前略、100年先のふるさとを思ふメディアです。

LOCAL LETTER

マーケットのある日常は、シビックプライドを育む。|マーケットの学校 第1回レポート

OCT. 05

KITAMOTO, SAITAMA

前略、マーケットの価値や可能性を知りたいアナタへ

地域の中でより豊かに暮らす人を増やすことを目指し、「暮らしの中で楽しみをつくる」をキーワードに、埼玉県北本市で『マーケット』をテーマとした実践的な講義がスタート。第1回目の講座は、サンアメニティ北本キャンプフィールドで開催され、現地に10名そしてオンラインで30名ほどの方が参加しました。

今回は、「マーケットの学校」開催にあたってその背景にある行政の前向きな思いを知り、「マーケット」とは何かを考え、参加者の好きなマーケット、やりたいマーケットを伝え合った第1回目の様子をレポートします。

<講義編:全5回>
【第 1 回】 9/5(土)13:30~16:00
 改めてマーケットって何なのか考えてみよう「マーケットの話」
【第 2 回】 9/19(土)13:30~16:00
 実際にやっている人に話を聞いてみよう「マーケット運営者座談会」
【第 3 回】 10/3(土)13:30~16:30
 マーケットを妄想する1 「北本でのマーケット文化を考えてみよう」
【第 4 回】 10/17(土)13:30~16:30
 マーケットを妄想する2 「北本でのマーケットのフィールドを見てみよう」
【第 5 回】 11/8(日)13:30~16:30
 マーケットを妄想する3 「北本でのマーケットの実現に向けて」

 ※第1回~第3回の様子は、以下サイトよりご覧いただけます。

きたもとで考える「マーケットの学校」(北本市ホームページ)

マーケットを通して、市民がまちを好きになるきっかけをつくりたい。

冒頭は、北本市役所の市長公室でシティプロモーションを担当する 荒井さん、林さんになぜマーケットの学校を開講したのかをお話いただきました。

「北本市では、2019年から “豊かな緑に囲まれた、ゆったりとした街の中であなたらしい暮らしを。” という思いを “&green” というキャッチコピーに込めて、さまざまな取り組みを行ってきました。北本市のシティプロモーションは、対象が市外の人ではなく北本市民であることが特徴で、まちに住まう人、関わる人たちに北本市の良さを体感してもらい、“このまちが好きだ” と愛着を持って、好きを発信できる人たちが増えていってほしいという思いのもと、取り組みを進めています」(荒井さん)

荒井 菜彩季さん 埼玉県北本市役所 職員 / 埼玉県本庄市出身。2012年本庄市役所入庁。本庄市役所では、区画整理事業や産業振興を担当。北本市の緑(特に雑木林)とそれを取り巻く人たちに惹かれ、2019年北本市役所に入庁。現在はシティプロモーションとふるさと納税を担当し、地域活性化に取り組んでいる。趣味はクリームソーダづくり。
荒井 菜彩季さん 埼玉県北本市役所 職員 / 埼玉県本庄市出身。2012年本庄市役所入庁。本庄市役所では、区画整理事業や産業振興を担当。北本市の緑(特に雑木林)とそれを取り巻く人たちに惹かれ、2019年北本市役所に入庁。現在はシティプロモーションとふるさと納税を担当し、地域活性化に取り組んでいる。趣味はクリームソーダづくり。

外から人が集まることを考えるのではなく、北本市に住まう人、関わる人たちの「やりたい」をカタチにすること、体感することで、まちをおすすめしたくなったり、まちに参加したくなったり、まちで活躍する人たちに感謝する気持ちを高めていくことを大切にしたいと話します。

そして、北本でのそれぞれ豊かな暮らしを実現するには、「マーケット」が効果的なのではないかということから今回の講座を企画。北本市がマーケットのまちになるということが、シティプロモーションの上で重要だと考えているといいます。

