前略
日常に追われ、忙しく毎日を過ごしているあなたへ
あなたにとって「ごはん」とはどんな存在でしょうか。
思わず微笑んでしまう喜びや幸せを与えてくれるもの、時間がないのに食べなくてはいけない煩わしいもの、身体や頭を動かすために必要なもの、特に興味がないもの。
一言で「ごはん」と言っても感じ方は人それぞれ、きっとこの質問に答えはありません。
だけど、もし「ごはん」を日々忙しい毎日を過ごしているあなたへの “小さなご褒美” 。延いては、いつも以上に大変で忙しい時には “息継ぎ” になる存在だったとしたら、、人生がほんの少し豊かになるかもしれません。
今回ご紹介するのは、「おむすびから始めませんか?」を合言葉に人と人、地域と人を繋げるために、全国を旅するおむすび屋さん「むすんでひらいて」として活動するメンバーの菅本香菜さん。
旅するおむすび屋さんとは、こだわりの ”おむすび食材” を作っている生産者さんに出会うために、おむすび仲間を募って旅をして、その土地で出会った食材を使っておむすび会を開く活動のこと。メンバーは、新潟でお米屋さんをやっているさくらさんと、前職で海苔漁師さんの取材をした時に海苔にハマってしまったという菅本さんのふたり。
弾けるような笑顔とハキハキとした話し方の菅本さんに、つい引き込まれながら取材はスタートしました。
旅するおむすび屋さんの活動を開始してから約1年、すでに20以上の地域で50回以上、1,000人くらいの方とおむすびを握っているという菅本さん。そもそも旅するおむすび屋さんはどうして始まったのでしょうか。
「私とさくらちゃんふたりには共通している二つの想いがあります。一つ目は、”地域の魅力を食を通して発信していきたい” ということ。二つ目が、”食の大切さをハードル低く伝えていきたい” ということです」
食の大切さを伝えていきたい。
「急に、きちんとしたおかずを作ってご飯を炊いてください。と言われても、毎日忙しく働いている中で、”完璧にやりたいけどできない” という現実があると思うんです」
「そういった人たちが “ここから始めてみようかな” “これだったらできそうだな” と思えることで食の大切さを伝えていきたいと思っています」
むすんでひらいての合言葉 “おむすびから始めませんか?” はこういったふたりの想いから生まれた言葉。みんなが大好きで、誰でも作ることのできる “おむすび” から食の大切さを知ってほしいという想いが込められています。
菅本さんが “食の大切さ” を伝えていきたいと思っているのには、ご自身の経験が影響していました。
「中学から高校まで拒食症で苦しみました。身長が158cmあるのに対して、体重は23kgまで落ちました。脈は他の人の半分。食べられなければ死んでしまうんだなと自分の身体で体感しました」
「ごはんを食べられないから、誰かと食卓を囲むことがすごく嫌でした。視線を感じるし、”そんなに痩せているのに食べないの?” ときみ悪がられてしまうんです」
拒食症から復活するきっかけは、高校2年生の時に仲良くなった一人の友人でした。彼女は、ごはんを食べられなくても菅本さんと一緒に食卓を囲んでくれることを楽しんでくれます。
「初めて “自分が食卓にいてもいいんだな” と思えたんです。その時、自分が食卓にいるのがもっと楽しくなるためにはどうしたいいんだろうと考えて、少しずつ食べるようになりました」
高校を卒業した菅本さんは、それまで過ごしていた福岡県の北九州市を大学進学のために離れ、進学先で今までとはまったく違う環境と出会います。
「高校までは人間関係で悩むことが多かったんです。いじめられている子にもいじめている子にも何もできない自分がすごく嫌でした」
「でも大学に入って、いろんな人たちが当たり前のように仲良くしていて、私自身もいろんな人たちと仲良くすることができたんです。自分でも驚きますが、気づいた時にはすでに拒食症は完治していました」
環境が変わるだけでこんなにも簡単に、あっけなく、苦しんでいるものがなくなると知った菅本さん。今まで自分が “全て” だと思い生きてきた環境がどれほど狭く、少し顔をあげれば目の前には広く美しい世界が広がっていたことに気がつきます。
