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※本レポートは株式会社WHEREが主催した産学官の起業家が全国から一堂に会す地域経済サミットSHARE by WHERE内のトークセッション「Session 3 地域商社|地域経済循環を担う役割と価値を問い直す」を記事にしています。
「地域商社」という言葉をご存知でしょうか。
文字からは「地域に根差して活動し、地域で生み出された産品を世に広めていく」。そんな業務内容が想像できますが、実態はどういった活動をしている団体を指すのでしょうか。
人口減少の克服、観光資源の開発、ふるさと納税による税収の獲得など、地域がそれぞれに抱える課題が膨らんでいる現在。そのなかで土地に根をはり、地域の未来のために活動する人たちに求められている役割はなんなのか。
この記事では東海地方を中心に活動する4人の登壇者が「地域商社」の役割を見つめ直し、これからの地域に本当に必要な組織の在り方について語っていただいた内容をまとめています。
水谷 岳史氏(以下敬称略、モデレーター):モデレーターを務める水谷です。本日はよろしくお願いします。それでは蒲さんから自己紹介をお願いします。
蒲 勇介氏(以下敬称略):NPO法人ORGAN(オルガン)の理事長を勤めています。私はどちらかと言えば観光寄りの立場で活動していると思っています。そのため、「地域商社」という枠でキャスティングいただいたことに、正直戸惑っていました。しかし、主催者の問いが「地域商社の今の在り方そのものを問い直す」だと伺ったので、面白いなと思って参加しています。
伊東 将志氏(以下敬称略):三重県の尾鷲市で活動する一般社団法人つちからみのれのFounderを名乗っています。僕は「地域商社を名乗らない」と決めています。しかし、地域商社的な役割はできているのかなと思います。
伊東:尾鷲市には火力発電所があったんですが、稼働がなくなり撤去されるという大きな変革期を迎えております。「このまちはどうなっていくのだろうか」と考えた時に、自分で新しい団体を作り、まちに影響を与えていきたいと思いまして。3年前に一般社団法人つちからみのれを作りました。
誰もやらないような方法で、地域のものをどういう風にして全国に広げていくか、認知を高めていくかを考えるのが大好きです。そういった視点でお話ができたらいいなと思っています。
千田 良仁氏(以下敬称略):私は、三重県明和町で観光DMOと地域商社を合わせた機能をもつ明和観光商社の代表をしています。自分自身は三重県出身ではなく、明和町にも縁がありませんでした。ただ、10年ほど前から伊勢市にある大学で教授をしていまして。地域で学生と一緒にいろんなプロジェクトを進めるなかで明和町とご縁ができ、5年前にこの観光商社を立ち上げることになりました。
今日は「地域経済循環を担う役割と価値を問い直す」ということですが、「地域商社」や「地域の経済循環」に対し、皆さんが持っているイメージはどんなものなのか。実際に取り組んだ時に感じたギャップなどを共有しながら、有意義な時間にできたらと思います。
水谷:「そもそも地域商社とはなんだろう」という話ですが、国の認可制度でもなく名乗ろうと思えば名乗れるものなんですよね。お客さんはどんなイメージがありますか。
来場者①:地域商社は地域の商品などを扱っている商社だと思います。
来場者②:同じく。
水谷:では、登壇者のみなさんに地域商社とはどういうものだと考えてご自身の事業をされているのか、聞いてみましょう。
蒲:僕の組織は「地域商社」と名乗っていません。
水谷:伊東さんも先ほど同じようなことをおっしゃってましたね。何か意図があるんですか。
伊東:「地域活性」や「地方創生」という言葉は行政が使い始めた言葉じゃないですか。本来の実態とはちょっと違うんじゃないかと感じていて。地域商社も同じで誰かが作った造語だと思うんです。そういった言葉を使わないでいかに自分の事業を説明するか。そうすることで、本質に迫れるんじゃないかなと考えています。
例えば「地域商社は業種としては何業なんだろう」と考えてみます。例えば、製造業なのか、流通小売業なのか。サービス業やそれら全てを網羅する業態なのか。既に作ってるものを流通させるだけなら、流通・卸業ということになります。何にカテゴライズするかを話すと「地域商社とはなにか」が見えてきませんか。
蒲:確かに商社と聞くと、卸売や小売が思い浮かびますよね。でも、私たちは実際に商品を作っています。地域資源や地域の課題を解決するためにモノを作るだけでなく、そのモノを買ってくれる市場を形成するところまでやります。モノを作り、市場をつくることが主な仕事なんじゃないかと思っています。
水谷:商社機能だけでも良かったかもしれないのに、なぜメーカー的な役割を担う必要があったのでしょうか。 本来だったら売るだけで良かった可能性がありますよね。
蒲:僕の話にはなりますが、ORGANはもともとフリーペーパーを編集する組織でした。その過程で取材した岐阜団扇の職人の工房で、もう作られなくなってしまった水うちわというものを発見しました。半透明でとてもとても綺麗なうちわでした。ですが、18年前に職人さんが作って以来誰も作っていなかった。もう原材料もなく、作り方も伝わっていなかったんです。
そこで、水うちわを復活、再生するプロジェクトを立ち上げました。こうしたうちわは通常1,000円台くらいで売っているのですが、約2年かけて復活させた水うちわは7,000円以上で売り出されました。それが結構売れたんです。
