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※本レポートは、三井不動産株式会社、NewsPicks Re:gion主催のイベント「これからの地域経済をつくるための祭典『POTLUCK FES’23 -Autumn-』」にて行われたセッション、「地域経済創発の“両輪”を考える:ビジネスと「デザイン」をめぐる展望」を記事にしています。
地方創生とビジネスがうまく連携しているケースは、計画段階から概ねすっきりとデザインされていることに気がつきます。
「ビジネスをデザインする」ことについて、地域において幾多の経験を持ち実践してきた3名をゲストに迎え、どのように乗り越えてこられたかをお届けします。
田村大氏(モデレーター、以下敬称略):福岡在住です。イノベーション環境をつくることを仕事にして約10年経ちました。九州の地域文化やアートをテーマに、ツーリズムにも関わるUNAラボラトリーズという会社をやっています。本日は皆様のビジネスマインドを満たすべく、4人で進めてまいります。
嶋田俊平氏(以下敬称略):20年ほど前から農山村地域に通い、地域活性化、地域課題解決を支援するコンサルティングや、事業プロデュースをしています。10年前に株式会社さとゆめを創業しました。今では全国40〜50の地域で事業の立ち上げや運営に関わっています。
さとゆめ創業以前までは計画書や報告書を地元の役場や事業所へ納品しておしまいでしたが、単に計画をつくって投げるだけではダメで、自分が地域の人たちと語り合い実現するところまで伴走しなくてはいけないと気がつきました。そこで創業したのがさとゆめです。
さとゆめでは目に見える商品、サービス、ホテルなどをつくり、利益を出す。その結果人を雇えるようになり地域に社員や家族が増えて賑やかになる。文字通りの地域活性が実現するまで、地域と一緒に伴走する会社です。そこまでする会社はあまりないらしく、各地からお声がけいただいています。
嶋田:主要な実績として、人口700人の山梨県小菅村に10年近く関わっています。道の駅や観光地域づくり法人(DMO)をつくって実行した結果、観光客が20万人に増えました。宿が必要とのことで、古民家ホテルのNIPPONIA 小菅 源流の村をつくりました。「700人の村がひとつのホテルに」を合言葉に、「村を丸ごとホテルにしましょう」というコンセプトです。
他にも山形県河北町のアンテナショップを都内につくったり、長野県小海町を中心に憩いをテーマにしたまちづくりをしたりしているうちにJR東日本と接点ができました。小菅村でやっていた「村ごとホテル」をJR沿線に広げていこう、無人駅をホテルのフロントに見立て、無人駅近くの空き家を客室に変えて集落の方々でお客さんをお迎えするホテルをつくる流れになりました。まだ開業前ですが、第7回ジャパン・ツーリズム・アワード「国土交通大臣賞」を受賞しました。
新山直弘氏(以下敬称略):大阪出身で、大学卒業と同時に福井県鯖江市に移住しました。TSUGIというデザイン会社と、一般社団法人SOEの2つを連動させながら運営しています。
メインの会社はTSUGIで、地域特化型クリエイティブカンパニーです。メンバー14人中12人が県外からの移住者です。また「インタウンデザイン事務所」として街そのもののデザインもしています。
鯖江は人口69,000人に対してメガネ会社が530社あり、国内の90%のメガネをつくっていて、市民の6人に1人がメガネ関係の仕事をしています。それ以外にも漆器や和紙、刃物、たんす、焼物、繊維と、半径10km圏内に7つの地場産業があります。
リーマンショック以降に仕事が減ったため、自分たちで商品を開発しています。つくるだけでなく販売までするために工房の一部を改装して直営店舗にしています。現在34店舗まで増えました。
新山:TSUGIのミッションは「次の時代に向けて地域の文化や技術を継ぎ、新たな関係性を継ぐ」、ビジョンは「福井を創造的な地域にする」。ものづくりの街だけではなく売ることで雇用を生む。鯖江らしいローカルをつくりたいと思っています。
大きく分けて4つの仕事があります。福井県内の団体・企業の「デザイン/ブランディング」、「自社ブランド製作(メガネ素材でアクセサリーをつくって販売)」、「福井県のアンテナショップ運営」、「クリエイティブ人材の育成」です。
もう1つの、昨年創業のSOEは観光まちづくりの法人です。ビジョンは「産業観光を通じて持続可能な地域をつくる」。
メインは工房見学イベントのRENEWで、過去9回開催しました。毎年10月の3日間、ものづくりの工場やショールームを開放して職人さんの背景まで知っていただき、密度の濃い交流体験をします。他には産業観光メディアの運営、鯖江市のふるさと納税の受託運営をしています。今後は2025年を目標に、宿泊施設をつくるべく準備中です。
