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※本レポートは株式会社MATCHAが運営するイベント、「インバウンドサミット2023 〜チャンスを活かせ〜」のディスカッションを記事にしています。
コロナ禍が明けて、各地に海外からの観光客が続々と日本に戻ってきました。東京や京都といった都市の観光地はもちろん、最近は好んで地域を訪れる外国人旅行者も増えています。
このディスカッションでは、「日本の新たなディスティネーションはどこか?」をテーマに、いかにしてインバウンド客を地域に取り込むのかについて、登壇者らが語ります。
地域で観光業に取り組む人に、日本人旅行者だけでなく外国人旅行者も増やしていくヒントをお届けします。
モデレーター:このセッションのテーマは、「日本の新たなディスティネーションはどこか?」です。なお、本日登壇を予定していたプロデューサーの川原卓巳様は、急遽の事情によりご欠席となります。
それではここからは原田様、よろしくお願いいたします。
原田氏(以下敬称略): 私は中国の上海生まれで、27年前に日本に来ました。ずっとIT業界にいたのですが、ご縁があってトリップアドバイザーの日本法人の代表になりました。
その後、インバウンドのビジネスにずっと関わってきて、今はいろんな国の観光アドバイザーボードや審査員をしています。また「インバウンドや地方創生のマーケティングプロモーションの支援」「インフルエンサーマーケティング」「富裕層向けに稀少コンテンツを配信するメディア運営」の3事業を行っています。
青柳氏(以下敬称略):私は東武鉄道の観光事業推進部というところで責任者を務めています。東武グループにおけるインバウンド誘客、さらには百貨店やスカイツリーやホテルといった、いろいろな施設のグループ連携をする役割を担っております。
青柳:また最近は沿線の観光地づくりといったものにも取り組んでおりまして、今日はその中でも特に力を入れております栃木県の日光に関してご説明していきます。
この映像はザ・リッツ・カールトン日光(以下、リッツ)のプロモーション映像なんですが、これが日光の観光に関して素材を十分に表現していると思いますので紹介します。
青柳:ここに日光の魅力が凝縮されていて、自然の強さとかそういうところが表現されてると思います。このような高付加価値化に向けた取り組みを東武グループとして行っています。そのためにリッツの立ち上げや、金谷ホテル(*1)の改修などを手がけています。
それから新たな観光コンテンツづくりとして、大使館跡地でカクテルパーティーをしたり、もともと日光東照宮で小笠原流の方が将軍家に武道を教えていたので、それを体験いただいたりしています。
また環境に関する取り組みも行っていて、日光鬼怒川地区の鉄道は実質再生可能エネルギー100%で電車を運行しています。宿泊施設から出る廃食油で走るバイオ燃料バスを走らせたり、官民が連携してこの国立公園を守っていき、日光を国際リゾートにしていこうと進めております。
(*1)金谷ホテル
1873年(明治6年)に日光東照宮の楽師「金谷善一郎」によって造られた、日本最古の現存するリゾートクラシックホテル
永原氏(以下敬称略): 私はDENEB株式会社という、インバウンドの旅行会社を経営しております。最近インバウンドの盛り上がりで似たようなDMC(*2)が数多く出てきている中で、弊社が他とは少し違うところをご紹介させていただきます。
(*2)DMC
地方や地域の観光資源の活用を促進することによる地方創生を目的とし、各機関と連携して経営・資源開発を行う地域特化型の旅行会社
もともとコンサルティング会社であるアトリエラパズという会社を始めて、それからDMCを立ち上げました。その会社でコスタリカの国としてのサステナブルな観光戦略をつくったことが発端になって、今に至っております。
永原:ですので私達も旅をつくるときには、「地域にきちんと経済効果を生み出して継続できる旅とはどういうものなのか」を常に自問自答しながら活動しています。
また弊社のお客様は主に欧米が多く、超富裕層やセレブの方が多いのが特徴なんですが、リアルな体験談なども交えながらお話できたらいいなと思っています。
原田:今日は「チャンスをつかむ」というテーマですが、チャンスをつかむために新しいディスティネーションはどういうマーケティングをしたらいいのかを皆さんで話したいと思っています。
基本的には、「ターゲットは誰か」「何を楽しんでもらうか」「どうやって盛り上げていくか」、この3つに尽きるんじゃないかなと。それぞれをディスカッションをしていきたいと思っています。
まず「ターゲットは誰か」から。たまたまリッツの話がありましたけど、今1泊いくらでしたっけ?
