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LOCAL LETTER

八ヶ岳の麓で『2拠点』はじめました。ツアーを得て八ヶ岳の四季を肌で感じ、自然に囲まれた場所で生まれる人との “繋がり” とは。それぞれの考え方を変えるきっかけに。

NOV. 25

YATSUGATAKE AREA

前略、デュアルライフをはじめる“一歩”に迷っているアナタへ

2020年10月24日(土)25日(日)。日に日に木々が色づき秋深まる八ヶ岳で、「デュアルライフ体験ツアー」が開催された。

用意されたのは「山梨県にある山の岩場でクライミング体験」「地域プロジェクトの紹介&ステークホルダーとの交流体験」「地域の人達と協力して作り上げた古民家見学&畑での収穫体験」の3コースだ。

ツアーに参加したのは、東京を中心とした関東近郊から訪れた計13名。年齢も20代から50代までと幅広く、2拠点生活する上でのリアルな声を聞き、現状の働き方を変えるきっかけを求めていた。彼らは、どんな気持ちで八ヶ岳を訪れ、何を収穫して帰ったのだろうか。

― 八ヶ岳、そして2拠点生活を目指すわけ

10月24日(土)午後、参加者を乗せたバスが森のオフィスに到着した。オフィスの食堂で、スタッフからの説明を聞きながら遅目のランチタイム。

八ヶ岳を眺望でき広大な芝生もある「八ヶ岳中央農業実践大学校」など八ヶ岳の人気スポットに立ち寄ってから、先輩移住者のお宅を訪れた。2017年に八ヶ岳に移住し、アウトドア関連の仕事をされている伊澤直人さんの住まいだ。家は伊澤さんセルフビルド*1 で建てたもので、参加者はここで「薪割り」体験をした。

*1 セルフビルド
住宅を自分自身で建てること。

後ろの白い建物が伊澤さんがセルフビルドで建てたお家。中央:伊澤さん
後ろの白い建物が伊澤さんがセルフビルドで建てたお家。中央:伊澤さん
よく乾いた薪は、伊澤さんの手ほどきで気持ちよく割れる。その感触に歓声が上がり、参加者のテンションが一気に上がっていく
よく乾いた薪は、伊澤さんの手ほどきで気持ちよく割れる。その感触に歓声が上がり、参加者のテンションが一気に上がっていく。
薪割り後の集合写真
薪割り後の集合写真

伊澤さんのお宅を後にして向かったのは、標高1,100mの森の中にあるプライベートコテージだ。ここでは夕食を兼ねた懇親会が開かれ、参加者同志、一気に打ち解けた様子だった。

― 一夜明けて、晴れ。八ヶ岳が現れる

2日目は事前に参加者が希望したコースに分かれての行動となる。

昨日は顔を見せなかった八ヶ岳もその勇壮な姿を表す快晴。放射冷却で朝は冷え込み、紅葉を鮮やかに見せていた。その寒さと美しさに、参加者は一同驚いたようだ。

― 無心で登った岩の向こうに見えるもの

新宮圭さんがホストとなる「山梨県にある山の岩場でクライミング体験」のコースチームは、朝早く出発し八ヶ岳を挟んで反対側に位置する川上村の小川山へと向かった。小川山には、世界的にも有名なクライミングスポットがあるのだ。新宮さんは2018年に八ヶ岳での生活をスタート。システムエンジニアとして活躍する一方で、登山・クライミングに特化した新たな仕事を作り出そうとしているクライミングのプロでもある。

|新宮さんのインタビュー記事はこちら|

まだ冷え込みが厳しい朝の山道を進む
まだ冷え込みが厳しい朝の山道を進む

このコースの参加者の1人である中田淳子さんは、トレラン(トレイルランニング)もこなすアクティブな女性だ。

「東京で仕事をしていますが、コロナの影響で在宅になりました。事務系の仕事なので、100%パソコンでできることに気付いちゃったんですよね。家でほぼ仕事ができるなら、住まいは都会じゃなくてもいいんじゃないかと思って、デュアルライフに興味を持ち始めたんです」(中田さん)

