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北海道でサスティナブルな「循環型の牧場」を目指す。オープンを100年後に据えた、世界初の『和牛メゾン』構想とは

DEC. 15

拝啓、お金とは異なる価値をつくり、取り組みを次世代につなげていきたいアナタへ

2020年4月、北海道厚真町の約200ヘクタールという広大な土地を長期使用するとして、自治体と契約締結を行った会社がある。畜産ベンチャーのGOODGOOD株式会社だ。

GOODGOODは、これまで牧草栽培から牧草和牛の繁殖や肥育、食肉加工、精肉店、レストラン経営、卸売などを行ってきたノウハウを活かして、世界初の『和牛メゾン』を厚真町につくりあげることを目指している。

驚くべきは、グランドオープンを、2125年に置いていること。この壮大なプロジェクトは、一体どのようなものなのでしょうか。

今回はGOODGOOD創業者の野々宮秀樹さんに、何を考え、どんな未来を描いて、今、畜産業に挑んでいるのかお聞きしました。

野々宮 秀樹(Hideki Nonomiya)さん 元:配当受益権組成&流動化の専門家で、現在は:畜産とお肉の価値流動化の専門家。 牧場経営とお肉の事業を開始。金融資本主義の世界に、文化資本主義のエッセンスを。【GOODGOOD】:事業開発&事業配当受益権流動化を専門にしていた野々宮秀樹が、資本の在り方の一部を、金融資本から文化資本へ変換してするために始めた事業会社。長期保有株主らと共に、物事を"Slow"に捉え、"最先端テクノロジー""を駆使して、"SocialGood"に取り組み直すことでイノベーションの余地が大きく生まれる事業領域に取り組んでいる。まずは、大好きなお肉の世界から。 -GOODGOODMEAT
野々宮 秀樹(Hideki Nonomiya)さん / 元:配当受益権組成&流動化の専門家で、現在は:畜産とお肉の価値流動化の専門家。 牧場経営とお肉の事業を開始。金融資本主義の世界に、文化資本主義のエッセンスを。【GOODGOOD】:事業開発&事業配当受益権流動化を専門にしていた野々宮秀樹が、資本の在り方の一部を、金融資本から文化資本へ変換してするために始めた事業会社。長期保有株主らと共に、物事を”Slow”に捉え、”最先端テクノロジー””を駆使して、”SocialGood”に取り組み直すことでイノベーションの余地が大きく生まれる事業領域に取り組んでいる。まずは、大好きなお肉の世界から。 -GOODGOODMEAT

循環型の牧場を目指す、文化資本主義という考え

GOODGOOD株式会社は、熊本県阿蘇の自社牧場と、兵庫県西宮市にある拠点を中心に、牧草栽培から牧草和牛の一貫生産と、精肉店、レストラン、卸売業などをワンストップで経営する次世代型和牛畜産ベンチャー。

畜産農業に挑むためには「販売力」が重要と考え、兵庫県西宮市でレストラン併設の精肉店からスタートさせた野々宮さん。国内外から集めた肉のセレクトショップのような店舗が評判を呼び、それと時期を同じくして熊本県阿蘇地方に初の牧場を取得。牧草栽培から卸売までを手がけるようになりました。

そして、満を辞して打ち出したのが、自社の生産ノウハウを活かした『和牛メゾン』構想。持続可能な生産体制を構築した循環型の牧場を目指し、2025年のプレオープンから、グランドオープンとなる2125年まで約100年かけてつくりあげるプロジェクトです。

土づくりから和牛の生産を見学ができるようにし、その現場で肉を提供していきながら、バイヤーやシェフ、消費者などと商談ができる、生産と商談機能を持つ施設として、フランスのシャンパーニュ地方にあるシャンパンメゾンから着想したといいます。

美味しい肉をずっと食べ続けたい、がきっかけですね」と『和牛メゾン』のプロジェクト始動の動機をにこやかに話し始めた野々宮さん。

「国内で大規模生産が可能な牧場用地を探し、3年前、厚真町に出合いました。現在借りている土地は、かつてリゾート開発を途中で断念した土地で牧草用地に適さないと一度は見送りました。

ですがその後に起きた北海道胆振東部地震を機に再び検討し、地震で流出した土砂を負の遺産とするのではなく牧場整備に活用したいという思いが募ってしまって。あとは、土の状態や気候、現地へのアクセスの良さから牧草用地にできると判断し、事業を行うことを決めたんです」(野々宮さん)

起業家になる以前、野々宮さんが約20年身を置いていたのは金融業界。業界で経験を重ねるうち、次第に価値創造の局面でお金の価値が下がるのを感じ、自然資本や信用資本など、資本のあり方は、今後、多様性を増していくと捉え、「価値のやりとりはお金だけでなくてもいいのでは」という思いが強くなったといいます。

全てお金に換算して価値を見るのではなく、社会課題に向き合い、どのようなビジョンを持って文化をつくるかも価値創造につながると考えた野々宮さん。

ひとつのことにある程度フォーカスして長期的に熱量を加え続けないと文化には昇華しないと考え、「一生をかけて飽きずに取り組めるのは、肉だった」といいます。

文化力を資本として、価値を想像したり保存したりすることを『文化資本主義』といい、野々宮さんは、持続可能な食肉文化資本を築くために『和牛メゾン』を動かしました

誰もが「美味しい」といえる肉を届けたい

野々宮さんが手がける畜産は、生産現場の情報をオープンにしていることが大きな特徴の一つ。一般的に日本の畜産は、生産と販売が分離しているため、生産現場の情報が消費者に届きにくく、消費者の声も現場に入りずらい現状があります。

