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LOCAL LETTER

必要なのは9つの職種!最適解の人材で地域ビジネスを進めよう

DEC. 25

JAPAN

拝啓、地域ビジネスにどんな人材がどのバランスで必要なのかを知りたいアナタへ

※本レポートは、三井不動産株式会社、NewsPicks Re:gion主催のイベント「これからの地域経済をつくるための祭典『POTLUCK FES’23 -Autumn-』」にて行われたセッション、「地域経済創発の“両輪”を考える:ビジネスと「デザイン」をめぐる展望」を記事にしています。

今まで全く関わりがない地域へアプローチするにあたっては、まず受け入れられることが必須です。それには一体どのようなメンバーで布陣を組んだらいいのか、悩んだことはないでしょうか。

前編では地域ビジネスに携わってきた登壇者の軌跡をお伝えしました。

後編では、幾多の地域ビジネスを経験してきた経営者たちが自らの経験を基に、どのような人材だったら相手に受け入れられるのか、またチームワークはどうすればいいのかを語っていただきました。

「地域ビジネスを創る人材」と「地域ビジネスに必要な人材」のベストバランスを探る

田村大氏(モデレーター、以下敬称略):本日登壇している3名は全員「地域ビジネスを創る人材」ですが、プロジェクトメンバーの全員がそうではないと思うんです。「地域ビジネスに必要な人材」としてどんな人が地域の中にいるといいのかを考えていきましょう。

田村 大 氏 株式会社リ・パブリック 共同代表、株式会社UNAラボラトリーズ 共同代表 / 1971年神奈川県生まれ。幼少期を福岡県・小倉で過ごす。東京大学文学部心理学科卒、同大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。新卒で博報堂に入社後、データと創造性をめぐる研究・事業開発等を経て、株式会社リ・パブリックを設立。欧米・東アジアのクリエイティブ人脈を背景に、国内外で産官学民を横断した社会変革・市場創造のプロジェクトを推進している。2014年、福岡に移住。現在、北陸先端科学技術大学院大学にて客員教授を兼任。
田村 大 氏 株式会社リ・パブリック 共同代表、株式会社UNAラボラトリーズ 共同代表 / 1971年神奈川県生まれ。幼少期を福岡県・小倉で過ごす。東京大学文学部心理学科卒、同大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。新卒で博報堂に入社後、データと創造性をめぐる研究・事業開発等を経て、株式会社リ・パブリックを設立。欧米・東アジアのクリエイティブ人脈を背景に、国内外で産官学民を横断した社会変革・市場創造のプロジェクトを推進している。2014年、福岡に移住。現在、北陸先端科学技術大学院大学にて客員教授を兼任。

嶋田俊平氏(以下敬称略):コンビニもスーパーもない小菅村で開業した、古民家ホテルのNIPPONIA 小菅 源流の村には再現性を持たせたい。プロデューサーだけがスポットライトを浴びがちですが、その他の人たちが周りに集まったから地域ビジネスが成功しています。再現性を持たせるにはチームが必要で、僕はどういうチームが最適なのかを考え続けています。

嶋田 俊平 氏 株式会社さとゆめ 代表取締役社長 / 大阪府箕面市で生まれ、父親の仕事の関係で幼少期の計10年をインド・タイで過ごす。2004年、京都大学大学院農学研究科森林科学専攻修了。同年、環境系シンクタンクに入社。2013年、株式会社さとゆめ創業。地方創生の戦略策定から商品開発・販路開拓、店舗の立ち上げ・集客支援、観光事業の運営まで、一気通貫で地域に伴走する事業プロデュース、コンサルティングを実践。2018年、ホテル開発・運営会社株式会社EDGEを設立。山形県河北町の地域商社・株式会社かほくらし社、人起点の地方創生を目指す株式会社100DIVE、JR東日本との共同出資会社・沿線まるごと株式会社の代表取締役も兼務。
嶋田 俊平 氏 株式会社さとゆめ 代表取締役社長 / 大阪府箕面市で生まれ、父親の仕事の関係で幼少期の計10年をインド・タイで過ごす。2004年、京都大学大学院農学研究科森林科学専攻修了。同年、環境系シンクタンクに入社。2013年、株式会社さとゆめ創業。地方創生の戦略策定から商品開発・販路開拓、店舗の立ち上げ・集客支援、観光事業の運営まで、一気通貫で地域に伴走する事業プロデュース、コンサルティングを実践。2018年、ホテル開発・運営会社株式会社EDGEを設立。山形県河北町の地域商社・株式会社かほくらし社、人起点の地方創生を目指す株式会社100DIVE、JR東日本との共同出資会社・沿線まるごと株式会社の代表取締役も兼務。

