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LOCAL LETTER

地域おこし協力隊から政界へ。「前例がない」を切り拓く「豊かな働き方」

MAY. 28

NAGANO

拝啓、地域で自分の「やりたい」を貫きたいアナタへ

長野県富士見町は、コワーキングスペース・会議室・食堂を備えた複合施設「富士見 森のオフィス」を自治体主導で展開するなど、先駆的な地域おこしの取り組みを行っているまちの一つです。

なんとコロナ禍を機に、2020年度の移住相談は前年の約6倍にも増加。連年で転入超過を記録しています。人口15,000人にも満たない長閑なまちですが、意欲のある若い人を惹きつけ、移住先として注目を集め続けているようです。

今回ご紹介する渡辺葉さんも移住者の一人。アメリカ合衆国の高校と大学を卒業後、ギャラリーの企画運営や翻訳・通訳士としてのキャリアを積み、2015年には地域おこし協力隊に着任し富士見町へ飛び込みました。そして現在は富士見町議会議員として活躍しています。

多様な場で働いてきた渡辺さんが、地方議員という仕事にどういった可能性を見出しているのか。また地域おこし協力隊という枠組みを上手く使うにはどうしたらよいのか、お話を伺いました。

海外留学から都内就職。「兼業」を条件とする協力隊にたどり着いたワケ

神奈川県横浜市の青葉区で生まれ育った渡辺さん。高校からアメリカ合衆国に留学して、現地の大学を卒業後、日本国内の企業に就職しました。

渡辺 葉 氏 富士見町議会副議長・翻訳者/ 横浜市出身。アメリカの高校・大学を卒業後、東京都内でギャラリー企画運営を経て2015年に長野県富士見町に移住。富士見 森のオフィスの立ち上げスタッフを地域おこし協力隊として務める。2019年地域おこし協力隊卒業後は、一社アースカンパニーにて国内外の学校・企業向け環境実践型プログラムや総務の仕事をリモートワーク。2023年に町議会議員に立候補、当選。2人の子どもを子育て中。
渡辺 葉 氏 富士見町議会副議長・翻訳者/ 横浜市出身。アメリカの高校・大学を卒業後、東京都内でギャラリー企画運営を経て2015年に長野県富士見町に移住。富士見 森のオフィスの立ち上げスタッフを地域おこし協力隊として務める。2019年地域おこし協力隊卒業後は、一社アースカンパニーにて国内外の学校・企業向け環境実践型プログラムや総務の仕事をリモートワーク。2023年に町議会議員に立候補、当選。2人の子どもを子育て中。

「アメリカの大学院に行こうかなと思っていたんですが、学費が高くて。それなら社会経験を積んだ方が良いと考えて日本に帰りました。

新卒で実績を積みつつ働けるのは日本ならではの大変貴重な経験です。経験や資格がなくても給与をもらいながら様々なことを学べる風習は、アメリカにはありません。その機会を活かさないともったいないと思い、大学院進学をやめ、大した就活もせずに内定をいただいた会社に入りました。」(渡辺さん)

お話を聞いていると、聡明で計画的に考えて行動されていることが良く分かります。それでも、キャリアの初期は思うようにいかず、大きな壁にぶつかりました。

「就職先は広告系の営業職でした。日々、朝早く出社しフロア分の営業資料を印刷し、1日外回り、夕方から会議、夜遅くまで資料作り、というハードな生活を送っていました。数字ですべてが判断され、働いている人の「楽しい」という気持ちは二の次。本当にやりたい仕事でない限りここまでの時間は費やせないと思い、その会社を辞めることにしました。」(渡辺さん)

しかし、たとえ転んでもただでは起きないのが渡辺さんのすごいところ。闇雲に仕事を辞めるのではなく、着実に次のステップへの準備をしていました。

「社会人1年目から翻訳の仕事を副業として始めていました。映像翻訳などをやらせてもらっていて、これなら仕事になるかもと思って会社を辞める決断ができました。さらに、大学時代にアルバイトしていた東京のアンティークショップ兼ギャラリーからお声がけがあり、そちらでも働くことにしたんです。」(渡辺さん)

