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LOCAL LETTER

アナタが当事者。これからの「再生する観光づくり」に必要なこと

AUG. 17

JAPAN

拝啓、一過性で終わらない「再生する観光」を模索しているアナタへ

※本レポートは、株式会社WHEREが主催するトークセッション『地域経済サミットSHARE by WHERE in 東海 – 結ぶ東海 -』のSession1「観光x自然資本|消費する観光から再生する観光づくりとは?」を記事にしています。

東海の自然をフィールドに新たな観光に挑戦する3名の登壇者と、秋元祥治氏による今回のトークセッション。

前編では、川や森という自然を「誰に」「どのように」提供しているのか。登壇者の方それぞれが実際に取り組まれている活動についてお話いただきました。

後編では、これからの観光における自然資源の可能性、そして「再生する観光づくり」に必要なことをお届けします。

次世代に美しい自然を残すために。必要なのは「仕組みづくり」

秋元氏(モデレーター、以下敬称略):私は、その地域にしかない、その地域ならではの特別なものを“ローカルラグジュアリー”と定義して、いろいろな書物で提唱しています。これまでのお話を聞きながら、森や川、自然資源はその地域でなければ味わえない“ローカルラグジュアリー”なのではないかと感じました。 

秋元 祥治 氏 株式会社やろまい代表取締役 / 岐阜県出身。人材をテーマに地域活性に取り組むG-netを創業し、現在理事。売上UP特化の公的産業支援機関「オカビズ」立ち上げセンター長・現チーフコーディネーター。武蔵野大学アントレプレナーシップ学部教授。大企業の新規事業創出支援や地場産業・スタートアップの経営にも参画。
秋元 祥治 氏 株式会社やろまい代表取締役 / 岐阜県出身。人材をテーマに地域活性に取り組むG-netを創業し、現在理事。売上UP特化の公的産業支援機関「オカビズ」立ち上げセンター長・現チーフコーディネーター。武蔵野大学アントレプレナーシップ学部教授。大企業の新規事業創出支援や地場産業・スタートアップの経営にも参画。

秋元:先日、岐阜県美濃加茂市にある「つづやビレッジ」という宿泊施設で、水口さんと一緒にサウナをして、バーベキューを楽しみました。そこで何より素晴らしかったのは、散歩したときに見た蛍の美しさ。こういうものこそ、その時、その場所でしか味わえない新しいラグジュアリーの形なのではないか。 そんなことを思い出しながら、ここまでの皆さんのお話を伺っておりました。

これからの自然観光の可能性について、水口さんはどんな風に感じられているでしょうか。

水口氏(以下敬称略):今お話のあった“ローカルラグジュアリー”。そこには自然を案内するガイドやコーディネーターという人がいて、その「人」と合わせることで、“ローカルラグジュアリー”が成立するのではないかと思います。

水口 晶 氏 有限会社EAT&LIVE取締役 / 京都市出身。大学卒業後、岐阜県郡上市に移住。仲間と起業し、アウトドアを軸に様々な事業を展開。都市部と地方を結ぶ架け橋となり、観光はもちろん、エネルギーや食料など、地方での自然環境を活かした持続可能な経済モデルの構築を目指す。
水口 晶 氏 有限会社EAT&LIVE取締役 / 京都市出身。大学卒業後、岐阜県郡上市に移住。仲間と起業し、アウトドアを軸に様々な事業を展開。都市部と地方を結ぶ架け橋となり、観光はもちろん、エネルギーや食料など、地方での自然環境を活かした持続可能な経済モデルの構築を目指す。

今後についていうと、都市部の人がライフスタイルの中で自然環境との接点を持てるような仕組みを作ることを考えています。それは、ツアーという切り口だけではなく、例えば一緒に田んぼをつくって、その地域を第2・第3の故郷のように想えるようになるとか。

自然環境を良くするというのは、やっぱりものすごく時間がかかることですよね。私は川には30年関わってやってきました。でも、あまり良くはなっていない実態があります。次世代にこの自然を残していくために、「川を綺麗にしましょう」と言うだけでなく、 実際に仕組みを作る必要があると考えています。

水口:そこで、電力事業を始めました。今目指していることの1つが、スキー場の100%再生可能エネルギー化です。郡上には10カ所ほどスキー場があるのですが、今、温暖化で雪が降らない。それでも人を呼ばなければいけないために降雪機や造雪機で人工的に雪をつくっています。でも、そこには膨大な化石燃料が使われていて、すごく矛盾したことをやっているんですよね。