道無き道を進み、新宮さんが目星のつけてあった岩に到着する。岩場が日陰だったため終始気温が低く、冷たい岩を掴む手がかじかむ。それでも新宮さんの的確なリードで、中田さんは2度のクライミングに成功した。

日陰に位置する岩場は終始気温が低い。
日陰に位置する岩場は終始気温が低い。
途中、3、4回は心が折れそうになったという中田さん。それでもブランクがあるとは思えぬスムーズさで登りきった
「途中、3、4回は心が折れそうになった」という中田さん。それでもブランクがあるとは思えぬスムーズさで登りきった
左:参加者,中田さん 中央:ホスト,新宮さん 右:森のオフィス運営代表,津田さん
左:参加者・中田さん / 中央:ホスト・新宮さん / 右:森のオフィス運営代表・津田さん

「クライミングは7、8年ぶりだったんですけど、登れてよかったです。いかに心を無にして登るかでした。今回参加してみて、デュアルライフに対して、自分の中でハードルが下がったと思います。まずもっと泊まりに来たり、ちょっと働いてみたりから始めたい。まだ知り合いがいないのが不安ですが、アクティビティが好きなので、そうしたイベントを通じてコミュニティに入っていけたらと思います。またクライミングのイベントとかトレランのイベントなど、ぜひまた企画してほしいです」(中田さん)

― 山頂からの絶景が物語るもの

一方「地域プロジェクトの紹介、ステークホルダーとの交流体験」のホストは、4年前に八ヶ岳に居を構えたメディアディレクターの栗原大介さんだ。八ヶ岳でも仕事を創出し続けている栗原さん。今回はそんな仕事の現場をのぞかせてもらえることになった。

|栗原大介さんのインタビュー記事はこちら|

朝7時半、まずは富士見パノラマリゾートのゴンドラに乗り込み、標高1800mを目指す。

ゴンドラ山頂駅を降り、さらに紅葉真っ盛りの森や植生豊かな湿原の中、30分ほど歩を進めると、ようやく目的地が現れる。入笠山の山小屋「マナスル山荘」だ。

暖かい室内で名物のパンをいただきながら、お話に耳を傾ける。午前中早い時間だったのにもかかわらず、看板メニューのビーフシチューは売り切れという人気ぶりに一同驚く。一番左:山口さん
暖かい室内で名物のパンをいただきながら、お話に耳を傾ける。午前中早い時間だったのにもかかわらず、看板メニューのビーフシチューは売り切れという人気ぶりに一同驚く。一番左:山口さん

「マナスル山荘」を営むのは山口信吉さん。山口さんは2014年に山荘を買い取り、営業を始めた。

入笠山は途中までゴンドラで登れることもあり、比較的難易度の高くない山ではあるが、「居心地の良い空間を作りたい」「山の環境をより楽しんでもらいたい」というコンセプトがファンを集め、人気の山小屋に成長した。

山口さんは、「マナスル山荘」のWeb管理・ECサイトの構築・ブランディング全般(新しいロゴ作りから、ロゴとの統一感を持たせたグッズの企画制作)を栗原さんにお願いしているという。

山口さんと栗原さんの出会いは、栗原さんが立ち上げたローカルメディアの取材だった。当時は、「マナスル山荘」のWeb管理も山口さんが自身で行っており、栗原さんも仕事の営業をしたわけではなかった。しかし取材を通じて親交が深まり、専門的なことなどを栗原さんからアドバイスしてもらううちに、きちんとお願いしたいという気持ちが高まっていったと山口さんはいう。

「マナスル山荘」を出ると、入笠山山頂(1955m)を目指す。

この日は晴天率の高い八ヶ岳エリアにあっても、ここまでの眺望は滅多にないという素晴らしい天気。頂上からは、北アルプスから富士山までの文字通りの大パノラマを満喫することができ、参加者からも喜びの声が聞こえた。