ギャラリーの企画など、東京での仕事はやりがいがあって楽しい一方、次第に東京以外のところでも暮らしてみたいという思いが湧いてきます。

「東京の暮らしも楽しいですが、もっと『土に触れたい』という欲求が出てきたんです。東京では二子玉川沿いに一軒家の一室を借りて住んでいたので、東京の中では割と緑に触れていたと思います。でも、もっと自然が綺麗なところに住みたいなと。

あとはずっと引っ越しばかりだったので、自分の家具を持ちたいという定住への思いも出てきました。それなら東京じゃないなと思って、ギャラリー関係者が移住している富士見町に興味を持ちました。

引っ越そうと思う前から、夏の音楽フェスや冬のイベントに参加するなど、年に何回か富士見町には行っていたんです。綺麗なところだし、知り合いもいる。とりあえず東京を出るならそこかなと。」(渡辺さん)

翻訳の仕事を軸に生きる想定をしつつ、渡辺さんは移住前に富士見町役場に話を聞きに行きました。それからはまるで何かに導かれるように、話が広がっていきます。

「せっかく引っ越すならまちのことも知りたいし、何か地域に貢献できたら嬉しいなと思って、翻訳の仕事があるか聞きに町役場に突撃したんです。それがちょうどまちが地域おこし協力隊を募集しているタイミングでした。担当者の方には『募集締め切りがあと1週間後なので、とりあえず申し込んでもらっていいですか』と言われて。

内容はコワーキングスペースの立ち上げスタッフの募集だったんですが、条件が『兼業ができる人』でした。それがすごくいいなと。翻訳の仕事だけだと安定した収入を得るのが難しそうだし、地域の人と知り合う機会が持てなさそうだなと不安だったんです。 

協力隊という肩書きがあれば人脈も広がるかなと。役場ともつながれたら嬉しいなと思って応募しました。」(渡辺さん)

そうして無事に富士見町の地域おこし協力隊に採用され、念願だった「土に触れる」暮らしをスタートさせます。このときの決断を、渡辺さんはこう振り返ります。

「地域おこし協力隊を選んだ背景において、新卒での就職経験は重要な分岐点だったと思っています。豊かな働き方かどうかは、給料の多寡だけでは測れません。それ以上に、やりがいや自分の判断で物事が決められる方が大事だと、気付くきっかけになりました。」(渡辺さん)

身近なロールモデルが政治に吹き込む新しい風

富士見町としては、初めての受け入れだったという協力隊。役場は渡辺さんと密接に掛け合いながら、柔軟に業務を設計していったといいます。渡辺さんも自身の働き方や暮らしの追求を続ける姿勢を保ち、協力隊着任約1年後には全国初となる協力隊任期中での産休・育休を取得。これは、自ら総務省に声を届けた結果でした。渡辺さんの前向きな姿勢が、後に続く協力隊員たちの道をも拓いています。

地域おこし協力隊を卒業後は、一般社団法人アースカンパニーに所属。気候変動など、環境に関する体験型・実践型の授業を国内外の企業や学校に対して行っていました。その間は、ローカルにはほとんど関わっていませんでした。

「インドネシアのバリ島に拠点がある仕事だったので、日々英語を使っていました。国内でも東京の学校や企業とやり取りすることが多くて、富士見での活動はストップしていたんです。」(渡辺さん)

朝から晩までパソコンの画面を見る生活。それからようやくコロナが収束し、そろそろリアルで人と関わりたいと思っていたところに、転機が訪れます。「町議会議員にならないか」と声をかけられたのです。

「きっかけは、私が講師として町内の商工会会員さん向けに研修をしたとき。私の顔写真や経歴をみて、『この人、声をかけたら議員をやるんじゃないか」と思われたようです。」(渡辺さん)