川を変えるためには、辿っていくと山や森の話に行き着きます。現状のスキー場などにも、自然を守るために意識を変えていってもらいたい。そのきっかけとして、地域の中に発電所を作り、地域の中の電力会社を通じて地域に電力を供給していくというところから進めています。

地方から、経済的価値と社会的価値の両方を追い求める

秋元:「都市に住む人と自然との関わり合い」という非常に興味深いお話をお聞かせいただきました。粟生さんは名古屋にお仕事の拠点をお持ちになる一方で、三重県菰野町(こものちょう)には「AOU no MORI」があり、そういう意味では都市部と地域を行き来している存在ですよね。

都市部にいる人たちが、 自然や地域とどう付き合うか、これから描かれている未来や何か問題意識があればお聞かせください。

粟生氏(以下敬称略):20代、30代の若い世代の方々は、より地方や自然を求めているという傾向を感じます。価値観の多様化やワークスタイルの多様化によって、みなさんの求めるものが変わってきている。そういう意味では、副業、兼業のような形で地方のファンはもっと増えていくんじゃないかと思います。

粟生 万琴 氏 株式会社LEO代表取締役 / 関西発AIベンチャー、株式会社エクサインテリジェンス(現 株式会社エクサウィザーズ)創業者。名古屋駅前の廃校小学校「なごのキャンパス」プロデューサー。武蔵野大学 アントレプレナーシップ学部教授。2021年、三重県菰野町に「AOU no MORI」をオープン。
粟生 万琴 氏 株式会社LEO代表取締役 / 関西発AIベンチャー、株式会社エクサインテリジェンス(現 株式会社エクサウィザーズ)創業者。名古屋駅前の廃校小学校「なごのキャンパス」プロデューサー。武蔵野大学 アントレプレナーシップ学部教授。2021年、三重県菰野町に「AOU no MORI」をオープン。

粟生:私と秋元さんは、東京都三鷹市の武蔵野大学で教授もしています。学生も同じく地方や自然を求めていると感じます。「地方創生ゼミ」がすごく人気なんですよね。学生の意識も地方に向いている。

秋元おっしゃる通りです。例えば僕のゼミ生の中にも2人、地方に住んでいる子がいるんですよ。一人は徳島県、もう一人は山形県に住んでいて。授業はオンラインで受けながら、ときどきゼミにやってきます。こうやって、地方部と都市部がシームレスになっていくと、より自然も身近なものになっていくというのは間違いなさそうですよね。

粟生ただ、私はやっぱりビジネスマンだなと感じる一面が芽生えてきていまして。今、明和観光商社さんと一緒に伊勢麻の伝統技術を継承しつつ、麻産業の振興にチャレンジしています。

やはり産業として経済的に豊かでないところが地方衰退の理由だとすれば、私は経済的価値と社会的価値の両方を追い求めることに地方から挑戦したいと考えています。

自分の流域圏内で資源の循環を。一人ひとりが取り組むべき自然探求活動

秋元:先ほど水口さんから自然資源を活かしていくためにはコーディネーターの存在が重要だというお話がありました。企業研修をする上でも、自然の中での出来事をどう解釈をし、意味付けするのか、ガイドの存在が私たちの満足度に直結する気がします。岡野さんは、コーディネーターの役割をどのように感じていらっしゃいますか。

岡野氏(以下敬称略):今日皆さんにぜひお伝えしたいなと思ったのが、イタリア政府が行った「テリトーリオ戦略」についてです。

1970年代から、イタリアでも地方都市の衰退がかなり顕著になっていて、人もどんどん都市部に出ていってしまうということが起きました。日本はこれまでトップダウンでやってきて、今まさにその限界を感じていると思うんですが、イタリアの政府の施策は日本政府と真逆だったんです。

岡野 春樹 氏 一般社団法人 長良川カンパニー代表理事 / 1989年生まれ。大手広告会社にて自治体のブランディングに携わる。日本各地を旅するDeep Japan Labの活動で出会った郡上市にほれ込み移住し、ひとと自然の共再生をミッションとする長良川カンパニーを立ち上げ、独立。
岡野 春樹 氏 一般社団法人 長良川カンパニー代表理事 / 1989年生まれ。大手広告会社にて自治体のブランディングに携わる。日本各地を旅するDeep Japan Labの活動で出会った郡上市にほれ込み移住し、ひとと自然の共再生をミッションとする長良川カンパニーを立ち上げ、独立。

