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LOCAL LETTER

幸せを考え、暮らしをつくる。手段のひとつとしての「地域おこし協力隊」

JUN. 06

OKAYAMA

拝啓、今の生活に小さな違和感を抱えているアナタへ

「人はどうしたら幸せに暮らせるのか」

10代の頃から向き合ってきた、自らの問いの答えを実践する場として「地域おこし協力隊」を選択した三宅康太さん。

移住先は、「たまたま行き着いた」岡山県美作(みまさか)市 上山(うえやま)地区。かつてここには奈良時代に拓かれたといわれる約8,300枚の棚田があったとされています。人口150名ほどのこの集落に、23歳で移住、2017年から3年間地域おこし協力隊として就任、卒隊後の現在も同地区にて活動を続けていらっしゃいます。

問いを重ねて導き出した「自分の軸」をもとに「地域おこし協力隊」を手段として活用した三宅さんに「自分も、自分の周りも、幸せの輪が広がる暮らし」を実現するための考え方・生き方について伺いました。

三宅 康太(みやけこうた)氏 大芦高原キャンプ場(Oh! Ashi Forest)の運営、「株式会社_にまつわるエトセトラ」共同代表、地域コーディネーター / 1993年生まれ香川県出身。新卒で大阪の証券会社で働き始めるも5ヶ月で退職。大阪から岡山県美作市上山地区に移住し、2017年から3年間地域おこし協力隊に就任。卒隊後も同地区にて棚田の再生、大芦高原キャンプ場(Oh! Ashi Forest)の再建・運営、高校地域コーディネーター、自然を通じて暮らしを豊かにする「株式会社_にまつわるエトセトラ」など「暮らし」を軸に関わる活動は多岐にわたる。
三宅 康太(みやけこうた)氏 大芦高原キャンプ場(Oh! Ashi Forest)の運営、「株式会社_にまつわるエトセトラ」共同代表、地域コーディネーター / 1993年生まれ香川県出身。新卒で大阪の証券会社で働き始めるも5ヶ月で退職。大阪から岡山県美作市上山地区に移住し、2017年から3年間地域おこし協力隊に就任。卒隊後も同地区にて棚田の再生、大芦高原キャンプ場(Oh! Ashi Forest)の再建・運営、高校地域コーディネーター、自然を通じて暮らしを豊かにする「株式会社_にまつわるエトセトラ」など「暮らし」を軸に関わる活動は多岐にわたる。

会社員時代に抱えた小さな「違和感」。自分の人生をどう生きるか問い直した23歳

大学時代に「人は幸せになる為に生きている。では、幸せの輪を広げていく為には、どうすればいいだろう」と考えていた三宅さん。

大学卒業後、大阪にある証券会社に就職。金融の仕事を通して、一般の方もお金に関する正しい知識を身につけて活用できるようにサポートすれば、お金で困る方が減り、より幸せに暮らせる人が増えるのではないか、と考えてのことでした。

しかし、働き始めて数ヶ月で、小さな違和感を抱きます。

証券会社の仕事にやりがいを感じなかったわけではありません。「人が幸せになる為に改善すべきは、お金の問題ではない。今の暮らしでは、幸せを広げていくことに限界がある」と金融業界に携わったことで気づいたといいます。

「結局、幸せの根っこにあるのは、ひとそれぞれ違うと思いますが、モノの価値の尺度を自分で持てれば、ある程度幸せを実現できるんじゃないかと感じています。

社会がこう言っているから、と価値基準を周りに持たせてしまうと、自分の本当の幸せの価値観とずれてしまい、一向に幸せを実現できなくなってしまう。『価値の尺度』を自分で持てているかは、とても大事なことです」(三宅さん)

違和感を抱えてからは、その正体を探るため、色々な人に会いに行ったそうです。本を読んだり、ネットで調べたりしているうちに「地域おこし協力隊」の言葉を目にし、実際に協力隊に参加する方々に出会って、話す機会もありました。

調べたり、話したり、小さな行動を繰り返し、また「幸せに暮らすにはどうすればいいか」「本当の豊かさとは何だろう」と自分に問いかける。価値の尺度を自分で持ち、価値観を見つめ直す。それを繰り返すうち、三宅さんはひとつの結論を出しました。

「モノを生みだすことの方がお金よりも価値がある。モノを生みだせるような場所に身をおきたい」

そんな折、三宅さんはWEBマガジンで、岡山県美作市上山地区の地域おこし協力隊の記事に出会います。すぐに上山地区に出向き、地域で活動する方々と話しました。

150人ほどの人口のうち移住者は40名以上。いろいろな年代の住民たちが自分の生き方を模索し、実現しようとする暮らしを目の当たりにした三宅さん。

「ここで頑張れば、自分の人生を自分で変えていくことができるかもしれない」

そう直感した三宅さんは、翌日には勤めていた証券会社に退職を相談、1ヶ月後には大阪から上山地区に移住。まず、NPO法人英田上山棚田団でアルバイトとして棚田の再生に関わり始めます。「棚田をどう活用しようか、キャンプ場をどうしていこうか」と考えを巡らせる日々。移住に対して迷いや葛藤が浮かぶ間もないほどだったそうです。

