JAPAN
全国
※本レポートは三井不動産株式会社、NewsPicks Re:gionが主催するイベント、「これからの地域経済をつくるための祭典『POTLUCK FES’23 Autumn』」のディスカッションを記事にしています。
ここ数年、「関係人口」という言葉が広まったことで、多様な形で地域と関わり合う動きが活性化してきました。しかし一方で、まだまだ移住や観光に焦点が当てられていることも多く、改めてこの言葉の解釈が問われています。
本ディスカッションでは、「関係人口の価値を問い直す:本当に「観光以上移住未満」で良いのか?」をテーマに、これから関係人口という言葉をどう捉えていくべきかを登壇者が語ります。
地域を活性化したい人はもちろん、地域と関わりたいと考えている人や行政の方など、様々な人にとっての今後に繋がるヒントをお届けします。
モデレーター:本セッションのテーマは「関係人口の価値を問い直す:本当に「観光以上移住未満」で良いのか?」です。
まずは登壇者の自己紹介からお願いします。
平林:株式会社WHEREの平林と申します。私たちの会社は「LOCAL LETTER」というWebメディアを運営しています。
平林:消費者を増やすためのメディアではなく、つくり手を増やすためのメディアという点が特徴です。例えば起業や二拠点生活、副業といった形でローカルで挑戦している事例を、その人のストーリーに沿って紹介するなどしています。
それをただ情報発信するだけでなく、「ローカルライター養成講座」という、地域の魅力を発信するライターを育てる講座も運営しています。
ローカルライター養成講座の特徴は、実際に1泊2日で地域に足を運び特別取材合宿を行って取材・執筆をし、仕上がった記事を最終的にLOCAL LETTERで発信するという点です。そこでいい関係性が生まれて、後日一緒に仕事をするようになったり、実際に二拠点生活を始める方が生まれてきています。また10人程度で伺うので、地域に経済的効果をもたらすこともできます。
そういった形で、ローカルを挑戦するフィールドとして捉え、色々な人と人を繋ぐ仕事をさせてもらっています。
脇氏(以下敬称略):脇と申します。総務省から神奈川県庁に出向しており、プライベートで「よんなな会」という組織をやっています。
脇:全国に実は公務員は338万人もいて、人口の3%が公務員なんです。公務員に対するイメージとして9時5時で安定して働いている例しか思い浮かばないと思いますが、実は300万人もいるので想いを持っている人もたくさんいるはずなんですよね。そういった人たちを横に繋ぐ活動をずっとやってきています。
元々はリアルでやっていたのですが、今は「オンライン市役所」という形でやっています。毎日起きる課題を全国の誰かに助けてもらうことによって解決していこうというプラットフォームです。今は1,200自治体から約6,000人が所属していて、課題感を毎日共有してもらっています。
「あなたの経験が地域の力になる」をキーワードにやっているんですけど、実は誰かを手助けできるとその地域にすごく思い入れが出てきます。全国規模でお互いに想いを共有できるプラットフォームになっているとすると、もしかしたらこれは関係人口を考えていく上ですごく大事なことなんじゃないかなと思っています。
古里氏(以下敬称略):古里といいます。慶応義塾大学のSFCの特任准教授をやっています。また、自分自身も株式会社リトルパークという岐阜県の飛騨高山に拠点を置く会社を経営しています。
また岐阜県の飛騨高山と、北海道の写真の町として有名な東川町というところで二拠点生活をしています。
古里:前職では飛騨高山の信用組合に勤めていました。そこで地域通貨の「さるぼぼコイン」を立ち上げまして、これが全国に広まった地域通貨の事例になりました。
地域通貨は域内だけで経済を回すのではなく、それを1つのお金にしながらも域外の方にも関わりを持ってもらうことを意図してやってきました。飛騨市はその地域通貨をうまくインセンティブとして使って、「飛騨市ファンクラブ」という、まさに関係人口創出の取り組みをしたんです。去年の「夏のDigi田甲子園」で準優勝を取っています。