青柳:15万円から20万円ぐらいだと思います。
原田:これを何泊もされる方は一定の収入があるということで、やっぱり富裕層ということになりますよね。永原さんも富裕層のスペシャリストですし、私自身も富裕層向けのマーケティングをやってるので、まずは富裕層について考えていきましょう。
全世界の富裕層の分布というグローバルデータがありますが、人数でいうと圧倒的にアメリカがトップで、中国が2番目、3番目がドイツ、4番目が日本です。対前年比成長率では中国を除いてどこもマイナスです。
永原さんに伺いたいのですが、「お金持ちが減っている」というこういったデータをどう思いますか?
永原:海外ではまだ日本のことを知らない方がほとんどなんですね。なので減るどころか本当に多くの方々がむしろ日本に注目をしていて、問い合わせが方々からきます。
それこそアメリカの有名な金融機関のプライベートバンキングの、さらに1番上のランクの方を日本に案内したいっていうようなご相談をいただいたりもします。減っている感覚は全くないですね。
原田:そうですよね。青柳さんにもお聞きしたいんですけど、今リッツに泊まっている方の内訳はどんなでしょうか?
青柳:インバウンドの割合は20%ぐらいで残りは日本人です。もともとリッツはアメリカが1番多く、次は中国です。ただ、今リッツのセールスマネージャーと話をすると、中国は戻りきっておらず中心はアメリカで、その次はアジア近隣諸国をターゲットにしてるということを聞きますね。
原田:なるほど。ところで永原さん、富裕層のお金の使い方でコロナの前後に違いはありますか?
永原:大きな違いは特にないですね。もともと移動もプライベートで移動されますし、体験も基本的には貸切だったりプライバシーを担保して提供していくスタイルだったので。
ただ敢えていうなら、「より自然の中へ」や「ちょっとチャレンジをしてみたい」など、体験にすごく貪欲だと感じます。
原田:その場合の決め手は、体験が先なんですか、それとも宿泊が先なんですか?
永原:宿泊だと思います。本当は体験って言いたいですけど。
先日私のお客様がリッツに4泊させていただいて、すごく喜んでいて大満足でした。そのときもリッツがあるから日光という選び方でした。
一方で、ある東北のディスティネーションをご案内したときに、お客様が帰りたいと言われて翌日場所を変更することになりました。その大きな要因は、残念ながら宿だったんですよね。宿は本当に大きいです。
原田:日光の宿事情はどうですか?
青柳:宿事情で言うと、これから本当に富裕層を呼び込もうと思うと、今ってリッツだけなんです。いわゆる富裕層に選ばれるような価格帯のホテルっていうのが。やっぱり世界から注目を集めるためにはあと2、3件はそういったホテルが必要だと思います。
そのためにも、事業者さんやデベロッパーの方にぜひ進出してきていただきたいなと思っています。自社だけじゃなくて競合の方もたくさん来て盛り上げていかないと、観光地としてはやっぱり上がっていかないと思っています。
原田:余談なんですけど、私は自分で中国のソーシャルメディアを運営しています。昨日温泉宿の動画を上げたら一気にバズって、やっぱり宿に対する関心度ってとても高いんだなと改めて感じています。
原田:また中国人富裕層の来日旅行者の変化ですが、今まで割とX世代の4、50代、それこそ団体旅行がメインでした。ところがコロナを経て個人旅行が人気になり、圧倒的に若年化してY、Z世代、つまり2、30代が増えていると感じています。
それに対して欧米の方々の年齢層は変わりました?