ここに課題を感じた野々宮さんは、畜産農業では後発でありながら、SNSなどを日常的に活用する時代の会社として、情報開示や発信に優位性を見出しました。

情報発信のひとつは、美味しい肉の伝え方。野々宮さんが教えてくれたのは、以前GOODGOODで行ったABテストの実験結果。GOODGOODのお客様に畜舎で飼育した牛の写真と放牧している牛の写真を見せたところ、大抵の人が放牧している牛を美味しそうと判断したのだそう。

人が美味しいと判断するうち、約6割程度は聴覚や嗅覚、情報によって左右されているといわれています。美味しいということに影響するなら、生産だけでなく美味しいと判断できる情報を伝えていく必要があると思いました」(野々宮さん)

美味しいの基準は、人それぞれ。だからこそ、『和牛メゾン』では誰もが美味しいと感じる肉をつくることを目指して、美味しいと判断できる情報を届けることに注力しています。

「SNSでも情報を届けているので、それを見てふらっと牧場に来てもらってもいいし、いきなり子どもたちが遊びにくるのだっていい。いつ牧場に来ていただいても情報開示をしています。100年かけてオープンさせるので、目標に対して『まだ30%しか達成していないです』と状況を伝えることもあります」(野々宮さん)

テクノロジーの導入にも積極的で、自然資本を活かした持続的な生産体制をとるため、最適化や効率化をはかっている野々宮さん。広大な牧草地に牛を放牧しているので、牛にGPSを装着して、異常時にはドローンなどを駆使し、治療有無の一時判断をするなどの生体管理を行っています。

「畜舎による飼育ではなく、牧草栽培や放牧をしているのも、懐古主義というわけではなく、サスティナブルで健康的な生産体系を大事にすることでも美味しいを判断されるとするなら、実装しよう、取り組もうという考えです」(野々宮さん)

あくまでも美味しいお肉が食べたいという考えに貪欲。そして、100年先のオープンに向けてどこまでも楽しそうに取り組んでいるのが印象的です。

100年先を思ふ、野々宮流の行動

厚真町でこれまでにない壮大な取り組みをする野々宮さんのもとには、賛否両論、地元のさまざまな声が聞こえることも。そんな中でも、野々宮さんは地元農家の人たちをリスペクトしながら、美味しい肉づくりへの考え方はぶらさず、時に意見を求め、自分の考えを述べることを忘れずに接してきたと話します。

「みなさんに『僕はアーティストなんだ』というようにしています(笑)。農業の慣習も受け止めながら、僕らはアート表現として美味しい肉をつくっているから、変わらずやっていきたいんだと説明するようにしているんです」(野々宮さん)

野々宮さんが目指すのは、『和牛メゾン』で文化資本をつくること。だからこそ、マーケティングの概念がなくても成り立ってきた農家の人たちにも、選択肢を広げていく意味で、金融用語やマーケティング用語を頻繁に使用して話しをします。

「最初は僕の言葉は何を言っているかわからないし、こいつは何者だと思われていたと思います。だからといって焦らず、徐々に徐々に歩みを縮めていっています」(野々宮さん)

厚真町に接点を持って、約3年。野々宮さんの考え方に理解を示し、応援してくれる方も増え、既存農業者としては早いペースで事業構築が進んでいるようです。

とはいえ、「グランドオープンは大体3代目くらいのときになると思います」そんなこともさらっという野々宮さん。自分の想いを信じて取り組む中、100年先という自身の寿命を超えて成し遂げる構想で、どのように事業継続をはかろうとしているのでしょうか。

野々宮さんは「とにかく自分よりも若い人に、事業の説明をし続けること」といいます。

「今、僕は43歳。年齢を重ねるにつれて、以前に比べて考え方の幅が狭まってきている実感もあります。当社の牧場には、小学生も見学に来ますが、オープンまでの100年のうちの60年くらい関わってくれたら、事業として進んでいけるなと思うので、一生懸命、子どもたちに『農業って楽しいんだよ』と伝えるようにしていますね」(野々宮さん)

異業種から畜産業に参入した野々宮さんは、さまざまな事業に触れてきた経験から、視座を高くすることの大切さを実感しています。そんな野々宮さんだからこそ、若い世代に現在の取り組みをオープンにし、そしてメゾンの熱意を伝えていくことは、結果として文化資本に還元していくことになると考えているのです。

「農業にお金を送り込むことができれば、効率化が図られるようになり、今度は人にお金を使うようになる。そうするとさまざまなところからインテリジェンスが入ってくるので、農業はまた発展すると思っています」(野々宮さん)

『和牛メゾン』の成功に向かって動きながら、厚真町に文化をつくること、そしておうおう農業の未来も意識した取り組みはまだまだ始まったばかり。

今思い描く未来が、100年先にどう現実になっているのか、楽しみで仕方ありません。

\野々宮さんと開催するオンラインイベントをチェック/

Editor's Note

編集後記

野々宮さんの打ち出す『和牛メゾン』は、自然や信用などお金には換算できない資本を使い、そして技術など必要であれば資金投入します。あらゆる資本をバランスよく活かしている点が、非常にリアルで面白く、100年後がイメージできる事業であるとワクワクしました。

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