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「Jリーグをつかおう!」若き女性会計士がJリーグ理事就任後、新たなプロジェクトを始動。境界線を曖昧にし「共創の輪」を広げる方法

AUG. 12

JAPAN

前略、「共創の輪づくり」にチャレンジしたいアナタへ

突然ですが、アナタはサッカーって好きですか? 

私は「好きでも嫌いでもない」というのが正直な感想で、、小中高とサッカーに明け暮れていた同級生はいたけれど、未だにディフェンス、オフェンス、フォワードと言われてもチンプンカンプン。。

そんな私が今回取材を行ったのは、公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)で理事を務める米田惠美氏。

実は「理事に就任するまでJリーグのスタジアム観戦をしたことは1回!」という米田氏は、もともと公認会計士であり、人材コンサル会社副社長として活躍していたという異色の経歴の持ち主。

米田氏は今、誰よりもサッカーに熱狂中している。

サッカーってボール1つあれば、コミュニケーションが取れます。たとえば、一般的に社会課題を解決しようとすると、難しい横文字を使ったり、真面目な顔をしなくてはいけない空気が流れたりすることが多くあります。でも、サッカーはボール1つで、たとえ言葉がなくてもダイバーシティ&インクルージョン*1 が実現されている。サッカーはとてもポジティブな言語の1つだと思っています。しかも、社会のことも、組織のことも、個の生き方もサッカーを通じて語れるって気づいたら、もうこれは面白いな…とすっかりハマっています」(米田氏)

現在、スタジアムで観戦する人は人口のわずか1%ほどと言われています。残りの99%の人とも素敵な想いを共有したいと、Jリーグと地域住民が共創する社会を実現するべく絶賛、奮闘している米田氏。

今回はそんな米田氏への取材から見えてきた「共創の輪づくり」のポイントを2つお伝えします。

米田惠美(Emi Yoneda)1984年、東京生まれ。公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)理事。公認会計士。高校時代から社会デザインに興味をもち、慶應義塾大学在学中に当時最年少で公認会計士の資格を取得。会計事務所勤務を経て、2013年に独立。組織改革や人材育成コンサル会社「知惠屋」の副社長、Jリーグの社外フェローなどを経て、18年3月より現職。社会連携本部を立ち上げ、組織改革に取り組んでいる。
米田惠美(Emi Yoneda)氏 1984年、東京生まれ。公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)理事。公認会計士。高校時代から社会デザインに興味をもち、慶應義塾大学在学中に当時最年少で公認会計士の資格を取得。会計事務所勤務を経て、2013年に独立。組織改革や人材育成コンサル会社「知惠屋」の副社長、Jリーグの社外フェローなどを経て、18年3月より現職。社会連携本部を立ち上げ、組織改革に取り組んでいる。

*1 ダイバーシティ&インクルージョン(Diversity & Inclusion)
個々の「違い」を受け入れ、認め、活かしていくこと。

1, 一部のエリートだけでなく、全員が「自己実現できる」場所をつくる

2018年5月、Jリーグが25周年を迎える節目に、Jリーグはかつてないワークショップを開催した。名付けて、未来共創「Jリーグをつかおう!」。

当日は、Jリーグのクラブ関係者や選手をはじめ、地域のNPOや学生、主婦など、外部の人も含めて約300人の参加者が集まり、54のグループに分かれて「Jリーグを使って何ができるのか」を4時間以上話し合い、57個のホームタウン活用アイディアを生み出した。

このイベントの発起人こそが、2018年3月に異例の理事就任を果たし、Jリーグの経営改革と社会連携の推進を担っている米田氏。

共創社会を本気でつくりたかったんです。世の中は一部の超エリートが変えるわけではなく、みんなが自分にできることを少しずつ出し合って変わっていくもの。Jリーグは誰もが関われる場所であることを伝えるために、自分の興味や関心のために “Jリーグをつかおう!” と呼びかけることで、誰もが関われる器だよというメッセージを出しました。これが社会を構成する一人の当事者だと実感する最初の一歩になればと思っています」(米田氏)

