SHINTOMI, MIYAZAKI
宮崎県新富町
今まさに地域と伴奏しながら、活躍しているゲストをお招きし、参加者とノウハウや人脈のシェアを行うことで、地域とともに生きる人を増やすことを目的に開催している「LOCAL LETTER LIVE」。
2019年10月4日に行なったLOCAL LETTER LIVE vol.6でゲストにお招きしたのは、わずか3ヶ月で1粒1,000円のライチを生み出し、完売させたことで有名な宮崎県新富町の地域商社「こゆ地域づくり推進機構(通称:こゆ財団)」で代表理事を務める齋藤潤一氏。
齋藤氏は、5年間アメリカのシリコンバレーにあるITベンチャーで働いたのち、日本に帰国。地域ビジネスプロデューサーとして、これまで宮崎県日南市の伝統工芸品「飫肥杉」製品の海外展開や、鹿児島県三島村の特産品「大名筍」のリブランディングなど全国各地で地域資源の商品化やブランディングを多数成功に導いてきた。
そんな齋藤氏が今、最も力を入れていることの一つに挙げているのが「人材育成」。
「持続可能な地域づくりを行うために、今まで各地で様々なプロジェクトを行ってきた中で、大切なのは自分一人で全てをやることよりも、人を育てることだと気づいたんです。僕の思想や考え方、スキルやテクニックを10人の人が知れば、10倍になるじゃないですか」(齋藤氏)
そう語る齋藤氏と、各地域で地域おこし協力隊をはじめとする地域プレイヤーの人材育成を行う弊社(株式会社WHERE)代表の平林が「官民連携 – 地域と人材の活かし方 – 」をテーマに対談を実施。
今回は、LOCAL LETTER LIVE を通じて見えてきた多種多様な人材の個性を伸ばしながら、地域でビジネスを推進する秘訣をお届けします。
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平林:最近は「持続可能性」という言葉をよく聞くようになりましたが、齋藤さんはそれ以前から言われ続けていると思っています。齋藤さんは、持続可能性をどのように捉えているのでしょうか?
齋藤氏(以下、敬称略):僕が「持続可能な地域づくり」と言い始めたのは、アメリカから帰ってきて、日本が “シャッター商店街” や “耕作放棄地” で溢れているのを目の当たりにして、日本の美しい風景が失われている状況に危機感を覚えました。
齋藤:ちゃんと地域資源を活かして稼ごうと始めたのが、1粒1,000円のライチだったり、ふるさと納税の委託事業だったりします。
こゆ財団は、ふるさと納税の寄付額のうち、6%を成果報酬型でもらっているんです。成果報酬型にすることで、売上が落ちれば、僕らの取り分も落ちるし、上がれば一緒に上がる仕組み。今でいうと、自主財源もあり、民間でも推奨されているように、お金が入ってくるポイントを3つ設けるようにしています。
平林:自治体に寄りかかるモデルケースではなく、一緒に成長していく仕組みが素晴らしいですよね。こゆ財団のモデルにはどうやってたどり着いたのでしょうか?
