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LOCAL LETTER

「夢を語ろう」コロナ渦の最中に老舗旅館を引き継いだ、齊藤優樹の歩みとは

DEC. 19

NAGANO

拝啓、日々もがきながらも「地域を盛り上げたい」と奮闘するアナタへ

起業してみたけど、凄く苦しいーー。
この活動は本当に地域のためになっているのだろうかーー。

そんな思いを持ちながらも、日々活動する地域を盛り上げたいと奮闘するアナタに、知ってほしい旅館があります。

その名は「常盤屋(ときわや)旅館」。長野県北東部に位置し、スノーシーズン期間だけで年間約40万人もの人が訪れるという野沢温泉村。日本有数のスノーリゾートとして知られているその村の温泉街の中心に宿を構え、創業380年の歴史をもつ老舗旅館です。

「創業380年~訪れる全ての人に分け隔てなく癒しを提供したい~」

そんな企業理念を掲げる「常盤屋旅館」ですが、後継者の問題から何度か廃業の危機を迎えていた過去があります。しかし、2022年にとある一人の男性が事業を引き継いだことで、野沢温泉村の現存する旅館の中で最も歴史のある旅館として、多くのお客様に愛されています。

どのようにして廃業の危機を乗り越え、今もなお多くの方に愛されているのでしょうか。
その背景には、苦しみながらも「歩み」を止めなかった一人の「生き様」がありました。

常盤屋旅館のロビーの様子(常盤屋旅館様よりご提供)

異業種への挑戦。怖さを持ちながらも老舗旅館の代表へ。

齊藤 優樹(Saito Yuki)氏 常盤屋旅館代表取締役社長 / 1979年埼玉県生まれ。2010年に野沢温泉村に移住。当旅館の支配人を務めたのち、2022年より現職。

創業380年の歴史をもつ「常盤屋旅館」を事業承継*し、廃業の危機から救ったのは、代表の齊藤優樹さん。

*事業承継‥‥経営者が、会社の経営権やこれまで培ってきた「人」、「資産(株式・設備等)」、「知的資産(経営理念・人脈等)」という3つの経営資源を引き継ぐこと。

元々起業するつもりはなく、代表になるという思いはありませんでした」と齊藤さんは移住当初を振り返ります。

当時をそのように振り返る齊藤さんに対し、「」がそうさせたのでしょうか。

埼玉県大井町(現ふじみ野市)出身で、東京で仕事をされていた26・27歳の頃に、野沢温泉村出身の奥様と出会われたことが、齊藤さんと野沢温泉村との縁を繋ぎます。当時、齊藤さんは金融業界で活躍していましたが、この村で生まれ育った奥様の気持ちや、野沢温泉村の方々からの「必要だ」という言葉を受け、2010年に野沢温泉村に移住。

金融業界から宿泊業界という異業種への挑戦をスタートさせます。

常盤屋旅館の大浴場の様子(常盤屋旅館様よりご提供)

縁あって入社した旅館で野沢温泉の素晴らしさや宿泊業界のノウハウを学んでいる際に、当時勤めていた旅館の社長から「将来的な勉強をしろ」という言葉をもらい、村の中で開催されていた経営者の勉強会に参加。

その勉強会で「常盤屋旅館」の株主の方と知り合いになったことをきっかけに、当旅館の支配人を任されます。

「高齢の経営者が多かったため、常盤屋旅館の事業承継の話が出ていましたが、次期の社長がいない状況でした。さらに、コロナ禍で売り上げが減少し、内部留保も食いつぶしていく。コロナの融資を受けて従業員の解雇は避けましたが、会社の状況は悪化していました。再生計画を立てて取り組んでいましたが、そんな状況下の中で社長を引き受ける人はなかなかいません」と支配人になった当時の状況について赤裸々に教えてくださいました。

支配人を務めていた数年間の間にスタッフへの愛着も生まれます。この宿が今後どうなるかが気になっていたタイミングで、「常盤屋旅館」の事業承継の話が齊藤さんに持ち込まれました。

創業380年という歴史を未来に繋げなければならない、と考えた齊藤さん。代表になった際のリスクも含めて奥様へ相談。その結果、奥様からの後押しもあり、「やるしかない」と決意。

 「代表になろうという意志はなかった」という移住当初の思いとは裏腹に、創業380年の老舗旅館の代表としてのチャレンジがスタートします。

常盤屋旅館の外観の様子(常盤屋旅館様よりご提供)

苦しみの最中でも「夢」を語り、アクションを起こし続ける

齊藤さんが「常盤屋旅館」の代表取締役に就任したのは、2022年8月。
しかしながら、就任当初はコロナ禍の最中――。

「コロナ禍を経て、やっとお客様が来ていただけるようになりました。お客様が来なかった2年間は本当にキツかった」と齊藤さんは当時のことを振り返ります。

苦しいコロナ禍であっても、歩みを止めなかった齊藤さん。
就任当初は、予約は手書きの台帳で管理されているなど現場には非常に古い仕事のやり方が目立っていたとのこと。そのため、周囲にあまり理解されないながらも、コロナ禍で売り上げが上がらないのであればと、就業規則の整備やIT化による事務作業の効率化など会社内部の改革に着手。

