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新規事業は、大変だ。
0から1を生み出す「生みの苦しみ」はもちろんのこと、仕組みも制度も何も整っていない。軌道に乗っていないときは、社内からも、外からも冷たい視線を浴びることも多く
プレッシャーを感じることもあるかもしれない。
LOCAL LETTERが毎月行うイベント「LOCAL LETTER LIVE」では、地域と伴奏しながら、現在活躍しているゲストをお招きし、参加者とノウハウや人脈のシェアを行うことで、地域とともに生きる人を増やすことを目的に開催。
記念すべき、第10回目の開催を迎える今回のゲストは、株式会社LIFULL(以下、LIFULL)地方創生推進部 Living Anywhere Commons事業責任者 小池 克典氏。
日本最大級の不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」を運営するLIFULLが、場所やライフライン、仕事など、あらゆる制約にしばられることなく、好きな場所でやりたいことをしながらいきていける環境を実現しようと一般社団法人LivingAnywhereを創設。
2019年7月には、Living Anywhereが地方型シェアサテライトオフィスと宿泊施設を持つ共同運営型コミュニティ「LivingAnywhere Commons」の本格始動も開始した。
今回の「LOCAL LETTER LIVE」では、「官民連携―住まいから始める地方創生―」をテーマに、小池氏と弊社代表平林によって行われたイベントの様子を2回に渡ってご紹介。最初の前編では、LIFULLで新規ビジネスを開拓し、事業責任者としても奔走する小池氏と、人脈・経験ゼロから株式会社WHEREを立ち上げ、地域で事業づくりを行う平林が語った「新規事業への立ち向かい方」について、5つのポイントをまとめました。
【編集部から嬉しいお知らせ】
LivingAnywhere Commons事業責任者・小池克典氏が地域経済を共に動かす、起業家のためのサミット「SUMMIT by WHERE」に登壇決定しました!
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平林:小池さんは、即席で施工できる家、インスタントを作るLIFULL ArchiTechの代表取締役に就任するなど、会社の資産を生かし、会社の枠に捉われずに働いている印象が強いですが、まずは、会社の紹介も兼ねて、自己紹介をお願いします。
小池氏(以下敬称略):私たちは、LivingAnywhereという「どこにでも暮らす」という仕組みを作ることにチャレンジしています。
最近、「Co-working」という言葉をよく聞くと思いますが、我々は「Co-living」という業態で、「Co-working」が働き方をみんなでシェアすることに対して、「Co-Living」は、Co-workingに「暮らし」の要素を追加したチャレンジできるコミュニティ(場所)のこと。
小池:仕事はやろうと思えばどこでもできるからこそ、「いろいろなところに行こうよ」と活動しています。プロジェクトの拠点は会津磐梯と下田からスタートして、今年度中に10箇所創る予定です。
▼LivingAnywhere 紹介動画
小池:LivingAnywhere Commonsでは、月25,000円でいつでもどこでも使えるサービスの提供もしていて、人々の生活コストを下げたいという想いで、日々チャレンジをしています。
ローカルにはチャレンジしやすい環境が整っています。東京でビジネスを行うとしたら、家賃も高く、死守しないといけない売り上げもありますし、競合もとても多い。ですが、ローカルには競合も少ないし、費用も安いからこそ、ローカルでの チャレンジをサポートすることも行なっています。
平林:ホテル暮らしをするより安いですね。安く提供できる理由はなんでしょうか。
小池:遊休不動産*1を活用しているのが大きなポイントです。例えば、もともと企業の保養所だった場所をリノベーションし使っているので、費用は500万円ほどで創ることができました。詳しくお話しすると、400万円ほど補助金も活用できたので、実質かかった費用は100万円ほどですね。
*1 遊休不動産
企業活動にほとんど利用されていない不動産
平林:僕たちも古民家運営していますが、蓋を開けてみたら2,000万円ほどかかりました。
小池: 遊休不動産は長年 放置されているものが多いので、使われていないのであれば「無料で貸して欲しい」と行政にお願いすることもあります。これまで行政が負担していた部分を巻き取ることで、お互いにWIN-WINの関係を築くことを大切にしています。
平林:今年度中に10箇所拠点を創る予定ということですが、拠点を増やしていくときは「第一歩」が大変だと僕自身、会社やサービスを立ち上げる中で感じています。小池さんはこれまでどんな問題にぶつかり、どうやって解決してきたのでしょうか?
