SHIZUOKA
静岡
「自分の働き方ってこのままでいいのかな」
「地方で何か新しいことを始めてみたい」
今の仕事に疑問を持つことはあっても、これまでのキャリアや経験を全部切り離して新しいことを始めるのはすごく勇気がいりますよね。
今回お話を伺ったのは、静岡市と首都圏の2地域を拠点にする「都市型地域おこし協力隊」として活動される星野晴香さんです。
星野さんは現在、テレワークを実践しながら東京と静岡、さらに他の地域も訪れる多拠点生活を送っています。
これまでのキャリアを分断しない新しい地域おこし協力隊としての活動、そしてローカルな人々との関わりで見えてきた星野さんの「これからの働き方」について伺いました。
都市型地域おこし協力隊とは、静岡県静岡市が取り組む新しい地域活性の取り組みです。隊員はテレワークを活用しながら静岡市と首都圏の2地点で活動し、その働き方を発信しつつ、まちの移住施策等をサポートします。
星野さんはこの都市型地域おこし協力隊員として、2023年から静岡市役所の企画課という部署で働かれています。
「企画課は一般企業でいうところの経営企画の役割に近いかもしれません。具体的には、地方移住を考えている方に向けてPRしたり、イベントに来てくださった方を実際に移住に繋げていったり。静岡市を魅力的な移住先として選んでもらえるような施策を企画しています。私の活動としては、自分の働き方の発信などを通して静岡の魅力を広めていくことが中心ですね」(星野さん)
星野さんの地域おこし協力隊活動のもう一つの特徴は「特定の拠点に縛られない」という暮らし方。
静岡市内の住宅に住まうのではなく、全国に数百か所ある生活拠点を転々と過ごしています。
このライフスタイルが実現できるのは、住まいのサブスク「ADDress(アドレス)」を利用しているから。ADDressとは、会員になることで全国各地の空き家・シェアハウス・ホテル等を利用できるようになる民間サービスです。地域に根付いた旅をしたい旅人を中心に重宝されています。
静岡市はADDressと連携しており、このライフスタイルを前提に地域おこし協力隊を募っています。
そのため星野さんは、静岡市と東京都をメインの拠点にしつつも、2拠点にとどまらない生活を楽しんでいらっしゃいます。
「1ヶ月の内、7割から6割は静岡市内のADDressと提携している物件に住みつつ、2割は都内にある実家、残りの1割で視察を兼ねて他の地域のADDressの家に滞在しています。トータルで見ると月に5箇所から6箇所の拠点を行ったり来たりする生活ですね。ちなみに今月の後半には佐渡ヶ島に行く予定です」(星野さん)
地域おこしの視察として、様々な地域に積極的に足を運ぶ星野さん。ADDressを利用することで、そのまちの特色により深く触れられるといいます。
「ADDressの物件を利用することで、拠点を管理する『家守(やもり)』さんや、長く滞在している方々のお話を宿泊時に聞くことができます。一方で、ADDressを活用せずに単身でどこかに行くと、その地域と観光以上に深く関わるのが難しいと感じることが多い。ADDressでは、その地域をよく知っている方がまちの紹介をしてくださるので、視察の質が高くなるんです」(星野さん)
実際にその土地に住む人と直接対話することで、表面的な情報だけでなく、ローカルな文化や活躍するキーマンの存在、暮らしのリアルといった部分に触れることができます。この交流が、星野さんの視察をより充実したものにしています。
また、別の地域を訪れることで見えてくる「静岡の魅力」があると星野さんは感じています。
「他の都道府県で出会った人に静岡の話をすると新鮮な反応が返ってくることが多いんです。例えば静岡県ではわさびが採れることや、私が駿河湾で釣りをして魚を捌いた時のこと、こうした話をすると、首都圏の人だけではなく皆さん興味深く聞いてくださって。
そういったリアクションをみることで、自分の体験が『地方だから』ではなく静岡ならではの価値なんだと知ることができます」(星野さん)
「自分で時間の使い方を選べること」を軸に、元々はフリーランスとしてさまざまな仕事をしてきた星野さん。生活は充実していたものの、自身のキャリアに不安も抱えていたといいます。そんな星野さんが地域おこし協力隊に興味を持ったのは、26歳のときでした。
「学生時代アメリカへの留学を経験し、大学卒業後すぐにフリーランスの道を選びました。英語教師とリモートワークができる業務委託の仕事を請け負い、二足のわらじで働き始めました。
当たり前のことかもしれませんが、個人事業主には働き方の指導などはありません。自分で選んだ道ではあったものの、自分のキャリアに中身が伴っているのか、漠然と働いているだけなのではと、働いているうちに不安に感じるようになりました。
そこでワーキングホリデーで海外にでも行こうかと考えていたときに、知人からの紹介で地域おこし協力隊の募集を知ったんです。『地方で3年間、自分と向き合う最後のチャンスかもしれない』と、わらにもすがる思いで応募しました」(星野さん)
