HOKKAIDO
北海道
「ウチはウチ。ヨソはヨソ」
このセリフを聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか?
「あの人はあんな事が出来るんだ!いいなー」「あの人はあんなかっこいい物を持っている羨ましいなー」というように、他人と比べて生まれる様々な感情。
そんな他人には目もくれず、「自分にあるモノ、コトに目を向ける大切さ」を教えてくれた方こそが、北海道の北広島市にある「ショッピングつむら」という地域密着型のスーパーマーケットの跡取り息子、津村健さん。現在は父親が店主を務め、いずれ2代目店主となる予定です。
「ショッピングつむら」が大切に貫いてきたこととは、一体何なのでしょうか。
50年にわたる営業の背景には、どんな時でも必ず“あるもの“が存在していたのでした。
北海道札幌市の真隣に位置する北広島市。札幌市内からも通勤・通学の乗り入れが大変便利ということもあり、札幌のベッドタウンとしても位置づけられています。
そんな北広島市に、2024年に創業50周年を迎えた「ショッピングつむら」という、地域密着型のスーパーマーケットがあります。お話を伺ったのは、「ショッピングつむら」の跡取り息子、津村健さん(以下、健さん)。
「ショッピングつむら」は、元々は健さんのご両親が「お肉屋さん」としてはじめました。後に青果も取り扱うようになり、スーパーマーケットとして現在の場所にお店を移転して20年以上が経っています。今は健さんのご両親と、健さんご夫婦4人でお店を切り盛りしています。
健さんは、高校卒業後に一度就職をして、その後専門学校へ行き、卒業後は自動車整備士の仕事をしていました。元々はお店を継ぐつもりが全くなかったと言います。
「昔、一緒に店をやっていた祖父の具合が悪くなり、店を手伝うようになったのがきっかけです。 でも、小さい頃からお店のことは見ていて、休みの日は袋詰めを手伝うようなこともあったので、もしかしたら心のどこかには『お店をやりたいな』という想いはあったのかもしれないですね」(健さん)
「ショッピングつむら」から1.5㎞圏内に、複合商業施設として機能を果たすスーパーマーケットが2軒あります。いずれも2023年の「エスコンフィールド北海道」開業にあたりリニューアルをした気合いの入れようです。
そんな競合がいる中で、「ショッピングつむら」が創業当時から大事にしてきた想いを健さんが教えてくれました。
「うちはお客さんとの会話とか繋がりを大切にしています。母に会いに来るお客さんもいるんですよ(笑)お客さんが、『お母さんいるか?』と言って店に母を訪ねに来て、『これ、お母さんにこの前頼んでいたのだけどね…』と。
こちらから、『こういう食べ方が美味しいよ』と、お客さんに話しかけたりもします。そういう、お客さんとの身近な繋がりが大事なのかなと思います。お客さんに本当に助けられていますよ」(健さん)
実際に、取材中もお客さんがお店を訪ねてきては、買い物がてらお母さまと身の上話を楽しんでいる様子や、お店の扉を開けた瞬間に「この前の小松菜がさー」といきなり健さんに話しかける場面にも遭遇。
地域密着型スーパーだからこそできるお客さんへの寄り添いがあり、安心できる関係性がそこにある。「ショッピングつむら」には、健さんご両親・ご夫婦と、お客さんとの笑顔が紡いできた50年の歴史がありました。
昨今のスーパーマーケット市場は、商圏の需要より供給が過剰になる「オーバーストア」状態にあると言われています。人口も減り続け、胃袋も減っている中で、商売を続けていく事は容易ではありません。
2024年、北海道から某広域チェーンのスーパーマーケット2チェーンが軒並み撤退した話題は、道民に衝撃を与えました。それだけ、市場は厳しいということです。
