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LOCAL LETTER

森を育み、暮らしを紡ぐ住宅工務店・アトリエデフが追求する「環境にやさしい健やかな生き方」の哲学

NOV. 30

拝啓、消費するだけの生活を手放して心身とも豊かに暮らしたいアナタへ

※本記事は「ローカルライター養成講座」を通じて、講座受講生が執筆した記事となります。(第2期募集もスタートしました。詳細をチェック

1995年の創業以来、国産の自然素材にこだわった家づくりとともに、人にも環境にもやさしい「循環型の暮らし」を提案し続けてきた住宅工務店・アトリエデフ。従来の工務店の枠を超え、暮らしや自然環境にまつわるイベントを数多く手掛けていることでも注目を集めています。

“消費に偏った味気ない生活を手放したい”
“豊かな環境で、自然と共存しながら暮らしたい”

地球の未来をおもうアトリエデフの活動は、そんなアナタのみちしるべです。

アトリエデフが提案・実践する、手間を味わう豊かな「暮らし」

今回私たちが取材に訪れたのは、長野県諏訪郡原村にあるアトリエデフの八ヶ岳営業所。広々とした諏訪盆地の東側には雄大な八ヶ岳連峰を望むことができ、辺りは夏のキャンプ場を思わせるような、濡れた草木や落ち葉の香りが立ち込めていました。

お話をうかがうのは、代表の大井明弘さん。アトリエデフが提案する「暮らし」を日ごろから実践している彼らの1日は、会社に出勤して薪を燃やし、畑を世話することから始まるそうまずは、大井さんが自ら世話をしているという畑を案内してくださいました。

大井明弘(Akihiro Oi)氏 株式会社アトリエデフ代表取締役社長 / 長野県上田市出身。サラリーマン時代に建てた自宅が原因で家族がアトピー性皮膚炎を発症したことをきっかけに「安心、安全に住める家」をつくろうと、1996年アトリエデフを設立。その後2007年にNPO法人エコラ倶楽部を設立し理事長に就任、2019年にサーキュラーエコノミージャパンを共同創設し理事に就任。未来の子どもたちにより良い地球を残すために、待ったなしの環境問題への解決に向け、さまざまな企業・団体と連携しながら活動を行なっている。

「ぼくは毎朝、空が明るくなり始める頃から畑にいます。夏だと4時、今の時期(取材時は10月)は5時半頃。会社には8時ちょっと前に行って、夕方まで仕事をして、また畑に戻って作業をします。

今朝も、来年うちで食べる分の玉ねぎを植えました。昨日と今日で300本。あと300本植える予定です。来年の5月末から6月頭頃に収穫し、軒先につるして保管します。

自分で作った野菜は、買ってくるよりも美味しいですよ。ぼくの畑は無農薬で、化学肥料を使わない代わりに、緑肥や竹炭を使うことで野菜を大きく育てます。自分で作るから、安全性もわかるんです」(大井さん)

大量生産・大量消費を目的に作られた市販の野菜には、化学肥料や農薬が使われていることが多いそう。そうして作られた野菜を食べ続け、体に毒素が蓄積することで、アレルギーやアトピーといった症状を引き起こす危険性もあるといいます。

「デフ(アトリエデフの略称)の昼食は、自分たちで作る『まかない』です。釜戸でご飯を炊き、自分たちで育てた野菜を調理し、ときにはアースオーブンでピザを焼いて、みんなで食べます。

この畑で育てている野沢菜も、収穫後は会社にある樽に仕込んで漬物にして、冬のあいだの保存食にします。そういう『暮らし』がしたくて、お客様は工務店としてデフを選んでくださいます」(大井さん)

健やかな森を維持するために。未来を担う子どもたちへ、自然に触れる楽しさを伝えたい

畑から車を走らせること15分。

次に案内していただいたのは「エコラの森」。面積は15ヘクタール。東京ドーム約3つ分の広大な森を管理するNPO法人エコラ倶楽部は、大井さんが理事を務め、アトリエデフも法人として参画している森林保全団体です。