嶋田:「仕事の役回り」と「仕事の性質」とを合わせて考えながら、僕はどんな人材が必要かを決めています。

「仕事の性質」は3つに分かれていて、コンセプトを考える「構想者」、空間や料理やWEBなどのツールをつくる「製作者」、サービスを提供する「運営者」があります。

もう1つの軸が「仕事の役回り」で、仕事における絶対的な核をつくる「コアな人」、仕事を細部まで整える「ディテールの人」、コアとディテールの間で案件や連絡調整をする「バッファな人」がいます。

「仕事の役回り」と「仕事の性質」とを掛け合わせると、9つの職種ができてきます。わかりやすい例として、小菅村のホテルの立ち上げに関わった30人ほどのメンバーは、全員9つの違う職種に当てはまりました。その職種に何名いたかも記してみます。

構想者×コア: プロデューサー  1名
構想者×バッファ: ディレクター  3名
構想者×ディテール: プランナー  6名
製作者×コア: クリエイティブディレクター 1名
製作者×バッファ: デザイナー 3名
製作者×ディテール: テクニカルスタッフ 6名
運営者×コア: ゼネラルマネージャー1名
運営者×バッファ: マネージャー 3名
運営者×ディテール: サービススタッフ 6名

また事業をするにはフェーズがあって、立ち上げまでに3~5年かかります。立ち上げ当初は赤字ですが、徐々に対価が得られるようになります。
ABC、3段階のフェーズがあり、それぞれ違う素養が求められています。

A 構想段階:NPO的、地域に寄り添う発想、ボランティア的な素養
B 実装段階:予算・スケジュール・品質管理、コンサル的な素養
C 事業段階:不屈の精神、事業家の素養

さとゆめは9つの職種と3つの素養を持つ人材を育成し、チームをつくりました。もともとNPOを始め、そのあとコンサルを経て今は事業をやっているため、僕の中にこの3段階のフェーズがあります。みなさんの意見はいかがでしょうか。

「始める人」「支える人」「まとめる人」の三つ巴が地域創生を動かす

田村:フェーズごとに違う会社みたいになっていますね。あと仕事の役割表は、デザイナーやクリエイターだけじゃない人についても言及していましたね。

新山直弘氏(以下敬称略):よくわかります。ABCの3段階フェーズだとTSUGIはCまでいきました。SOEはBです。

地域ビジネスはプロデューサーにスポットが当たりますが、実はそれ以外の人が重要で、それを我々は「じゃない人」と呼んでいます。プロデューサーの僕は地域では価値がなく、移住してくるニートの方が「手伝ってよ」と意外と地域で必要とされます。あとは愛嬌がある人は地域ではうまくいきますね。