新山:僕は「インタウンデザイナー」という言葉を2018年から提唱しています。定義としては「ある特定の地域で活動し、狭義のデザインの枠を超え、その土地の地域資源を複合させて新たな価値を生み出し、地域のあるべき姿を導き出すプレイヤー」です。地域をデザインしつつも、これからの自分自身が生きるデザインを探求しながら自走しています。
日本にデザイナーは約20万人おり、その6割が東京都に集中しているため、地方のフリーランスデザイナーは数が少ないですが、プロジェクトの最初から地域と伴走しています。そういう人たちが世の中に増えれば国力が上がるのではないかという仮説を持って、ライフワークとしてやっています。
「おもしろい地域には、おもしろいデザイナーがいる」を去年出版しました。本日お隣にいる福田さんも共著です。出版後に全国24カ所に講演に行き、地域の面白さを見て「本だけで終わらせるのはもったいない」と、2023年5月に福田さんと一緒に学校をつくりました。1期生の受講者数は既に270人です。
福田まや氏(以下敬称略):奈良出身です。広告代理店を経て2012年に大分の耶馬溪に、植木屋の夫と家をつくって移住しました。星庭というデザイン事務所と、テンポラリ耶馬溪という地域振興を行う任意団体を運営しています。
田んぼと畑を借りて、半自給自足暮らしです。徒歩15秒くらいの裏手に素敵な川もあります。戦後から有機農業を続けている下郷農協もあって、食が豊かです。また耶馬溪は移住者に開かれた土地で、うちは夫婦別姓ですが人と違っていることも大らかに受け入れてくれます。
福田:星庭の実績としては、「おんせん県」の大分県内で唯一温泉がない豊後大野市がサウナで街おこしをしていて、プロモーションをお手伝いしました。また大分県の依頼で、プラスチックごみの啓発動画をつくりました。日本で初めて障害者雇用を始めたオムロン太陽株式会社の創業50周年記念サイトや、NHK大分の80周年記念のロゴマークのデザインなどもつくっています。
私自身は言われたものをつくることはあまりせず、リサーチやフィールドワークのような新しい価値を見つけて、それを見た目だけではなく体験までを含めてデザインしています。
最近気がついたのですが、デザインも地域振興も同じ方式なんですね。定住者、移住者、それぞれの立場で新しい価値を見つけて豊かな地域の素材を体験してもらって関係人口をつくる。文化的な面、土着に残ったまつりごとの継承も夫婦でしていて、さながら今を生きる民俗学のような暮らしをしています。
福田:耶馬渓は江戸時代から観光で食べてきた村でしたがコロナで影響を受け、何かできることはないかと考えていました。その頃に県の土木事務所と仕事をしていて「面白い企画はないか」と訊かれた際に「開通直前の耶馬渓道路で3日間だけ宿泊するのはどうですか?」と言ったら賛成してくれましたが、予算が20万円しかありません。
でも絶対実現させたくて、自分で団体をつくり、県庁と調整をしてトンネルを借りる算段をして資金を集め「耶馬渓トンネルホテル」ができました。
日本で初めて道路の上で旅館業の許可を取り、3日で廃業届を出しました(笑)。イベントのオプションとして、耶馬渓の豊かな食材を使ったディナーや、キャンピングカーを並べて泊まっていただくことも行いました。
会場内からの質問:地方創生を進めるために、どのような動きを地域の金融機関に期待しますか。
嶋田:小菅村のホテルをつくるときに金融機関にはたくさん門前払いをされましたが、その中で、ある金融機関の理事長が無担保・無保証の条件で貸してくれました。「自分たちは地域経済があってこそ商売ができる。地域経済を盛り上げるためには、自分たちもリスクを取らないといけない。だから頑張ってくれよ」とその理事長がおっしゃった。そこにはある程度の目利きがあったとは思いますが、金融機関の矜持を見ましたね。
田村:誰にでも条件を出すわけじゃないってことですよね。金融機関といえば紋切り型の印象がありますが、でもそういう魂を持った人もいるということですね。
新山:保証人はいらないと言ってくれた地銀があって、そうなるとそこにお願いしようかなという動きが次々に出る。経営者側も銀行を品定めしています。僕らと一緒に頑張ってくれる銀行かどうかが問われています。お互いにそんな関係性をつくりたいですね。
前編では地域ビジネスに携わってきた登壇者の軌跡をお伝えしました。後編では地域創生にはどんな人材が必要とされているのか、その具体例をお届けします。
Editor's Note
地域創生とビジネスを繋げた話の裏側には、語り尽くせないほどの経験があることが垣間見えてきます。地域と経営側の伴走は時代が移り変わっても不可欠な要素で、全ての地域ビジネスはそこをゴールに設定する必要があるのでしょう。
KAYOKO KAWASE
河瀬 佳代子