ち。大喜びで宴会をしました。月曜日は大相撲名古屋場所に行き、火曜日と水曜日にはゴルフをしました。そうして兄は大満足で帰っていきました。
こんな風に愛知県はスポーツ観光の宝庫です。交通の要であり、色々な建物や施設があります。これらを組み合わせていくと、どんな立場の人もスポーツと掛け合わせたまちを楽しみ方を見つけられると思います。
上村:北広島市といえば「エスコンフィールドHOKKAIDO」がありますよね。ここはぜひ一度行かれた方がいいです。スポーツ施設としての要素だけではなく、商業施設としての機能もあり、それが合わさって唯一無二のとても素敵な場所に仕上がっています。これこそがスポーツのあるライフスタイルを地で行くスタジアムです。
今、スタジアムやアリーナの勝ち筋は周りの商業施設とどう連携させていくかだと思います。海外でも成功しているところは、複合開発を上手にやっています。
たとえば、歴史的に日本の鉄道会社のモデルでは主要駅にオフィスを作って、テーマパークをもう一方に作って、間に住宅を作ることで人の動きを創出していくのが定石とされてきました。テーマパークの形というのは時代によって変わっていますが、エンターテインメントを提供するという意味ではスタジアム・アリーナも同様で、スポーツ関係の施設は今の時代でも有力だと思っています。
上村:さらにIGアリーナでは、観光コンテンツとしての魅力をより高められることを目指しています。
具体的にはプレミアムラウンジという特別な体験ができる席を用意しています。イメージは、飛行機のプレミアムエコノミー。専用の入り口、専用の飲食店舗、専用のシートをご用意しています。記念日やお祝い事などハレの日に、いつものチケットに少し料金を足すと個人やグループで楽しめる。そういう新しい体験ができるシートを約850席ご用意しています。
名古屋にはジブリパークもできましたし、名古屋グランパスもあります。そうした地域の魅力を掛け合わせながら新しい体験を作っていくことが、スポーツでの新しい見せ方、価値の作り方だと思っております。
古里:ありがとうございます。皆さまからたくさんの貴重なお話をいただきました。スポーツを通じた地域活性化や、ハードとソフトの連携、さらにはスポーツツーリズムの可能性など、非常に興味深い内容でした。
Editor's Note
地域の勝ち筋の一つは観光にあると思いますが、今後そこにスポーツが組み合わさっていくことで、より新しい価値が生まれるイメージが湧きました。そこに住む人だけでなく、外からやってくる人にとっても価値あることがスポーツによって生まれてくると思うと、地域スポーツの今後が楽しみです。
Yusuke Kako
加古 雄介