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LOCAL LETTER

地域をかえる。自分をかえる。地域と自分の関係性の育み方

APR. 18

YAMANASHI

拝啓、地域のバトンを次世代に繋げていきたいアナタへ

山梨県富士吉田市。まちのどこからでも大迫力の富士山を見ることができる、”富士山に見守られるまち”。

そんな富士吉田市で「自分をかえる、地域をかえる」を合言葉に、次世代の若者と地域の未来をつくる活動をしている特定NPO法人「かえる舎」。富士吉田市にとっての富士山のように、優しく次世代の若者を見守っています。

本記事では、かえる舎を創設し、代表理事を務める斎藤和真さんにうかがった、設立までの経緯や活動内容、未来への想いをお届けします。

「地域の活性化」「地域愛を育む」と聞くと、「何をしたらいいのかわからない」とどこか他人事に思ってしまう。そんなあなたも、「もっと身近で自分ごとに考えていいのか」とすっと余計な力みが抜け、新しい地域との関わり方が見えてくるはず。

活動のベースは地域への恩返し

「先々週かな?卒業式をやったんですよ、ここで。この写真は、その時の名残りです。明日から新しい世代になるんですよ。だから、今日は 卒業生たちの名残りがある最後の日」(斎藤さん)

かえる舎で一緒に活動してきた高校生の写真が壁一面に貼られている部屋で、どこか寂し気な表情で話す斎藤さん。

かえる舎は、富士吉田市から業務委託を受けて、地域と学校の橋渡しをするコーディネート業務と、ローカライズした教育プログラムを構築、実施している。「次世代の人たちが地域と関わる、接点を作る仕事」だと斎藤さんは話す。

富士吉田市の未来を考え、市役所の方々をはじめ、地域の大人と連携しながら、次世代の子供たちと日々全力で関わる斎藤さん。実は富士吉田市出身ではない。

「富士吉田市の皆さんに、新卒で拾ってもらったんです。何もできなかった私を迎え入れてくれて。本当にまちに育ててもらって、生きさせてもらった。

その時に、市の人たちとかまちのおじちゃんたちが『若い次の世代が、ここには何もないと言って出ていっちゃうのが寂しい』とずっと言ってたんですよ。

ここに何もないわけじゃなくて、知らなかったりするだけ。知る機会があれば、絶対みんな『何もない』って言わなくなると思って。『富士吉田が好き』と次の世代が言う環境が生まれることが、お世話になってきた恩返しになるんじゃないかと考えたのが、事業の出発点です」(斎藤さん)

最初は、市役所と高校、地域と連携しながら、「探究学習」という授業を、かえる舎が担当するところから始まった。その活動をする中で「もっとやりたい」という生徒たちが現れ、まちの部活動のような”かえる組”が誕生。さらに、8年前から実践的な座学とフィールドを掛け合わせて、よりリアルに地域での学びを得ていく活動になった。

その後も年々広がりを見せており、2023年は、ふるさと納税の返礼品の小冊子を作成し、地域の働き方を知る「ふるさと発見ワークショップ」を開催した。

「活動を知ってもらいたい」と定期的に発行しているかえる新聞。その効果もあってか、「かえる舎」の名前を伝えると「ああ、あの学生たちの活動ね!」と即答されるほど、街の人々の間でも知名度が高い。
「活動を知ってもらいたい」と定期的に発行しているかえる新聞。その効果もあってか、「かえる舎」の名前を伝えると「ああ、あの学生たちの活動ね!」と即答されるほど、まちの人々の間でも知名度が高い。

 

かえる舎の社訓は、親切・丁寧・上機嫌

学生たちの中から「これやりたい!」という声が出てきた時に、それを実際にやるかどうかを決める基準は、かえる舎の社訓「親切、丁寧、上機嫌」に当てはまるかだという。

「それをやることが、一緒にやる皆さんも含め、人に対して親切であるかどうか。かつ丁寧にやれるか。かつ、それをやりつつ、みんな自身も上機嫌でいられるか。

丁寧にやりすぎたり、自分らが上機嫌でできなくなったり、上機嫌すぎて親切さが失われたり、誰かを悲しませてしまう可能性がないか。 関わってくれる人たちのどういう喜ぶ顔が見られるか。そういうことを考えます」(斎藤さん)

地域のためになるかや、アウトプットがしやすいかは一旦置いて、「関わる自分がどういう気持ちで取り組むのか」「誰かのどんな喜ぶ顔が見れるか、逆に誰かを悲しませないか」ということを考えてみる。
「友達の誕生日、学校でみんなお祝いしたりしてるんですけど、 1週間ぐらいかけてめっちゃ準備するんですよ。もう感動するぐらい。その延長な気がするんですよね、まちに対する関わり方とかも。そういう関係性の中で『こう喜んでもらえたらいいな』が形になって、『ありがとう』と喜んでもらる。瞬間が、私たちにとってもすごい感動です」(斎藤さん)

実行までのプロセスでも、斎藤さんたちがイエスノーを言ったりすることはなく、後ろで見守る姿勢で、かなり生徒たちに委ねているという。とはいえ、新しく入ったメンバーにも、やりたいことをいきなりやらせるわけではなく、まずは入門編から始めるそうだ。

部屋の中には、子どもたちの手作りかえるグッズがたくさん。
部屋の中には、子どもたちの手作りかえるグッズがたくさん。

「入門編は、こっち側で『みんなでまちのポスター作ろう』とか、テーマとか、枠みたいなものがあるものです。それを1回やってみて、地域と関わったり、地域を知ったり、誰かが喜んでくれる喜びをみんな経験する。