地域通貨云々の話だけではないんですが、やっぱり地域にとって域外の方とコミュニケーションをし、関わりを持つことはすごく意味があることだなと思いながらこれまでやってきました。今日はそういったところをお話できればと思います。
モデレーター:このセッションは前半で関係人口という指標のインパクトについてお伺いします。後半はその関係人口を使ってよりできることがないかを話し合っていきます。
まずは順番に、関係人口に関する取り組みをお話ください。
古里:一般的に関係人口は観光や移住のレイヤーで語られることが多いと思いますが、僕はビジネスレイヤーの繋がりを意識しています。仕事など何かしら自分のチャレンジの形としてその町と関われないかと思ってる方を、なるべく繋ぐようにしています。
どちらもポジティブなインパクトがありますが、特にビジネスレイヤーの方は、既に移住している方や、行政職員の方たちの意識変革に大きな影響を与えてくれます。そこから出会いが生まれれば、食事したり飲みにいったりと交流も生まれて、「今度こんなことをやってみようよ」という流れが必然的に生まれる。
その意味で、東川町は関係人口を何か具体的なものに変えていくのがすごく上手です。
脇:私は最近「よんなな会」で、北海道の東川町と山形県の西川町で協定を結びました。その町では、やっぱり外から人が来る意味をすごく実感しています。
逆に難しいのが、外から多くの人が来て中の人が冷めている事象が全国に起きてることです。「なんかよく知らない人がたくさん来て、メディアも来て、楽しそうだね」みたいなことが。
でもそれだと関係人口創出を何のためにやっていたのかがよく分からなくなってしまう。「何人が外から来ました。良かったよかった」という風になっているのがすごく勿体ないと思っています。
それでも、外から来た人の価値ってありますよね。外から人が来ると、中の人たちのテンションが上がりますから。特に学生が町に来ると地域の人たちもやる気になる。
関係人口は外を意識しがちですが、実は中をものすごく元気にする力がある。逆にそこを意識しないと何のための関係人口なのかが分からなくなってしまう、というのが大事なポイントだと思っています。
平林:僕の仕事はプログラムやプロジェクトをつくることが多いんですが、自分が好きな地域って自分が好きな事業者さんがいる地域だなって気づいたんです。例えば北海道の東川町に酒蔵があって、その酒蔵が出してる日本酒が大好きだったり、親父さんの考え方が好きだったり。
でも、そういう「好き」を応援する形って今はSNSで発信したりするくらいで。そこで好きを貢献できる形にするために、販促PRの役割をつくって首都圏でポップアップするプロジェクトをつくりました。そうしたら2週間ぐらいで説明会に100人近くの応募が来ました。
そこで実際に現地に行ってもらい、自分が好きな事業を応援するための商品を仕入れてポップアップで売っていただきました。最終的に2日間で60万円ほどの売上ができて、一部利益はその関係人口になってくれた人に還元しています。
金銭的報酬でいうと少しなのですが、それがきっかけで色々な展開が広がっていくっていうのはすごく「優しい社会」だなと思っていて。自分ができることをちょっとずつ持ち寄ってポットラックしていって、関係性が広がっていくインパクトは大きいと思ってます。
モデレーター:次のテーマに移っていきます。個人的な課題感ですが、関係人口をもっと「誤読」していいのかなと思っています。
このセッションを考えるにあたって総務省のサイトを見ると、関係人口は基本的に定住人口と交流人口を増やすことが目的になっています。それに対して、もっと地域独自に関係人口という言葉を定義しても良いと思っているんです。
そこでこの言葉をもっと誤読していくと、何かしらの創発が地域に生まれると思っています。
脇:その通りで、今の関係人口って観光以上移住未満で、移住が素晴らしいっていうのを前提にした考えですよね。移住してくれればそれでいいのだろうかと疑問です。