林 博司さん 埼玉県北本市役所 職員 /慶應大学法学部政治学科卒業。大学在籍時、元総務大臣・現早稲田大学教授の片山善博氏の研究会において地方自治を学び、自治体職員を志望。先進的な取組みを多く行う北本市に惹かれ入庁。情報政策、広報、財政、企画担当を経験し、現在はシティプロモーションを担当。北本でのマーケット文化の醸成をめざす。
林 博司さん 埼玉県北本市役所 職員 /慶應大学法学部政治学科卒業。大学在籍時、元総務大臣・現早稲田大学教授の片山善博氏の研究会において地方自治を学び、自治体職員を志望。先進的な取組みを多く行う北本市に惹かれ入庁。情報政策、広報、財政、企画担当を経験し、現在はシティプロモーションを担当。北本でのマーケット文化の醸成をめざす。

「行政として北本市に暮らすみなさんのやりたいということにどのようなサポートができるのか、市として体制を整備するとともに、みんなで北本のことを考えていける環境をつくりたいと思っています」(林さん)

北本市の思いを改めて知った参加者たちは、共感できるポイント、また行政の前向きな取り組みを受け取ることができたようで、大きく頷きながら、真剣に聞き入っている様子が印象的でした。

現代版日本のマーケット文化を。

では、マーケットは、まちや住まう人、訪れる人にとってどのような魅力や可能性があるものなのでしょうか。

ここからは、北本市観光協会の江澤勇介さん、ゲスト講師として建築家の鈴木美央さんが登壇し、マーケットの価値やあり方についての話を聞いていきました。

北本市民で北本市観光協会職員でもある江澤勇介さんは、本業はカメラマン。様々な活動の一環で、自身もマーケットの主催者としてさまざまな企画運営を行ってきました。「面白いことをやりたいと思ってやっているうちに、気づいたら、いろんなことをやることになっていました(笑)」と話す江澤さん。北本市内では、空き家を改装してアトリエハウスをつくるプロジェクトを立ち上げたり、まちの人たちが思い思いに活動ができる「ツカノマ」という場をつくったり、現在では市内の緑被率50%という特徴を生かして、まちを巡りながら雑木林のある北本市を楽しむ「森めぐり」という企画をするなど、暮らす価値を体験するきっかけづくりを行いながら、自身の豊かな暮らしにつなげていっています。

写真右)江澤 勇介さん 埼玉県北本市観光協会 職員 / 埼玉県北本市出身、在住。カメラマン。「面白いこと」を軸に、カメラマンの他、マーケットイベント縁側日和・NEW HOLIDAYの企画運営、実験と発見の場「ツカノマ」の運営、出張写真館「束ノ間写真館」の営業などを行う。現在は、シェアキッチン「ケルン」を運営しながら市内に面白い場所を増やしている。
写真右)江澤 勇介さん 埼玉県北本市観光協会 職員 / 埼玉県北本市出身、在住。カメラマン。「面白いこと」を軸に、カメラマンの他、マーケットイベント縁側日和・NEW HOLIDAYの企画運営、実験と発見の場「ツカノマ」の運営、出張写真館「束ノ間写真館」の営業などを行う。現在は、シェアキッチン「ケルン」を運営しながら市内に面白い場所を増やしている。

マーケットはたくさんの人が訪れてくれればいいだけではない」と話す江澤さん。単なる売り買いではなく、まちの知らなかった人を知る機会になったり、魅力を発見したり……。体験の積み重ねがマーケットの良さであると考えています。

ゲスト講師の鈴木美央さんは、マーケット研究の日本の第一人者。建築家としてイギリスで大規模建築などを手がけているうちに、大きなものを作る以外の手段で豊かな暮らしを実現する方法があるのではないか、「小さな価値を積み重ねるということが大切ではないか」と考え、地域に馴染み文化となっているマーケットに可能性を見出し、公共空間やマーケットを研究し始めたんだそう。

現在、公共空間やまちのビジョン策定などの仕事を手がける鈴木さんは、6つのマーケット企画も行っており、うち4つは仕事として、うち2つは趣味として自身がやりたいマーケットを実現。「マーケットがまちにとってどう意味のあるものなのか、マーケットがあることでまちをどう活性化できるのか?」という問いを常に持ちながら活動をしているといいます。一番初めに趣味で始めたマーケットは、「ただやりたいから、やってみる」というところから企画が始まっていることも教えてくれました。

