アウトドア
※本記事は「ローカルライター養成講座」を通じて、講座受講生が執筆した記事となります。(第2期募集もスタートしました。詳細をチェック)
大自然の中にたった一人。最小限の装備で快適に過ごせる環境を整え、五感を研ぎ澄ませて自分との対話の時間を持つ――。
そんな贅沢な時間を満喫するコミュニティがあります。八ヶ岳の麓にベースを構え、人気のソロキャンプをはじめ、本格的なアウトドア術をロジカルに学べる『週末冒険会』です。
『週末冒険会』の主催者・野営家の伊澤直人さんのもとで、プログラムに参加した人は1,000人超。本格アウトドアの魅力にとりつかれ、毎年参加するリピーターも後を絶たないのだとか。
車のトランク一杯に道具を詰め込んで行くキャンプとは一線を画す、伊澤さん流の大人のアウトドアの魅力に迫りました。
――『週末冒険会』が考えるキャンプとは、どんなキャンプなのでしょうか。
伊澤:キャンプはひと夜ひと夜の仮の宿なんです。だからリュック1つあればキャンプに行ける。私たちはそんな最小限の道具と工夫でキャンプを楽しんでいます。
キャンプでは、屋根があって、雨風をしのげて、体を休められればいい。布一枚でもその機能は果たせるから、必ずしもテントがなくたっていいんですよ。
もちろん、ランタンに椅子、テーブルがあればキャンプは快適に過ごせます。でも、なくても何とかできる力がないと、いざというときに困ってしまう。道具がないからキャンプができない。そんなことはありません。
――とはいえ、道具がなかったらどうやってキャンプをすればいいのか戸惑ってしまいそうです。
伊澤:いつも『週末冒険会』で言っているのが、「道具に頼らないというのはつまり、自分の頭で考えるということ」。
今夜快適に過ごすには何が必要なのか、そういう論理的思考がアウトドアでは必要になるんですよ。まずは考える。それから体も動かす。火をおこしたり、刃物を扱ったりするスキルを体得する。
――道具に頼らず自分で考えて動く力を養えるのが『週末冒険会』なんですね。
伊澤:そうです。『週末冒険会』のプログラムは、論理的思考と実践スキルを養う総合的な内容にしています。
自分のスキルと、持っている最低限のモノを組み合わせて何とかするのが、『週末冒険会』で伝えるアウトドア術です。
――「道具に頼らず、自分の頭で考える」とは、具体的にはどういうことでしょうか。
伊澤:たとえば、火をおこして食事をつくるかまど。林間学校で体験するような飯盒炊さんのかまどの“コの字型”にはちゃんと意味があります。
だからといって、ひと夜のキャンプでかまどを丁寧に作る必要があるかといえば、そうではない。機能さえ持っていれば、あとはザクザクっと作ればいいんです。
――ちゃんとコの字型になっているか、石がきちんと積まれているかなんて気にしなくていいと。
伊澤:そう。キャンプで火をおこす目的を考えてみてください。
体を暖めて、食事をつくって、体を休めるのが火をおこす目的。この八ヶ岳は冬になるとマイナス15度になります。だから火を起こすにも、まずは確実に、そして次になるべく早くできるのが大事。
とにかく火がおこせなければ目的が果たせない。それに、火をおこすのに10時間もかかるようでは明け方になってしまう。目的を確認して起きうるリスクを想定し、優先順位をつけて確実に早くやる。これはベンチャー企業とか、ビジネスにも通じる考え方ですね。
――伊澤さんが『週末冒険会』をはじめた理由を教えてください。
伊澤:純粋に、アウトドアで遊べる仲間がほしかったから。
10代の頃とか週末に遊びまわる仲間っていたでしょう?金曜の夜に週末キャンプに行こうよって聞いたらOKって返す、そういうノリの仲間が。
大人になったら、そういう仲間がどんどん減っちゃった。大人でもそんなノリで遊べる仲間がほしかったんです(笑)。
――最近はキャンプがブームですし、やってみたい人も多いでしょうね。
伊澤:そう。みんな興味はあるんですよ。ところがせっかくキャンプに興味があっても、都会暮らしで車がない・道具がない・やり方を教えてくれる人がいない・連れて行ってくれる人がいない――。ないないづくしでキャンプに踏み出せない人が結構いるんです。
私の感覚だとリュック一つでキャンプに行くのは普通なんですけど、キャンプ場に行って車のトランクを開けているのをみると、夜逃げかと思うほどの装備が積まれている。
いやいや、もっと身軽に行けるし、もっとワイルドな山の中に行くほうが楽しいよって。
じゃあ、自分がキャンプのやり方を教えてキャンプ仲間を育てて、みんなで海や山で遊べたらいいなと。
――キャンプ仲間で遊ぶ延長が『週末冒険会』なんですね。
伊澤:そうですね。『週末冒険会』は、必要最小限の道具を持って山に入るプリミティブなキャンプを学べるスクールと、ダッチオーブンでアウトドアクッキングを学んだり、カヤックで行く川下りなどのイベントキャンプ、大きく二つのプログラムを展開しています。
イベントキャンプは遊びの要素が強いですが、スクールはしっかりアウトドア術が身に着けられる全4回のコース。実践だけでなく思考を深めるためにレポートも提出してもらいますし、卒論としてソロキャンプに行って修了となります。
東京・新宿から特急あずさに乗っておよそ2時間ほど。中央東線の富士見駅からアクセスできる八ヶ岳の麓に『週末冒険会』のベース拠点、八ヶ岳BASEがあります。
もともと東京・練馬区で暮らしていた伊澤さん。宮城出身で八ヶ岳には特に縁がなかったそう。
――『週末冒険会』はなぜベースを八ヶ岳エリアに持っているのでしょう?東京近郊にもそれなりにキャンプ場があるように思いますが。
伊澤:自分たちの自由にできる場所、TV番組のDASH村のような場所がほしかったんです。
お金払ってキャンプ場に行くと、ブームだから人がたくさんいるでしょう?車と車の狭い空間にテントを張るしかないキャンプ場がいっぱいある。
それにキャンプ場にはレギュレーションがあって、たとえば地面で直接火をたく“直火”もほとんどダメ。
不自由でやりたいこともできなくて、お金を取られて。ヤダなあと思ったんですよ(笑)。
――では八ヶ岳を選んだ理由は何でしょうか?