ショッピングつむらも例外ではなく、年々客数が減少していることに課題感を持っていました。そのような環境下で、長年北広島市で商売を続けてこれた秘訣はなんだったのでしょうか。
「うちで扱う生鮮食品は鮮度が良いねってよく言われるんですよ。鮮度は絶対に真似できないと思う。そして、生鮮食品は大手スーパーより、大体毎日うちのほうが安いです。たまに『どんなものが売っているのかな』と思って近所のスーパーを見に行ったりしても、“全然大丈夫だ”って自分で確信するんです。どうやって並べているのかなって見たりとかして、おしゃれだなと思うものは取り入れたりします。
だけど、大きなスーパーは大量仕入れが出来るから、ジュースやビール、調味料やお菓子はうちよりもめちゃめちゃ安いですね。そういうのを買ったついでに野菜もまとめてスーパーで、週末に買っちゃうお客さんもいる。
でも、平日に微妙に冷蔵庫が空になってきた頃に、うちに来ていただけているんですよ。特に鮮度の良さ・安さには絶対に自信があるので。だからそんなにヨソは気にしていないです」(健さん)
お客さんも健さんも、「ショッピングつむら」の良さをしっかりと理解しているからこそ、地域に根差す価値が生まれるのだと実感します。
この強みとなる「鮮度の良さ」「安さ」これが毎日実現できるのは、まさに健さんの努力の賜物。毎朝5時に市場に自ら足を運び、市場の先輩方に若い頃から「見る目」を教わってきたそうです。
さらに、「僕、北広島の農家さんとも強い繋がりがあるんです」と話す健さん。健さんのご友人が農家をやっていることをきっかけにご縁を持った方もいれば、農家さんに自ら飛び込みで「売ってください」とお願いしたことも。
取引している農家さんには、「会いに行ったときに、『めっちゃうまかった。鮮度良かったです』と伝えてます。そういうコミュニケーションが大事なのかな」と笑顔で健さんは教えてくれました。
単なる商売上の関係ではなく、直接農家さんに出向き、真剣に向き合い、コミュニケーションをとった先に、信頼関係を育んできたよう。その結果、「ショッピングつむら」の生鮮食品の鮮度・価格の安さに対する絶対的自信が生まれたのだと感じさせられました。
ときにはこんなエピソードも。
「農家さんから、『レタス、そんな大きくないよ』って言われて、実際に取りに行ったら、めちゃめちゃでかかったんです。『えっ…でかいじゃないですか!』って言ったら、農家さんは、『うそ、小さいしょ』って。ラッキー!とか思ったりして(笑)」(健さん)
まさに、地元の人の温かさと繋がりがあったからこそのエピソード。卸してくれる協力農家さん、買い物をしてくれるお客さんが居て成り立つ商売。ただ、その農家さんの数も年々減少し、実際に取引停止せざるを得なかった事も過去にはあったそうです。
地域密着だからこそ実現できることもある一方で、その裏にある農家の担い手減少という課題にも目を向けないといけないのだな、と感じました。
北広島市には、昔「寒地焼肉祭」というお祭りがあり、北広島市内のお肉屋さんがそれぞれオリジナルのジンギスカンを作って出品していたそうです。「ショッピングつむら」も、そのお店の一つでした。津村さんが作るジンギスカンだから、「ツムラム」。
ラム枝を仕入れて(※取材時は、ラム枝の高騰で仕入れが不可能になり、半頭を仕入れていました)健さんのお父さんが全て捌いて商品化をしています。遠方からも買いにくるお客さんがいらっしゃる、ショッピングつむらでしか購入が出来ない目玉商品。
ツムラムの特徴を健さんに伺いました。
「柔らかいって言われますね。ちょっと肉を厚切りにしている部分もあります。そして、『味がすごくちょうどいい』って言ってもらるんです。骨から肉を外す時に、骨の肉が残らないようにに捌いている部分があるので、それがうまみになっていたりするのかな。あとは、決まった分量を入れている訳ではなくて、その時に仕入れた肉によって部位や味のバランスを調整しています」(健さん)