僕は今横浜に住んでいますが、それで地域に貢献しているんだろうかと考えるんです。それこそベッドタウンだと単に寝るために帰って、確かに税金は収めているけどそれ以上でもそれ以下でもないよなと。
あとビジネスの繋がりをもっとつくっていくという軸は面白いなと思っています。今「よんなな会」でも企業版のふるさと納税のマッチングをやっていこうと思っているんです。
なぜなら会に課題がものすごい集まっているからです。1,200の自治体の公務員が毎日困りごとを抱えている状態は、関係性の可能性でしかないと思っています。
今日は企業の方が結構いらっしゃいますが、町役場で冷たい態度を取られたことがありませんか。それで僕のところにたくさん文句が来るんですけど(笑)。それに対しては、「役所側のニーズをちゃんと聞きましたか」とみんなに返しているんです。
脇:本来町って抽象的なものではなくて、誰が何で困っているのか、解像度を上げれば上げるほど人との関係性はすごく良くなるはずなんです。だから企業版のふるさと納税って面白くて。
今まで行政の人たちからすると、企業の皆さんを見ると予算を狙いに来ていると思ってドキドキしていたんです。それが企業版ふるさと納税で寄付をしてくれてその地域に良いことをやりたいという話になれば、行政もみんな心が開くんです。「なんでそんなことを考えてくれているんですか」と。
これはまさに地域とビジネスをうまく融合させる仕組みで、素晴らしいコミュニケーションが生まれてくると思っています。そのときに関係人口も現状に見合った新しい言葉にアップデートしていけると思っています。
平林:やっていることは官民連携と同じですよね。
脇:そうです。お互いに垣根を超えていこうとしている。そういう言葉に変えていけると思っています。
平林:僕たちがすごく大事にしているのは、地域の人たちから見たら課題にみえることと、例えばクリエイターから見たら宝に見えることを、繋ぐことなんですね。
僕が関わってる地域に茨城県結城市があるんですけど、昔ながらの酒蔵や醤油蔵、味噌蔵があります。行政のオーダーは関係人口をつくりたいというものでしたが、関係人口って概念でしかないのでもう少し具体的にしないと、それこそ人が来て良かったで終わってしまう。
そこでその空き店舗を活用したいクリエイターさんを募集したら、二拠点でギャラリーに使う人が現れたり、色々な工夫の形が生まれています。
関係人口を誤読するなら、ニーズをちゃんと掘り起こしていくことが大事だと感じました。
モデレーター:どういう風に関係して欲しいのか、地域側も訪れる側も解像度を上げる必要があるということですね。
脇:確かにその方が絶対いいんですけど、それが必要だと思ってみんなの手が止まってしまうと嫌だなと思います。何か難しいことのように感じられてしまうのではないでしょうか。
もっと純粋に「助けて」って叫べばいいんだと思います。自分たちが持ってるだけだと確かに課題なんですが、誰かにとってはその課題が可能性になりうるんです。なぜなら課題があればそれを解決するための役割が生じて、役割によって輝く人がいるからです。
僕も今神奈川県で仕事をしていて、神奈川県庁が抱えている課題を全部集めています。課題はたくさんあるのに予算は無いし、今のスキームではできない。だから、全部まとめて放り投げているんです、「助けて」って。
そうしたら「こんな風にできるよ」と提案してくれる人たちが現れるんです。ですのであまり考えすぎずにポンと投げてもいいのかなと思っています。
前編記事では、関係人口が地域にもたらすインパクトを紹介しました。後編記事では、関係人口という言葉をより多様に解釈し、今後の地域の在り方を模索していきます。
Editor's Note
関係人口という言葉が広まって久しいですが、先進的な地域ではより広く関係人口を問い直していく動きが広まっていることを知りました。表面的にキーワードをバラまくのではなく、本質を捉えて見直していく動きは、難しいですがとても大事なことと感じます。
Yusuke Kako
加古 雄介