地域おこし協力隊を軸に情報を集めていたわけでもなく、目にした本や記事、ましてや上山地区との出会いも「たまたま」だったというから驚きです。

若造が信頼してもらうには、行動を積み重ねるしかなかった

「モノを生みだすことに価値がある」と気づき、地域を訪れ、移住。幸せを実現する場として選んだ地域おこし協力隊ですが、実際はどのように過ごされていたのでしょうか。

「証券会社を5ヶ月で退職した23歳の自分に対して、地域の方が『そんな若者が続けていけるのか?』と厳しい視線を向けるのは、当たり前だと思っていました。だから行動で証明するしかない、と。

移住仲間がいるから大丈夫ということではなく、ちゃんと自分が地域にとって信頼できる人間だと証明していかなくてはならない。

挨拶をきちんとする、行事には参加する、といった基本的なことをやるのは当たり前ですし、キャンプ場という分かりやすい場所でも伝えていこうと考えました。休業状態のキャンプ場を整備し、お客さんを増やす流れをつくり、目に見えやすい形で成果をあげていく。こうしたことが実績となり地域の方に認められていったと思います」(三宅さん)

キャンプ場の再建担当は4年間、三宅さんひとりだったといいます。

「協力隊として月収が担保されていたから活動に集中できたけど、それがなかったら大変だったと思います。キャンプ場を始めてすぐは、お客さんが月で4人しか来ないような状況でした。キャンプ場経営の為にSNSを活用したり、自分で考えて行動したりしていくことはとても大事です。苦労したとは思ってないけど、楽ではなかったかな」(三宅さん)

ここ数年は県内の学校と連携し、地域と子ども達をつなぐ、地域コーディネーターとしても活躍中。「もっと自由に人生を楽しむ文化を若い世代からつくっていきたい」という思いから始まりました。

こうやって一歩一歩実績を積み重ねた結果、協力隊になってから現在まで、三宅さんの関わる活動は多岐にわたっています。しかし、活動範囲は闇雲に広がったわけではありません。源流はみな繋がっています。

高齢化の為、耕作放棄地がすすんでいた棚田の2,000枚以上を再生させ活用を続けているNPO法人英田上山棚田団。棚田を通して地域の人が繋がる活動はもちろんのこと「稲株主制度」や「米友達」など新たな制度をつくり、農業体験などを通して、都市部の方との接点をつくる取り組みもされており、三宅さんもその団員の一人として活動に参加している。
高齢化の為、耕作放棄地がすすんでいた棚田の2,000枚以上を再生させ活用を続けているNPO法人英田上山棚田団。棚田を通して地域の人が繋がる活動はもちろんのこと「稲株主制度」や「米友達」など新たな制度をつくり、農業体験などを通して、都市部の方との接点をつくる取り組みもされており、三宅さんもその団員の一人として活動に参加している。
三宅さんの移住当初の2016年、大芦キャンプ場(Oh!Ashi Forest)は、担い手がおらず休業状態になっていた。「自然を通して、人が集まる場所をつくりたい」との想いから、地道に再生を続け、現在は-Oh!Ashi Forest-として、三宅さんご夫婦を中心に運営を続けている。
三宅さんの移住当初の2016年、大芦キャンプ場(Oh!Ashi Forest)は、担い手がおらず休業状態になっていた。「自然を通して、人が集まる場所をつくりたい」との想いから、地道に再生を続け、現在は-Oh!Ashi Forest-として、三宅さんご夫婦を中心に運営を続けている。
2020年からは、アウトドア体験の提供と、ものづくりを中心に暮らしを豊かにする活動に取り組む「株式会社_にまつわるエトセトラ」を設立。里山の田んぼをつかい、通年にわたる土づくりなどの農業体験を企業研修として実施。今後は食育などの観点もいれ、対象を一般にも広げていく予定。キャンプ場で結婚式を挙げる「OUTDOOR WEDDING」を自身の結婚式で実施するなど、次々と新しい試みが実施されている。
2020年からは、アウトドア体験の提供と、ものづくりを中心に暮らしを豊かにする活動に取り組む「株式会社_にまつわるエトセトラ」を設立。里山の田んぼをつかい、通年にわたる土づくりなどの農業体験を企業研修として実施。今後は食育などの観点もいれ、対象を一般にも広げていく予定。キャンプ場で結婚式を挙げる「OUTDOOR WEDDING」を自身の結婚式で実施するなど、次々と新しい試みが実施されている。

