HOKKAIDO
北海道
子どもたちと一緒に商品を考える。地域のお店や漁師さんに話を聞く。やってみて、失敗したら、またみんなで考える。
北海道の道南に位置する「海と温泉のまち」鹿部町で、そんな新しい学びの場が始まろうとしています。学校でも学習塾でもありません。中学生を主な対象に、地域の大人たちと関わりながらアイデアを形にする力を育む「部活型公営塾」です。
今回募集するのは、子どもたちや地域の人たちと、この場を一からつくる地域おこし協力隊員。完成されたプログラムも、決められた正解もありません。だからこそ、子どもたちや地域の人と一緒に試行錯誤しながら、鹿部町だからできる学びを形にしていける人を求めています。
なぜ鹿部町はいま、この取り組みを始めるのか。事業に携わるbirch株式会社代表の赤井義大さんと、鹿部町教育委員会の清水麻衣さんに伺いました。


人口約3,400人の鹿部町には、幼稚園、小学校、中学校が一つずつあります。2027年には、小中一貫の義務教育学校「鹿部町立鹿部青峰学園」が開校し、小学校1年生から中学校3年生が同じ学び舎で過ごすようになる予定です。子どもたちは学校だけでなく、地域の活動を通してまちの大人たちとも関わりながら育ちます。
ただし、町内に高校はありません。そのため、中学校卒業後は町外の高校へ通うようになります。
鹿部町教育委員会で社会教育に携わる清水さんは、そこに課題を感じていました。
「高校生になると町外へ通ったり、町を離れて寮生活を始めたりするため、地域との接点が少なくなってしまう。それが残念で」(清水さん)

そこで 清水さんが考えていたのは、中学校を卒業したあとも、子どもたちと鹿部町との関係が続いていく仕組みでした。
一方、別事業を通じて鹿部町に関わっていた赤井さんも、地域をつなぐ人材の必要性を感じていました。
「外部から人を呼ぶだけではなく、今いる地域の若者を、将来、人や組織をつなぎ、地域に変化を生み出せるような存在に育てていきたい。そのためには、教育に取り組む必要があると思いました」(赤井さん)
地域を担う人材の必要性について町長や教育長と話したところ、意気投合し、アントレプレナーシップ教育を提案したと語ります。

「行政やボランティアだけでは地域課題の解決が立ち行かなくなっていると感じています。ビジネスの力で課題を解決できるプレイヤーを増やすことが必要です。そのために、中学生くらいからビジネス的な思考や経験に触れる場をつくろうと考えました。
地域で挑戦したり、失敗したりする経験を重ね、新しいことに挑戦するのは怖いことではなく、面白いことだと感じてもらいたい。それができたら、大人になって経験や技術を身につけたあと、また鹿部に戻ってきて、挑戦する人が生まれるかもしれません」(赤井さん)
アントレプレナーシップ教育が動き出せば、高校生がサポーターとして関わる機会も生まれる。それが、高校進学後も鹿部町との関わりが続く仕組みにつながっていく。清水さんと赤井さんの思いが一つになって、今回の「部活型公営塾」事業が動き出したのです。

鹿部町では、すでに小学生向けの体験プログラムを実施しており、現在は赤井さんたちも加わって、アントレプレナーシップの要素を取り入れています。
協力隊員が主に携わるのは、これから始まる中学生向けの模擬会社の企画・運営です。
「子どもたちが会社のように役割を持ち、商品やサービスを企画して、地域の事業者や大人たちの力も借りながら形にしていきます」(赤井さん)

協力隊員は、子どもの「やってみたい」に寄り添い、うまくいかなかったときには「なぜだろう?」を一緒に考える伴走者です。大人が答えを教えるのではなく、子どもたち自身が動き、答えを見つけていく過程を支えます。
ただし、一人ですべてを立ち上げるわけではありません。はじめは赤井さんと清水さんが伴走します。ゆくゆくは協力隊員が運営の中心となり、赤井さんたちが後方から支援する体制を目指しています。
「僕たちは地域外の企業なので、地域の中に入り込んで活動を動かす人が中心にいる方がいいと思います。まずは僕や清水さんと一緒に取り組み、少しずつ運営の中心を引き継いでもらえることを期待しています」(赤井さん)

そして、一緒に活動するのは、幼いころから同じ地域で育ち、学年を越えてフラットに付き合う子どもたちです。漁師の家庭で育ち、魚をさばくことに慣れている子もいるのだとか。
「子どもたちは幼稚園のころから顔ぶれがあまり変わらず、学年を越えて仲良くしています。知らない人が入ってくると、最初は緊張したり、人見知りをしたりしますが、一緒に過ごすうちに少しずつ慣れていきます」(清水さん)
だからこそ、活動をともにしながら、子どもたちと時間をかけて関係を築いていくことが大切です。
「また、学校との連携が強いことも鹿部町の特長です。将来的にはこの連携を生かし、学校や地域全体で活動を支える形へ広げていきたいと考えています」(清水さん)

