ものづくり
子どもたちの子どもたちまで使い続けてもらいたいと願いを込めながら、「100年続くモノづくり」をモットーに、温もりのある木材テーブルやチェアを製造販売する「北の住まい設計社」。
多様な生態系に囲まれた自然豊かな町・北海道東川町の山奥にある、1928年に建てられた小学校が彼らの作業場だ。廃校となった学校を生まれ変わらせた工房には、現在5名の職人が在籍。一つ一つ手作業で家具を作り上げる。
サステナブルな選択をする重要性が謳われる昨今だが、101年先まで見据えたアクションを連続する日々のなかで行うのはそう簡単ではない。
今私たちが日常的に触れているモノは、あと何年使えるだろう。消費者としての使う責任、生産者として作る責任とは一体。そんなことを考えながら、未来のスタンダードになるであろうモノづくりの考え方を「北の住まい設計社」の秦野誠治さんに聞いた。
「101年くらいは使ってほしい」。そんな思いを持ちながら、私たちの想像をはるかに超えた手間と時間をかけた家具づくりをしている「北の住まい設計社」。この“101年”という数字は、自然資源を使って製品を作る彼らの、少しでも環境に与える負荷を減らし、還元したいという強い意思の表れでもある。
「私たちは樹齢40、50年から100年の木を使ってモノづくりをしているから、101年使えないと消費サイクルの方が速くなってしまう。そうならないためにはどうしたらいいか?と考えたら、使い捨てじゃないもの、修理ができるものを作るという選択になります」
北の住まい設計社で作られる家具は、すべてこの指針に基づく。例えば塗料一つにしても、顔料、亜麻仁油、水、卵を混ぜ合わせたエッグテンペラを用いる。これは、古くから西洋絵画で使われてきた天然塗料で、乾燥時間を短縮するシンナーなどの揮発性有機化合物を含まない代わりに、乾くまでにおよそ一ヶ月という時間を要する。
使う人の安全性はもちろん、廃棄後に土に還ること、木本来の美しさを表現することを考えた末のこだわりだ。また、奇を衒うことなく、ごくシンプルなデザインを貫いているのも、彼らの家具の特徴である。
「長く使って欲しいから機能美を優先する。すると、奇抜さはなくなるんですよ。だから実際にお店で目にして、素敵だなと思ってもらうために、木の個性を生かした作りにしたり、触れて心地いい厚みを検証したり、職人は幾度となく試行錯誤します」
手間と工数がかかる分、自ずと価格も上がる。およそ6年前には石油を使って木材を輸入することに疑問を抱き、北海道産の広葉樹だけを使って家具を作ることを決断。収量に限りがあるため、大量生産はできない。ビジネスにおいて非効率的とも言える、これらの強いこだわりはどのようにして生まれたのだろうか。
「代表は元々、飲食店やアパレルショップの店舗設計をしていました。同じ建物でも店がリニューアルしたり、持ち主が変わったり、新しいテナントが入ると、それまで使っていた家具が全部ゴミになるんです。そうした光景を目の当たりにした後に、フィンランドへホームステイをしに行ったそうです。
そこでは多くの人が、おじいちゃんやおばあちゃんの家具を大切に使い続けながら暮らしを営んでいた。このような愛される家具を作りたいとの思いからスタートしました」
いかに手をかけるか、いいものを作るかを考え追求するという信念を持ち続ける「北の住まい設計社」。ユーザーは彼らのモノづくりへの姿勢に共感してくれる人がほとんどだという。
「うちは職人集団。木材の管理や乾燥も自社で行うし、一人の職人が削り出しから製品になるまで一つのものを作ります。お客様には、どこに手間と時間がかかるのかを説明して、すぐには納品できないことや安価ではないことを理解してもらう。
その上で『それはいいね』『君らにしかできないね』と評価してもらっているからこそ、こうしたモノづくりが実践できていると思います。正直、他が真似しようと思ってもできない技術を持っているという自負もありますしね」
北の住まい設計社は、暮らしをトータルで提案したいという思いがきっかけとなり、2001年から「北の住まい建築研究社」として家づくりも新たにスタート。現在は住宅だけでなく、カフェや宿泊施設も手がけている。
建築においても北海道産の無垢材を使うこと、設計から材料の加工、施工までを自分たちの手で行うことを徹底しているのだそう。
「今は家を建てるにも大きい材料が出回らないから、ほとんど集成材が使われています。私たちはそれを使いたくない。というのも、集成材が作られるようになったのはここ最近の話。素材をつなぎ合わせている接着剤が、50年、100年経っても耐久性が落ちないのか、まだわからないんです。長期的に見て、健康被害がないとも言い切れない。
私たちは時間をかけて育ってきた木を使って商売をしていて、木があるからこの仕事ができている。モノという形あるものを作るなら、お客様、その子どもたち、そのまた子どもたちにも使い続けてもらえる製品を作りたい。と思うと、どう作るのかその方法は自然と決まってきますよね」
新しいモノを作ることは容易にできる。しかしそれが誰のためであって、どのくらいの期間使えて、どんな影響を及ぼすのか、そこまで考え尽くしデザインされたものに出会う機会はそう多くない。100年先の未来のスタンダードになるのは、案外こうして手間と時間をかけた非効率ながらも循環型のモノづくりなのかもしれない。
「北の住まい設計社」が展開するオンラインショップ「GOOD NEWS」では、職人こだわりのテーブルやソファ、ベッドなど幅広いラインナップを閲覧・購入できる。商品ページでは、使用している木材の種類や仕上げの手法といった情報も紹介しているので、北海道東川町にあるショールームへ足を運ぶのは難しいという人も納得して手に取ることができるだろう。
Editor's Note
資本主義の社会の中でこうしたモノづくりの精神を貫いているブランド、企業は少ないはず。ブレない指針を持っていながらも、疑問を持ったら木材の輸入をやめる、作り方を工夫する、と変化を進化だと思って行動している「北の住まい設計社」さんの作るものは血が通っているなと感じます。サステナブルかどうかって、人や状況によって見方が変わるものだから正解はないのかもしれない。けれど、こうした取り組みを知ることで少しずつ視野が広がって、ベターな選択ができるようになるんだと思います。
SAWAKO MOTEGI
SAWAKO MOTEGI