良い物を売って稼ぎたいという思いよりも、長良川流域が和紙の水運によって成立していたという地域のストーリーを伝えていきたい、という思いが大きくありました。つまり、商社としてモノを仕入れて売りたいと思ってプロジェクトを始めたのではなく、失われてしまった文化や地域の物語が売れる市場をつくりたいという思いから始めたんです。
水谷:はじめから商社機能を担おうと思ったわけではないんですね。結果として商社的な機能が必要になった。千田先生も明和町でいろんなコンテンツを生み出していると思いますが、どう思われますか。
千田:私たちも最初はDMOや地域商社という肩書きはなく「まちの人たちがどういうものを誇りに思っていて、地域の資源だと思っているのか」を話し合うことから始まったんです。 その時に、モノというよりは歴史や文化であったり伝統的なものであったり、地域の風景などが挙げられたんですね。
そこから、観光開発をしていくことになったんですが、明和町は元々観光地ではありません。町外からはほとんど認知されていないなかで、観光資源をつくっていく必要が出てきました。
しかし、名産品はお米くらいしかない。そこで、体験できるコトをつくらないと進んでいかないと気づき、 観光商社では「コトづくりでモノとヒトの流れを加速させる」という最初のミッションを打ち出しました。
コトを売るDMOとモノを売る商社の役割を併せて、地域の資源をストーリーと一緒に売っていく、両輪が必要だったんです。
水谷:それぞれ名乗り方はどうであれ、みなさん観光のこともやっているし、商社的なこともしている。さらにプロダクトのキュレーションもしているんですね。
蒲:そこがポイントかもしれないですね。
でも、モノに価値を出すためのキュレーション、あるいはプロデュースは、できていない地域が多い。でもそこが重要なわけです。
モノに価値を出す行為には「地域をどうしていきたい」というメッセージや想いがある。それがない地域では、言葉だけの「地域商社」になっちゃうんじゃないですかね。
水谷:伊東さん、尾鷲はどうでしょうか。
伊東:僕は売れる・売れないだけでは事業を考えられないと考えています。例えば尾鷲市のふるさと納税では、ブリやサーモンといった返礼品が人気で寄附が集まっています。でも、尾鷲ではサーモンは獲れません。仕入れた魚をまるまる加工しているから、制度的にはふるさと納税に出品できるんです。でもそれは地域商社が取り扱うものなのかと考えると、僕は違うと思います。 「地域にある商社機能を持った団体」という点では、地域商社だと言えるのでしょうが。
僕は尾鷲を代表するもの、尾鷲の未来に残したいものを取り扱いたいです。例えば林業。もし尾鷲ヒノキが二束三文で扱われていたら僕は嫌なわけです。何十年もかけて育てたものが、ゴミみたいに扱われている状況は許せません。
だから、そうした商品や素材を舞台にあげてスポットライトをあてて、ただ単に売るだけではなくプロデュースしてディレクションして、しっかりとストーリーを立てて正しく販売し、未来に残していく。そういったことが必要ではないでしょうか。
水産業であれ林業であれ観光業であれ、「地域商社」を名乗るからには、地域におけるアイデンティティーや誇らしさが商品に乗っかっているものを扱ってほしいと思います。
蒲:では、伊東さんが取り扱っているもので、売れているものはなんですか。
伊東:尾鷲ヒノキの間伐材を全国のお風呂に浮かべるという企画はヒットしました。木を売るというよりは、物語を売り出しているつもりです。
蒲:間伐材の物語をプロダクトにして地域にお金が入る仕組みになっているわけですね。千田先生の扱っているものでは、何が1番売れているんですか。
千田:観光商社でふるさと納税の中間事業をやっていまして。地域のお米を出品しているのですが、年間12億円ほど寄附が集まってます。楽天のふるさと納税ランキングでは今年の上半期は明和町のお米が1位だったようです。
蒲:なんでそんなことになったんですか。
千田:地域に大きい農業生産者さんがいて、そこが大量にお米をつくって出品してくださっているからです。そのお米を私たちのメンバーが間に立ってPRしています。
ふるさと納税の仕組みを、私たちは商社機能のツールとして使っています。地元の方も10名ほど雇用して、子育て中の方や子育てが終わった方などが、地元の事業者さんと連携しながら商品開発をしたりPRをしたりしています。
何が売れてますかという質問でしたが、売れてる額や量よりも、それを売ることでどれだけ地域にお金が残るか、 経済が回っていくか、といったところを念頭におくのが地域商社なんじゃないかなと私は思います。
蒲:それなんですよ。小売店は小さな市場や小さな商品は作ることができるけど、産業にまでは発展しないってことが僕のコンプレックスなんです……
前編では、「地域商社」という言葉から連想される機能と、実際に地域で求められている機能のギャップについて深く議論が交わされました。
蒲さんが感じている「産業に発展しないコンプレックス」とはなにか。後編では地域課題の構造的な問題が浮き彫りになり、登壇者たちの共感の声が上がります。ぜひ、お見逃しなく。
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Editor's Note
本業では地域商社とも呼べる企業に身をおいています。モノを売るだけではないけれど、モノを売らないと地域にお金が残らない。日々向き合っている課題のひとつです。登壇者の話が全て心に響きました。
DAIKI ODAGIRI
小田切 大輝