地域という意味を持つ「テリトーリオ」。その戦略の中で言われた「Km0」と書いて、「キロメトロ・ゼロ」という言葉があって、「1キロ圏内」という意味です。

要は、誰がコーディネーターかとかではなくて、あなたが住んでいる1キロ圏内で自分の生活に必要なものの資源循環を全てつくり、外の大事なお客さんに提供する食や水も、すべて1キロ圏内で知っている人から買う。1キロ圏内の目に見えるものを提供できる人になりなさいと。

「地方創生は行政がやってくれるんじゃなくて、自分たちが自分たちの生活を作っていくんだぞ」というのがイタリア政府が強烈に打ち出したメッセージでした。そのおかげもあって、今もイタリアにはすごく魅力的な地方都市があると思うんです。

日本においては、文化的、経済的にアイデンティティーを共有する区域の1つに「流域」というものがあると思います。じゃあ自分たちが今飲んでいる水がどこから来ていて、その森は今どうなっているのかを見てみる。それから、今伊勢湾で何が起きていて、いかに漁業が成り立たなくなっているのかを調べてみる。 それをわかった上で、あえて同じ流域の木曽の御嶽(おんたけ)のおばあちゃんたちが作ったすんき漬けを、自分の大事なお客さんに提供する。

そうやって、自分の生活を1キロ圏内、それから流域という単位の中でもう一度再構成していくことこそが、ものすごい遠回りなようにみえて、実は1番の地域活性になる。これがイタリアが見せてくれた姿勢だと思います。

大事なのは、コーディネーターというより、全員がそれをできるようになることだと思っています。

岡野:以前、シンガポールにいらっしゃるエンジェル投資家のような方々が僕らのところに来てくれたことがありました。そのとき、実費しか請求できない代わりに「今回の旅の価値を感じただけでいいので置いていってください」とお伝えしたところ、翌日に20万、30万と振り込まれました。

彼らに「どうしてこんなにくれるんですか」と聞いたら、「今はもう世界中でジブリが見られる。でも、そのジブリでみる里山や森や川との本当の関わりはほとんど失われつつある。それをまだ体現しているのが日本の中山間地域の人たちの暮らしであり、あなたたちはいまだに自分たちの生活の中で森や川で起きていることを、わからないなりに探求している。その姿勢に感動した」と言ってくださったんです。

だから、大人がちゃんとわからないことをわからないと言って、無邪気に知りに行く。わからないことの探求を、自分の1キロ圏内や流域圏内で、どれだけみんなが始められるかということが大事な気がしています。

まずはアナタも東海で自然体験を。体験することが自然再生への第一歩

秋元:お話が尽きないところですが、最後におひとりずつ結びのお話をいただいて、このセッションの区切りとさせていただきます。まずは粟生さんから、お願いいたします。

粟生:東海地域は国内GDP2位ということで経済的に豊かな土地ですが、だからこそ、今余裕のあるうちに、自然や地域環境を守ることを企業も個人も一緒になってできればと思っています。三重県にもぜひお越しください。ありがとうございました。

岡野:みなさん、ぜひ郡上の夜の川に入りに来てください。自分が生き物としてどう再生していくかをみなさんが探求することが、実は環境の再生に繋がる近道だと思っています。今日は楽しかったです。ありがとうございました。

水口:岡野君が言ってくれたように、みなさんにも一度どっぷりと自然体験をしていただきたいということに尽きます。今日いろいろお話があった本質的な部分を感じていただくためにも、ぜひ遊びに来てください。お待ちしております。どうもありがとうございました。

秋元:ありがとうございました。今日ここで「ラフティングをしたことがある人」と伺った時に、手をあげてくださった方がおよそ半数。逆に言うと半数の方々は、まだ体験したことがないということですので、今日を1つの機会という風に捉えていただき、ラフティング、あるいは夜の川、そして森を体感するサウナに1歩踏み出していただければと思います。

Editor's Note

編集後記

岡野さんがしてくださった「テリトーリオ戦略」のお話は初めて聞いたのですが、とても感銘を受けました。普段の生活で自分が使う資源を1キロ圏内で循環させ、外から来たお客さんに対しても1キロ圏内の目に見えるものを提供できる人に。最初からすべては難しいけれど、何か一つからでも始めたいと思いました。

そして、ぜひ登壇者のみなさんのフィールドへ足を運んでみたいものです。

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