サステナブル
社会全体がサステナビリティを重視する方向に大きく転換している昨今。企業経営においても、持続可能性に配慮した「サステナブル経営」を目指す動きが加速しています。
脱炭素、循環型経済、人的資本など、サステナブル経営の実現に向けて、企業が対処すべき課題は多岐にわたりますが、実際にどのような目標を持ち実行すれば良いのかと頭を抱えている方も多いのではないでしょうか。
そんなアナタにお届けしたいのが、山梨県が主催した「地域(山梨県)の最先端事例から考える未来を創造するサステナブル経営とは?」と題し開催されたこちらのセミナー。
山梨県でサーキュラーエコノミー・カーボンニュートラルの取り組みを実践されている、ヴィジョナリーパワー株式会社代表取締役の戸田達昭さんと、サステナビリティ専門WEBメディアを運営されているハーチ株式会社代表取締役加藤佑さんのにご登壇いただき、有識者におけるマクロな視点でサステナブル経営の仕組みについて紐解きます。
実際に活動されてきた方々だからこそ考える、サステナブル経営実施のためのヒントとはーー。
山口(司会):今日のイベントではサステナブル経営についてトークディスカッションをしていきます。では早速ですがそもそも、なぜサステナブル経営が必要なのでしょうか。
戸田:サステナブルな取り組みをするだけだったら、NPO法人やボランティアでもいい。僕は学生に向けての起業家教育も行っているのですが、よく学生さんたちに伝えるのは、「まずは自分自身が持続可能かどうか」を問うこと。そうでなければサステナブルを取り扱う以前に経営が続かないんですよね。だからサスティナブル経営には、社会性はもちろんのこと、自分の会社を「持続可能にする」ことも求められる。
山口:なるほど。自分たちが無理をすると、そもそも経営を持続できないですもんね。戸田さんはサステナブルな事業を多く実施されていますが、その事業アイディアはどう作られたのですか?
戸田:新規事業が既存事業の延長線上にあるのかどうかで変わってくると思うんですが、僕の経験ではいろんな方と交わってアイディアを話してみるのが大事だと思います。
加藤:たしかに、戸田さんに意見を聞いてもらうのが一番アイディアが生まれる気もします(笑)。僕からは実際にアイディアを生み出す過程のヒントをお伝えしたいのですが、過去に見た企業の事例から考えると、今日のようなサステナブル経営のインプット会が重要な役割を果たすと思います。
加藤:インプットした後にはワークショップとして、「今までやってきたサステイナブルな活動」と「これからやってみたい活動」、「会社でやりたいこと」と「自分でやりたいこと」の2軸に分けてアイディアを出し合ってもらった会では、合計200個ほどのアイディアが出ていました。アイディアの数自体にも驚きますが、その中で一番多かった分野が「会社として、これからやりたいサステナブルなこと」でした。
当初、経営陣からは「従業員はサステナブルに対する意識はあまりない」と聞いていたので、実際は皆さんとても意識を持たれていましたし、結果的に従業員から出たアイディアが事業化した例もあります。なので今日のようにアイディアをインプットした上で、実施してみたいサステナブルな取り組みを出していくのも一つかもしれません。
山口:アイディアを話すことも、インプットする時間も大事なんですね。次の質問は、おふたりのパーソナルな部分に着目したいのですが、起業のきっかけは何だったんでしょうか?
