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※本レポートは株式会社MATCHAが運営するイベント、「インバウンドサミット2023〜チャンスを活かせ〜」のディスカッションを記事にしています。
コロナ禍が明けて、各地に海外からの観光客が続々と日本に戻ってきました。東京や京都といった都市の観光地はもちろん、最近は地域を好んで訪れる外国人旅行者も増えています。
このディスカッションでは、「日本の新たなディスティネーションはどこか?」をテーマに、いかにしてインバウンド客を地域に取り込むのかについて、登壇者らが語ります。
地域で観光業に取り組む人に、日本人旅行者だけでなく外国人旅行者も増やしていくヒントをお届けします。
前編記事では、インバウンドのターゲットに関する理解を深めました。
後編記事では、お客様の心を動かすための具体的なコンテンツと戦略について、更に深掘りして語っていきます。
原田氏(以下敬称略):永原さん、先ほど日光にお客様を連れて行った話をしていましたが、お客様にどうやってプレゼンするんですか?
永原氏(以下敬称略): このお客様に関しては「東京から2時間程度で行ける場所がいい」という条件が先にありまして、それで幾つか候補を提示しました。
日光は国立公園の中にあって自然体験、文化体験、寺社が揃っているとおすすめしました。かつ、ザ・リッツ・カールトン日光(以下、リッツ)があるので、経営体制もちゃんとできている。総合的なことをお伝えした上でお客様が決めるんですよ、実は。総合的な要素を兼ね備えているデスティネーションがそもそもないので、実はシンプルなことだったりします。
永原:ただ4泊きちんと滞在して、かつそれを友達にも伝えてくれるようにするには、滞在中の体験がすごく大事です。
このお客様が感動した体験っていうのは、数珠づくりだったんです。
その方、もともとブレスレットを持ってたんです。本来は新しいものをつくるという体験だったのですが、持っているものが壊れているから、2つの壊れた数珠を1つにして新しくつくりたいということをリクエストされたんです。
それをリッツのアクティビティの責任者が住職に相談してくれて。さらに、石を通常よりも多めに入れたいというリクエストにも応じてくれて。
実はその数珠は亡くなった奥様からいただいたプレゼントで、本人にとっては思い入れのあるものだったんです。それに住職が祈祷してくださって、お客様はとても涙していました。
永原:それだけで一生に残る思い出になるんですよね。ここのお坊さんは自分のことを理解してくれて、こんなわがままなリクエストも全部答えてくれたんだって。
実はアクティビティを増やすよりは、1つずつきちんとお客様に関心を持って、どうやってより良い体験を提供していくかが重要だと思います。
「人を磨く」「体験を磨く」ということに時間をかけると、勝手にホテルの口コミは広がっていきますし、地域としても魅力が広がっていって、デベロッパーさんが逆につくりたいとなる。1回大成功したら磁石のように引っ張られるんじゃないかなって思います。
原田:なるほど。 皆さん日光以外で今、注目している新しいディスティネーションはありますか?
青柳氏(以下敬称略):私は盛岡です。ニューヨークタイムズで評価されて、今インバウンドがこぞって訪れている地域と聞いたので。まだ行けていないので実際に体感してみたいなというのがあって。
永原:最近私は九州にすごく関心があります。佐賀とか。福岡にもリッツができてすごく安心なんですよ。やっぱり「安心」という言葉が出てきちゃうんです。九州には高級宿泊施設はあるんですが、「ここまでちゃんとやってくれるかな」とか、「旅館側の事情でルールをお客様に押し付けられちゃうんじゃないかな」とか、そういう心配があります。リッツがあると旅館は2泊にして、残りはリッツで受け止めるという風にできるので。
原田: 佐賀出身の方がいらっしゃったら申し訳ないですけど、佐賀ってどういうコンテンツがあるんですか?
永原:お茶も有名ですけどやっぱり焼き物がものすごく多いんですよね。いろんなスタイルがあって若い方がいたり、人間国宝のご家族の方の窯もあったり。
あとはたまたまなのか、佐賀の方々はすごくオープンマインドなんですよね。なのでこちらのリクエストを聞いてくださって一緒にこういうアレンジをしてご案内しましょうと協力をしてくださる。やっぱり人なんですけれど、この人たちとだったら一緒にお客様案内できるなというふうに受け止めてくれる受け皿があるんです。
原田:私の場合はどっぷりはまっている地域は富山ですね。よく薬のイメージしかないっていわれますけど、ぜひ行ってみてください。
職人さんがたくさんいて、アート系アーティストもたくさんいます。南砺市のL’évoさんはオーベルジュとして有名だし、その近くにキュレーションホテルとしては有名なBed and Craftもある。あとはなんといっても岩瀬の街並みですよね。ミシュランに掲載されているお店が何店舗もあって。世界中のセレブが実はこっそり富山に行っています。
これからもっと伸びしろがたくさんある街としては那須だと思います。できれば日光の競合になって欲しい。
原田:そういえば、今日控え室で永原さんが青柳さんにダメ出しされたと思うんですけど、何があったんですか?
