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LOCAL LETTER

長野県・小諸市に「農を感じるマルシェ」が開店。一人の移住者の想いが新たな出会いと繋がりを生む

JUL. 25

拝啓、都会に住みながらも “ローカル” や “農業” に関わりたいアナタへ 

2022年5月4日・みどりの日、 浅間山にほど近い長野県小諸市の「こもろ まちタネ広場」で初開催された、農を感じるマルシェ 『ASAMAYA MARCHE』。小諸市内外の25の出店者が集結し、来場者は約1,500名。汗ばむほどの晴天の下、来場者・出店者双方の笑顔で溢れる賑わいを見せた。

発起人は2019年に小諸市に移住し、同市の農ライフアンバサダーを務める武藤千春さん。「いいものと出会いたいあなたのためのマルシェ」をコンセプトに、出店者と来場者、出店者同士の出会いと新たな繋がりの醸成を目指したという。

これまで音楽活動やファッションブランドを手がけてきた武藤さんが、“農を感じるマルシェ” を企画するに至った経緯とは?

移住から僅か1年強、企画を思い立ってから約1ヶ月の短期間で初開催のイベントを成功させられた理由とは?

武藤 千春(Chiharu Muto)さん 実業家 / 1995年4月3日、東京生まれ。幼い頃からブラックミュージックに触れ、音楽を通して自己表現を行う。2011年~2015年、アーティストとして活動。2015年にはユニセックスストリー トブランド「BLIXZY」のトータルプロデュースを開始し、プロデューサーとして企画・デザイン・モデル・PRなどをマルチに行う。他、ラジオパーソナリティーやMCとしても活躍中。現在は東京と長野県小諸市での二拠点生活を送り、畑での野菜作り・販売にも精力的に取り組む。2021年には農ライフブランド「ASAMAYA」を立ち上げ、農ライフや地域の魅力を伝えながらフードロス課題解決に向けた規格外・廃棄野菜のレスキュー活動が注目を集めている。2022年には小諸市農ライフアンバサダーに就任。
武藤 千春(Chiharu Muto)さん 実業家 / 1995年4月3日、東京生まれ。幼い頃からブラックミュージックに触れ、音楽を通して自己表現を行う。2011年~2015年、アーティストとして活動。2015年にはユニセックスストリー トブランド「BLIXZY」のトータルプロデュースを開始し、プロデューサーとして企画・デザイン・モデル・PRなどをマルチに行う。他、ラジオパーソナリティーやMCとしても活躍中。現在は東京と長野県小諸市での二拠点生活を送り、畑での野菜作り・販売にも精力的に取り組む。2021年には農ライフブランド「ASAMAYA」を立ち上げ、農ライフや地域の魅力を伝えながらフードロス課題解決に向けた規格外・廃棄野菜のレスキュー活動が注目を集めている。2022年には小諸市農ライフアンバサダーに就任。

準備期間わずか1ヶ月で来場者は1,500人。うち6割以上が市外から訪れるビックイベントに。

ASAMAYA MARCHEが開催された『こもろ まちタネ広場』は、しなの鉄道・小諸駅から徒歩数分。広場中央の芝生エリアは子どもたちの遊び場、周囲を囲む通路沿い25の出店者が集まったブースを並べた。

出店物は、農産物とその加工品を中心に、飲食店はもちろん、Tシャツや犬小屋までバラエティー豊富。天然の無垢材を使った走るログ小屋『IMAGO iter』、移動図書室『BOOK BUS』や写真展も。
出店物は、農産物とその加工品を中心に、飲食店はもちろん、Tシャツや犬小屋までバラエティー豊富。天然の無垢材を使った走るログ小屋『IMAGO iter』、移動図書室『BOOK BUS』や写真展も。

感染拡大防止のため、受付で体温測定と消毒を行い、感染対策済みのシールを貼って入場するシステムを導入し、最終的な集計では、来場者数は約1,500人。その内約1,000人から回収したというアンケートの結果から、小諸市内からきた方は 350人、東信エリア300人、東京 100人、その他長野県250人となり、小諸以外から訪れた人が6割以上を占めていた。

「ここまで大勢の方が来てくださるとは思っていませんでした」と武藤さんは笑顔を見せる。

「出店してくださった方々が『地域の人との繋がりや出店者同士の繋がりができたのが、他のマルシェとは違って面白かった』と言ってくださって。小諸市内でも普段マルシェに出さない店舗さんや農家さんも参加してくれたので、地域の方からも『普段の小諸のイベントの雰囲気とは違った』という声が多かったですね。来場者の方だけでなく、出店する側や支えてくれた人たちも楽しめたのはすごく良かったなと思いました」(武藤さん)