小池:今でこそ “公共不動産アドバイザー” みたいに、全国から「場所を創りませんか?」という相談が多くくるようになりましたが、最初の第一歩は本当に大変でした。
小池:LivingAnywhereのプロジェクトを立ち上げた当初は、代表理事を務める孫泰蔵さんや著名な経営者を交え、どういう世界観で展開していくか、ひたすら議論を繰り返していたんですが、途中で、話しているだけではなく、まずは行動に起こしてみようとなって。
4月から、夏までにLivingAnywhereをまずは形にしてみようと、実施できる場所を探し始めました。実績ゼロのなかで、たまたま井上さんが繋がっていた北海道南富良野の町長にお会いしにいって、なんとか場所が見つかったんですよ。南富良野には、Living Anywhereを通じて、複数人が移住して開発の拠点としています。
平林:面白いですね。LivingAnywhereCommonsが最初に拠点として立ち上げたのは、福島県磐梯町だったかと思うんですが、磐梯町のスタート時の地域の方々の反応はどうだったのでしょうか?
小池:実は、地域の方からの反対はそこまでありませんでした。地域の人もとても困っていたので「よそ者」という見方をされることもありませんでした。
また、地域に精通してくれる人がおり、その人が地域の人の声を代弁してくれていたことも、進めることができた理由だと思います。
平林:大企業の中で新規ビジネスを進める時には、周囲から「どれくらいのビジネスになるの?」といった、あたたかくない反応もあるかと思いますが、その中で小池さんはどのように進めていったのでしょうか?
小池:もともと私は、中途でLIFULLに入社してから営業マンとして、「LIFULL HOME’S」の広告を売っていて、年間トップのや営業部署の立ち上げを歴任しました。
会社の中で「信用残高」を積むことを大切にしていて、「小池が言うのならいいよ」と言ってくれる人を増やしています。新しいチャレンジをする時に、信用残高の貯金を使い、また貯める。これの繰り返しだと思っています。
平林:「信用残高」は地域の中でもとても重要になると感じています。たとえば、地域の中にいる「キーマン」と信頼関係を築くことができると、それまで別の人から話を通しても許可が出なかったことでも、「キーマン」から話を通してもらうことで、あっさり許可が出るなんてことも珍しくありません。
小池:人として信頼関係を築くことはとても大切ですよね。雪かきと手伝ったり、空き家を掃除したり、ソファーを持ち上げたり。できることは全てやるようにしています。
平林:新規事業を行うとき、「チーム連携」はどのように行なっているのでしょうか?
小池:全体のプロジェクトは、40人〜50人ほどで進めていますが、自社のメンバーは4人で、私たちは「業務委託」という形に振り切っています。新しいことを始める段階では、管理できる体制も整っていませんし、雇用をするハードルも高いので、やりたい人が情熱を持ってやれる体制をつくるためにこの体制にしました。
平林:実は私も組織の体制面で失敗をしたことがあります。 一気に仕事が伸びていった時期があり、それまで2人だったチームを、採用して倍以上に拡大したんです。
経営者として深く反省した出来事でした。私も「業務委託」という形をとってからは、お互いにとってメリットを多く感じています。
小池:そもそも「株式会社」という組織の成り立ちを紐解くと、1602年オランダの東インド会社という航海業から始まっているんです。大航海時代、航海は大きなビジネスチャンスであった一方の遭難事故が多く、リスクが非常に大きいものでもありました。そのリスクを分担するために、皆でリスクを取り、同じ組織に発注しようという動きから、株式会社という組織が始まったんです。つまり、会社はリスクを担保する器。そのため、すでにリスクが取れる仕組みがあるのなら、プロジェクトベースの動きでいいのではないかと思います。
平林:世の中的にもプロジェクトベースの動きが増えて いると感じています。行政の仕事は「仕様」ありきになってしまっていると感じていて、いかに「遂行したか」が大事になってしまっているからこそ、この構造を変えていきたいと思っています。
平林:事業を拡大していくときに「やる」「やらない」という判断が必要だと思うのですが、その時の基準を小池さんはどのように持っているのでしょうか?
