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LOCAL LETTER

ふるさと納税日本一を達成し独立。黒瀬氏と平林が語る「地域マーケティング」の極意

AUG. 04

JAPAN

前略、地域や特産品の打ち出し方の「本質」を学びたいアナタへ

今まさに地域と伴奏しながら、活躍しているゲストをお招きし、参加者とノウハウや人脈のシェアを行うことで、地域とともに生きる人を増やすことを目的に開催している「LOCAL LETTER LIVE」。

今回ゲストにお招きしたのは、長崎県平戸市職員として、ふるさと納税の担当に就任後、わずか3年で「寄附金額日本一」を達成した黒瀬啓介氏。

LOCAL LETTER LIVEではそんな黒瀬氏と、日本全国で毎年40以上のプロジェクトを実施し、様々な地域のプロモーション活動に携わる平林が「官民連携 -地域マーケティング- 」をテーマに、対談を実施。

今回は、LOCAL LETTER LIVEを通じてみえてきた「地域マーケティングの極意」をお届けします。

【編集部から嬉しいお知らせ】

黒瀬啓介氏が地域経済を共に動かす、起業家のためのサミット「SUMMIT by WHERE」に登壇決定しました!

業界のトップランナーの方々を総勢40名以上お招きし、共通のテーマに沿って本気で議論を行うSUMMIT by WHERE の詳細はこちらよりご確認いただけます。

自分たちの強みを見つけ出し、手間暇を惜しまず消費者に向き合う

平林:まずは率直に、黒瀬さんはふるさと納税の寄付金額を1位にするためにどうマーケティングしていったのでしょうか?

黒瀬氏(以下、敬称略):自治体は成功事例を真似する「模倣のプロ」ですが、違う路線で勝負しないと特徴は出せないと思っています。すでに先行してやっている団体があるなら、なおさらです。

私がふるさと納税の担当になった時は、すでに1億円を集めている自治体がある中で、平戸市への寄付額は100万円ほどでした。その中で、平戸市の独自路線(強み)は何だろうと考えて、芯を持った上で行動できたのはよかったと思っています。

あとは、普通は「いかに手間をかけないか」ということを考えると思うんですが、私は寄付をしていただく方の立場にたった仕組みづくりをしたかったので、手間暇を惜しまずかけるようにしました。

黒瀬啓介(Keisuke Kurose)氏 LOCUS BRiDGE 代表 / 1980年生まれ。2000年に平戸市役所に入庁。市教委生涯学習課を経て、広報を5年間担当。在籍中に長崎県広報コンクール広報紙の部5年連続最優秀賞受賞、2008年全国広報コンクールの広報紙の部(市部)で6席受賞。その後、税務課住民税係や企画課協働まちづくり班を経て、2012年から移住定住推進業務とふるさと納税を担当し、2014年に寄附金額日本一を達成。2016年7月から株式会社トラストバンクに1年9ヶ月出向し、2018年4月より平戸市財務部、企画財政課で主査を務める。2019年3月に平戸市役所を退職し、フリーランスとして独立。7月からは東京を拠点に活動している。
黒瀬啓介(Keisuke Kurose)氏 LOCUS BRiDGE 代表 / 1980年生まれ。2000年に平戸市役所に入庁。市教委生涯学習課を経て、広報を5年間担当。在籍中に長崎県広報コンクール広報紙の部5年連続最優秀賞受賞、2008年全国広報コンクールの広報紙の部(市部)で6席受賞。その後、税務課住民税係や企画課協働まちづくり班を経て、2012年から移住定住推進業務とふるさと納税を担当し、2014年に寄附金額日本一を達成。2016年7月から株式会社トラストバンクに1年9ヶ月出向し、2018年4月より平戸市財務部、企画財政課で主査を務める。2019年3月に平戸市役所を退職し、フリーランスとして独立。7月からは東京を拠点に活動している。
平林 和樹(Kazuki Hirabayashi)株式会社WHERE 代表取締役 / 新卒でヤフー株式会社に入社後、フルスタックエンジニアとして全社MVP、特許を獲得。その後単身カナダへ1年間渡航したのち、20社以上の中小企業のITコンサルティング、株式会社CRAZYでの活動を経て、株式会社WHEREを創業。各地域に中期滞在しながら地域の課題解決を支援し地域活性化に貢献し、現在は30地域以上と連携し日本各地に活躍の場を広げている。
平林 和樹(Kazuki Hirabayashi)株式会社WHERE 代表取締役 / 新卒でヤフー株式会社に入社後、フルスタックエンジニアとして全社MVP、特許を獲得。その後単身カナダへ1年間渡航したのち、20社以上の中小企業のITコンサルティング、株式会社CRAZYでの活動を経て、株式会社WHEREを創業。各地域に中期滞在しながら地域の課題解決を支援し地域活性化に貢献し、現在は30地域以上と連携し日本各地に活躍の場を広げている。

平林:実際にどんなことをしたのでしょうか?