こうして、一寸先に見えるかもしれない微かな光を目指し、まずは働きやすい環境を整備していきます。

常盤屋旅館の客室の様子(常盤屋旅館様よりご提供)
常盤屋旅館の客室の様子(常盤屋旅館様よりご提供)

お客様がほとんど来なかったという苦しい時期において、「何」が齊藤さんの支えになっていたのでしょうか。 

そこには苦しい状況下の中でも歩みを止めることはなかった齊藤さんならではの考えが詰まっていました。

「私は基本的に楽観的で、まず行動することを重視します。考えすぎて行動できないのが一番嫌なので、アクションを起こすことがモチベーションになっています。 

人と会って話をすることが私にとって大切で、苦しいときには相談はしていましたが、悲観的な話はしていません。むしろ夢を語り、アドバイスを求めること』が多かったです。孤独感を感じることもありましたが、それが経営者の宿命だと思っています」 

孤独を抱えて進むしかありません」という言葉の重みとは裏腹に、軽やかに経営者の苦悩を覗かせる齊藤さん。

こうした努力が身を結び、2024年1月には予約がほぼ埋まるまで、業績が回復。

「数字的に安心できるようになり、やっとトンネルの出口が見えました。今年1年しっかり頑張れば、さらに前進できるとスタッフにも話しています。苦しみはまだ続いていますが、光が見えてきたと感じています」

現に「和×フレンチ」の会席料理を創作したり、新たに挑戦したい目標を持たれていたりと、光を大きくするべく、次々にアクションを起こし続けています。

常盤屋旅館の和×フレンチの会席料理の様子(常盤屋旅館様よりご提供)

「自分がどうありたいか」時には立ち止まることも大切

苦しい時でも歴史ある旅館を守り続けるという責任を果たされてきた齊藤さんに、日々もがきながらも「地域を盛り上げたい」と奮闘するアナタに宛てたお手紙を預かってきました。

「自分が地域で何をしたいのか、何を守りたいのかをしっかりと考えることが大事だと思います。家族を守るだけでも十分ですし、会社や地域を守る人もいるかもしれません。それぞれが守れる範囲は異なりますが、自分がどうありたいかを考えて立ち止まることも大切です。

これから出会うすべての事柄がその人を作るので、苦労も楽しんで続けていただきたいと思います。同じように頑張っている仲間は全国にたくさんいると思います」

縁が細かった野沢温泉村で、創業380年という長い歴史をもつ旅館を引き継ぎ、苦しみの中でも歩むことを止めず、乗り越えた齊藤さんのお顔は、ものすごく朗らかでした。

そんな齊藤さんは、ご自身の活動の原動力として次のようなことを述べています。

「私は、この会社をできる限り利益が出るような仕組みをしっかり作りたいと思っています。この旅館の持ち味を確立し、スタッフが自立して、時代の変化に対応できるようにするのが目標です。

最終的には、宿がずっと続くように、仕組み作りを頑張りたいと思っています。新しいチャレンジもしたいと考えています。当館は私の人生の一部であり、ゴールではありません。

長期的にこの会社にいるわけではなく、次に何をやりたいかも考えています。もちろん、この仕事を楽しんでいる部分もありますが、さらなる楽しみや喜びが次なる選択の原動力になっていると思います」

『何をしたいのか、何を守りたいのかをしっかりと考えること』

地域で活動する上で大事にされていることをこのように語る齊藤さんは、「野沢温泉村に恩返しをしたい」「野沢温泉村の魅力を守りたい」という思いから、村議会議員としても活動されています。 

大きな苦しみを乗り越え、地域の未来を見据えながら活動する齊藤さんの「生き様」にはとても力強さを感じました。

この記事を通して、アナタの心が少しでも軽くなったら、嬉しい限りです。場所は違えど、アナタと同じように地域を盛り上げるために日々奮闘されている方は全国に数多くいらっしゃいます。

明日のアナタの活動が、実りあるものでありますように――。
齊藤さんの他にも、全国の様々な地域で活動されている方の取り組みを知りたい方は、LOCAL LETTERのメールマガジンから記事をチェック。

本記事はインビューライター養成講座受講生が執筆いたしました。

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Editor's Note

編集後記

地域おこし協力隊3年目になり、これからどうしようと悩んでいるタイミングで、齊藤さんのお話を伺いました。「何をしたいのか、何を守りたいのか」「自分がどうありたいか」。今回の取材以降、齊藤さんのこの言葉が、自分自身の一丁目一番地になっています。「頑張ろう」と齊藤さんに背中を押してもらいました。

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