齋藤:私たちが大事にしているのは、ビジョンとミッションです。こゆ財団でいうと、「世界一チャレンジしやすいまち」というのがビジョンで、「強い地域経済をつくる」というのがミッション。これをつくるために、みんなで試行錯誤を繰り返す中で今のモデルに辿り着きました。
だからこそ、リーダーは常にビジョンとミッションを明確に示して、突き進んでいくことが重要です。
平林:目の前の雑務に追われてしまうと、思わずビジョンやミッションを見失って、自分たちが何のために事業をやっているのかがわからなくなってしまうことってありますもんね。
私たちもプロジェクトごとに、なぜ自分がやるのか?を明確にし、メンバーが一人でも見失っていたら、立ち戻る時間をつくるようにしています。
齋藤:それでいうと、つい先日も行なったんですが、こゆ財団の緊急会議が似ているかもしれません。これもこゆ財団の特徴の一つだと思うんですが、緊急会議の時はパワーポイントを使わず、数字とかも一切なしで会議を行います。
ちょっとコーチング的な手法を使うんですが、和室を借りてみんなで円になって座り、「今自分が動いている理由は何か?」を1人ずつシェアしていくんです。
チームづくりにおいて、ビジョンやミッションの共有も重要ですが、その場にいる1人1人の「なぜやるのか」がとても重要です。
平林:私もいち経営者なので、共感します。「会社が何かしてくれるだろう」という受け身の人に、会社は投資しようなんて思わないですからね。自分ごととして行動している人が会社にとっても資産になります。
齋藤:そうです。だからこそ「こゆ財団が何かをしてくれるだろう」ではなくて、「あなたはどうしたいのか?」ということを1人1人にひたすら問いただします。もしかすると、皆さんの中には、今日私から何かしらの答えをもらいたいと思って来てくれている方がいるかもしれませんが、それをお答えすることは私にはできません。
そもそも答えは私の中にはなくて、皆さんご自身の中にあるものなので、今日の話を聞きながら「僕(私)って何やりたいんだっけ?」とか「自分の人生をもっと豊かにするためにはどうしたらいいんだっけ?」と考える時間を過ごして欲しいと思っています。
平林:今やっていることだけを前に進めようとすると、ふと、「何でこんなことやっているんだろう?」と思う時もありますからね。
でもその疑問って、私は定期的に何回も降ってくるものだと思っています。だからこそ、こゆ財団のようにちゃんと自分の原点に立ちもどれる機会を意図的につくることは、人材育成にも繋がりますね。
齋藤:事業をやる上で「誰とやるのか」もとても重要になります。やっぱり自分と気が合う人とやったほうがいいですね。例えば、こゆ財団はいま「KOYU CAFE」を運営しているんですが、これがうまくいっているのはチームが良かったからです。
実際に店長と地元の主婦の方のチームで動いていますが、ここは関係性がいいんです。だから、「ああしよう、こうしよう」と小さな改善点をお互いに共有し合って、実際に行動に繋げることができます。
平林:確かに関係性が良好であれば、思ったことをすぐに伝えて改善することができますが、お互いの相性が悪ければ伝えることすらままならなくなりますからね。
齋藤:自分で言ったのにやらないとかは、リーダーとして超ダメで、“言ったらやる” というのを私自身、とても大切にしています。だからこそ、相手が役所だろうが、めちゃくちゃ議論してお互いが納得して前に進むようにしています。
平林:お互いが本気で言い合うことも重要なポイントですよね。基本的に、争いごとって嫌だから、本当に良いと思っていても、ちょっと場がピリッとなりそうだなと思ったら、伝えるハードルも上がったりするじゃないですか。
それでも普段私は、地域に第三者として関わらせてもらっている以上、言いづらいことも客観的にしっかりと伝えるようにしていますが、近しい関係性だからこそお互いが思っていることを言い合える関係を築けていない組織も数多くあるので、すごく素敵だと思いました。
齋藤:結局、伸びる成果を生み出す人の共通点は、嘘つかないとか、ごまかさないとか、言ったこと素直にやるとか、そういうことだと思います。私は、自分よりも上にいる方々に自分を引き上げてもらうことはすごく重要だと思っていて、それは戦略的にゴマをすれということではなく、素直に謙虚にやりたいことをやれってことです。素直にいたほうが人生得なんじゃないかと。
平林:今日のようなトークイベントや講演会って齋藤さんもよくあると思うんですが、実際にこうやって話を聞いて、この学びを行動に移せる人ってが統計上、どのくらいいるか皆さんご存知ですか?