「私が今いろんな人と人や地域と人を繋げて新しいコミュニティをつくっているのも、私自身が新しい環境に入った時、自分自身の世界が広がったという経験が大きいんです。私自身も今は多くの人にも地域にもお会いすることが多いので、どんどん世界が広がっているので、”生きづらい” と思うことはすごく少なくなりました」
「でも本当に狭い世界の中で苦しんでいる人って、世の中にはまだたくさんいらっしゃいます。そんな方に対して、”こんな地域もあるんだ” “自分のことを受け入れてくれる地域もあるんだな” って少しでも感じてもらえるようにしたいと思っています」
自分の世界が広がって苦しみから解放されたことで、幸せを感じることが多くなった菅本さんだからこそ、人と人や地域と人を繋げるために自ら地域に足を運ぶし、発信もします。人も地域も直接繋げることだって珍しくありません。
きっといろんな地域に行くのが性に合っている人もいれば、一つの地域に根をはるという方が合っているという人もいるだろう。”どっちも素敵な生き方です” と菅本さんは言います。ただ、菅本さん自身はいろんな地域に行くっていう方が合っていることを知っています。だから “旅” するおむすび屋さんなんです。
おむすび屋さんをはじめてから、嬉しいお声をたくさんいただいているんだそう。”特に思い出に残っているものはありますか?” と聞くと「話し出すときりがないくらい嬉しい話がある、、、」と初めて眉を八の字にして悩む菅本さん。
「本当にたくさんあるので、いくつかお話しします!(笑)」そう言って嬉しそうにたくさんのエピソードを話してくれました。
島根県の海士町で地元の伝統的なお料理をおむすびのお供にと出した後日、参加者の方から “海士町に移住してきて2年目が経ちますが、海士町が一番魅力的に感じられた会でした。おむすび会のあと、昔から海士町に住まれている方のところへ行って海士町の魅力をたくさん聞いたんです。” という連絡がきたこと。
福島県の西会津町で高校生向けに “西会津らしいおむすび” を作るワークショップを開催したら、後日参加してくれた高校生たちが今度は西会津に住んでいる小中学生向けに、おむすびのワークショップを開催してくれたこと。
40代くらいの方が “初めて自分でおむすびをむすんで自分で食べたし、人にも食べてもらった時にすごくあったかいなと思いました。こういう身近にある幸せの見つけ方があるんだなって感じました” と言ってくださったこと。
いつも本当に嬉しい言葉をたくさんいただくのだそう。自分たちがいなくても地域の中で繋がりが生まれていくことが本当に嬉しいと言います。
いただいた言葉や、食材を食べられた時の反応は、こだわりを持って作っている生産者さんたちに必ず伝えます。こだわりを持って作っているからこそ、食べている人たちがどんなん風に喜んでくれたのかを伝えると、いつもすごく喜んでくれるんですって。
「これからは、食べる人たちと生産者さんを結んでいく架け橋になっていきたいなと思っています。食べる人と生産者さんが繋がることは、食べる人たちにとっても世界が広がることになると思うし、舌の上だけじゃない美味しいに感じられるきっかけになると思うんです」
菅本さんは今後、より食べる人たちに生産者さんたちの思いを伝えられるような商品やイベントを一緒に作っていきたいと言います。すでに6月24日と7月21日にはそれぞれ都内でのイベントを開催する予定。
「7月21日には、実際に生産者さんと会えるイベントを開催します。皆さんが生活の中で触れているもののうち、何か一つでも “ファン” って言える作り手さんができるのって気持ちや生活がちょっと豊かになるきっかけになると思います。だからこそ今回は、生産者さんに触れるきっかけとなる機会にできたらなと思っています」
忙しさのあまり疎かにしてしまいがちな「ごはん」。イベントの日くらいは少し手を止めて、会場へと足を運んでみてはいかがでしょうか?
草々
NANA TAKAYAMA
高山 奈々