「デフは国産材を使って家づくりをする。だったらその木を育てないとだめだと思って、森を管理するため16年前にこの場所へ来ました。

当時は、一帯が腰の高さほどのクマ笹だらけ。その頃はまだ社員も少なかったので、家内とふたり、明けても暮れても毎日笹を刈っていました」(大井さん)

笹やツルを刈り、枝を整え、密集して生えた木を切り倒し、また新しく木の苗を植える――。これを繰り返すことで、少しずつ森を整備していったという大井さん。

「木は光合成によって大きくなるので、光が自分のところに当たらないと、光を求めて上へ上へと伸びていってしまう。そうすると木の幹は細いまま。だけど間伐をして森の中に日光を取り込んであげれば、木は伸びなくていいんです。そうすると、幹は太く育ちます(大井さん)

日本各地で散見される荒廃した暗い森で育った細い木は、残念ながら建材としては使えません。太く丈夫な木の成長を維持するため、月に1度はエコラ倶楽部のスタッフさんが総出で整備にあたるそう。

手入れの行き届いた森では、秋から冬にかけて枯れ草や落ち葉が降り積もり、そこに微生物が棲み着きます。それが腐葉土になって、養分として再び木に還っていく――。豊かな恵みにあふれた「循環」が、エコラの森に息づいていました。

エコラの森を歩く大井さんと取材陣。「歩いてみて、ふかふかの土壌を感じてください。これが私たちの目指す森の姿です」(大井さん)

 エコラの森がひときわ賑わうのが、毎年8月の第1土曜日と日曜日に開催される「エコラの森のなつまつり」。近隣や別荘へ避暑に訪れた子どもたちを中心に、2日間で総勢400名が遊びにくる大イベントです。

「自然素材を使って太鼓や笛を作ったり、木登りをしたり。いろんな体験ができるブースを用意します今年はコロナ禍の影響であまり出せなかったけれど、飲食ブースもありますよ。ミュージシャンを呼んで、音楽ライブもします。家族でー日中、遊んでいってもらうんです。

エコラの森で遊んだ子どもたちに、『森って楽しい』『森に行ってよかった』『大きくなったらぼくも森を育てたい』と思ってもらえたらそう願いながら、私たちはこの森を整備しています」(大井さん)

家族で自然と触れ合う体験ができるイベントは、エコラ倶楽部だけでなく、アトリエデフでも毎月開催しているとのこと。とくに自然素材やオーガニック食材を使って「手作り」を楽しむイベントは反響が大きいといいます。

大豆からつくる味噌づくりや、ミニ釜戸づくりはすごく人気ですね。デフのホームページにイベント情報を掲載すると、その日の午前中には定員になることもあります

ミニ釜戸で炊くご飯、あれは美味しいんだ。ちょうど1合炊けるサイズで、使った割り箸や、落ちている枝を拾ってきて薪材にします。大人も手伝うけど、子どもが一生懸命になって炊いてくれるんです」(大井さん)

さらに、3年前からアトリエデフに新設された環境事業「環と環」では、全国各地のイベントに出向し、主に竹材を使ったワークショップを手がけているそうで、こちらもたいへん人気とのこと。

軽くて柔らかい竹材は、木材に比べて扱いやすく、子どもの力でもかんたんに加工できるところが魅力なのだとか。アトリエデフを中心に、全国各地で竹材活用のムーヴメントが巻き起こっています。

森も、家も、暮らしも。すべての活動は「日本の山を守り育てる」ことに繋がっている

従来の工務店の在り方からは想像もつかないかたちで、暮らしや自然環境にまつわる活動を仕掛け続けるアトリエデフ。彼らの情熱の先にあったのは、「日本の山を守り育てる」という大きな使命でした。

「サラリーマンとして工務店で働いていたころ、ぼくは自宅を新築しました。すると、その家に引っ越したとたん、家族がアトピーやシックハウス症候群を患ってしまった。原因は、建材に使った化学物質でした。

そのことがきっかけで、自然素材だけを使った安心安全な家づくりを目指すようになり、ぼくはアトリエデフとして独立しました」(大井さん)

独立当初、建築業界は化学物質が含まれた安価な輸入材に溢れていたといいます。

安心安全がかなう国産の木材を探し回るうちに、荒廃の一途をたどる日本の山の現状を目の当たりにした大井さん。「日本の山を守り育てる」という使命は、このとき“降りてきた”のだと振り返ります。

