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LOCAL LETTER

地域の価値をアカデミアの気概に預けて生まれる、課題の解決方法とは

DEC. 12

JAPAN

拝啓、地域の課題解決を、まず誰にどう相談すればいいかわからないアナタへ

※本レポートは、三井不動産株式会社、NewsPicks Re:gion主催のイベント「これからの地域経済をつくるための祭典『POTLUCK FES’23 -Autumn-』」にて行われたセッション、「アカデミアは地⽅の未来に何を実装できるのか」を記事にしています。

アカデミアの技術や知見が地域課題解決への強力な味方になってくれる。そうはわかっていても、いざ自分たちが抱える問題に協力をお願いしようとなった際、その方法に戸惑うこともあるかもしれません。

前編記事では、地方においてアカデミアの協力によってどのように技術革新が取り入れられ、多くの地域課題を解決してきたかをお届けしました。

後編では、実際に地域課題解決の協力をアカデミアに依頼するにあたって直面する疑問や、アカデミアとしての地域課題への向き合い方についてお話しいただきます。

地域課題解決をお願いするなら「有名ではない大先生」に限る理由とは

西村氏(以下敬称略):僕は今、滋賀県に住んでいますが、地方の大学の教員の方と一緒に何かしたくても、最初に地域課題をどう相談にいけばいいのかわからないという問題があります。この場合、まずはどこから始めるのがよいのでしょうか。

越塚氏(以下敬称略):気にせずどんどん話しに行けばいいと思います。「どういうタイプの大学の先生に話しに行けばいいのか」となったときに、僕だったら「大先生に行った方がいい」と答えますね。有名な先生に持っていくと相手にされないかもと思われるかもしれませんが、それは逆で、大先生と呼ばれる人はいろんなことに興味があって、新しいことをしたいと思っています。若干専門から外れているかもしれなくても、分野が合っていれば関心を持ってくれると思います。

地域との取り組みも成果を出すにはある程度の年月が必要なので、相談に行くなら興味だけで動きやすい、既に業績が多い年配の先生がいいです。あとグループを持っている先生は、学生や教え子が動いてくれるのでやりやすい。個人で研究している人だとちょっと厳しいですね。

越塚 登氏 東京大学大学院 情報学環 教授 / 1966年 東京生まれ、1994年 東大院 博士課程修了、博士(理学)。2009年には東京大学大学院 情報学環 教授に就任。IoT(Internet of Things)やデータ流通プラットフォーム、スマートシティ、スマートビル/ハウス、オープンデータ、OS、コンピューターネットワーク、HCI、ブロックチェーンなどの研究活動を推進。地域との関わりとして、東京都データプラットフォーム協議会・委員、高知県IoT推進アドバイザー、小田原市デジタル政策最高顧問など、沢山の地域活動に参画。
越塚 登氏 東京大学大学院 情報学環 教授 / 1966年 東京生まれ、1994年 東大院 博士課程修了、博士(理学)。2009年には東京大学大学院 情報学環 教授に就任。IoT(Internet of Things)やデータ流通プラットフォーム、スマートシティ、スマートビル/ハウス、オープンデータ、OS、コンピューターネットワーク、HCI、ブロックチェーンなどの研究活動を推進。地域との関わりとして、東京都データプラットフォーム協議会・委員、高知県IoT推進アドバイザー、小田原市デジタル政策最高顧問など、沢山の地域活動に参画。

西村:「有名じゃないけど大先生」がいいとのことですが、その見極め方はありますでしょうか。

越塚:話していて、どんなことにも興味を持つ柔軟な方にはその要素があります。外からいろんなテーマが来ることによって自分の幅が広げられる。そうなると当然成果も出てくる。大きな先生になっていくのではないでしょうか。

こちら側に「このプロジェクトを論文にしてやろう」という邪念があると、地域の人たちからは受け入れられません。僕も初期のころに苦い経験があります。とある地域の方に「最後まで、我々の悩みを一言も聞いてくれませんでしたね」と言われた時はグサッと来ましたね。一緒にやっているつもりで、いつの間にか地域の方たちに対して、自分たちの主張を押し付けていたことに気がつきました。

