仕事術
毎月家に届くまちの広報誌。
正直、私は読んだことは一度もない。だって、表紙からすでに「小難しそう」な匂いが漂ってる。活字がびっしり書いてあるに違いない、まちの情報なんて知りたい時にインターネットで調べれば問題ない。
ポストに入っていた広報誌が次に入れられるのは、ゴミ箱。
どこの地域も同じような状況だと思っていた。埼玉県三芳町の広報誌に出会うまでは・・・。
今回取材を依頼したのは、20代の若者の約8割が愛読し、2015年には全国広報コンクールで内閣総理大臣賞を受賞した埼玉県三芳町の広報誌「広報みよし」の仕掛け人である佐久間智之氏。
「広報誌は町の名刺。自分の町の名刺がダサいのは嫌だったんです」と語る佐久間氏の話を元に、読まれる広報誌にするための「広報術」を3つにまとめてみた。
2011年4月から三芳町の広報担当になった佐久間氏。「読まれる広報誌」をつくるために試行錯誤を繰り返したという。まず、「広報みよし」のタイトルを「MIYOSHI」へとローマ字に変えた。文字量を減らし、写真も大胆なカラー写真を採用、慣例で開けていた保存用のパンチ穴も廃止。
住民からは「海外かぶれ」「愛着があったのに」など、クレームが相次いだ。試行錯誤しながらも、住民からのクレームと職場内で尊重されている前例踏襲主義に苦戦しながらも、クレーム一件一件に丁寧に対応していった佐久間氏。
「ただのお知らせではなく、住民の皆さんに読みたい!と思ってもらえるような広報誌を目指し続けました。でも広報誌って、デザインがかっこいいだけでもダメなんです。料理に例えるなら、写真やデザインが “盛り付け” で、文章が料理の “味” だと思うんです」(佐久間氏)
料理を食べるか食べないかは、盛り付け(見た目)で判断されることがほとんど。だからこそ、盛り付けにしっかりとこだわる必要がある。しかし、味(中身)が不味ければもう二度と食べようと思う人はいない。盛り付け(見た目)ばかりを重視して、美味しくない味(中身)を作ってはいけないのだ。
実は、佐久間氏は三芳町役場に勤めるまで三芳町には全く縁もゆかりもなかった。でも広報誌をつくる上では、この “全く知らない土地” というのがいい方向に働いたという。
「小さい頃、東武デパートの屋上でカブトムシを買ってもらうのが楽しみだったんですが、三芳町にはそんなカブトムシがゴロゴロいるんです。僕なんて未だにお金を払ってでも欲しいと思いますが、地元の人にとっては当たり前すぎて価値のないものになってしまっているんです」(佐久間氏)
カブトムシツアーとかやったら絶対いいと思いません?キラーコンテンツですよ!と目を輝かせながら話す佐久間氏。それはカブトムシに限らず、三芳町の日常には宝物が溢れているといいます。
「僕は町の魅力を再発見して、研磨していくのが広報の仕事だと思っています。町の魅力を探し出すのに、僕自身が町外出身者というのはよかったんですよね」(佐久間氏)
そういう佐久間氏は、読者(住民)が町の魅力を再発見できるようなテーマを次々に取り上げていくことで、町の魅力を住民に伝えていった。
例えば、三芳町は都内から電車で約25分ほどの場所にあるにも関わらず、たくさんのホタル鑑賞が楽しめることを佐久間氏が広報誌を通じて伝えると、まばらにしか訪れていなかった場所に町内外から1日700人の人が訪れるようになった。
町の伝統芸能である車人形を特集したら、それまで空席が目立っていた公演が満席になった。
「自分の住んでいる町でホタルが見られるなんて知らなかった」「車人形がまだ続いていたなんて、驚いた」住民の方からは多くの「驚きの声」があったという。
町に関心をもち、好きになるために必要なのは、町のことを「知る」こと。佐久間氏はまず住民の方に町を知ってもらえるよう広報誌を通じて、町の魅力を伝えているのだ。
最後に広報に限らず仕事をする上で最も大事なことを佐久間氏が教えてくれた。
「まずは自分が仕事を好きになって、楽しんでやることが何よりも大切です。自分がやりたいことを楽しくやっている上で、町の人のためにもなってるのがいいと思うんです。自分がやっていてつまらないことはそれなりの結果しか出ないと僕は思っています」(佐久間氏)
佐久間氏は誰かに言われてやってきた仕事は一つもないという。それは、何をやるにしても佐久間氏はいつも主体性をもち、どうしたら楽しくなるのかを追求しているからだろう。
「自分のやったことで良い反応が返ってきたら嬉しいじゃないですか。僕が頑張るのは、シンプルにそれだけなんです。“住民のためにやっている” とかおこがましいことをいう気はなくて、自分が楽しくやった結果、住民の方が喜んでくださるっているのが良い形かなと思っています」(佐久間氏)
以前まではすぐに捨てられていた無機質な広報誌が、「ポストを開けるのが楽しみ」とまで言われる愛される広報誌になった裏側には、誰よりも三芳町の魅力を感じ、広報誌の可能性を信じる佐久間氏の努力と地域への愛があった。
Editor's Note
「公務員が変われば、まちも変わる。」そう信じ、とにかく一つずつ全力で挑み、プロフェッショナルにしていく佐久間さんの姿が本当に素敵だと感じる取材でした。
NANA TAKAYAMA
高山 奈々