新山 直広 氏 TSUGI 代表、SOE 副理事、クリエイティブディレクター / 1985年大阪府生まれ。京都精華大学デザイン学科建築分野卒業。2009年福井県鯖江市に移住。鯖江市役所を経て2015年にTSUGI LLC.を設立。地域特化型のインタウンデザイナーとして、地場産業や地域のブランディングを行っている。また産業観光プロジェクト「RENEW」福井の産品を扱う「SAVA!STORE」など、ものづくり・地域・観光といった領域を横断しながら創造的な産地づくりを行なっている。編著に「おもしろい地域には、おもしろいデザイナーがいる」(学芸出版社)がある。
新山 直広 氏 TSUGI 代表、SOE 副理事、クリエイティブディレクター / 1985年大阪府生まれ。京都精華大学デザイン学科建築分野卒業。2009年福井県鯖江市に移住。鯖江市役所を経て2015年にTSUGI LLC.を設立。地域特化型のインタウンデザイナーとして、地場産業や地域のブランディングを行っている。また産業観光プロジェクト「RENEW」福井の産品を扱う「SAVA!STORE」など、ものづくり・地域・観光といった領域を横断しながら創造的な産地づくりを行なっている。編著に「おもしろい地域には、おもしろいデザイナーがいる」(学芸出版社)がある。

田村:ニートはどんな職種に位置付けられますか?

嶋田:サービススタッフかテクニカルスタッフですが、たまにすごい能力の人がいて、いきなりゼネラルマネージャーになることもあります。

新山:僕らの例えでは「始める人」「支える人」「まとめる人」です。「始める人」は僕で、それをまとめる敏腕プロデューサーが全部ボールを拾います。あとは地域内で折衝してくれて支える人がいる。その三つ巴がうまくいって、僕らの成功体験になっています

田村:福田さん自身移住者で、地域の人と一緒に何かをするときに折衝したり役回りをつくったりすることはありますか。

福田まや氏(以下敬称略):うちの夫がバッファの役割で、全部ボールを拾ってくれています(笑)。実はコツコツと黙々とやる人こそ本当に地域で重宝されています。そういう人にフォーカスが当たってほしい。それぞれの人が輝いている組織を私もつくりたいですね。

福田 まや 氏 星庭 代表、テンポラリ耶馬溪 代表、アートディレクター・デザイナー / 1985年生まれ、奈良県出身。Inter Medium Instituteで学ぶ。関西・東京での広告代理店勤務などを経て、2012年に大分県・耶馬溪へ移住し、デザイン事務所「星庭」を設立。森の中の、セルフビルドの自宅兼事務所で、デザインを中心に様々なプロジェクトに取り組んでいる。2020年「テンポラリ耶馬渓」を設立、地域課題にフィールドを広げ、2021年には開通前の道路を使った3夜だけのホテル「耶馬溪トンネルホテル」を企画。田んぼと畑も借りて半自給暮らし。
福田 まや 氏 星庭 代表、テンポラリ耶馬溪 代表、アートディレクター・デザイナー / 1985年生まれ、奈良県出身。Inter Medium Instituteで学ぶ。関西・東京での広告代理店勤務などを経て、2012年に大分県・耶馬溪へ移住し、デザイン事務所「星庭」を設立。森の中の、セルフビルドの自宅兼事務所で、デザインを中心に様々なプロジェクトに取り組んでいる。2020年「テンポラリ耶馬渓」を設立、地域課題にフィールドを広げ、2021年には開通前の道路を使った3夜だけのホテル「耶馬溪トンネルホテル」を企画。田んぼと畑も借りて半自給暮らし。

嶋田:補足しますと、地域に想いを持って関わってくれる人は必ず9つのどこかで活躍できるという意味です。地域に行くのにプロデューサー的なマインドなんて必要なくて、飛び込んできてくれればいいんです。都市部の企業にも置き換えられますね。業種・業態によって強みが違いますが、どこかに人材が当てはまるはずです。

田村:9つの職種には上下関係があるようで、意外とそうではないのかもしれません。僕も宿を経営していますが、サービススタッフとして入ったはずの人の立ち居振る舞いが「どう見てもマネージャーだよね」というケースもあります。そこに役職があるわけではなく、まさにお互いの役回りですね。互いにうまく補完関係ができているのを見るとすごいと思います。

