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LOCAL LETTER

小さな町の大きな挑戦――。日本一チャレンジしやすい町がなぜ誕生したのか。「本物の」地方創生を体現し挑戦を続ける公務員の姿とは

MAR. 24

saitama, yokoze

前略
まちづくりとは何か。関係人口とは何か。答えを模索しているアナタへ――。

 地方創生やまちづくり、最近では関係人口という言葉を耳にする機会が多くあります。人口が増えればまちづくりに成功したと言えるのか、観光客が増えればみんな幸せになれるのか。そもそも関係人口の定義とは一体何か。

こうした疑問に答えるヒントを与えてくれる自治体があります。

埼玉県横瀬町。池袋から特急で73分、人口約8200人の小さな町が今、官民連携で多様な事業を展開し、ベンチャーや大企業が続々と集まっています。その受け皿となっているのが約3年前に発足した「よこらぼ」。自治体と一緒に何かをしたい、地域を活性化させたいと思う企業と気軽に連携を取ることができるプラットフォームで、町への提案はこれまで120件以上、事業化はなんと70件以上にのぼります。

例えば「よこぜプレゼン部」の事業。社会課題解決のために「学生×社会人」が繋がる場を設け、中学生や高校生の「起業家」がプレゼンをし参加者と交流を深め、無から「有」を生み出す取り組みを行っています。ほかにも「横瀬ブランド塾」の事業では、商品に共感を生むストーリーを持たせ地域ブランド力を向上させるノウハウを学生起業家や地域の企業に専門家が伝授するなどのサポートを実施し、交流人口を増やし続けています。

よこぜプレゼン部の参加者。老若男女が集まり、学生起業家のプレゼンに耳と心を傾ける。
よこぜプレゼン部の参加者。老若男女が集まり、学生起業家のプレゼンに耳と心を傾ける。

どの取り組みも若い人、特に学生の参加が多いのが特徴的。そんな若い人の心をつかむ横瀬町はこう形容されています。

 

日本一チャレンジしやすい町――。

 

この原動力となっているのが、横瀬町職員まち経営課の田端将伸さん(45)。生まれも育ちも横瀬町。「近所の人たちはみんな顔なじみ。消防団にも入っているから地元の人たちと仲が良いんです」と話す田端さんを見かけた女子高生が「こんにちは」と声を掛けました。


田端将伸(Masanobu Tabata)氏 / 1974年、横瀬町生まれ横瀬育ち。秩父農工高等学校電気科に入校したものの、目に見えない電気と向き合うことができず、部活動であった演劇を特に励む。無事卒業後、町内回覧で募集のあった横瀬町役場に勤務、地方公務員となる。 税務課固定資産税担当、総務課財政担当、振興課観光担当を経て、まち経営課で民間・団体等との新しい関係性を築くための仕組み、官民連携プラットフォーム(通称:よこらぼ)の担当として現在に至る。 「小さな町だからこそできることがある」を信条に活動。 ほか、劇団天末線で役者を演じたり、消防団をはじめとした地域の活動にも力を注ぐ。 好きな言葉は「すべての原因は自分に」。

人が交わる場を作り、新しいものを生み出す「Area898」

なぜ女子高生が横瀬町の職員である田端さんに声をかけたのでしょうか。「この子は、これから起業する予定なんです。横瀬ブランド塾に参加してもらい、大人と一緒に商品やサービスについて本気で勉強してもらいます。実社会に早く飛び込むことが大切。もちろん保護者には事前に理解してもらっています。親や先生以外の大人との交流を早いうちに経験してもらうことが重要で、そのプラットフォームがここなんです」


田端さんが言う「ここ」、「Area898(エリアハチキュウハチ)(https://area898.space/)」。

JA旧直売所跡地を住民と横瀬町に関わる「FAN」が交わる交差点、リアルな人が集まる場所としてリノベーションし2019年4月にオープン。ソファやテーブルもすべてリサイクルで集め、内装も「横瀬町のために」と集まったボランティアの手によって仕上げられました。一部コンクリートがむき出しになっていたり、配線のままの電球など「不完全」だからこそリフォームに関わった人たちの温かな思いが伝わる素敵な場所。これまで4000人弱の利用者が訪れ、まるで生きているかのように日々アップデートされ、年配者のみならず学生も利用するなど老若男女問わず、誰でも交流できるコミュニケーションツールの場になっています。