小池:今、Living Anywhere Commons では「2023年までに100拠点を作ること」を目標としています。基本的な場所をつくるという仕組みづくりは、私たちが先陣を切って、リスクを取って行いますが、仕組みづくりができたら、それ以降は、場所づくりをしたいと思っている人や、場所が欲しいと思う人が、自分で場所をつくれるようになる“ボランタリーチェーン*2”という仕組みを考えています。(月25,000円で利用者いつでもどこでも使えるサービスなので)やりたいと思う人が、ファンや仲間と一緒に拠点を作り、そこに他業種のサービスが乗っかってくるような、アメーバのようにつながる仕組みを考えています。
*2 ボランタリーチェーン(VC)
独立小売店が同じ目的を持った仲間達と組織化し、チェーンオペレーションを展開している団体のこと。
平林:25,000円で他の拠点も使い放題、一つの共同体のような形ですね。
小池:そうです。私たちにとっても一つのチャレンジなのですが、皆さんは、“限界費用ゼロ社会”という考え方はご存知でしょうか?“限界費用ゼロ”とは、資本主義・インターネット・シェアリングエコノミーが発達すればするほど、消費者はほとんど無料でサービスを享受できるという考え方で大きなコストを賭けなくても豊かに暮らせる社会を示唆しております。一方で、事業提供者側は生産コストの回収が困難になるのでGAFAの様なより大きなプラットフォームに依存度が高くなるという傾向もあります。
言い換えると、今後はこれまでのような資本主義をやり続けていても、事業は成り立たないからこそ、これからの時代は、生産者と消費者という対比ではなく、みんなで一緒に作る「生産消費者」みたいな人が、イノベーションで牽引する(=協働型コモンズ)と学術的にも考えられていて、このような形をLivingAnywhere Commonsでも実現したいと考えています。
小池:LivingAnywhere Commonsの拠点の特徴としても、色々な人が混ざり合うことを意識しています。私自身、新しいものを作ったり、企業の出資の担当だったりと新規事業に長くいるため、どうしたら新しいものが生まれるかと考えた時に「ごちゃ混ぜ」というキーワードが出てきました。同じ会社の人と新規事業開発MTGをやっていても、新規事業は生まれないと思っていて、色々な人が「ごちゃ混ぜ」になることで、何か面白いことを生み出していきたいですね。
【編集部から嬉しいお知らせ】
LivingAnywhere Commons事業責任者・小池克典氏が地域経済を共に動かす、起業家のためのサミット「SUMMIT by WHERE」に登壇決定しました!
業界のトップランナーの方々を総勢40名以上お招きし、共通のテーマに沿って本気で議論を行うSUMMIT by WHERE の詳細はこちらよりご確認いただけます。
Editor's Note
お互いが現在の事業を生み出すまでに、様々な課題や苦難を紆余曲折しながらも乗り越えてきたから二人だからこそ、今回、濃い内容の対談が生まれたのだと思う。
特に、今回二人の会話の中にあった「信用残高」という話は、決して忘れてはいけない視点だと、とても痛感した。新規事業問わず、仕事は決して一人で完結するものではない。
相手からの「信頼」があって成り立つものである。「信用」を得るために
人として当たり前のことは当たり前に行う必要があるな、と強く感じた1日でした。
AZUKI KOMACHI
小豆 小町