福田:都市にいるとオールマイティーにいろんなことができないといけないとか、与えられた役割を全うする義務とかがありますが、移住すると絶対的に人が少ないので、目の前にいる人がどんな人であっても認めざるを得ないんですね。選択肢が少ないことで他の人と比べないから、逆にすごく居心地がいいのかもしれません。ビジネスとしてもまずは地域に来て、関わりを持ってもらうことで見えてくるものがあります。

地域への関わりはグラデーションで。徐々に支援を増やそう

田村:3人に伺いたいのですが、域外の企業が地域にとって欠かせないプレイヤーになるためにはどうしたらいいでしょうか。

例えば東京の大企業が地域と関わりたいけど、攻め手がないという話をよく聞きます。でも嶋田さんはJRと一緒に新事業を始めていて、新山さんも域外と鯖江をつないでいる。その秘訣はなんでしょうか。

嶋田:5年ほど前に「関係人口」という言葉が注目されました。「観光以上定住未満、地域に住んではいないけど活動を支援している人」のことです。しかも1つの地域だけではなく複数の地域の関係人口が重要です。日本の人口が減っているので、移住者や関係人口を大切にする動きが注目されています。

関係人口を観光客の一歩深い程度、地域の活動支援だけで終わらせるのではなく、事業の関係人口まで持っていくことが課題です。

田村:具体的に大企業が関係人口をつくって踏み出していくときに、ここがボトルネックだということはありますか。

嶋田:いきなり地域から受け入れられようと思わず、もっとグラデーションで考えていくべきでしょう。

さとゆめの中では「3人、30人、300人」という考えがあります。これまで関わりがなかった地域に入るときに、いきなり事業説明会をやったら反対されますよね。まず地域のリーダー的な人を3人見つけてアプローチする。どれだけ人口が多くても本当に熱意を持って地域を動かしているのは3人なんですよ。市長や地域のリーダーたちに信頼してもらうと30人くらい紹介してくれる。次はその30人と一緒に事業立ち上げの準備をする。立ち上がったら300人のお客さんをつくる理論で、徐々に地域に関わることを増やします

田村:リアリティある数字ですね。福田さんは自分から仕掛けることが多いのでしょうか。

福田:上手にかみ砕いて自分たちがやりたいことを話して、地域側の想いをちゃんと聞くことですね。微妙な調整をうまくできる人が地域にいると、何かが生まれるきっかけになっています。

新山:外側から地域に関わる人が増えるのはいいことですが、重要なのは「やり逃げしないこと」。そういう人には地域に来てほしくないです。

福田:「なんとなく地域に関わりたい」という学生は多いけど、地域への「偏愛」みたいなものを持ってほしい。中川政七商店さんにはそんな熱意がありましたね。

新山:RENEWを一緒にさせていただいた中川政七商店さんには「日本の工芸を元気にする」というビジョンがあり、担当者がそれを体現している社員さんで、熱量が全然違いました。職人さんの絶対的な信頼まで得ていました。

田村:新山さんが「その土地の地域資源に複合させて新たな価値を生み出す」とおっしゃっていましたが、その意味では3人とも同じロジックで動かれていますね。

新山:僕はある種の翻訳家だと思っていて、地域と関わりたい人と地域の人の話を繋いでいます。両者をちゃんと繋げばいい関係になる。地域にキープレイヤーがいればなおスムーズにいきますよ。逆にきちんとした人に繋がないと不発に終わります。

田村:地域側のキャパシティと、企業側の希望がお互いにぴったりと合致してこそ、前に進んでいくんでしょうね。

Editor's Note

編集後記

プロジェクトチームを作るにあたって人材のバランスはとても重要ですが、そこに悩む人も多いのではないでしょうか。9つの職種のロジックはどのシーンでも通用するもので、きちんと成立していることにある種の感動を覚えたセッションでした。

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