頂上での景色に感動する参加者の皆さん。
頂上での景色に感動する参加者の皆さん。

下山して、栗原さんのお宅でBBQでの昼食をとる。BBQで使用していたのは、木炭や薪ではなく、「モミガライト」という燃料だ。こちらも栗原さんが八ヶ岳で参加している事業の1つで、米の生産過程で出る籾殻を圧縮した自然循環型の燃料だという。モミガライトの製造機械に感銘を受けて脱サラし、自らモミガライトを生産する事業を始められた生産者の岡 賢昭さんにも来て頂き、モミガライトについて話して頂いた。

岡 賢昭 さん
岡 賢昭 さん
モミガライト
モミガライト

BBQを楽しみながら、参加者自身の話にも華を咲かせる。

今回東京から夫婦2人で参加された石井さん。ご主人の洋平さんは都内のIT系サラリーマンだ。やはり昨今の事情でテレワークの比率が多くなってきたという。

石井ご夫婦:左・さゆりさん / 右・洋平さん
石井ご夫婦:左・さゆりさん / 右・洋平さん

「妻の出身が長野県なので、もともと愛着があったんです。テレワークが多くなったので、山が近くて空気のよいところに住めたらいいなと考えるようになりました」(洋平さん)

登山の程よい疲れもあいまって、食事やお酒が進み、会話が盛り上がる。

「今回参加して、背中を押された気がします。移住を推進していて、サテライトオフィスがあって、文化度も高い場所っていうのは、今日本全国あちこちにありますよね。でもそれだけだと、そこにいる人が見えてこないなと思っていたんです。そこのところを実体験としてどうやったら得られるかなと思っていたんで、今回森のオフィスやイベントでお世話になった方達と知り合えたのはすごく大きな収穫だったと思います。何かあったら相談できる人がいるっていうのは心理的に大きいですよね」(洋平さん)

― 東京から一番近い「長野県」

今回一番参加人数が多かったのが馬淵沙織さんの「地域の人達と協力して作り上げた古民家見学&畑での収穫体験」コースだった。馬淵さんは都内の大手企業に勤めながら2拠点生活を実現させ、八ヶ岳で新たな夢に向かって出発しようとしている。

まずは森のオフィスに移動し、馬淵さんがなぜ八ヶ岳を選んだのか、興味のあった「農業のイベント」を通じて地元の人とつながっていった経緯をお聞きした。2拠点を始めた時の思いや迷い、そしてそれらを解決して行く道筋は、参加者たちの気持ちとも大いにリンクし参考になったようだ。

|馬淵沙織さんのインタビュー記事はこちら|

次に向かったのは、馬淵さんが運営に携わっているコミュニティスペース「つくえラボ」をはじめとし、馬淵さんの拠点となっている「富士見町机区」。

机区は富士見町内に古くからある集落で、馬淵さんが移住する前に参加し、移住のきっかけにもなった「農業のイベント」に講師として参加していた方が多く住む地域だという。

観光施設やおしゃれなお店などない地域だが、稲刈りの進む段々畑と、その向こうに富士山そびえるという牧歌的な風景に、参加者たちも穏やかな表情で見入っていた。

次に訪れたのは富士見町の特産品である「ルバーブ」の畑。「ルバーブ」はタデ科の植物で、茎の部分を食す野菜である。中でも富士見町で特産品としているのは、この茎の部分が赤い「ルバーブ」で、火を通してジャムや料理にしても鮮やかな赤色を楽しめる。

富士見町を中心とした八ヶ岳周辺で栽培が盛んなルバーブ。10月の終わりは冷え込みが厳しくなり、色が鮮やかになる。
富士見町を中心とした八ヶ岳周辺で栽培が盛んなルバーブ。10月の終わりは冷え込みが厳しくなり、色が鮮やかになる。
参加者のお子様:小舟ちゃん
参加者のお子様:小舟ちゃん
手を真っ赤に染めながらの収穫。その後はルバーブの試食もいただいた
手を真っ赤に染めながらの収穫。その後はルバーブの試食もいただいた。