一方、Area898の名前の由来は「898(やくば)と言う意味。自治体の役場というとお堅いイメージがあるので、それを払拭して誰でも気軽に立ち寄れる場所にしたい。その願いを込めてArea898という名前にしたんです」としてやったりの表情を見せながら話す田端さん。なんとコワーキングスペースやノートパソコンの貸し出し、そしてWifiも無料。「誰もがチャレンジできる場所を提供し、コミュニティが生まれる場所になってほしい。人が交われば共感、共鳴が生まれ、新しいものがどんどん誕生していくはずです」と力強く語る田端さん。

県に出向し一度町から離れて、初めて本当の魅力に気が付いた

横瀬ブランド塾の打ち合わせを横目に話す田端さんから溢れ出る「横瀬愛」。子どものころからずっと故郷が好きだったのではないかと聞くと「そんなことはないんですよ」と意外な答えが返ってきました。

田端さんが18歳の時に入庁。最初は税務課の土地を担当し、総務課で財務、振興課で観光を経て現在のまち経営課に配属。そんな田端さんの転機となったのは『県庁出向』と言います。

「ずっと横瀬町にいて、初めて外に出た時に故郷の魅力を感じることができた。水を買うとか考えられなくて。だって横瀬町の水は美味しいから買う必要なんてない。当たり前のように思っていたことが、実は魅力的なもので、それがたくさん横瀬町にあるって素敵だなってそこで気が付いたんです」。

県から戻り観光を担当するようになった時、「横瀬町の魅力を広げたい」という熱い想いを具現化すべく動き出しました。しかし道のりはとても厳しく現実は理想とは程遠いものに。

「観光担当は自分ひとりですべてこなさなければならなくて。しかも予算はほとんどなかったんです。でも1年じっくり考えて、2年目に全部思いを開放したんです。棚田にかがり火を灯して『寺坂棚田ホタルかがり火まつり』と題したイベントをゼロから企画して行いました。そうしたら町内外から7,000人も集まったんです」と言う田端さんの表情が険しくなりました。

 

実は大失敗だったんです――。

 

「人を集めるだけの観光は主催者の自己満足」失敗から学んだチャレンジする価値

「とにかく人が集まることだけしか考えてなくて。来場者からはあぜ道が細いし暗くて危ないとクレーム。住民からは騒音やごみのポイ捨てなどがが酷いと。来場者が棚田に入りきらず道路に溢れてしまい警察からも怒られ、職員からは冷ややかな目で見られました。そのとき、『観光ってなんだろう』と深く考えるようになりました。人が集まればよいと思っていましたがそれは大きな間違いだった。結局、人が集まったところで主催者の自己満足でしかないんです」。

田端さんの想いを変えるきっかけとなった『寺坂棚田ホタルかがり火まつり』

そこで初めて「丁寧に考えること」を学んだといいます。「どうしたら皆さんが満足するのかを常に考えること。人が集まれば良いのではなく、誰もが納得し楽しんでもらえる企画を心を込めて丁寧に作り上げていくことが大切だと気が付いたんです」。

この経験があったからこそ「チャレンジし続けることの価値」を知った田端さん。「やらなきゃ何も始まらない。失敗を恐れてチャレンジしなければ何も起こりません。トライ&エラーを繰り返すことでエラーを修正でき、理想に一歩近づくことができる。かがり火まつりも、たくさん人が集まったからこそ見えた失敗があったわけです。横瀬町のことを好きになる人を増やしたい。だから闇雲に集客するのではなく、少ない人でもよいから心から「この祭り素敵だね」と言ってくれる人を一人でも作ることが、まちづくりに繋がるのだと思います」。

小さな町だからスピード感をもって事業をすることができる。

横瀬町の話をしているときの田端さんの表情はとても幸せそうで、見ているこちらも思わず笑顔になります。「今やっているすべての仕掛けはやりがいの塊。小さな町だから柔軟性があり、スピード感をもって事業をすることができます。いろんな苦労はしてきましたが、全く『苦』と感じたことがないんです。やらされてる感で仕事をしても楽しくないので『ゲーム』だと思うと、何でも楽しく思えるようになるんです。」という田端さんは、テレビゲームなどは一切やらないと言います。