東京での人脈や仕事も残しつつ、地方にも移住できる都市型地域おこし協力隊は「自分にとってこれ以上ない環境」に思えたと星野さんは当時を振り返ります。
これまでのキャリアも続けつつ、新しいキャリアも模索する。自分を見つめ直す時間として選んだ静岡市での地域おこし協力隊でしたが、始めた当初は思い描いていた理想とのギャップもあったといいます。
「ある程度は予想していたのですが、地域おこし協力隊は実力主義の世界だと感じました。
先に隊員として活躍している先輩方は広告会社などで培った経験があって。地域おこし協力隊の活動を独立先として選んでいる人が多かったんです。
他の地域おこし協力隊を見ても、成功している人は自分の軸やスキルをすでに持っていて自力で成果を出しているように思えました。
私の場合は社会人としての経験も浅い状態で参加したため、一人で形にできることが少ないと焦っていましたね」(星野さん)
「これは大変な3年間になるぞ」と覚悟したという星野さんを支えてくれたのが、ADDressの家守(やもり)の存在です。家守はADDressの物件を管理しつつ、住民と地域を繋ぐ役割を担う人のことをいいます。
「最初はとにかく楽しく3年間過ごせればいいかなと考えていました。でも、地域おこし協力隊のメンターとしてサポートしてくれる家守の方が、私のキャリアや人生相談に乗ってくださったんです。まるでお父さんのように親身になってくれて。
『3年後にどう生きていきたいかを見据えて行動しないと、3年なんてあっという間に過ぎてしまうし、20代の1年はすごく貴重だ』と常々言ってくれました。
普段の私なら、目上の方にあれこれ言われるとプライドが邪魔をして突っぱねてしまうことのですが(笑)その方のお話は私の性格や背景を理解した上でのアドバイスだったので、素直に受け入れることができたんです」(星野さん)
「今は情報をインプットして、活動の土台を作っている状態です」と語ってくれた星野さん。
「さまざまな人と出会って事例を学んでいくことで、以前の私よりも確実に豊かな未来につながっているように感じます」と前向きにお話される姿が印象的でした。
星野さんは、自分のキャリアを改めて考えるために地域おこし協力隊という道を選びました。静岡市を中心に多拠点で活動を続ける中で、将来についての考え方も変わってきたといいます。
「東京だけに暮らしていたときは、自分の良さや能力が埋もれているように思うことが多々ありました。私にできることは他の人にもできることのような気がして、自分の得意なことや好きなことを素直に認めるのが難しかったんです。
でも静岡に来てから、英語が話せるだけでも重宝してもらえることに気付きました。取材を受けて人前で話す際にも、話すのが得意だと言われたり、楽しそうにやっていると言われたりして。自分のポジティブな面を見つめる機会が増えました。
こうやって自分の得意を見つけていけば、苦手でやりたくないことを中心としたキャリアやライフスタイルには少なくともたどり着かないだろうと今では思っています。自分の好き嫌いと丁寧に向き合っていくことで、自然と進む方向が定まっていくと思えるようになりました」(星野さん)
地域おこし協力隊としての任期が終わっても「地方に拠点をもって生活するなら、その一つは絶対に静岡がいい」とお話される星野さん。静岡の魅力を知ることで、今後のやりたいことも浮かんできたそう。
「静岡は本当に住みやすいまちです。都内へのアクセスも良く、富士山はもちろん川も海もあって、天候も良い。安心して暮らせます。
静岡は観光資源が少ないと思われがちですが、実は食の体験やガストロノミー、アグリツーリズムが強い土地だと思います。食に興味がある私にとって、その点でも静岡はすごく魅力的ですね。
今後さらにやりたいことが生まれる可能性もありますが、今はこの魅力を体験を通じて人に伝える仕事に就きたいと思っています。ゆくゆくはツアーガイドや観光業に携われれば」(星野さん)
ローカルに目を向けることで自分のキャリアが見えてくる。星野さんは地域おこし協力隊はローカルとつながるための1つの「ラベル」のようなものといいます。
「日本には各地に、それぞれの分野で活躍するプレイヤーが多勢います。地域おこし協力隊というラベルがあることで、私はその地域で頑張っている人やモノに会いやすくなると感じています。もしキャリアや進路に迷っている人がいるなら、ラベルを持つ期間を自分の人生に設けてみるのもいいのではないでしょうか」(星野さん)
Information
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https://localletter.jp/articles/sns_academy/
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Editor's Note
何歳になっても、自分の進路には悩んでばかりだなと感じる最近です。星野さんの等身大のお話を伺うことで、地方創生が一つのキャリアの糸口になると学ぶことができました。
ASAHI KAMOSHIDA
鴨志田あさひ