人が多く訪れることや出店店舗数が多いものがマーケットなのではなく、たった1店舗であっても、それはマーケットであると考えている鈴木さん。これには、少々違和感を抱いた人もいるかもしれませんが、その違和感には、日本と世界のマーケットに対する認識の違いが影響していました。

「日本ではマーケットは “イベント” として認識されていますが、海外ではマーケットは “人々が生きていくために必要なビジネス” として継続されるものと認識されています。なので、海外ではマーケットは日常なんですよ」(鈴木)

鈴木 美央さん O+Architecture(オープラスアーキテクチャー合同会社)・博士(工学) / 早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築意匠設計、公共空間活用・設計、地域ビジョン策定、商店街支援、建築や都市の在り方に関わる業務を多岐に行う。著書「マーケットでまちを変える ~人が集まる公共空間のつくり方~」(学芸出版社)、第九回不動産協会賞受賞。
鈴木 美央さん O+Architecture(オープラスアーキテクチャー合同会社)・博士(工学)/ 早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築意匠設計、公共空間活用・設計、地域ビジョン策定、商店街支援、建築や都市の在り方に関わる業務を多岐に行う。著書「マーケットでまちを変える ~人が集まる公共空間のつくり方~」(学芸出版社)、第九回不動産協会賞受賞。

さらに、この日本と海外のマーケットの違いは、行政のサポート体制にあると鈴木さんは話します。

「マーケットは、生活の質、地域経済、環境など多様な効果が期待されるものです。ですが、日本のマーケットは、地域にとってよい効果をもたらす反面、運営者の負担が大きく、マーケットそのもので生計を立てられる人が少ないという現状があります。一方、世界で見ると、マーケットは都市戦略として位置づけられていることが多く、現在のロンドン市長は『戦略的にマーケットの新時代を目指す』として市長の直轄にマーケットの専門家のチームをつくるなど、行政がマーケットに対する投資を積極的に行っているんです」(鈴木)

マーケットを日常にするためには、行政のサポートは不可欠であると話す鈴木さんは、北本市が行政として市民に何ができるかを考えようとする動きに期待しており、江澤さんもまた、自身の経験から行政による支援は重要だと実感しているといいます。

「まちの中で何かをやりたいと思ったときに “どこに相談すればいいかわからない” という悩みが僕自身最初にありました。役所には、空き家の問題や農業支援などまちの課題ごとに各部署がありますが、行政にとって “空き家=課題” であっても、地元の人たちにとっては “空き家=何かできそうな楽しいもの” になったりもするんですよ。マーケットは課題解決型ではないので、横断的に関わる部署が必要だと思いますね」(江澤)

さらに鈴木さんは市民が自分たちのまちに誇りを持てる「シビックプライド」を育むことで、地域資源を生かした豊かな暮らしへとつながっていくと話します。

「地域に魅力があっても、その魅力が認知されないことは多々あります。マーケットをすれば、魅力がビジュアルとして現れ、人が集う場が生まれるので、市民が魅力を再認知することで、『北本って面白いじゃん』と気づくようになります。そして、マーケットでの交流や体験を通して、気づかぬうちに巻き込まれ自分事化されていくと、今度はまちを好きになったり、担い手になって、シビックプライドが育まれていくんです」(鈴木)

一人ひとりの豊かな暮らしを実現していくために、マーケットはたくさんの気づきを与えてくれるものであると知ると、なんだか自分のやりたいことがカタチにできるのではとワクワクした気持ちになりますよね。現代版の日本のマーケット文化をつくるためには、開催を目的とせず、その先になにをするのかという目的を持つことが良質なマーケットをつくるうえで大切な考え方だと江澤さんと鈴木さんは伝えます。

そして、マーケットの評価を来場者数で見ないようにしていきたいと鈴木さんは次の目標も教えてくれました。

「地域の経済、暮らしにとって、人が大勢来たからいいというわけではないんですよね。ただ、それに代わる評価フレームがないという現状もあるので、これから私自身は評価フレームをつくりあげるということをしたいと思っています」(鈴木)