健さん自らも、一頭を捌いてみたことがあるそうです。
「5時間位かかりました。ずっと包丁を握っているので握力が…。僕は下手ですね。骨に結構肉も残っちゃって。父さんに、『ダメだ、もったいない』って言われました。父さんはすごいと思います」(健さん)
でも、健さんの「ツムラム」を語る眼差しに、お店の主でもある自分の父親への尊敬の念が込められていました。
そんな健さんが、「ショッピングつむら」で大爆発させている才能があります。「オリジナル手描き段ボールPOP」づくりです。
昔は、自宅にチラシを印刷する機械があり、お父さまが手書でチラシを描いていたといいますが、時代とともにやめてしまったそう。そこから健さんが「だったら、俺が段ボールでPOPを描くわ」となったのがスタートだったと言います。
昔から、絵を描くことが好きだった健さんが独学で描いている、芸術作品のようなPOPの数々。
「描き始めた当初は、どんどん絵が激しくなっていき、怖くて誰もお店に入ってこなくなりました。お店の前を通る小学生は『つむらキモイ!』って言って通っていくし、奥さんからは『あんまり気持ち悪い絵は描かないで』って言われていたので、これでも今は以前に比べたら大分落ち着いてきたと思う(笑)」(健さん)
この「オリジナル手描き段ボールPOP」もまた、「ショッピングつむら」の魅力の一つでもあります。「手描きPOPが目立って、それでお店を覚えてくれて、来てくれたらいいかなって」と健さん。
間違いなく、「ショッピングつむら」の仕事に対しての、「面白さ」や「やりがい」を感じている健さんがそこにいました。
最後に健さんに伺いました。「ショッピングつむらを今後、どうしていきたいですか?」
「続けていきたいですよ。変わらずこのままやっていければいいなと思うんです。それこそ、ツムラに通っていた小学生がいつの間にか中学生になって、中学校に行ったら姿も何も見なくなったりして。
そして、高校入って、いつの間にか、『就職したんですよ』って言って帰ってくる子がいたりする。そんなに成長したんだなと。その瞬間、自分も頑張ろうって思ったりしますね」(健さん)
ショッピングつむらは、これまでも沢山のメディアに取り上げられてきました。
健さんは「メディアに取り上げられたら、一時的にお客さんは来るが、長続きはしない。時間はかかるかもしれないけども、人から人への口伝えで『あそこのお野菜おいしかったよ』と伝わっていくことが、次に繋がると思っている」と語ります。
そして、「うちみたいなお店だからこそ、怠けたらだめだなって。お客さんにも正直にやらなきゃダメだと思う」とも。
人との繋がりを大切にして、自分にも周囲にも「正直」であり続けること。
その積み重ねの先に、自分だけの「個性」が見つかり、いつしかそれが「強み」へと変わっていくのかもしれません。
それは、すぐには見つからなくても、少しずつ「自分自身の個性」を育む中で、着実に自信に変わっていく。
ショッピングつむらが長年地域で愛される存在であるように、時間をかけて築かれるものなのかもしれません。
LOCAL LETTERでは、地域と共に歩むアナタへ、多様な「生き方のヒント」をお届けしています。
Editor's Note
取材の最後に、健さんが今後挑戦してみたいことを伺った際、「ツムラムジンギスカンのオリジナルのタレを使ったジンギスカン唐揚げを商品開発してみたい!あと、自分でデザインしたオリジナルグッズを作ってみたい!やりたいことが沢山ある!」とおっしゃっていました。
1から10、全てを家業でやる大変さの裏側には、自分がやりたいことにチャレンジ出来る可能性を感じることが出来て、とても刺激的でした。そして、「ショッピングつむら」で北海道産のお野菜とツムラムを買って、ジンギスカンパーティーをいつかしよう!という、個人的な夢が出来たインタビューとなりました。
SHIONA KAJIMA
梶間 紫央奈