黒瀬:カタログポイント制度の導入ですね。それまでのふるさと納税は、お礼の品を決めて申し込んだら「後は届くのを待ってね」という仕組みですが、これは寄付者の立場には立っていない。だから、カタログポイント制度を導入し、ポイントを使うことで、好きなときにカタログに載っているお礼の品がお取り寄せできますよという制度をつくりました。

あとは、当時はFAXで注文をいただいていたので、この寄付者と触れ合えるタッチポイントを大事に、時間をかけて丁寧にコミュニケーションを取るようにしていました。カタログポイントの導入と、寄付者とのコミュニケーションが平戸市に対する信頼に繋がり、寄付額も増えていきました。中には、高額の寄付をしてくださる方もいて、最高金額いくらだったと思いますか?

会場:100万円…?

黒瀬:5,450万円です。1人の方がですよ。この時は、喜びと同時に5,450万円を寄付してくれる方がいる中で、「俺は何ができているんだろう」と思いましたね。その方にも連絡をとって、何でこんなに寄付してくれたのかヒアリングしました。他のまちではなく、なぜ平戸市だったのかと。

そしたら、カタログポイント制度への評価と「平戸市さんそのものがいいから。それだけです」と言っていただきました。平戸市は小さな町ですし、特産品も少量多品目なので、マス向けではない戦い方をしたのも良かったかなと思ってます。

あえて事業者ごとの売上金を公開し、全員が主体的に試行錯誤できる状態をつくる

黒瀬:私はふるさと納税に依存してはいけないと思っていて、今は規制がかかりましたが、数年前からずっと「どっちがお得か」みたいな勝負になってしまっていることに違和感がありました。

規制がかかってからは、26億円の寄付額があった平戸市も6億円まで下がって、良かったなと私は思っています。右肩上がりし続けるなんてことはありえないし、日本一になった平戸市でも寄付金額が落ちるというリアルを他の自治体さんにも見せられたので。

平林:すごくさらっとおっしゃいましたが、ふるさと納税に依存するなというのは、どういう意味なのでしょうか?

黒瀬:ふるさと納税はあくまでも、地域の特産品を知ってもらう最初のきっかけなので、ふるさと納税に頼りすぎると、自治体も出品事業者も苦しくなってきます。マーケティングを行う上で、チーム全員がデータを意識することはとても重要で、私は出品事業者さんのふるさと納税の売上金額を全て公開していました。

どうしても「儲けている=悪」みたいな風潮ってありますし、ふるさと納税だと「肉を扱っているから売上がでる」という声もあります。これは平戸市に限らず、事実をきちんと公開していないと変な噂が回って「儲けやがって!」みたいに言われてしまうこともあるんです。「すごいね!」というポジティブな反応が出づらいんですよ。

だからこそ、全ての売上金を公開することで、肉という喰いつかれやすい商品ではないのに売上を伸ばしている事業者があるとか、同じ特産品を出品しているのに他社との売上額に差があるという事実を伝えました。そうすると、「なぜそんなことが起こるのか?」を事業者さん自らが考え始めんです。

平林:最初に売上を公開した時は、事業者さんも戸惑いを見せたんではないですか?

黒瀬:はい。なので、出品事業者さんを回りながら、前提を一つ一つ擦り合わせていきました。事業者さんとの信頼構築もすごく大事にしていて、以前、あまりにも自分勝手なことをいう社長の息子さんには「こっちも命かけてんじゃ!」と説明会で激怒したこともあるくらいです…。(笑)

公務員としてはあるまじき姿だったと思いますが、いろんな人が関わってくれている以上、こちらも本気です。常に事業者さんと一緒に悩んで一緒に挑戦していました。そうすると中には、市役所に自らデータを取りに来る事業者さんも出てきたりして、嬉しかったですね。

平林:ふるさと納税はある意味、テストマーケティングができる場所というか、市場に展開する前に消費者の反応をみれる場所だと思うので、事業者さんが自らどんどんふるさと納税の場を使って挑戦できる風潮は大事ですね。

お金がないから良いまちづくりができないわけじゃない。重要なのは「出口の設計」と「本気度」

平林:他の自治体でも、地域マーケティングをやる上で、予算はあるけどうまくいかないという声をよく耳にします。この辺りはいかがでしょうか?

