クラファン
「モノづくり」に携わったことがある人は、この商品をどうやってお客さまに届けようか。どんな商品を開発しようか。そんな悩みの壁にぶつかることは多いのではないだろうか。
そこで今回は、九州で地域ビジネスを手がける株式会社一平ホールディングス 代表取締役社長の村岡浩司さんを取材。
村岡さんは、“ONE KYUSHU” という掛け声のもと、九州の素材を使った商品を展開や、九州廃校サミットをはじめとする新たなコミュニティづくりなど、「九州」をフィールドに多面的に活躍しています。
そんな村岡さんが語る、地域ビジネスの考え方に迫りました。
※本記事は、LOCAL LETTERが運営する地域共創コミュニティ「LOCAL LETTER MEMBERSHIP」内限定で配信された「LOCAL偏愛トークライブ」の一部を記事にしたものです。
平林(インタビューアー):村岡さん、まずは簡単に自己紹介をお願いします!
村岡さん(以下、敬称略):僕は、宮崎県にある小さな寿司屋の息子として生まれました。当時は寿司屋を継ぎたくないと思っていたので、高校を卒業した後、すぐに渡米して、アメリカで起業したのが最初のキャリアです。
地元に戻ったのは28歳の時。事業に失敗したことをきっかけに、実家に戻り寿司職人になったんです。その後、10年ほどは、寿司職人をしながらもカフェをはじめとして地元で複数店舗の飲食店をオープンしました。30歳半ばの時に父親が他界してしまい、会社そのものを引き継いで二代目として経営をしています。
村岡:2010年に家畜伝染病(口蹄疫)が宮崎県内で起きて、事業が苦境に立たされたことがきっかけで、以前から興味のあった食品加工への挑戦を決め、今でも僕らの代名詞になっている「九州パンケーキミックス」が生まれました。
村岡:今の一平ホールディングスは、昔からのレストラン事業の会社と、加工食品の会社の2つの事業会社で成り立っています。今後は加工食品の会社を大きくして、九州を一つの島(広域文化圏・広域経済圏)として捉え、地域の中にある農業資源や加工技術などのリソースを掛け合わせることで、世の中に新しい価値を生み出していきたいと考えています。
平林:村岡さんは今『九州アイランド』という形で、Makuakeや九州の生産者さんたちと一緒に、クラウドファンディングをやっていますよね?
村岡:そうです。2021年5月にスタートしたばかりですが、すでに18の新商品が生まれました。今月と来月も5つリリースされるので、年間で50くらいの新商品が生まれていく仕組みになり始めています。
平林:クラウドファンディングは僕らもお手伝いしたことがありますが、1回やるだけでも相当の体力を使いました。事前打合せの際には「クラウドファンディングで絶対に失敗しない方法がある」とのお話も出ましたが、一体どんな方法なのでしょうか?
村岡:『九州アイランド』には「クラウドファンディングをやりたい」と思っている九州の事業者さんたちが入っている非公開グループがあって、日々人数が増えている状況なんです。このグループからプロジェクトをスタートさせた人は、全員が目標達成に成功しています。
平林:どういう仕組みになっているんですか?
村岡:まずMakuakeでは、毎日たくさんのプロジェクトが生まれているので、新商品を掲載しても、翌日には他のプロジェクトの中に埋もれてしまうんです。
ですが、それとは別に「九州アイランド × Makuake」というグループで、九州から生まれた商品やサービスに特化したキュレーションしたページを常設させています。こうして#九州アイランドというタグで括ることでプロジェクトが埋もれにくいんですよ。
平林:ずっと常設であるんですか?