現在55もあるJリーグのクラブは、その全てがスポンサー名ではなく、地域名を名乗り、選手や関係者は地域に出てホームタウン活動と呼ばれる社会貢献を含む活動を年間約20,000回以上も行っている。

しかし、このすごくいい活動であるにも関わらず、ホームタウン活動を知っている人はまだまだ多くないのが現状だ。さらに、クラブからも「これ以上はできない」「もう限界までやっている」という声が相次いていた。

そこで米田氏は、ホームタウン活動の境界線を曖昧にし、地域の人たちと一緒に取り組める「共創モデル」を取り入れはじめる。

「これはJリーグに限らず、今の世の中は “誰が何をやるのか” をあまりにもハッキリと分担しすぎていると思うんです。境界線がもっと曖昧であれば、いろんな人がそこに入りサポートすることができる。Jリーグの地域での活動に、もっと多くの人が参加して、さらに大きな規模でやっていけるようにした方が、Jリーグにとっても、地域にとっても、そこで暮らしている方にとっても良いと思いました」(米田氏)

冒頭でもお伝えした通り、全国民の中でサッカーを観戦したいという人の割合は人口のわずか約1% 。しかし、地域をよくしたいと思っている人の割合であれば、数字はさらに大きくなる。

「サッカーが好き嫌いに関わらず、地域という接点から徐々にサッカーやクラブを好きになったり、地域を一緒に盛り上げる仲間になるという流れがあったりしたら良いと思っているんです」(米田氏)

「 “Jリーグ良いことやってます活動” ではなく、Jリーグは地域に対してこんなことしたいけれど、“一緒にやらない?という投げかけ”なんですよね。クラブを通じて地域に関わることによって、彼らには自然と当事者意識が生まれますし、その中で競争やチャレンジ精神が生まれることで新しいものも生み出されていきます」(米田氏)

今はまだいわゆるトライセクター・リーダー*2 と言われる一部の意識の高い、動ける人材を中心にして動いている共創活動も、「今後はどんな人にでも活用・相談してもらえるように窓口を広げていく取り組みをしたい」と、米田氏はさらなる飛躍を語ってくれた。

*2 トライセクター・リーダー(Tri-sector Leader)
民間・公共・社会の3つの垣根を超えて活躍する人材のこと

2, クラブ同士がつながり、切磋琢磨することでまちづくりを加速させる

「Jリーグをつかおう!」と対外的に打ち出すことで、仲間を増やしている米田氏だが、クラブ同士の活動が自然に連携強化につながるような仕組みを取り入れることで、各クラブの活動からさらに共創の輪を広げている。

「各クラブがやっている取り組みを発信できるように、Jリーグで新しくメディアを立ち上げました。こうすることで、クラブ同士がお互いの活動を知って参考にしたり自分たちの活動と似ている取り組みを行っているクラブに相談したりする流れを生み出したかったんです」(米田氏)

過去にも、新潟で行われた「病院内ビューイング(入院患者を対象としたパブリックビューイング)」をいち早く富山も取り入れたという。そこに「鹿児島ユナイテッド」がやりたいと相談を持ち掛ければ、クラブ同士でアドバイスが行われたりもする。

「もともとみんなでJリーグを盛り上げようという精神なんですよ。オンザピッチでは勝敗の世界ですが、自分たちのホームタウン(地域)に対して良い取組みが出来るならノウハウのシェアは喜んでする人たちがいるというのが、Jらしさであり、その精神が誇らしいです」(米田氏)

Jリーグがメディアを作ったことで「自分たちの活動を取り上げて欲しいと」クラブの方から自然かつタイムリーに入ってくる流れができつつあるという。

「Jリーグでは素敵な取り組みをしているクラブの活動を “素敵だと思う理由” と共に発信することを大切にしたいんです。そうすることで、他のクラブもどんな活動をすればいいのかが明確になり、動きやすくなると思っています。リーグにいる私たちよりクラブの方々のほうがよっぽど現場のことはわかっていますからね。私たちはあくまでもクラブのサポート役にすぎません」(米田氏)