なぜ自分が小諸でマルシェをやるのか? ノリと勢いで始めた企画に隠された、綿密な結果と行動とは

武藤さんが『ASAMAYA MARCHE』を開催しようと思ったそもそものきっかけは、自分のファッションブランドのポップアップを考えたことだった。

「せっかくやるなら、この2年で繋がりができた人たちを巻き込んで、より面白いものにしたい。まだまだ感染対策しなきゃいけないから、やるなら屋外だよなぁと考えているうちに、それってマルシェだよな、となって。だったら市の広場を借りてみようと、役場の方に相談したりとかして、やりたいことを広げていったら、ほんとにマルシェになっちゃったという感じでした」(武藤さん)

YouTubeの『むとちゃんねる』に投稿された ASAMAYA MARCHE 開催告知動画でも、企画した理由を「ノリと勢いです笑」と語る武藤さんだが、企画内容は綿密に考えられていた。

「既に小諸にあるものを私がやるのは違う、私がやる意味をちゃんとつくらないといけない。そう最初から思っていました。なのでまずは、私が小諸にいる時間の中で出会えて、いいなと思った人たちや、多くの人にもっと知ってほしいなと。隠れてる人たちをちゃんと伝える場にしようと考えましたね」(武藤さん)

十人十色の農ライフがある中で、“カッコイイ農ライフ” の例として武藤さんがあげるのは、ハードサイダーのサノバスミスさん。

「小諸の宮嶋林檎園と大町の澤果樹園のそれぞれ3代目と4代目が林檎の可能性を拡げようと始められたブランドです。家業を大事に守りながら、時代に合った新しい試みも同時に進めていらっしゃるのがとても刺激的です」(武藤さん)

「もう一つ、私が小諸でマルシェをやる意味として、これまで私がいろんなカルチャーに触れていろんなことをやってきたことも表現できるといいなと思いました。なので、私自身がマルシェで農産物が買えるだけでなく、アパレルがみれたり、本を買えたりしたら嬉しいと思って出店者さんに声をかけていきました」(武藤さん)

その想いから、繋がりのなかった VALUE BOOKS さんに「はじめまして」と連絡し、会場に移動図書館車『BOOK BUS』が登場することになる。 他にも直接の繋がりのない農家さんやお店にも出店依頼をしたという。

もちろん、やみくもに声をかけたわけではない。例えば、出店者さんにとって、楽しいだけでなく労力に見合う売上があがるように、来場者とのその後の繋がりのことも考慮して、出店物のかぶりを避けた。その場で楽しめる飲食物もバラエティーに富み、全部を試してみたくなるラインナップ。出店者同士の繋がりを作るために、どの店舗を隣にするか、ブース並びも熟慮されている。

思い立ってから開催まで、約1ヶ月。短い準備期間での初開催にも関わらず、準備はそこまで大変ではなかったと武藤さんは言う。

「出店者の方が『これ、やっておこうか』『これ、私持ってるから持っていく』などと、前のめりに協力してくださったんですよね。私を助けるという感覚よりは、『もっと小諸でみんなで面白いことしようよ』みたいな。このマルシェ自体を面白がってくれる方がすごく多かったので、素直に甘えられて、楽しみながら準備ができた感じでした」(武藤さん)

フライヤーを置いてもらうために商店街を一軒一軒訪ね歩いた
フライヤーを置いてもらうために商店街を一軒一軒訪ね歩いた

受付をはじめとする約30名のボランティアスタッフも、小諸だけでなく、東京や福島などからも駆け付けている。

小諸市長の小泉俊博さんが「初開催で準備期間は短いですが、武藤さんなら成功させるだろうと思っていました」と信頼を寄せていた通り、小諸内外の多くの人の想いと協力が集まり、当日の盛況に繋がった。

自身のルーツを辿ったことがきっかけに。“農” のクリエイティブさにはまり、自分の心が動く発信を続ける

ダンス&ボーカルグループのメンバーとして活躍した後、音楽活動と並行してファッションブランド『BLIXZY』をプロデュースしてきた武藤さん。

農ライフを始めたきっかけは、2019年12月に家族と共に小諸に移住した直後にコロナ禍で時間ができ、10代の頃から興味があった、家族のルーツを辿る作業を手がけたことだった。調べていくうちに、隣の佐久市で農業を営む、86歳の親族に出会う。

「色々な話を聞いて、目の前で農作業しているのを見ていると、日本の農村の現状を目の当たりにした気がしました。一人で頑張って野菜を育てているけれど、規格外のものは捨てなければならないとか、手伝ってくれる担い手がおらず、自分ができなくなった後はどうなるのかわからないとか、問題がたくさんある。でも、毎日の作業に追われて、そこまで考えられないのが現実で」(武藤さん)

多くの課題を短い時間で目の当たりにした武藤さんは、「何か自分にできることはないか」と考え、それを掴むために自ら農ライフを実践することを決断。移住3ヶ月後の2021年3月に親戚から20坪の畑を借りて野菜を作り始める。