村岡:そうです。このページから18のプロジェクトを実施しましたが、計2,000万円を超える流通が生まれていて(※1月6日現在では26のプロジェクトと3,000万円を超える流通が生まれている)。さらにお伝えすると、全プロジェクトを通じて今、数千人のファンがいる状態なんですが、全てのプロジェクトが「九州を応援する」という一貫したテーマを持っているので、支援者にも共通の価値観が生まれます。つまり、Aの商品を支援した人は、Bの商品を支援してくれる可能性が高まります。
こうした挑戦しやすいプラットフォームがある上に、『九州アイランド』というワンチームで行なっているので、メンバー全員が同じ方向を見て、お互いに応援し合う環境がある。だから成功の確率が高まるのだと思います。
平林:すごく素敵な仕組みですね。Makuakeとの関係性はどうやって構築されたのでしょうか?
村岡:僕らの仕組みは他とは違い、「九州」という文化圏や、One Kyushu=九州は一つという思想の上位概念でプロジェクトを括っているところがポイントです。これは極めて特徴的だと思います。
本来クラウドファンディングは個の勝負です。しかし、九州の仲間達と共通の価値観で繋がり、九州らしい商品を作って、みんなで支え合う。マーケティング戦略としては「九州の中に閉じる」ことでの価値が生まれ、それがお客様へと伝わることで市場開拓に繋がっていくんです。
村岡:もう少しだけ具体的にお話しすると、あえて九州というテーマに閉じることで、九州の中で話題になり、共感は得やすくなると考えています。九州各局のメディアが地元の話題として拾ってくれることも多く、そうすると思わぬ遠くまでメッセージが飛んでいくこともあります。こうした「括り方」にはセンスが問われますよね。
平林:なるほど。村岡さんご自身も、『九州パンケーキ』に始まり、数々のクラウドファンディングに挑戦され、大成功を納めていますよね。クラウドファンディングの勝ちパターンもノウハウが溜まっていると思いますが、その辺りはいかがでしょうか?
村岡:まず皆さんご存知の通り、クラウドファンディングのプラットフォームは複数あって、それぞれ得意としているプロジェクトに違いがあります。例えば、READYFORは社会貢献系のプロジェクトに特化をしていて、僕もNPO関係のプロジェクトの時はここを使うことが多い。
Makuakeは新商品開発に非常に向いていると思っています。世の中にまだ出ていないもののテストマーケティングを行う、いわゆる一般発売前の「0次流通」の時に活用します。Makuakeではプロジェクトが終わってから半年以内に商品を送ればいいので、開発の初期段階で課題になりがちな在庫調整にも有利です。こういう視点でもモノづくりのプロジェクトに向いていますね。
今やクラウドファンディングは資金調達の手段のみならず、開発や流通においても新しい「場」としての概念になり始めていると思っています。
平林:クラウドファンディングでは「ニーズを捉えた商品開発」も大事だと思いますが、ここはどう進めているんですか?
村岡:繰り返しになりますが、僕の場合は「どこに閉じるか」をすごく大事にしていますね。それはどういったコンセプトで開発を進めるかということにも繋がります。
例えば「自分の住んでいる町をどうしたら元気にできるか?」と考えている人に対して「最小単位で最も深く閉じたい場所はどこですか?」と質問をすると、「自分の住んでいる町」という返答がくると思うんです。では逆に「最大単位で閉じたい場所はどこですか?」と聞いたら、どこを思い浮かべるでしょうか?
平林:確かにいわれてみると、最大って日本とか、そういう単位になってしまいますね。
村岡:僕の場合は、その最大単位が九州なんです。「九州から出ない」という価値観で事業をやっていますし、そもそも僕は九州以外に興味がない。これまでのものづくりでも、九州の農業資源と伝統的な加工技術を磨き直すことを大事にしてきました。
だから僕らの商品には、全て九州の価値が閉じ込められているんですよ。
平林:例えば新商品の一つである「MATCHA MODE」の場合は、どういうプロセスを辿ったんですか?