渡辺さん自身、最初は議員になりたいとは全く思わなかったそう。しかし同じ年代で活躍する議員の存在を知っていく中で、徐々に議員になる選択肢を意識するようになります。

「富士見町内では、地域おこし協力隊と議員との懇談会や意見交換会がありましたが、年配の議員としか会ったことがありませんでした。

でも、アースカンパニーを通して議員と仕事で関わる機会があって、幅広い年代の議員の知り合いが増えました。その中にはお母さんをしながら議員を務めている人もいて。そのことが印象に残ったんです。」(渡辺さん)

さらには、自身の社会的な課題意識も後押しになりました。

「まちに子どもが減っているのは大きな課題です。課題へのアプローチとして若い人を増やすためには、当事者の声を政治に届けないといけないのではと。富士見町には若い議員が不足していたので、私が参画することで少しでも力になれると思ったんです。」(渡辺さん)

それから町議会議員選挙に立候補して見事に当選。現在は富士見町議会議員として、これまでとは違った分野で取り組みを進めています。

「議会改革実行委員会の委員長をしているのですが、なるべく多くの当事者の声を議会全体としても聞きたい、という思いで、議会と様々な住民の皆さんとの意見交換会を企画・開催しています。令和6年度は12回開催予定。意見交換会で出た声をもとに一般質問などしてくれる先輩議員さんたちもいるのが嬉しいです。

個人的な活動としては、富士見町で子育て中の方を対象としたオンラインアンケートを毎年実施し、カテゴリー別にまとめたレポートを町に届けています。子育てに仕事に忙しいお母さんお父さんは、意見交換会などを開催しても集まるのが難しく、声を届けづらいんです。

他に注力しているのは、古くから続く集落の暮らしの魅力を次世代につないでいくこと。富士見町らしさでもある古き良きモノと、新たなまちの魅力との融合に取り組んでいます。特に自分は移住者で知らないことばかりなので、地元の方から学ぶ時間から多くのヒントを得ています。」(渡辺さん)

【渡辺さんの取り組み事例】

さらに活動範囲は富士見町にとどまらず、長野県の各自治体にも繋がりを広げています。

「昨日も、長野県大北地域の女性議員の会に参加してきました。諏訪地域の議員の方とも月1で会っていて、身近な疑問について話し合ったりしています。県内には繋がりが沢山ありますね。」(渡辺さん)

中でも諏訪地域には同世代が多く、本当に仲間のように感じるという渡辺さん。昨年の選挙で若い世代の議員がすごく増えたことにも、今後の政界への可能性を感じているようです。

「議員になる人を見て、自分も議員になれるんだと感じられる。そうしたロールモデルが身近にいれば、議員を志す人がもっと増えていくと思います。」(渡辺さん)

飛び込む勇気を受け止めてくれた、富士見町という器

渡辺さんは現在2児の親。理想とする生活とのバランスをとりながら、政治へ参画することに大変さや苦労はなかったのでしょうか。

「選挙期間など子どもに寂しい思いをさせてしまうこともあるので、子どもが保育園や小学校に通っていない時間はできる限り母親として子どもと一緒にいることを優先しています。個人的には、男女問わず子育てと仕事の両立を社会全体で支えられるまちづくりに興味があります。

今は確かに子育てと仕事の両立に難しさを覚えていますが、その負担も女性だけが背負うべきものではありません。パートナーの理解や分担があれば一般的な共働き世帯と同じように、議員活動と子育ては両立できると感じています。

また、富士見町の議会では、女性だからという理由で否定されることは全然なく。その人の考えていることや実現したい姿、まちづくりへの思いで判断してくれていると感じます。私のいる環境においてはあまり『女性だから』『議員だから』ということにとらわれる必要はないのかなと思っています。」(渡辺さん)