地域おこし協力隊の活動でみえてきた「暮らし」と新たな「父親という仕事」

活動していく中で、ご自身の幸せの捉え方やマインドの変化などはあったのでしょうか。

「幸せを実現するために、何かを生みだす、モノを作りだしていく。この方向は間違っていなかった、と強く感じるようになりました。

棚田の再生にしても、自然体験学習にしても、人間の暮らしの基盤になるのが、土づくりだった。土は食べ物をふくめ、あらゆる命を生み出すところ。だから、そこをないがしろにしてはいけない。

食べ物や空気など、人間の基盤にあるものを大切にすることが幸せに直結するし、そこが歪んでいたり、欠けていたりすると、からだや心に不調がでてくる。ここでの暮らしを続けるほど、より実感するようになりました。

改めて、モノをつくることや、土をつくることを大事にしたいと感じています」(三宅さん)

三宅さんに今後の展望をお聞きすると、先に挙げた代表的な4つの活動に加え、新たなプロジェクトとして、NFTを活用した地域コミュニティづくりを始められていました。その目的は、NFTという新しい技術をこれまでの活動と組み合わせながら、今よりさらに様々な人が地域に入りやすくなるようにすること。そして入ってきてからも活躍できる社会を目指しているのだそうです。

「もう一つは『父親という仕事』ができました」

そう語る三宅さんの膝の上で、取材中ずっと元気に遊んでいる息子さんの姿がありました。2023年3月、三宅さんご夫婦に長男が誕生。名前は「禄士(ろくし)」さん。
家族に幸せをもたらしてくれたように、出会う人にも幸をもたらせる人になれるようにという意味が込められています。

「ワークとライフは切り離すものではなく、全て混じりあっての個人だと思っていて。子どもに胸を張れる仕事をし続けたい。それ以外の暮らしの部分も仕事につながっているし、重なり合い、混じり合うものだと感じています。

その暮らしの中に『父親』という仕事もちゃんと入れ込んで、意識して、全うしていく。その意識がないと、父親である自分と、子どもがつながりを感じないまま育っていってしまう気がしていて。

父親としての自分の人格を持つことで、子どもの為に仕事中にも何かが生まれ、選択する仕事の内容も変わってくるから。

この地域が、息子の『故郷』になっていく。大切な故郷として、ちゃんと『帰りたいと思える場所』にしていきたいと思っています」(三宅さん)

地域おこし協力隊制度が「魅力」になるか「呪い」になるか

自分の幸せの軸を見つけ、邁進する三宅さんですが、地域おこし協力隊の制度は万能ではなく「魅力でもあり、呪いにもなる」と言います。

「プラスに捉えようとすれば魅力だけど、『協力隊なんだから地域のことを優先しろ』と圧力を感じたり、必要以上に強迫観念になって身動きがとれなくなったりする方も見てきました。
さまざまな重圧に耐えかねて、任期が終わると地域を去ってしまうことも。

協力隊になる前に、本当の意味での自分の幸せはなんなのか、じっくり考えてみてほしい。自分の幸せを第一に考え、そのなかで協力隊制度が活用できると思ったら、幸せを体現していく時間としてその期間を使ったらいいんじゃないかなと、個人的に思っています」(三宅さん)

小さなコミュニティに暮らしていると、お金にならない仕事が地域をつくっていることを実感するそうです。お金にならない仕事は、地域を維持する役割をもつことが多く、ないがしろにはできない。しかし、その仕事に追われ、自らの暮らしが侵食されると、自分の幸せを体現していけません。三宅さんの活動は、そのバランスがとれる仕事づくりを模索しているともいえるのです。

そこに父親としての視点が加わり、さらにフィールドが広がっていく。
手段にとらわれず、自分の幸せを軸にする。軸を見つけたら、小さな行動を起こす。そして行動で証明していくこと。

それでも理解されずに苦しいとき、どのように乗り越えてこられたのでしょうか?

「気分が落ち込むときにはとことん落ちて、落ちきって少し越えたら、ちゃんと言葉にする。理解されないからダメだ、と終わらせるんじゃなくて、自分の責任で言葉にする。

行動で示すだけでは足りなくて、相手に伝わる方法や言葉を探って、試して、理解してもらえる機会を増やしていくことも大事だと思うようになりました」と三宅さんは穏やかに答えてくださいました。

自分の幸せを体現していくために「地域おこし協力隊」が気になる方は、「調べてみるか」そんな一歩からでも始めてみてはいかがでしょうか。

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Editor's Note

編集後記

三宅さんのInstagramやnoteなどのSNS、取材中の様子を拝見していても「暮らし」を大切にし、真摯に向き合う様子が伝わってきて、心がじんわり温かくなりました。子がいる身として、私も真剣に「母という仕事」をまっとうしていこうと思います。

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