村岡:実はMATCHA MODEには3年以上の開発プロセスがあります。「MATCHA MODE」は、直訳すると「抹茶の気分」というちょっと変なニュアンスになりますね(笑)。抹茶以外に、緑茶やモリンガも入っているパウダーティーです。
なぜあえてネーミングに「抹茶」を強調しているかというと、最初から海外のマーケットを視野に入れているからなんです。「抹茶」という言葉はグローバル言語で、ここ10年ほど世界中でスーパーフードとして注目が集まり、伸びている分野なんですよ。
そんなに注目を集めている「抹茶」なのに、世界的なシェアを誇るのは中国なんです。中国のとある地域では、国策として抹茶を作っているのに比べて、日本の抹茶は世界になかなか進出できていない。それって裏返すとチャンスですよね。
お茶って産地の数だけブランドがあって、それらがみんな東京をはじめとした国内の限られた市場を奪い合う地域間競争をしています。一方で海外には大きく伸びているマーケットがあるのに、目線を伸ばせなくなっています。だからこそ「閉じること」つまり本物の価値を持った開発の視線と同時に、どの市場で売りたいのかという拡張性を一緒にデザインすることが大切なんです。
平林:九州の中にもいろんな素材があると思いますが、その中でも「抹茶」を選択した理由はなんでしょうか?
村岡:僕は何をするにも「人との出会い」が最初にあります。九州の中にある産地を巡るのが大好きなので、そういった意味でも人と出会う機会が多いんです。
出会った人たちとは、たんなる数字上の”取引き”ではなく、”取組み”を大事にしています。「取組み」とは「2年後3年後、5年後にどういう姿を目指したいんですか?」とビジョンを共有しながら、一緒に先を目指すこと。短期的なものの見方はしません。
今回の「MATCHA MODE」も、志布志のお茶の生産者との出会いから、「世界のスーパーフードマーケットに通用する商品を作ろう」という共通の志が生まれて商品開発がスタートしました。長い目線で育てていきたいと思います。
平林: 村岡さんは、自分の作りたいものにこだわることで閉じてプロダクトを作る「プロダクトアウト型」と、市場ニーズに合わせた開けたプロダクトを作る「マーケットイン型」の両方を実施しているように感じます。
村岡: 比重的には7:3くらいでプロダクトアウト型の方が多いと思います。「スタートアップで資金調達して、一気に市場を取ってしまおう」みたいなマーケットイン型を強めてることも一つの戦い方ですが、うちにはそこまで資金投資する余力がないんですよ。
村岡:僕らは先ほど言ったように、取引ではなく「取組み」という息の長い話をしています。そもそも、農業は1年単位での息の長い取り組みの繰り返し。短期的な目線では話ができません。
元々、うちの会社は寿司屋から始まって、今年で55周年。半世紀やっている会社なので、1年とか2年の短期的な勝負はせず、普遍的に残るものを残していきたいという想いを強く持っています。だから、プロダクトアウト型の比重が強いのですが、それだけではやっていけません。もちろんヒット商品を数多く生み出して、やがては世界へと届けていきたい。「どこに伝えるべきか」は、常にバランスで考えながらやっていますね。
※本記事は、LOCAL LETTERが運営する地域共創コミュニティ「LOCAL LETTER MEMBERSHIP」内限定で配信された「LOCAL偏愛トークライブ」の一部を記事にしたものです。
Editor's Note
今回オンラインで実施をされた村岡さんのセッションは、LOCAL LETTEER MEMBERSHIPの案内で流れてきた時から絶対に視聴したい!と思っていましたが、残念ながら生配信の時間は間に合わずアーカイブで視聴をしました。(LOCAL LETTEER MEMBERSHIPは、アーカイブで全て配信をしてくれるので、見逃してしまったものも後から見れるんです!)
自宅で視聴をしていたのですが、見終わってから自分のモチベーションが格段にあがり、この記事を書いているいまも、体の底からエネルギーが湧いているのを感じています。
私は、東京で地域独自のコスメを開発し、店舗や通販で販売しており、村岡さんと業種は違いますが、ものづくりをしており、それを消費者に届けるという共通点はあります。
マーケティングの考え方など、参考になるものが多く、これは永久保存版のセッションだったなと感じました!
AZUKI KOMACHI
小豆 小町