西村 勇哉氏 (モデレーター) 株式会社エッセンス 代表取締役、NPO法人ミラツク 代表理事、大阪大学SSI 招聘教授 / 1981年大阪府池田市生まれ。大阪大学大学院にて人間科学の修士を取得。人材開発ベンチャー企業、公益財団法人日本生産性本部を経て、2011年にNPO法人ミラツクを設立。セクター、職種、領域を超えたイノベーションプラットフォームの構築と、大手企業の新領域事業開発支援・研究開発プロジェクト立ち上げの支援、未来構想の設計、未来潮流の探索などに取り組む。2021年に株式会社エッセンスを設立。2021年9月に自然科学、社会科学、人文学を領域横断的に扱う先端研究者メディアesse-senseをリリース。知のアクセスを実現するKnowledge Tech企業として、偶然の幸運に出会えるメディア空間の構築に取り組む。滋賀県大津市在住、3児の父。大阪大学社会ソリューションイニシアティブ招聘教授、大阪大学人間科学研究科後期博士課程(人類学)在籍
西村 勇哉氏 (モデレーター) 株式会社エッセンス 代表取締役、NPO法人ミラツク 代表理事、大阪大学SSI 招聘教授 / 1981年大阪府池田市生まれ。大阪大学大学院にて人間科学の修士を取得。人材開発ベンチャー企業、公益財団法人日本生産性本部を経て、2011年にNPO法人ミラツクを設立。セクター、職種、領域を超えたイノベーションプラットフォームの構築と、大手企業の新領域事業開発支援・研究開発プロジェクト立ち上げの支援、未来構想の設計、未来潮流の探索などに取り組む。2021年に株式会社エッセンスを設立。2021年9月に自然科学、社会科学、人文学を領域横断的に扱う先端研究者メディアesse-senseをリリース。知のアクセスを実現するKnowledge Tech企業として、偶然の幸運に出会えるメディア空間の構築に取り組む。滋賀県大津市在住、3児の父。大阪大学社会ソリューションイニシアティブ招聘教授、大阪大学人間科学研究科後期博士課程(人類学)在籍

西村:例えばある領域で「優れた先生は誰ですか」と尋ねたら、大体同じような人の名前が上がってくるものなのでしょうか?

越塚:そうですね。周りの評判が大きく違うことはあまりないし、違和感があればコラボをやめればいい。委縮しないでどんどん声をかければ、多少分野が違っても「やろう」と言ってくれるでしょうし、先生方もたぶんそれを待っています。

西村:以前、鹿児島県の喜界島で演劇のプロジェクトをしたときに、アーティストがほしいということになり、候補として平田オリザさんの名前が挙がりました。お願いしたところお引き受けいただき、喜界島まで来てくださいました。

大御所の先生でも真正面から依頼して、そこに意味があればちゃんと来てくれることがわかった一件でした。大事なことは「価値あるものを持ち込めるか」なのだと思います。

その忙しさは本物か?都会と地方の時間軸から見えてくる違い

会場:大学2年生です。農業の方とも関わったとのことですが、アカデミアの方から見た、都会と地方の時間軸の違いについてお話しください。

越塚:田舎がスローで東京がクイックな時間軸というのは、半分本当で半部嘘で、早いことが必ずしもいいわけではない。東京の時間軸は一見忙しくて早く見えるけど、やる必要のないこともたくさんやっている。それは意味があるのかなと僕は思います。

東京って何をするにも「待つ街」ですよね。電車に乗るのも向こう側に渡るのも、お弁当買うのも待つ。東京で生活していて1日どのくらい待っていると思います?すごい時間でしょう?だから東京は実はスローな時間軸で、東京には東京の苦しさがあるのではないでしょうか。

それを田舎だとやらなくて済むんです。高知だと、漁師のところではどこでも夜は宴会だけど、みんな21時30分になったら引き上げていく。理由を訊いたら次の日は午前3時30分に起きないといけないからで、地方の方がむしろ時間をきっちり区切ることができるんです

西村:地域の方は自分で主体的にやっているので、やりたいことが今すぐにできるから、逆にスピード感覚がありますよね。

越塚:東京の「忙しい」うちの8割は根回しですよ。生産的じゃないし、意味なく忙しいだけ。根回ししなくたって仕事は動きますよね。それを考えたら地方で人口密度の少ないところに行った方が雑用が減るから、のんびりできて仕事が進んでいる気がしますけどね。

地域課題の専門家は、アカデミアにはいない。解決法は連携して探そう

会場:以前、地方の国立大学に勤務していました。大学の教員は、越塚先生のように学外と繋がりを持つ方がいいと思いますが、社会の側がそれを受け入れない部分があると思います。大学の人は大学の中での視野だけで終わってしまうのが日本の悪いところかもしれません。

アカデミアが地域と連携して出た結果や、有益な情報をきちんと伝えきれていない部分がマスコミのマイナスとしてあって、それが改善されないと今後も都市と地方の格差が残るのではないでしょうか。メディアが取り上げるときに、こういう側面にも光を当ててくれたらいいんじゃないかと思われることはありますか。

越塚:メディアも、大学に対して固定観念があるんですね。多くの人は「大学はすごい技術を持っているんじゃないか、だから解決してくれそう」と思っていますが、実は違います。すごい技術なんてありません。