伊澤:知り合いの住む南アルプスに来たついでに八ヶ岳に来てみたら、思い描いていたキャンプ場のイメージにピッタリだったんです。
日本の山はスギやヒノキの生えた急傾斜の山が多いですが、急傾斜だとキャンプができないじゃないですか。だから河原ばかりキャンプ場になる。
そうじゃなくてなだらかな、日が当たって明るい、広葉樹の多いヨーロッパのような土地をキャンプ場のイメージとして持っていて。
八ヶ岳の麓は20代のころにバイトしていた北海道・大雪山の近くの町によく似ていた。北海道の原風景を小さくしたような懐かしい感じ。
それで八ヶ岳にベースを持つことにしました。
――本格的なアウトドアを掲げられているだけに、『週末冒険会』に参加する方はキャンプ経験も豊富なんでしょうか。
伊澤:いや、そうでもないですね。生まれてから一回もキャンプしたことがないという参加者も結構います。
先日、75歳の男性も参加されたんです。10キロ超のザックを背負って水や食料も持って、森の中を2キロ歩かれました。
それから実は女性の参加者が圧倒的に多いんです。
最初は女性が来るなんて想定してなかった。自分と同じようなおっさんが集まって焚火する会になるんだろうと思ったら、女性ばかりで女子校の用務員さんのような気分になった日もありましたね。
――『週末冒険会』ではハードなアウトドアトレーニングをするイメージがあるだけに意外です。なぜ高齢の方や女性が参加されるんでしょう?
伊澤:チャレンジ精神とやってみたいという好奇心から参加されるんじゃないでしょうか。
自分でできる楽しさとか、強くなりたいとか、ファミリーキャンプから抜け出したいとか、いろんな修飾語もついてると思うんですけど。
実際やってみたら楽しくなるみたいで、リピーターも多いです。西日本から八ヶ岳まではるばる通う方もいるんですよ。
――キャンプブームで子育て世代もアウトドアに興味が高まっていそうです。
伊澤:アウトドアは子どもの教育にいいと言われますけど、店から買ってきた道具を広げて終わりというキャンプは全然役に立たないですよ。せっかくキャンプに来たのに、電源を見つけてスマホでゲームやっちゃうなんてこともある。
だからと言って「(子どものためにも)本格的なアウトドアをやらなければ」と、大人が力むことはないんです。
まずはいつものキャンプ道具を半分にすればいい。道具はなくても結構平気だし、何とかなる。意外といけるしこっちのほうが楽しい、となるとキャンプが俄然楽しくなる。
作っていく喜び。日々を積み上げていく喜び。アウトドアは、そんな喜びを純粋に楽しむ遊びなんです。
Editor's Note
温和でユーモアにあふれる伊澤さんの朴訥とした語り口からは、少年時代から培ったアウトドア技術へのゆるぎない信頼と自然の中で仲間と語らう時間をこよなく愛していることが伝わってきました。
要らないモノを削ぎ落し、確実なスキルと知恵を頼りに山に入る『週末冒険会』。
八ヶ岳の麓に広がる『週末冒険会』のベースは、大量の情報やモノに溺れそうになる現代人がシンプルに生きる力を取り戻すためのサードプレイスです。
八ヶ岳だけでなく関東近郊や種子島でのイベント開催も!『週末冒険会』のオフィシャルサイトで公開されているイベント情報をチェックしてみてください。
https://backcountry-boys.net/event
YUKIE WADA
ワダ ユキエ