黒瀬:個人的には、ほとんどの自治体さんは本気じゃないと思うんですよね。なぜかというと、皆さんどこか守りに入ってしまっている。そもそも財源がすごく厳しくなっていて、世の中も揚げ足を取るような、失敗したら袋叩きになってしまう風潮があって、なかなか挑戦できない。

でもそれはちゃんと分析をしていないからだとも思うんですよね。分析していないから、失敗が怖くて、やろうと言えない。とりあえず打ち上げ花火みたく、一発大きなことをやれば人がくるだろうと、今まで通りの手法を続けていくから失敗すると思っています。

平林:有難いことに、いろんな自治体さんからご相談を受けるんですが、施策の出口を設計していない自治体さんがとても多いなと感じています。関係人口という言葉が多く叫ばれていますが、そもそも関係人口自体に意味はなくて、生まれた関係人口をどう繋げていくのか、移住や2拠点なのか、それとも地域産品の消費や、事業者を手伝ってもらうことなのか、、この出口の設計(出口までの導線づくり)がすごく重要だと感じています。

黒瀬:皆さん、ビックワードで簡単に片付けすぎなんですよね。PDCAを回すとかよく言いますが、大抵の方がつくっているのは「プラン」ではなく「ポエム」だと思っています。これ私が出向していて今もお世話になっている会社の社長の言葉だったんですが、「こうなったらいいなあ〜」という想いだけで、結局プランをつくるのにすごく時間をかけて、実際にそのプランを本気で叶えようと思っている人がいない

地方は「信用経済」とよく言われますが、ここに関しては、地方はある意味ずっと変わらないのではないかと思っていて、誰が言っているかで全く同じ発言をしても相手の反応が全然違ってきます。だからこそ私は、住民さんに「お、こいつなら期待するわ」と思わせてナンボだと思って、自分の本気度や姿勢を行動で見せることを大切にしていました。

平林:そもそも信用経済って何だろう?と考えると、一つの視点として、信用経済は「文脈」が重要なんじゃないかなと思っていて、例えば、黒瀬さんは実績があって、自身の公務員としての実体験を元に、いま官民を繋げることに注力しているというのはとても文脈があります。

地域マーケティングも同じで、いきなり牛肉を押し出しても、表面上の価値にしか飛びつかれない。でも、きちんとカルチャーや、なぜこの特産品なのか、なぜその事業者さんがやっているのかという文脈があれば、きちんとファンがついてくる

黒瀬:わかります。あとは、よく「お金がないから良いまちづくりができない」という自治体さんがいますが、それは違うと思っていて、目の前にあることから最大限自分たちに何ができるのかを考えることが大切です。たとえ、どれだけお金があったとしても、使う側の思考が変わらないと意味がありません。

平林:では最後に、黒瀬さんから皆さんへのメッセージもお願いして良いでしょうか?

黒瀬:私のテーマは、地方をステータスに感じる時代をつくることなんです。今って、地方はどんどん人が減っていて、職業の選択肢もなくて、都市部に価値を求めてさらに人が移動してしまう状況があります。地方と本気で向き合う経験が無いから、惰性で就活する人も圧倒的に多い。

以前、平戸市の中学校に通う保護者にアンケートをとったことがあったんです。その中の質問の一つ「今後も平戸市に残りたいか?」という質問に対して、3/4がNOと答えたんです。親がそう思っていれば、子どもは都市部に行かなきゃと思います。地方の本気(良さ)を見ないまま、子どもたちは「出ていく」という選択をしてしまう。

地方には、ゆとりのあるホッとする時間があるじゃないですか。ちゃんと選択肢の一つに「地方」がある時代をつくりたいんです。

平林:今回、黒瀬さんにはゲストで登壇していただきましたが、黒瀬さんご自身もまだまだトライアンドエラーの真っ只中。私も模索している最中ですので、ぜひお互いに、そして皆さんとも一緒に進んでいけたらと思います。

常に自分の成果に胡坐をかかず、泥臭く挑戦し、目の前の相手に本気でぶつかり続ける黒瀬氏と平林。実は、両者ともそれぞれの道で地域に向き合う中で必要だと感じた「地域と都内を繋ぐ架け橋」の役割を担うため、黒瀬氏は独立という道を、平林はこれまで行なっていた地域と個人のマッチングに加え、地域と企業のマッチングを行う新たなサービス「LOCAL REACH」を立ち上げ、今まさに奮闘している最中。

肩書きや立場は変化しても、LOCAL LETTER LIVEで語られた姿勢や視点を大事に、常にチャレンジャーとして走り続けるお二人が魅せる今後の成果に、ぜひ注目していただきたいばかりだ。

【編集部から嬉しいお知らせ】

黒瀬啓介氏が地域経済を共に動かす、起業家のためのサミット「SUMMIT by WHERE」に登壇決定しました!

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