家族でツアーに参加した絵本作家の須田あきこさんは、都心に居を構えているが、最近、「引っ越しもいいかな」と思い始めたそうだ。

「子どもが生まれる前は、割とふらっと好きなところに住んでみるっていうのはやっていたんです。でも子どもが生まれてからは、東京の自宅にいることが増えました。生活も家、仕事も家、家の中にずっといると、情報にも触れにくくなるし、体も動かさないからあんまり良くないなと思い始めて、働き方を考えたいなと思っていたんです」(あきこさん)

今回ご家族で参加して頂いた須田ご家族。
今回ご家族で参加して頂いた須田ご家族。

それでも自力で調べるのには限界がある。人から聞こうと思っても、自分が欲しい情報を持っている人に会うことが難しいと感じていたという。そんなときに見つけたのが、このツアーだ。

あきこさんの夫である真彦さんは、Webコーディネーターとして活動している。Webの仕事は人に会うことが極端に少なく、コミュニケーションを取るということがあまりないそうだ。

「働き方を模索する中で、東京でもコワーキングスペースを何件も見に行きましたが、ピンとくるところがあまりなかったんです。僕は仕事の根本に “問題解決のための仕事をしたい” という想いがあって、一方通行の仕事だけではなく、考えコミュニケーションをとって進めていける環境が必要だと思っているんです。森のオフィスの『チームでプロジェクトを作っていく』というお話を聞いたときに『これだ!』と思いました。

都内のコワーキングスペースでも “横のつながりを生み出そう” というテーマを持って活動しているところはあったんですが、そこまで形になりきれていない印象がありました。それが森のオフィスにはしっかりある。人との距離が近いのか、似た価値観の人が多いのか、そういうものが生まれやすい環境のように思いました」(真彦さん)

さらに真彦さんは本業の傍ら、登山やクライミングの講師を務めるほどの山好きだ。

「僕は都会より郊外、もっといえばそれよりも山が好きなんです。ただ東京からだと、登りたい山に到着するまでに時間がかかるのが、毎回悩みの種です。その点ここは仕事としてまとめて一定期間過ごせると思えば、東京からの移動時間や距離も全く問題にならないと思いました。仕事をする環境も申し分なく、山も近いとなれば、すぐにでも行き来を始めたいです。もしそれで登山関係のお仕事もできるようになったりしたら面白いですよね」(真彦さん)

― 2拠点生活を目指す人が求めているのは「拠点」以上に「人とのつながり」だった

1泊2日のデュアルライフ体験ツアー。たった2日で得られることは決して多くはないかもしれないが、別れ際に晴れやかな笑顔で、固く握手を交わす光景がその充実ぶりを物語っているようだった。

仕事や住む場所に対する価値観や判断基準がガラリと変わったこの1年。何が正しいのかなんてまだ誰にもわからない。しかし、今ある仕事や家族との折り合いをつけながら進められるデュアルライフは、確実に新しい時代の生き方の一つとなるだろう。

冬がすぐそこまできている八ヶ岳。山も、自然も、そしてここで暮らし働く人たちは、いつでも考え行動する人を待っている。

今後も企画を行う際には『森のオフィス Facebook』で随時告知しますので是非いいね!をお願いします。

Editor's Note

編集後記

地方移住、2拠点生活。受け入れに力を入れる地方は、働ける環境の整備、空き家の活用、そうしたハード面に目が向きがちだ。当然それらも大切だが、今回のイベントを通して、人々は圧倒的に「人とのつながり」を重要視していることが伺えた。しかし八ヶ岳で展開される「出会い」は決して戦略ではない。八ヶ岳の自然、そして住む人々の等身大の姿が、都会の人を惹きつけているのだろう。

これからも森のオフィスの応援をよろしくお願いします!

これからも森のオフィスの応援をよろしくお願いします!

これからも森のオフィスの応援をよろしくお願いします!

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