完成されたプログラムも、決まった正解もないこの事業。その第一歩を踏み出す人に求められるのは、専門的なスキルではありません。子どもや保護者、学校、行政、地域住民、事業者などと対話しながら、活動を形にしていく仕事だからです。
「僕自身も教育に詳しかったわけではありませんでした。なので、必ずしも教育や起業の専門家である必要はないと思っています。
僕たちにも正解は分かりません。協力隊員の方には、子どもたちや周りの人と一緒に答えを探してほしい。 大切なのは、正攻法にこだわらず、試行錯誤しながら取り組んだ経験があること。自ら考えて一歩を踏み出せる、まさにアントレプレナーシップを持っていることだと思います 」(赤井さん)
起業経験や教育の資格は問いません。サークルや部活動の立ち上げ、イベントの企画、新規事業への挑戦など、何かをゼロからつくった経験や、失敗から学んだ経験があれば、この活動に活きてきます。

さらに、清水さんはこう続けます。
「『めんこがられる人』だと思います。愛嬌があって、相手の話を素直に聞けるような人ですね。自分一人で突っ走るのではなく、周りの気持ちをくみ取りながら進んでいけるような人が合うのではないでしょうか」(清水さん)
『めんこい』は、北海道の方言で「かわいい」という意味です。ここでいう「めんこがられる人」とは、地域の人に親しまれ、自然と応援してもらえる人のこと。清水さんの言葉には、そんな関係を築いてほしいという思いが込められています。
中学生を対象としたこの事業は、清水さんが思い描く、中学卒業後もつながりが続く仕組みへどうつながるのでしょうか。
「デジタルツールを使い、鹿部町で行われる活動の情報を高校生や大学生にも届ける仕組みをつくる予定です。高校生が中学生の模擬会社のサポートスタッフになったり、小学生向けプログラムにボランティアや有償ボランティアとして参加したりすることも考えています」(赤井さん)
鹿部町から函館市までは、車で約40分。高校進学後も鹿部町で暮らしながら函館へ通う子や、週末に帰ってこられる子がいます。町内に高校がなくても、地域との関係が完全に途切れるわけではありません。

小学生のころから地域でさまざまな体験をし、中学生になったら自分たちで挑戦する。高校生や大学生になれば、今度は後輩たちを支える側として関わっていく。そんな循環を生むことで、鹿部町との関係を、その先へつないでいけるかもしれません。
中学生を対象とする事業を立ち上げ、運営しながら、高校生や大学生、地域の人々を巻き込み、鹿部町に新しい循環を生み出していく。その役割を担い、地域おこし協力隊として活動する3年間は、部活型公営塾を立ち上げるだけでなく、協力隊員自身が新たなキャリアの土台を築く時間でもあります。

「将来的には、子どもたちが地域と関わり、挑戦できる場所として、活動が続いていく仕組みにしたいと考えています。そのために、どうすれば継続して運営できるのかも、一緒に検討していきたいです」(清水さん)
3年目には、助成金や企業協賛、事業収益などの資金獲得にも取り組み、任期終了後に自立して運営できる体制づくりを目指す予定です。
そして、3年間を通して得られるのは、教育プログラムをゼロから立ち上げ、地域の人たちを巻き込みながら運営した実績です。さらに、子どもたちの挑戦を支え、将来の地域の担い手を育てた経験も、協力隊員自身の新たな専門性になります。
「3年間かけて、将来の担い手づくりや人材育成を仕事にできる土台をつくってほしいと思っています。そのためのサポートは、僕も全力で行います」(赤井さん)

行政でも、一次産業や建設業でもない。しかし、地域の人や組織をつなぎ、未来を担う人材を育てていく。赤井さんは、この取り組みを「新しいキャリアをつくること」だと表現します。
「まだ名前のない、新しい職業をつくっていくようなイメージです。3年間でどこまで成果が出るかは分かりません。それでも10年後、20年後に、『あのとき、あの協力隊員が来てくれたから今の鹿部がある』と語られるような存在になってほしいと思っています」(赤井さん)
子どもたちと挑戦し、失敗したら、地域の人たちと相談してまた考える。 その姿を子どもたちに見せながら、一つずつ経験を積み重ねていく。
そしていつか、地域で新しいことに挑戦する姿が、鹿部町の当たり前の風景になっていく。今回の募集は、そんな未来に向けた最初の一歩です。