地域課題は多様です。前提も違うし、取り巻く人間関係も、誰がキーマンかも違います。だから解決方法も全部違う。地域課題を解決できる専門家なんていないんです。初めて会う人に言い出すのはなかなか勇気が要りますが、「こういうことを困っていて、一緒に考えていただけませんか?」と言っていただいた方がこちらもありがたいです。

プロジェクトへの一番のモチベーションは「おいしいご飯」

会場:銀行勤務です。新事業に携わっていますがアカデミアの人と接点がありません。全く接点がないところとの案件を受けることはありますか。

越塚:大抵そんなことばかりで、メールと電話が来て引き受けるパターンです。面識もないのに依頼が来ることもあります。考えずにどんどん連絡するのがいいと思います。

会場:先ほど芽が出るまで時間がかかると仰っていましたが、好きなことばかりではないし、失敗もあると思います。そういった時のモチベーションの続け方を教えてください。

越塚:地域とコラボしたいと思うモチベーションは、いかにプロジェクトに興味を惹かれるかと、プロジェクトの価値、そして地域のおいしいご飯でしょうね(笑)。あと僕はもともと旅行が好きで、電車も飛行機も乗るのが大好きなので、それもモチベーションになっているかもしれません。

おいしいご飯というのは半分冗談で半分本気。地方にいくと「なんでこちらに来ているんですか?」とよく訊かれます。そういう時、最近は「だって、ご飯とお酒がおいしいじゃないですか」と答えています。本当はプロジェクトを受ける理由をいろいろ考えているけど、それを大上段に言われても相手は引きますよね。おいしいご飯が言い訳になるんです。

地域連携は研究ではない。アカデミアが地方に示す気概とは

会場:元は沖縄県庁の職員で、現在は沖縄科学技術大学院大学の産学連携部署へ出向して勤務しています。今、沖縄の地方の行政機関と、アカデミアの連携との板挟みになっています。先生が市町村、行政機関とプロジェクトを行うにあたって、行政機関との付き合い方で押さえているポイントはありますか。

越塚:行政機関の人は真面目で公益性に対する意識も非常にあるけど、必ずしも前向きな人ばかりではないので、その気持ちに最大限配慮するようにしています。そうでないと物事が進まない。人のためになりたいから行政機関にいるわけで、そこは大切に考えています。

会場:経済学を専門としてシンクタンクに勤めています。経済学の場合には大御所の先生であっても海外の論文に出すことの優先度が高いからか、国や地方自治体が持っているデータで共同研究したいとなったときにも、論文になりそうなデータでないとなかなかご協力はいただけません。どうアプローチすればいいかご教示ください。

越塚:僕自身今でも研究はしていますが、大学がアカデミアをやりすぎなんですね。「アカデミアしかしません」となると、自分で自分の手足を縛ることになる。

大学は、何をやってもいいと思うんです。1,600年代や1,700年代のヨーロッパの大学は商売でも政治でも何でもやってたんですよ。当時のヨーロッパには、王様とキリスト教という2つの権力がありました。この2つの権力から自由になり、何でもできるところを作るのが大学の役割でした。それをわざわざ「学問だけすればいい」と、中にいる人が本来の大学の意義を狭めてしまっているのは残念なことです。

僕は研究もするし学術論文も書くけど、地域と連携してやっていることは研究だと思っていません。それは大学が今後発展していくときの重要な要素の1つだと思っています。地域連携をすることで、大学の手足を学問だけに縛るんじゃなくて、学問以外も何でもやるぞという気概を示したいのです。活動の場をどんどん広げていいし、それだけの野心をアカデミアは持っていいと思う。地域が一緒にやって下さるのは僕らにとってもありがたいことなのです。

ただそのように考えている先生ばかりではないこと、学術寄りの人もいることをあらかじめ申し添えます。提案を持っていったときに少しでもご賛同いただける先生なら、地域のために役に立つことをしてくれるでしょう。

西村:最後に、アカデミアとこういう風に付き合ったら面白いんじゃないかなというご提案があればお願いします。

越塚:アカデミアを信頼していただけるとありがたいですね。その信頼に基づいて、難問を与えていただき、一緒に考えてもらえると僕らの幅も広げられるので嬉しいです。そんないい関係が、このPOTLUCKの場なども媒介になってできていくことを願っています。

Editor's Note

編集後記

「大先生もみんなからの提案を待っている」という言葉が印象的でした。大学の先生の敷居が高いというイメージが変わったら、学問が柔軟な発想で地域創生に生かされる機会が増えるかもしれません。越塚先生のお話は、アカデミアに対する意識改革を十分促してくれています。

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