戸田:私は山梨県の1人目の学生起業家と呼ばれています。学生の時にたまたま起業したら初だっただけなんですけど、その時も難しいことを考えていたわけではなくて、「自分のやりたいことをするには、起業するのが一番早かった」という感じ。そこからいろんな人との関わりがあって、今に至ります。
戸田:進んでいくと課題にぶつかって、またやりたいことが見つかっての繰り返し。よく「理念が大事」と言いますけど、考え始めると動けなくなることもあるので、自分に正直に、「起業してみよう」と思えばやってみればいい。
あとは小さなお子さんがいるとか、それぞれのフェーズがあると思うので、その時々にあわせてチャレンジを決めていけばいいと思います。僕は親が自営業だったのと兄貴がいたので、起業しやすかったのもありますね。
加藤:僕の起業の経緯は、学生のときにベンチャー企業で働かせていただいて「僕でも起業できるかも」と思ったこと。そこからサステナビリティ専門のWebメディア事業に辿り着いたのは、大学生のときにファッションにハマったことが起因します。中でも、服を通じて社会的なメッセージをかっこよく発信しているブランドがあって、「社会問題に対してこんな関わり方があるのか!」と当時、衝撃を受けましたね。
加藤:大学卒業後は企業で営業として働いていましたが、僕が人に一番喜んでもらえたのが文章を書くことだった。だから書くということを通じて、社会問題を楽しくかっこよく伝えていきたいと思ったのがきっかけです。
山口:戸田さんも加藤さんも「自分に正直に」や「人から一番喜んでもらえたこと」というキーワードが出ていたのが印象的です。
山口:次の質問なんですか。サステナブル経営は具体的にどう進めていけばいいですか?
加藤:コストは課題になりますよね。これはサステナブルだけじゃなく、経営でも同じ。かかるコストを誰が担うのか、コストを払う人が納得するストーリーテリングができているかが問われる。でも今ってトランジション期間というか、国の補助金も結構あるし、行政や投資家、金融機関に負担いただく方法もある。この課題は、ある意味僕らが経済を成り立たせる上で通ってきた試練でもあります。
戸田:加藤さんの言うとおりです。あとは、何と何を比較するのかも大事。たとえば、農業の施設園芸をするなら、エネルギー源は重油でCO2が出てしまう。でも大きく発想を転換して、エネルギー源となるバイオマスを休耕地に植えてしまうこともできる。部分最適ではなく、全体最適をすることでペイできる可能性が見えたり。
戸田:あと僕は「いいことやってるから値段は高くて仕方がない」という発想はちょっと苦手で。我々の場合、株主もたくさんいるので、「戸田くんはビジョナリーなことばっかりだけど、数字はどうなの?」と問われるわけですよ。 だから「もちろん経済合理性があります」って示さないといけない。ビジョナリーとビジネスの両輪で徹底することが求められます。
山口:戸田さんの話を聞いていると、実行力と利益を出すところまで徹底されている印象を受けました。その中で戸田さんが気をつけてるポイントはありますか?
戸田:みんながハッピーになっているかどうかですね。概念的ですけど、一緒にやる人全員に、お金的なメリットだけに限らず、PRになるとか、別の本業に繋がるというメリットを必ず作るようにしています。あと、事業をやっていると、本筋のWhyの部分をたくさん問われるんですよ。だから「なぜその事業をするのか?」を整理する必要がある。
そこが精査されてくると「面白いことを考えていますね」と思ってもらえるし、そのためには「みんなハッピー」が大前提。僕だけが独り占めしてると「戸田さんらしくない」って言われちゃうし、想いを理解してもらえないので仲間を集められない。そのためにWhyの部分を友達や仲間にたくさん話をするといいと思うので是非やってみてください。
山口:戸田さんは、関わる人全員が幸せになれるような事業のあり方なんですね。
戸田:誘う限りは、その人がハッピーじゃないといけないし、事業が成功しないと意味がない。そこは絶対に意識している部分です。
加藤:本当にそうですね。ビジョナリーとメリットはどちらが欠けても駄目なんですよ。初期はビジョンや想い、ストーリーだけでもいけちゃうけど、クオリティそのものを高めていかないと、特にサステナブルの分野に関してはそれ以上広がっていかないと思いますね。
Editor's Note
「サステナブル経営」=「難しそう」と思っていましたが、「経営」と共通する部分が多くあると感じた本セミナー。中でも「まずは自分が持続可能かどうか」という点に納得。サステナブルを取り組むために、まずは自分が持続可能かどうか。これがサステナブル経営における大前提なのだなと思いました。
YURIKA YOSHIMURA
芳村 百里香