はじめての野菜作りはわからないことばかり。YouTubeを観たり、農家さんに聞いたりしたけれど、人によって教えてくれる方法が全然違った。やがて、地域によっても栽培方法によってもやり方が違い、50年農業をやっている人でも同じ1年はないというほど、毎年毎年違う作業が農業であることを知るようになる。

「ゼロからのもの作りという感覚で、想像以上にクリエイティブだと感じたときに、すごく楽しめましたね。洋服や音楽など、何かを作ることがすごく好きなので、似ているものがあると感じて、まんまとはまっちゃった感じでした(笑)」(武藤さん)

夏を迎え、野菜ができてみると自分の家では消費しきれない量になった。近所に配ってもまだまだある野菜を試しにネットで販売してみたところ、想像以上の好反響。

「SNSで私をフォローしてくださっている若い世代の都市部の方から、『顔の見える誰かから野菜を買うという経験がなかったから、新鮮ですごく面白いし、いい経験になった』という声があって。実際に自分が作った野菜が誰かの元に届いて、一人ひとりの声が聞けて感謝されることにやりがいを感じました」(武藤さん)

手応えを感じた武藤さんは、小諸市内で1,000坪の畑を借りて本格的に農ライフを開始。様々な農家さんとの繋がりも増え、ワイン用のブドウ畑まで手がけることに。また、農ライフブランド『ASAMAYA』を立ち上げ、農ライフや地域の魅力を伝えながらフードロス課題解決に向けた規格外・廃棄野菜のレスキュー活動なども行っている。

ASAMAYA MARCHEでの『ASAMAYA』のブース。小諸産のタラの芽や菜の花・野菜、無農薬栽培されたひまわり油、リンゴジュース、規格外野菜のピクルスなど小諸の "農" が感じられる商品が並んだ。
ASAMAYA MARCHEでの『ASAMAYA』のブース。小諸産のタラの芽や菜の花・野菜、無農薬栽培されたひまわり油、リンゴジュース、規格外野菜のピクルスなど小諸の “農” が感じられる商品が並んだ。

2022年2月に小諸市の農ライフアンバサダーに就任。その経緯を、武藤さんはこう語る。

作るだけではなく、届けるところをしっかり支えられるような発信をしていきたいと考えて、この1年間やってきました。平成29年から小諸市がやられていた『アグリシフトプロジェクト』も同じ気持ちで考えておられたので、農ライフアンバサダーという形で一緒にやらせていただくことになったんです。

アグリシフトプロジェクトだけでなく、その他の地域の農家さんとも一緒に、農の魅力を伝えていくために、SNSやYouTube、小諸市内で発行されている広報誌などを通じて発信しています」(武藤さん)

自分の想いを自分の言葉で発信することを心掛けているという武藤さん。

本当に純粋に『知ってほしい』とか、『私はこう思うけどみんなはどう?』と投げかけるスタンスで発信していきたいので、自分が何を感じてどこに心を動かされたかを適切に伝えることを意識しています。
武藤 千春 実業家

出店者の農ライフや想いをより伝えられる場にグレードアップして、新米の季節に再会を!

出店者・来場者双方から、「継続して開催してほしい」という声があがる中、武藤さんも既に次回開催を具体的に構想している。

「当初は夏に開催することも考えていましたが、今回5月でもかなりの暑さだったので、残暑も落ち着いた10月頃の、新米をはじめ、秋の収穫がいろいろある時期にしようかと考えています。まだ調整中ですが、今年中に第2回は開催しようと思っています」(武藤さん) 

会場のエリアをもう少し広げ、今回は出店者の方のサポートに集中するために見送ったステージも実現したいとのこと。

「来場者の方にいろんな角度から “農” を感じてほしいですし、どんな人が出店しているのかをより深く知ってもらいたいと思っています。そのために、次回はステージなどを使って、出店してくださった方の声を聞いたり、こんな思いで普段小諸で農産物を作られている、活動されているといったことが来場者の方の耳に届くような、そんな発信拠点を作れたらいいなと思っています」(武藤さん)

すでに、今秋を目処に次回開催を計画している武藤さん。ますますパワーアップした「ASAMAYA MARCHE」を次はぜひ、現地で体験してみてはいかがでしょうか?

詳細は、主催者「ASAMAYA」のTwitterをフォローしてくださいね。

Editor's Note

編集後記

武藤さんとお話しして、最初に浮かんだ言葉が「自然体」。「成功させよう」とか、「喜ばせよう」という気負いがなく、巻き込むというより、自然に流れを作っていく。とはいえ、企画は綿密に立て、準備も丁寧。小諸の方々からの信頼が厚いのも納得と感じました。
「武藤さんのパワーの源はなんですか?」と訊ねたところ、少し考えた後に「せっかちだからだと思います」という意外な答えが返ってきました。これからも小諸で色々なことに挑戦したいとのこと。これからどんな新しい景色を見せてくれるのか楽しみです。

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