協力隊
※本記事は「ローカルライター養成講座」を通じて、講座受講生が執筆した記事となります。(第3期募集もスタートしました。詳細をチェック)
都会ではなく、地方へ移住し、自分が好きなデザインで生計を立てていくことができたらと考えてみたことはありませんか。
地方への移住の仕方も、ましてや、そこでデザイン力が必要とされているのかもわからず勇気を持てないまま、一歩を踏み出せないでいる方もいるのではないでしょうか。
地方への移住方法のひとつとして、都市地域から過疎地域等の条件不利地域に住民票を異動し、地域協力活動を行う国の制度を活用して各地で活躍している「地域おこし協力隊」。
今回は、この制度を活用し、『日本一チャレンジする町』『日本一チャレンジする人を応援する町』を掲げる埼玉県横瀬町で、地域おこし協力隊として「デザイン」を軸に活動をしている椿原萌さんの生き方に迫りました。
海外協力隊としてカメルーンで生活をしている間に日本に足りないエネルギッシュさや開放的に生きている人たちを目の当たりにし、日本に漂う閉塞感に対して何かをしたいと感じたと話す椿原さん。
帰国後、東京の民間企業で営業やWebマーケティングなどの“社会人経験”を積むも、社会そのものに関わっている実感がなく、海外協力隊時代のように自分の手足を動かしながらできることを模索したいと思ったことが「地域おこし協力隊」になろうと考えたきっかけだったといいます。
地域創生の優良事例として横瀬町を知っていたご主人の後押しもあり、地域おこし協力隊に応募。横瀬町のスーパー公務員・田端さん※1にも惹きこまれて、とんとん拍子に話が進んでいったそう。
※1 田端将伸さん
過去にLOCAL LETTERで取材をしています。記事はこちらから
「現在は、横瀬町が設立した地域商社『株式会社ENgaWA』で、主にデザインの仕事をしています。ENgaWAの募集は、職種で絞らず、メンバー全員で会社のすべてのプロジェクトを進めています。今の会社の主軸は農産物に付加価値を与える商品開発やその販売ですが、メンバー誰もが、地域のためになることなら分野を問わず新たな事業を立ち上げられる体制になっています。」(椿原さん)
「地域おこし協力隊だと一人一人にミッションがあって、基本一人でゼロから動いていくことが多いですよね。でもENgaWAでは、農作業から商品化・販売までの一連の流れを経験することができるので、デザインをする際にもストーリーをのせやすいですし、メンバー同士お互いにない部分を補いながら、プロジェクトを推進していけることが強みなんです」(椿原さん)
もともと事業作りに興味があり、デザイン思考やUXデザインを学びたくて、地域おこし協力隊になる前からデザインの勉強を始め、今ではイベントのチラシやENgaWA商品のパッケージに加え、町の観光ポスターなどのデザインも手掛けている。
地域おこし協力隊に着任後、2023年2月から2年目に入った椿原さん。
「デザインはこれといった正解が一つあるわけではないので、自分が納得できるところに落とし込ませるまでに想定以上に時間がかかってしまうのですが、場数が踏めたおかげで、徐々に要領もつかめてきました。今でも試行錯誤しながらですが、実績ができてきたことで、今後、地域おこし協力隊を卒業した後でも、個人で活動しやすくなると思っています」(椿原さん)
「もともとはグラフィックデザインよりも、デザイン思考に興味があって。事業や地域全体をどうデザインするかということを深掘りしたいと思っていました」(椿原さん)
今では「やっているうちにグラフィックデザインも楽しくなってきた」といいます。
地域に向けたデザインをする際には、例えば、名刺の文字の大きさは、小さいほうがおしゃれでもその分見えづらさがあるため、あえて大きくしたり、英語ではなく、わかりやすく日本語を使ったり、ENgaWAの雰囲気が伝わるような手作り感、人と人とのつながりが伝わるようなデザインを意識しているそう。
「今後はカメルーンでの海外協力隊の経験も活かして、教育や異文化理解もやっていきたいと思っていて。例えば、子ども向けに、学校ではできないような外国語を使った会話を楽しむ機会を作って。その先に、海外へ関心が向き、世界や日本で起きていることを自分ごととして捉えられるようなきっかけを作ることができたら」と考えている椿原さん。