マーケットは、ゆるやかなつながりが生まれることが魅力の一つ。それぞれの個を認め合いながら、お店同士のコラボレーションが生まれたり、お店と住民がつながってファンになったり。たとえこうした現象が起きなくても「なんか、いいな」と思えるのがマーケットの魅力なのでしょう。だからこそ、来場者数では図れない価値があると鈴木さんは語ります。

どんなものも、マーケットになる。

江澤さん、鈴木さんのトークセッションが終わり、講座の後半は、現地参加をした10名の参加者が自己紹介をしながら好きなマーケットを伝え合う時間。

20代から60代まで幅広い年齢層の人たちが参加している「マーケットの学校」。

北本市在住の人、他市から参加したママやまちづくりに携わる人、成人式の実行委員を務めるため北本市のことを知りたいと参加した大学生など、多様な人たちが集まっています。

埼玉県三郷市から参加した2児のママは、地元でマルシェの運営に携わっていて、初めて運営として携わった際の写真を披露しました。「地元を好きではなかった私が、子どもが生まれ、自分がどうしたらこのまちを好きになり、子どもたちの故郷をつくってあげることができるだろうかと考えるようになった」と話す彼女は、初めて地元のイベントに関わり、「こんな光景が地元で見られるのか」と思えた瞬間が嬉しかったと力強く話します。

また、団体職員の男性は、今暮らしている地域に「楽しく関わりながら経済を回していくことを何かしてみたい」と、マーケットの学校に参加したそう。道路予定地を活用した子どもが商売体験をできるイベントに魅力を感じているという彼に、鈴木さんは「公有地をうまく活用している事例は行政のサポートも関わっている良い事例であり、マーケットに子どもを関わらせることで、将来子どもたちがまちに戻ってくる理由になるので、大切です」と幼いうちからまちに愛着を持てるきっかけづくりの大切さを話してくれました。

農業を営みながら、レザークラフト作家としても活躍している男性は、自宅に工房をつくりお披露目会や体験ワークショップなどを開催したり、子どもが集まる小さなイベントを自ら企画し、地域の人たちが交流できる場をすでにつくっているそう。農家として、収穫時期に手伝いをしてくれる人を募ったり、農産物の市場がなくなったから家の前に無人直売所を作った=新しいマーケットの形が生まれた。という話に、会場からも「新しい視点で面白い」との声が上がりました。売り買いを超えた収穫体験のように、その場所の営みに触れ、雰囲気を味わえるところもマーケットの大きい魅力だといえるでしょう。

参加者それぞれの参加理由や好きなマーケットを聞いていくと、直接会えるということ、そしてその場に行くこと、その場で開催することで何かを得られるということにマーケットの価値を見出しているよう。

マーケットは、小さな日々の営みから「このまちはなんだか素敵だな」と思える瞬間をつくり出しているということなのでしょう。今回の講義を通じて、マーケットは、単に人が集う場というだけではなく、誰かの一歩を後押ししたり、次につなげていくきっかけになったり、新たに魅力的なお店や人を発見できてつながりを感じられる、未来につながっていく可能性を秘めていると感じます。

今回の講義では、「マーケットとは何なのか」を考えてみましたが、次回は、実際にマーケット主催者に直接話を聞く座談会を開催。どのような課題があるのか、どのようにしてマーケットができあがっていくのか、開催する背景にある思いも含め、リアルなお話を聞きます。

Editor's Note

編集後記

「そもそもマーケットはまちの成り立ちと同じなのではないか」と鈴木美央さんはいいました。マーケットは、それぞれの能力や機能を持った個が集まり、できることを通してゆるやかなつながりや安心を得ていく、答えのないまちづくりと一緒なのかもしれないと共感を覚えました。

次回はマーケット運営者のリアルな話を聞き、より具体的に自分たちのやりたいマーケットに必要なことが見えてくる時間になりそうです。

「マーケットの学校」の応援をよろしくお願いします!

「マーケットの学校」の応援をよろしくお願いします!

「マーケットの学校」の応援をよろしくお願いします!

LOCAL LETTER Selection

LOCAL LETTER Selection

ローカルレターがセレクトした記事