永原:もともとご家族で世代に渡って利用される方が多かったので、大きな変化はありません。また、ミュージシャンのような若いセレブの方々から、シニアの方まで幅広くいらっしゃいました。ただ、若い方々の方が感心を持つところが人によって違うという印象はありますね。
原田:例えば、最近で一番変わっているリクエストは何かありましたか?
永原:「ファイブスターホテルのスイートじゃないところに泊まりたい」と言われたことがあります。でもサービスは必要なんですよ。最終的にファイブスターホテルのワンフロアを全部貸し切って、自由に行き来できるようプライバシーを担保しました。
あとは京都から車で1時間ぐらいのかなり離れたところにある素敵なお家を借りて、そこにサービスをつけて、というようなことをしましたね。
原田:私が最近受けたちょっと変わっているリクエストは、「女性の方がお茶屋さんで舞妓さん全員を貸し切りたい」というものでした。1人が真ん中に座って、舞妓さんが左右にワーッてなって、それで写真を撮って満足されていました。大奥の女性版が中国ですごく流行っていたらしく、その真似をしてみたかったそうです。
原田:ターゲットの話から今度はコンテンツの部分の話をしたいと思います。
永原さんも言ってくださったように、結局ディスティネーションになるために、宿泊が大事ですと。そういった意味では東武さんが今、日光でやられていることは先取りをしていて素晴らしいなと思います。
それに対してコンテンツ開発はどうですか?
青柳:日光というと、多くの外国人の方がイメージされるのはやはり二社一寺。これをご覧になって帰るという日帰りの方が多いと思うんです。
ですがより盛り上げていくためにはもっと奥日光の、いわゆる中禅寺湖畔の方にインバウンドの方にも来ていただきたい。社寺だけではなく、さらに自然という魅力があるんだというところを外国人の方にはもっと知っていただきたいと思います。
中禅寺湖畔には、明治から昭和の初期には大使館の別荘が40棟ぐらいあったと聞いています。その名残で、今も色々な建物が残っています。そういったところにもっと注目を集めたいと考えています。
そのためにも、どうして当時そこにそれだけ大使館の別荘を皆つくりたいと思ったのかを考えたい。おそらく奥日光が持っている景観そのものを魅力的に感じて、いらっしゃったんだろうと思います。
実際、奥日光は、よくレマン湖とかイギリスの湖水地方と比較されることが多いのですが、そこに魅力を感じて多くのインバウンドが来ていたんだと思います。それをもう1回再興できないかなと。リッツが中禅寺湖に出てきたのも、おそらくそういう歴史感などが狙いだと私は思うんです。
原田:会場の皆さんにお聞きします。今青柳さんがおっしゃっていた湖畔の古い大使館の別荘跡地をご存知の方はどれくらいいらっしゃいますか?
10%くらいですね。日本人がそうですから海外の人は誰も知りませんよね。
青柳:ですからそこが情報も含めてまだまだ足りていないんだろうなと。
さっき体験の話がありましたが、立木観音を歩いて散策するアクティビティが人気です。立木観音の周辺には、イギリス大使館やイタリア大使館、さらに自然と触れることができます。そこに触れると「どうしてこんなものがここにあるんだ」とおそらく実感されると思うんですよね。
前編記事では、インバウンドのターゲットに関する理解を深めました。後編記事では、お客様の心を動かすための具体的なコンテンツと戦略について、更に深掘りして語っていきます。
Editor's Note
普段の生活で富裕層に出会うことが無いため、富裕層の方々の実態を知ることが出来て非常に興味深かったです。また、体験を充実させれば良いだけではなく、まず箱ありきだというお話はインバウンドを設計する上で忘れてはいけない観点だと思いました。
Yusuke Kako
加古 雄介