永原:うちのお客様はハイヤーで移動されることが多いのですが、中にはあえて電車がいいと希望される方も結構いらっしゃるんですよ。そのとき新幹線と違って、日光に行くには乗車券の事前予約ができなくて特急券だけができる。
そうすると結局、当日スタッフが浅草に行って乗車券を購入する必要がある。お客様にも2つ切符があるからなくさないようにっていうことをお伝えして、フィジカルな希望を伝えなきゃいけない。
できれば、ビジネスアカウントとかをつくって、QRコードでささっと入れるようになるとすごくスムーズなのになと思ったので、そこをちょっとダメ出しさせていただきました。
青柳:それに対して東武ディスカウントパスというものを紹介しました。日本でもKLOOKという旅行体験予約サイトで売っていると思うんですけど、そこではもうQRコード化されています。乗車券と特急券をスマホの上で決済までしていただいて、当日はQRを見せていただければ入れるという流れができてきます。
永原:一言、言いたい(笑)!KLOOKは自分たちで全部手配する人たちが使うサイトなんですね。でも富裕層のお客様は手配してもらうのが当たり前なので、手配はやらないんですよ。
もっと言うと、DMCを介さずに、海外のトラベルエージェンシーがお客様のために全部を手配するんですが、一番困ってるのが電車なんです。それで「本当にごめん、電車だけ手伝って」って言われることが多くていつも悩んでるんです。
なのでもしかすると、ホテルのサイトに掲載するとか、掲載する場所を考えられると認知が上がっていくのかなと思います。
原田:一応念のため確認なんですけど、デジタルパスって受けるのもデジタルですよね?人間がスキャンするとかでは無いですよね?
青柳:今は改札のところを通っていただくんですけど、いずれ自動改札に変わりますので。段階的に変えていくのを早めにやろうとしています。
原田:私は中国出身なので、中国ではもうデジタルが当たり前すぎて、日本に帰ってくると一気に5年前に戻ったみたいな感じはあるんですけど。欧米はどうですか、皆さんアナログでしょうか?
永原:確かにチップもキャッシュじゃなくなってきていますし、電子で払ったりしますし。アメリカも決して先進的ではないですけれど、変わってはきていますよね。
日本は現金を持ってこないと本当にどうにもならない。特に地方はそうですよね。買い物する予定がなくても10万円キャッシュで持ってきてと必ずお伝えしています。
原田:あとはどうですかね。例えば青柳さんが日本人と外国人の観光比率を逆転したいと言っていましたが、そのためにどうやって4倍に増やしますか?
青柳:日本に来る方が増えていけば当然ニーズが上がってきますが、やっぱり日光の知名度が我々が考えてる以上に低いというのがあるので。それをいろんな面で上げていくしかないのかなというふうに思っています。
永原:それは簡単です。海外のエージェントが簡単に手配できるようにしてあげるという、ただそれだけです。
今、海外のトップエージェントがよく使っている、自社でDMCを介さずに販売できるルートというのは東京、アマネム、京都。これだけですよ。
アマネムはちゃんと送迎を出してくれて、お願いすればすべて自動的に成り立つようになっているから簡単にブッキングできる。アマネムに行けば体験を勝手にオーガナイズしてくれるので、すごく楽なんですよ。日光もそうなればいいだけなんです。
原田:アテンドしている方々はマージンが決まっているので、自分たちの工数を減らせる部分を探していると思います。アテンドする方たちがいかに簡単に手配できるかは、本当にキーだと思う。
あと参考にできる事例を1つ。コペンハーゲンに世界一のNOMAというレストランがあって、今年の3月に3ヶ月だけエースホテル京都でポップアップをやったんです。
このホテル、普段は宿泊費が大体3万円弱ですが、ポップアップ期間中は1泊7万円で、2泊14万5000円から。それにコースが約14万円で合わせて1人30万円で売り出しました。それが9分で5000席が売り切れになりました。
エースホテル京都は、リッツのような感じではなく、普通のちょっとしたシティホテルという感じなんです。コンテンツの強さを改めてそこで感じました。ただ、これは世界のトップシェフだからこそで。日本で知られているだけでは、ちょっと足りないかもしれない。
原田:あと皆さん、福井のRENEWというイベントをご存知ですか?1年間のうち数日間、3つの町を開放して工房に自由に出入りできるイベントです。期間中、大体3万7000人がいらっしゃいます。これはコロナ期間の数字です。
日光でもこんな風に振り切ったコンテンツをつくるのが大事なんじゃないかなと思うんです。
青柳:非常に参考になります。そういうのをリッツなのか、あるいは金谷ホテルなのか。ちょっと振り切った食事を組み込んでやってみるというのは面白いかもしれないと感じました。
原田:日光のリッツでできることは、それこそアマネムもできるし、いろんなところができるんじゃないかと。そこでどうやってもっと振り切ったコンテンツを出すのかは、重要なのかなって思います。
そろそろ時間になりましたので、まとめます。
チャンスをつかむための新しいディスティネーションとしては、原点に戻って、ターゲットをきちんと捉えて、コンテンツもきちんと磨いて、振り切ることを徹底するのが大事だと私は思っています。
お二方からも一言ずついただけますか?
青柳:本当にインバウンドは中国からも戻ってくるのかというのはありますが、おそらく段階的に戻ってくるのかなと。もうすぐそこまでチャンスが来ているのかなというところで。あとは準備をしっかりして取り込んでいくことだと思います。
永原:私もいろいろ言いましたけど、やっぱり一番大事なのは人。なので、いかに人が集まるような場所にしていくのか、Uターン者を増やしていくのか、Iターン者を増やしていくのか。そういう地域全体での取り組みというのがあってのディスティネーションなのかなと思います。箱だけではいけないなと。もちろん箱があっての、人ですが。
原田:皆さん、ありがとうございました。お二方ありがとうございました。
Editor's Note
前編からとても濃い話が続きましたが、特にブレスレットのエピソードが、人の重要性を端的に表していて面白かったです。求められるおもてなしのレベルの基準も分かって、インバウンドを呼び込むことは一朝一夕ではないのだなと良くわかりました。
Yusuke Kako
加古 雄介