海外留学から帰国し、一般企業に就業しながら自分で仕事を始め、富士見町に移住してからもグローバルな仕事をし、そして今は議員として活動する渡辺さん。多岐に渡る活動をこれまで続けてこられた、その原動力はどこにあったのでしょうか。

ここまでこられたのは、楽しいと思うことしかしていないからだと思います。議員の仕事も全部楽しいなと思いながらできているんです。」(渡辺さん)

一般的に固いイメージもある議員の仕事を楽しいと断言できるのは渡辺さんの前向きな思考が影響している側面はあるでしょう。しかし、それだけではなく、自らの積極的な働きかけが影響しています。

「もちろんやりたくないことは続けられません。やりたいことを自分でやれるように頑張って、動いて、通すんです。通るまでは結構辛いし、苦しい部分もありますが、それも過程と思えば案外楽しかったりするんです。 

そんな風に、自分が地域にとって大事だと思うことを次々と提案できるのが議員の良いところかなと思います。東京の大企業のようなスケールの構造を変えることは到底無理だと感じましたが、地域には働きかける余地があります。それこそ議員としてではなくても、地域おこし協力隊という立場から、より良いまちへと変えていけることも沢山あります。

それに自治体はお金だけが判断基準ではない。地域にとって正しいかどうかや、公平性が重視されるので、その点を軸に提案していく必要があります。もちろん財政も重要ですが、子育て支援を手厚くすることで若い世代が増え将来的に納税する生産年齢人口を増やすなど、長期的なビジョンで財政を考える視点も必要です。

企業だとお金を生み出すことが得意な人の方が活躍できるかもしれませんが、地域や自治体ではそれだけでは通用しないんです。人によってどちらが合うかは違うと思いますが、私には自治体の方がフィットしていましたね。」(渡辺さん)

そんな地域で活動する選択肢の一つとなる地域おこし協力隊。最後に、一先輩として地域おこし協力隊を目指す方へのメッセージをいただきました。

地域おこし協力隊になりたいと思ったら、とりあえず飛び込んでみるのがいいと思います。少なくとも富士見町はそういう私を受け止めてくれました。

富士見町役場のみなさんは柔軟で、提案を喜んで聞いてくれたり、一緒にやろうという雰囲気があったり、すごく信頼できる自治体です。職員は人間味があって、『これはできない』と正直に言ってくれるし、『こうしたらできるんじゃないか』と前向きな話し合いにも付き合ってくれます。職員同士の仲も良くて、見ていて和みます。

自治体によっては地域おこし協力隊に関するルールがないことが多いかもしれません。そうした時に前例がないから、ルールがないからやらないのではなく、自分でルールを作る。そのために働きかける力が求められる場合もあります。

それがやりたいと思える人は、地域おこし協力隊が向いていると思います。」(渡辺さん)

渡辺さんのお話からは、地域で暮らし、働くことの魅力と可能性が伝わってきました。特に印象的だったのは、地域だからこそ変えられることがあるという言葉です。

東京のような大都市では難しい構造の変革も、地方では地域おこし協力隊や議員といった立場から実現させる余地があるというのは、地方で活躍したい人にとって心強いメッセージではないでしょうか。

また、富士見町のような柔軟で風通しの良い自治体の存在も心強いポイントです。行政と対立するのではなく、共にまちの未来を創っていくパートナーという観点で自治体を選ぶことの重要性がよく分かります。

渡辺さんは「楽しいと思うことしかしていない」と語りますが、その裏には地域の未来を良くしたいという熱い思いがあるのでしょう。そんな想いを持つ人が一人でも多く地域に関わることで、地方の新しい未来が拓かれていくのかもしれません。

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Editor's Note

編集後記

渡辺さんは一見するとバリキャリの華々しい人のように思えますが、お話を聞いていると非常に泥臭く、地道な努力をされてきたことがよく分かります。「自分が楽しいと思える仕事をするために、最初に無理を通す」、というお話が象徴的で、受け身にならず自分を活かしていく姿勢が学びになりました。

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