その上で、今度はゼロから丸々やりたいことをやる、アドバンスをやってみる。アドバンスは、企画ベースから生徒に委ねるんですが、それをちゃんと一緒にやってもらいたい人とか届けたい人とか、みんなにプレゼンをします。全部生徒自身で」(斎藤さん)

2023年にかえる組のメンバーが企画して販売までこぎつけた「吉田のおにぎり」の場合、実施が決まるまでに学校や市役所、実際に作ってもらうスーパーでもプレゼンを行った。制作・販売が決まった後も試作して改良して、全部で15回ほどもプレゼンを重ねたという。

「考えのスタートは、かえる組ですが、形にしていく中で磨いていくのは、関係者みんなで。 いろんなフィードバックをもらいながら1歩ずつ重ねていって、できていく感じですね。めっちゃ大変なことをよくやってんなと思います。その道のり、過程があるからすごく楽しいし、すごく 感動しますね」(斎藤さん)

みんなの未来を育む仕事。自称”弱い系”まちづくり

斎藤さんが思う、まちづくりや、次世代に地域のバトンを渡すというのはどういうことなのか。

「関係性を育むことだと思うんですよね。そのまちとの関係性、市との関係性、かえる舎と高校や生徒たちとの関係性もそうです。

友達が困ってたら無視しないと思うんですよね。でも、 まちのことになると関係性があんまりないから、 自分ごとにならない。若い世代が地域に参画してくれない原因は、多分そういうところにあるんだと思います」(斎藤さん)

まちの人との関係性が生まれた例として、斎藤さんがあげたのは「吉田のおにぎり」の試作などを頑張ってた生徒が、受験終わった後、久しぶりに戻ってきたときのエピソード。一緒に商品開発を担ってくれたスーパーの方切ったんだね。 確かに勉強する前髪邪魔だもんね」と言葉をかけたという。

「まちの人との間に、そんなコミュニケーションが生まれるのすごい素敵だなと思って。そういう風に、みんながやってる活動から、私たちが見えないところや、その先にいろんな関係性が生まれていっている。そういうのが広がっていけば、それぞれの関係性の中で手を取り合う。他人事にして逃げない、諦めないみたいなことができていくんじゃないかと思って。
横を見ながらみんなでっていう感じですね。弱い系まちづくりだと(笑)。1人じゃビビっちゃうんで」(斎藤さん)

「誰よりもかえる組の子たちの大ファン」と話す斎藤さん。子どもたちの話をする時には自然と笑顔が溢れる。
「誰よりもかえる組の子たちの大ファン」と話す斎藤さん。子どもたちの話をする時には自然と笑顔が溢れる。

「 前を向いて自分で進んでいくのは、すごい下手なんですよ。横を見ながら進むタイプ。みんなで揃って集団で動くタイプなんだと思う。強い『自分がこうやりたいんだ』が、あんまりなくて。

『誰かの力になりたい』とか『助けになりたい』はすごいある。 教育の現場ってそうだと思うんですよ。自分がやりたいというより、みんなの未来を育む仕事だと思う。『友達を助けたい』とかがやりたいことなんですよ」(斎藤さん)

かえる舎は60年続けたい

「仲間のために」という、横のつながりから地域を考える、斎藤さんの精神はかえる舎の在り方や、関わる生徒たちにも浸透している。そんな、かえる舎はこれからどうなっていくのか。

斎藤さんは「富士吉田市で発揮しているかえる舎のノウハウをもっと広めていきたい」と熱い想いを語る。

「公教育がめっちゃ好きなんですよ。場所性とか、経済的な指標とか、みんなが選ばないといけない環境にだけでしかできないものではないと思っていて。

塾に通ったり留学したりは、生徒だけの判断では難しい。 でも、授業って絶対受けている。かえる組も生徒から何ももらってないし、みんなの『頑張ろう』という気持ちがあればできる。だから、どこでも多分できると思うし、やってほしいなと思うんで」(斎藤さん)

もっとたくさんの場所で、かえる舎のノウハウを広め、地域への愛を育んでいく。そしてかえる舎を60年継続させていきたいという。

「富士山は、60年に1度ある猿年にできたと言われてるんですよ。その60年に1度の年は、まちがすごいお祝いをする。その文化を代々神社が受け継いで守ってきている。それと同じように、かえる舎を継続してみようと思っています。60年とりあえず続けてみようと」(斎藤さん)

かえる舎をはじめて8年。8年続けていなかったら、今年の生徒に出会えなかった。8年やなかったら、小学校の時に接した子が入ってくる循環は生まれず、卒業生が戻ってくるという体験できなかった。継続していくことで、やるべきことがどんどん見えてき新しい関わり方も出てくる」と斎藤さんは言葉を続ける。

「かえる舎のスタッフが幸せに働いて、その先に次のみんながいる。それを繰り返しながら、現場にパスを渡してくと思います。卒業生たちの子どもが大きくなった時にも。かえる舎があって、今と同様に必要とされるものを提供し続けたい。

卒業生たちの結婚式とかに行って、『乾杯』と言い続けたいですね」(斎藤さん)

今回、取材をさせていただいた斎藤さんを囲んで。左からLOCALLETTERライターの井内、NPO法人かえる舎代表理事の斎藤さん、LOCALLETTERライターのミシリ。
今回、取材をさせていただいた斎藤さんを囲んで。左からLOCALLETTERライターの井内、NPO法人かえる舎代表理事の斎藤さん、LOCALLETTERライターのミシリ。

Editor's Note

編集後記

今回取材させていただき、愛に溢れる地域活性化への考えが素敵だなと思いました。まずは周りにいる人を大切にすること、誰かのために、自分ができる何かをしてみること、そこからまちづくりは始まるのだと感銘を受けました。
富士吉田市には、自分ごととして、地域のことを考えている方がたくさんいました。ぜひ、一度足を運んでみてください。

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