「いま、ENgaWAのイベントに子どもたちがきて、大人がお酒を飲んでいる傍で、お店のたくさんの在庫を売りさばいてくれるんですよ(笑)。そういった経験の中で、軽くお金の勉強ができると思っていて。そうやって少しずつ学べる仕組みやイベントができたら」とも話をしてくれました。
他にも今度横瀬町で始まる予定のJICA関連のプロジェクトでは、椿原さんが実際にグアテマラへ行き、現地の行政官の方たちに横瀬町の取り組みをプレゼンし、グアテマラの行政課題について意見交換を行ってきたそう。
「横瀬にはこれといった特産品があまりありませんが、官民連携プラットフォーム「よこらぼ」※2の創設など、発想の転換で新しい価値を町に生み出しています。グアテマラで同じことをしようとする必要はありませんが、『あるもので何ができるか考える』『住民と協働する』などのメッセージが、自国の課題に向き合う方々の励みやヒントになれたらと考えています。
横瀬町でJICA関連のプロジェクトを行うことになったタイミングに、たまたま海外協力隊だった私がいて、グアテマラに行くチャンスまでもらえたことは本当に恵まれていて、感謝しています。『日本一チャレンジする町』『日本一チャレンジする人を応援する町』を実感します」(椿原さん)
※2 よこらぼ
企業・団体・個人が実施したいプロジェクト・取り組みを実現するために、横瀬町のフィールド・資産を有効に利用し、横瀬町がサポートする仕組み。
さらに横瀬町の良さを聞くと、「町長と副町長もふらっと活動の様子を見にきてくれて、すごく距離が近いんです!トップの人たちに相談しながら活動できることは、なかなかないですよね。町のスピード感や勢いもすごいので、ついていくのが大変なこともあるのですが(笑)、その分チャンスもたくさんあります」と話す椿原さん。
「今後の目標は、事業の強い柱をつくること。商品開発やコンテンツ作り(ツアー企画など)など、試行錯誤を繰り返す中で、自分自身が地域おこし協力隊後も自立して運営できる事業をつくっていきたいですね」(椿原さん)
「やりたいなら、やればいい。」というスタンスの椿原さん。
「今までの行動が、基本もっと知りたい、もっと理解したいというところからきていて、今後もその時深めたいものが軸になると思います」(椿原さん)
地域おこし協力隊になりたいと思った理由も、海外協力隊を通じて感じた日本への課題感。「何かしたい」と思いながらも、数年間、何もできずにいた自分にモヤモヤし、地域おこし協力隊としての挑戦を決めています。
「自分の手足を動かせないのがモヤモヤの原因だと思って。実際に地域で活動することで、いろいろなことがリアルにわかるようになりました。思い立ったら、実際に試してみることが大事だと思っています」(椿原さん)
「課題解決のための手段にはこだわっていなくて、デザインはあくまでもツールのひとつ。これから自分が地域で、日本で何がしたいのか・何ができるのかは模索している最中ですが、デザインというツールを手にしていることで、取り組みたい課題の精度が高まったときに活かせたらいいなと思っていて。そのために今は、デザイン力を鍛えているところですね。」と話す椿原さん。
自身の経験や体感を着実に自分の強みにしているからこそ、ブレずに前を向いて進んでいる姿がカッコよく感じた椿原さんの取材。
今後、横瀬町でさらに実践を積み、模索して、チャレンジし続ける椿原さんのオリジナルストーリーの続編にこうご期待です。
Editor's Note
「地域おこし協力隊」になるためには、地域で役立つスキルが必要で、応募するにもハードルが高いように感じていた取材前。デザイン力というスキルを持ちながらも、デザインだけにとどまらずさらなる目標を持ち、日々試行錯誤をしながら、着実に歩んでいる椿原さんのお話は、やりたいと思っていても一歩を踏み出せないでいる人たちの背中をポンっと押してくれるのではないでしょうか。わたしも「やりたいなら、やればいい」という椿原さんの言葉に勇気をもらった一人となりました。スキルがあってもなくても、まずはやりたいという気持ちを大切にしたいとあらためて感じた取材となりました。
SATOMI NAWA
名和 智美