とはいえ、知らない土地へ移住し、まだ形のない事業に飛び込むことには、不安が伴うもの。だからこそ、まずは自分の目で確かめてほしい。
その想いで、鹿部町では、着任前に現地を体験できる「お試し協力隊」を実施しています。
お試し協力隊では、地域の視察に加え、現役隊員やまちの関係者との対話をおこないます。実際に鹿部町を訪れ、まちや子どもたちの雰囲気を体感したうえで最終的な判断に進めるため、 着任後のミスマッチや不安の解消にもつながります。
「私自身も、ワクワクしながら試行錯誤しています。ぜひ一緒にワクワクしながら、転びながら、未来に向けて取り組んでくれる人に来てほしいです」(清水さん)

鹿部町では、9月2日(水)18:00~20:00 にオンライン説明会を開催します。協力隊の募集内容の紹介などに加え、質問・相談コーナー も設けられます。まずは一度、お話を聞いてみませんか。(参加費:無料。申込締切:8月31日23:59)
鹿部町の地域おこし協力隊オンライン説明会のご案内はこちら
活動条件や応募方法など、鹿部町地域おこし協力隊の詳しい募集要項はこちら
応募はこちら
<募集人数>
■1名
<活動地域>
鹿部町全域(活動内容によっては町外での活動も含む)
<活動内容>
地域おこし協力隊の活動は、別に定める「鹿部町地域おこし協力隊設置要綱」を基本とします。
メインとなる活動
・アントレプレナーシップ教育事業の運営
(ア)しかべっ子教室+の運営と新規プログラムの開発・実施
(イ)部活型公営塾(模擬会社こどもふるさと株式会社)の運営
(ウ)高校進学後の接点強化のための活動
(エ)ローカルミニ先生の人材さがし、関係づくり
(オ)事業継続の体制づくり
なお、活動スタート時は、なお、活動スタート時は、「イ」がメインの活動となる予定です。
町民とのつながりをつくる過程でお手伝いいただく活動
・町が行う社会教育、スポーツ事業の運営支援
・町が所管する社会教育施設・スポーツ施設の運営支援
協力隊共通の活動
・地域行事の支援・共同作業・イベント作業等の活動
・町民への生活支援や基幹産業の応援等の地域活動及び活性化に繋がる活動
・協力隊の活動後の起業、就業のための隊員個々の特性に合わせた地域協力活動や自主的な活動
<雇用形態・勤務時間>
<応募資格>
(注)三大都市圏をはじめとする都市地域等とは、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、岐阜県、愛知県、三重県、 京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、並びに、札幌市、仙台市、新潟市、静岡市、浜松市、岡山市、広島市、北九州市、福岡市、熊本市のうち、過疎地域自立促進特別措置法、山村振興法、離島振興法、半島振興法及び小笠原諸島振興開発特別措置法に指定された地域外の地域をいう。
<報酬・住居支援>
住居費(月額):
1.家賃が5万円未満の場合、実費支給
2.家賃が5万円以上の場合、5万円
活動費:上限60,000円
自己研鑽費:上限30,000円
<選考フロー>
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【一次選考】 |
書類選考のうえ、選考結果を文書又はメールにてお知らせします。 |
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【二次選考】 |
第1次選考合格者を対象に面接試験を実施します。 |
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最終選考結果 |
第2次選考者へ文書又はメールにてお知らせします。 |
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<申込受付期間>
令和8年9月30日まで
<お試し地域おこし協力隊について>
鹿部町では、地域おこし協力隊への応募を検討している方を対象に、地域おこし協力隊着任後のミスマッチを防ぐとともに、隊員活動の体験や地域の関係者等との対話を通じてマッチングを図ることを目的に「お試し地域おこし協力隊」を実施しています。
内容:2泊3日の日程で町内施設の視察や隊員経験者、現役隊員、町内関係者との交流を行います。
日程:事前に希望をお伺いし、関係者との調整のうえ、決定します。
費用:
・参加料:無料宿泊
・交通費:自己負担
参加要件:
・上記の募集対象者の要件に該当する方
・鹿部町の地域協力活動に関心があり、地域住民と信頼関係を構築できる方
留意事項:お試し地域おこし協力隊への参加の可否に関わらず、地域おこし協力隊への応募ができます。
鹿部町の地域おこし協力隊オンライン説明会のご案内はこちら
活動条件や応募方法など、鹿部町地域おこし協力隊の詳しい募集要項はこちら
<お問い合わせ先>
鹿部町企画振興課企画振興係
住所:
〒041-1498
北海道茅部郡鹿部町字鹿部252番地1
電話番号:
01372-7-2111(代表)
01372-7-5297(直通)
メール:
kikaku@town.shikabe.hokkaido.jp
Editor's Note
誰かが一歩を踏み出すことで、まちの未来の風景が変わっていく。今回の取材を通して、その始まりに立ち会っているような感覚がありました。子どもたちのために始まる事業でありながら、ここで生まれる出会いや経験は、協力隊員自身の人生も動かしていくのだと思います。
Maria Wakamatsu
若松 鞠亜