「2030年に、東京の夏の平均気温は43℃になると言われています。原因は、CO2の増加による地球温暖化です。山に新しく若い木を植えてあげれば、CO2を減らすことができる。

毎年のように人命が奪われる土砂災害も、木が成長して大地に深く根を張るようになれば、土砂が崩れるのを防ぐことに繋がります。

山を健全にすることは、水をよくすることでもあって。健やかな山に雨が降ると、その雨水が土の中で長い年月をかけてろ過されて、やがてきれいな水になっていく。ところが山の土の状態が悪いと、ろ過されずに汚れたままの雨水が垂れ流しになってしまいます。

『日本の山を守り育てる』ことは、みなさんの命と暮らしを守ることなのです(大井さん)

「デフになる」―― 意識が変われば、地球の未来も変えられる

アトリエデフとして独立後、環境にやさしい安心安全な家がいくら増えたとしても、そこに住まう人の『意識』が変わらなければ環境問題は解決していかないのではと感じ始めた大井さん。

その思いが、「暮らし」を提案するという、現在のアトリエデフのスタイルに繋がったのだそう。

環境省の調査*1によると、日本のCO2排出量の約6割は、衣食住を中心とする私たちの「暮らし」に起因しているといいます。暮らし方を変えることは、地球の未来を守るために欠かせないアクションなのです。

ストイックに自給自足しなくていいし、ある程度はお金を使うことも必要だと思います。個々のできる範囲のなかで、両立させていくのがいいと思うだから、『意識』を変えるために、私たちは『暮らし』を提案しています」(大井さん)

「意識」を変えるために「暮らし」を提案する――。その成果を垣間見たできごとがあったと、顔をほころばせる大井さん。

ある暮らし手の人に、家を建てて数年後にお会いしたとき、『ようやくデフになってきました』と言われました詳しく話を聞くと、醤油や洗剤を、デフのギャラリーで見たオーガニック製品に変えたって言うんです。うれしいなと思いました。

『こういう暮らし方をしてください』だなんて、私たちは言いません。『一緒に蕎麦を打ちましょう』『大豆から味噌を作りましょう』と『暮らし』の提案をするだけ。でも、デフの家で暮らし始めると、みなさん率先して醤油を変えたり、味噌を作ったりしている。

『暮らし』に手間をかけるって、ほんとうは贅沢なことなんです。それがだんだんわかってくるので、洗剤や醤油が変わっていく。そうして『暮らし』が変われば、環境も変っていくわけです(大井さん)

「暮らし」を提案することの手応えをしっかり感じている様子の大井さん。最後に、地球の未来を守るために私たちがすべきことについて、大井さんの思いを語っていただきました。

「デフの家は化学物質を一切使いません。いつか朽ちることになっても、ちゃんと土に還る家です。だけど、もし古くなっても、きちんとメンテナンスをすれば、子どもから孫へ、孫からひ孫へと継承することができる家でもある。そこが自然素材の魅力です

家で暮らした思い出とともに、大切なものなんだと後世に伝えていくそうすれば、100年、200年と大切にされる家になります。

でも、地球がなくなったら100年後も何もないね。ぼくらどこに住むの?月に住む?なんて話になってしまいます。だから100年先をおもうなら、この地球を残していくしかない。大切なものに“する”のです。環境も、家も、なにもかも」(大井さん)

SDGsやESGという言葉にも、そろそろ耳慣れてきたころ。「環境にやさしい健やかな生き方」を模索して、アトリエデフを訪ねてくる人は年々増え続けているといいます。

「意識」を変えるための気づきを得たい読者さんは、ぜひアトリエデフ主催のイベントやワークショップに参加して、「暮らしに手間をかける贅沢」を味わってみてください。

100年先をおもう――。

その気持ちは、LOCAL LETTER も同じです。環境も、ふるさとも、大切なものとして後世に残していきたいですね。

Editor's Note

編集後記

めぐりをよくする、やさしくする、大切にする。人も自然も「してほしいこと」は同じで、どこか似ていて、どこか繋がりを感じます。まさに身土不二ですね。わたしも、そうできる人でありたいです。

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