実は、100人いたら行動できる人は、たった1人なんです。でもこの1人の人生はガラッと変わります。それくらい、素直に行動するのは、難しくて重要なことなんです。
齋藤:少し前に日経MJの表紙を飾って、大学時代の友人から久しぶりに連絡が来るようになったんですが、私たちにとっては「あ、載ったか」くらいの感覚で、それくらい物事に執着せずに、謙虚でフラットにいることが大切だと思いますね。
齋藤:今回のイベントにはいろんな方が来ていますが、言葉を選ばずに伝えると「謙虚でいつつ、やりたいことやれ」と伝えたいんです。
例えば、先ほど話した、こゆカフェの店長の永住は、当初自分の考えに自信がないから、いつも話したくなさそうにしていて。でも、2年目になって「KOYU CAFE」をやるぞと言ったら、やりたいですと言ってきて、今では、自分でお店のデコレーションをしたり、野菜を作ったり、お客さんの対応をしたりしていて。
以前、こゆ財団が連携している東京の大企業の役員10名がKOYU CAFEの料理を食べたことがあったんですが、食べた全員が「美味い」と言って帰っていかれるのを見て、「僕にはできない、本当にすごいわ」と思ったんです。私は東京の大企業の役員10名全員に「美味い」と言わせることは絶対にできませんから。
平林:1人1人が持っている個性と地域資源がマッチングすることで、それぞれの強みが活かされる社会をつくりたいですよね。私も地域おこし協力隊や地域おこし企業人のマッチングを行なっているので、個人や企業の個性が活かされて、地域に良い循環が生まれる流れをもっとつくりたいと思っています。
齋藤:好きなことやっている人は本当にキラキラしていますからね。好きなことを仕事にすることは、誰にでもできると私は思っています。こゆ財団があったからという要因もあるかもしれませんが、皆さんの住んでいるまちにも絶対に面白い公務員や地域プレイヤーがいますし、いなければ、新富町で挑戦することもできますから。
齋藤:最後に、私が地域づくりにおいて皆さんに伝えたいことは、たった1つで「自分自身のことを大切にしてください」ということなんです。地域を良くしたいとか、持続可能性とか、いろんな観点で、地域に関わっている方がいると思いますが、自分の人生において自分を大事にすることが最も重要だと私は思っています。
そして僕も含めて、大抵の人は、自分のことをすごく犠牲にしているんです。皆さんすごく疲れています。とはいえ、「自分のことを大切にするなんて、なかなかできない」と言う方もいるかもしれないんですが、そんな大したことじゃなくて良くて、スターバックスのラテをいつもはショートサイズだけど、今日はグランデサイズ!!!とか、私頑張った!!!とか、それくらいでいいので、自分にご褒美をあげることがすごく大事です。
私は皆さんに自分自身を大切にして、やりたいことをやって、生きてほしいから、地域づくりをやっている部分もあります。
齋藤氏も平林も「チャレンジャー性分」という言葉がピッタリと当てはまるほど、常に新しいチャレンジをしているおふたり。
齋藤氏は今、地域課題ど真ん中である「農業」の分野に舵を切り、スマート農業ベンチャー「AGRIST(アグリスト)株式会社」を設立。100年先も続く農業の実現を目指し、農業のデジタルトランスフォーメーションに貢献していく方針だという。
一方の平林は、これまで行なってきた個人と地域のマッチングを拡大させ、自社では補いきれない悩みや挑戦心をもつ地域に対して、民間企業をマッチングする新たなサービス「LOCAL REACH」を展開し始めた。
いくらチャレンジャー性分とはいえ、新しいチャレンジには苦しさも伴うとわかっているおふたりが、なぜここまで挑戦を続けるのかを聞くと、両者から同じ答えが返ってきた。
ただ、私がその未来を見たいから。
誰よりも自らが得たい未来に貪欲に突き進む彼らだからこそ、周りの人が引き寄せられ、彼らが周りを引き上げ続けているのだろう。
草々
【編集部から嬉しいお知らせ】
こゆ地域づくり推進機構 代表理事・齋藤潤一氏が地域経済を共に動かす、起業家のためのサミット「SUMMIT by WHERE」に登壇決定しました!
業界のトップランナーの方々を総勢40名以上お招きし、共通のテーマに沿って本気で議論を行うSUMMIT by WHERE の詳細はこちらよりご確認いただけます。
NANA TAKAYAMA
高山 奈々