「今、目の前で起こっているリアルなことすべてがゲーム。リアルゲーム。もっと言うと人生はゲームなんです。だからテレビゲームなどをする必要がないんです。だってずっと生まれてからゲームをし続けているんですから」。

後輩にエールと想いを。関わる人たち全てを幸せに

一方、孤軍奮闘のように見える田端さんですが、後世に想いを引継ぎ、自走していくために若手職員を巻き込んだ取り組みも行っています。入庁10年未満の職員が町の魅力を第3者にプレゼンする「プレゼン果し愛」を企画し、隣町と対決。この取り組みで若手職員からは「横瀬町の魅力を再認識できた」「人前でプレゼンすることで伝わる力が身についた」などの意見が聞かれたそうです。なぜこのような取り組みを行ったのでしょうか。

自分に関わりのある周りの人たちに幸せになってほしいから――。

「よこらぼなどの活動を通じて、町を良くしていきたい。しかし、横瀬町民や地域の人、そして職員全員に幸せになってほしいとは思いますが、すべては難しい。せめて自分に関わった人、話をしたことがある人、私の周りにいる人だけでも、まちづくりを通じて幸せになってほしいと思っています」。

ワクワクできる町へ。小さな町で大きな挑戦を続ける公務員の姿

小さな町の大きな力となっている田端さん。「小さな町だから、一人ひとりの小さな力が大きな力となります。職員一人ひとりの力で町を元気にできる可能性を秘めています。とてもコンパクトな町なので大きな市や町よりも細かな配慮ができると思います。困っている人を取りこぼしなくサポートできて、その結果住民から『ありがとう』と感謝してもらえる。そんな素敵な仕事ができるのが横瀬町の職員、公務員の魅力なんです」。

自治体が多額の予算を使ってプロモーションを行い「動画再生回数が凄いでしょ!」「観光客がこんなに来てて凄い」と自画自賛しても、後ろを振り返った時に住民がついてきていなければ、田端さんの言うただの「自己満足」でしかありません。しっかり地域や住民に目を向けて、失敗を恐れずに挑戦をし続ける公務員が増えていけば、住民に理解と信頼されるまちとなり、まちのファン、つまり関係人口を増やすことに繋がる。本物の地方創生やまちづくりの原点は田端さんの活動そのもの、そう捉えることができるのではないでしょうか。

 

最後に。田端さんが考える未来の横瀬町とは――。

 

「いつでもワクワクできる町にしたいし、絶対になると思っています。そして自分でやりたいと思ったこと、チャレンジすることを後押ししてくれる役場でありたいと思っています。小さな町だから一人ひとりの職員の力が大きな力になって町を変えることができる。職員の小さな力を合わせながら地域に寄り添うことで大きな力となり、小さな町の未来を変えることができると本当に思っています。一人の小さな力で幸せが生まれ、その幸せが広がりをみせて、最終的に全ての町民が幸せになる。それが私の理想の未来の横瀬町の姿です」。

そう言い終えた田端さんがポツリと力強くこうつぶやきました。

 

絶対にできる――。

 

日本一チャレンジし、失敗を恐れない公務員の姿がそこにはありました。

草々

Editor's Note

編集後記

公務員を記事に――。真っ先に頭に浮かんだのが田端さん。同じ埼玉県内、お互い「変わった公務員」ということで波長があい、以前から親しくさせていただいていました。人を巻き込む力、田端さんの熱意に改めて脱帽。取材中、何度も火傷しそうになりました。一方、ライターとして情熱のある公務員、凄い公務員、地域に愛される公務員、そして日本を変える人たちを毎月紹介することになりました。広報紙面づくりとは勝手が異なるので戸惑いもありますが、佐久間らしい記事と写真をお届けしていければと思います。

これからも埼玉県横瀬町の応援をよろしくお願いします!

これからも埼玉県横瀬町の応援をよろしくお願いします!

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