今後さらに地域を盛り上げ、Jリーグを発展させていくためには、まだまだ課題は山積み。これからは、自治体の人に伝えたい情報、地域のイノベーターに伝えたい情報、企業に伝えたい情報をそれぞれのステークホルダーに合わせて、コミュニケーションをとることが重要になるため、コミュニケーション戦略を明確に立てる必要があると米田氏はいいます。

まちづくりにスポーツの文脈が入れば、地域づくりはもっと加速していきます。私が講演をするたびに、Jクラブがそんな地域と親和性が高いとは知らなかった!そんな活動していることも知らなかった!なんか一緒にやろう!と言っていただく度に、知ってくれさえすれば、仲間になってくれるポテンシャルがあるということだと思っています。まだまだやれることもやりたいこともたくさんありますしね」(米田氏)

何より、米田氏が取り組む「共創の輪づくり」活動には、理事就任以前から米田氏が抱いている “ある想い” が込められている。

キーワードは、「ヒトゴトからワガコトへ」。

当事者意識のある、主体性をもってチャレンジする人材が増えることは、Jリーグが発展していくことで必要不可欠であると同時に、昔から米田氏が目指していた「ワガコト化人材の多い世の中の実現」にもつながっているのだ。

「今の世の中は、“上司が悪い” “会社がこうだから” “政治がどうだ” といった、どこか他人事で評論家のような、受け身のマインドが大きく、何かできないことがあると、被害者意識が芽生えてすぐに誰かのせいにしてしまいがちです。もしくは私には関係ない、と他人事なんですよね。でもそれって、自分で物事や自分自身を諦めてしまっている気がしていて。“自分でも変えることができる” というワガコト化のマインド(当事者意識)を持ったら、もっと自分の人生が楽しくなるし、ポジティブに生きられるのではないかと思っています。“誰もがチャレンジでき、誰かを応援したり、誰かの役に立っているという実感が持てる“それを後押しする器をつくりたい、それが私の人生における使命だと思っているんです。」(米田氏)

そんな社会を実現するための糸口として、米田氏はスポーツ界に大きな可能性を感じている。

「私はスポーツって熱量とエンターテイメントが掛け合わさっていて、チャレンジすることも失敗することも当たり前という文化があって、すごく素敵だなぁと思うんです。日常で誰かのことを全力で応援するとか、祈る機会なんていうのはなかなかないのに、スポーツの中だと応援する関係性がごく自然に根付いている。スポーツには、ものすごくポジティブな世界観があると思っています」(米田氏)

スポーツ界のように、常に1人1人が当事者意識を持って仲間やチームのために何ができるかを考え声が枯れるまで誰かが誰かの応援をしている社会が、オフザピッチの世界でも、そして日本全体で当たり前になったら、きっとみんながもっと笑顔になる。

そんな理想を胸に、米田氏は今日も「共創の輪づくり」に奮闘するのだ。

Editor's Note

編集後記

現代人の「当事者意識の低さ」は、常に問題視され続けている。

だからこそ「米田さんが見ている世界は果てしなく大きい。あまりにも大きすぎる理想なのではないか・・・」これが米田さんの取材中、私が一番最初に抱いた正直な感想だった。

しかし取材を進める中で、米田さんの本気がより伝わる場面があった。

「私は時間の感覚も大事だと思っています。目先でどんな成果をあげるかよりも、後世に何を遺すのか、私たちの次世代に私たちは何を遺せるんだろうという感覚でやれば、理想に近づいていくんじゃないかと思っているんです。もちろん、短期的な目標に向かって達成するということも大切だけど、それだけでは競争社会の中で単に消耗してしまいます。歴史や、時代の流れ、生態系を意識して丁寧に仕事をすることも大切じゃないでしょうか」(米田さん)

本気で大きな理想の達成を目指しているからこそ、チャレンジをしながらも着実に実現できる方法を模索し、仲間を増やし、次世代につなげていく。

私も「当事者意識のある社会」の一員になれるよう、次世代メンバーとして気を引き締められる取材でした。

これからもJリーグの応援をよろしくお願いします!

これからもJリーグの応援をよろしくお願いします!

これからもJリーグの応援をよろしくお願いします!

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