レポート
リモートワークなどの普及により、都心を離れて地方移住をする人が増加しています。しかし、地域の活性化はまだまだ大きな課題。
人口流出を防ぐために、各自治体のトップ層は何を見据え、行動しているのか。
今回は、北海道上士幌町を舞台に開催した地域経済サミット「SHARE by WHERE」の中でも「首脳会談!デジタル田園都市、スーパーシティ、持続可能なまちづくりビジョンとは?」と題して、市町を代表する4名のトークセッションをお届けします。
東氏(モデレーター。以下、敬称略):早速本題に入りたいと思います。3市町のご活躍ぶりを知っている方は多いと思いますが、活躍に至るまでに苦労した点や失敗した点をお伺いできますでしょうか。
竹中氏(以下、敬省略):町長に就任した2001年は、ちょうど市町村合併の動きが始まった頃でした。上士幌町は、700k㎡の広さがある町です。わかりやすくいうと、東京23区にふたつくらいの市をプラスしたような規模なんですね。この広さがありながら、隣町と合併するとなると、多くの住民が「広大な面積の中で、これまでのように生活を送れるのか」と危機感を持っていました。実際に先行して合併していた町の事例を見ると、住民生活に支障が出ているケースがあったので、最初にまず大きな悩みを持ちましたね。
結局合併は行わない決断をし、スタートから苦難があった町長人生ですが、今日までの22年間、大きな柱になっているのは「ブレずにやること」です。ブレずにやり続けるために、普遍的な時代の流れをどう抑えるか。例えば、高齢化や人口減少は30年前から言われていたことなんですよね。そして、情報社会も変わらない。先を見据えて、政策の柱として抑えておくことは、大きなポイントの一つだと思います。
東:続いて、奈良県生駒市の小紫市長。苦労した点などをシェアいただけますでしょうか。
小紫氏(以下、敬称略):官民連携をするときに事業者だけが盛り上がっている状態だとなかなか上手くいかないんですね。その点では、組織の中に官民連携を面白がることのできる職員が増えたり、仕組みができたりしてくると、上手くいくのだろうと思いますが、まだ課題は多いですね。
比較的小規模な事業連携のお話をいただく中で、それらが実際に形になっていく割合はあまり高くありません。例えば、連携のお話を受けた窓口が担当課に話を通しても、そこで話が止まってしまう。担当課も「何か機会があればやろう」と思ってはいるけれど、3ヶ月経っても動きがない。我々の組織内での課題もあると思います。
小紫:やはり、民間企業の強みと自治体の問題意識の理解が、噛み合っているようで上手く噛み合っていないという状況があります。事業者とご縁ができたときに「生駒市で連携事業をやりましょう!」と盛り上がるけれど、その後はなかなか進展していかない。これらは組織としての課題でもありますし、事業者とどれだけ膝を付き合わせて信頼関係を築いていくか、という課題だと思います。
東:官民連携をスムーズに進行していくために、市長として意識している内部マネジメントや気をつけていることを教えてもらえますか?
小紫:官民連携が上手くいかないのは、僕の力不足が原因なんですけど…(笑)。先ほど、竹中町長もおっしゃっていましたが、「住民との協働」は生駒市もすごく力を入れているんですね。市民と共に町づくりをするということで、市民協働が進んできている現状があります。一方で事業者との協働に関しては、その重要性や中長期的に大きなトレンドを見据えることの大切さを、私が職員に説明しきれていないとも感じていますね。
また、事業者との官民連携はお金が関わってくるのでデリケートですね。官民連携を円滑に進めて地方創生を具体化していくためには、お付き合いの仕方なども課題。あとは、なんと言っても楽しく連携していくためにワークショップなどの機会を丁寧に作っていかないと、いくら市長が「やりたい!」と言っても進みません。共感して一緒にやってくれる職員や、同じ熱量を持ってやってくれる事業者と、どれだけ一緒にやれるかだと思いますので、その辺りをしっかりと耕していくことを大事にしています。
東:続いて、「写真の町」として有名な北海道上川郡東川町の市川副町長にお話を伺いたいと思います。市川副町長は、東川町の職員として長く携わって来られて、現在は副町長2期目でいらっしゃいますが、上手くいかなかったことなどを教えていただけますか?
市川氏(以下、敬省略):東川町は1985年に「写真の町」を宣言し、一つの柱として町づくりを進めていくことが決まりました。これはすごく崇高な理念で、本当に先を見据えた中身になっているんです。そして、「写真の町宣言」と合わせて「写真の町条例」を定め、写真を中心としたイベントの開催や、町づくりや子どもの教育に活かしていこうと動いている背景があります。
しかし、1985年にいきなり「写真の町です」と世界に向けて宣言をしてしまったものですから、住民の理解が追いつかなかったんですね。住民全員が写真を好きだったわけではないですし、町に有名な写真家がいたわけでもない。そんな状態だったので、当時の担当者は非常に苦労してました。暗黒の時代ですね。
町民の皆さんの意識を変えていくために説明会などもしましたが、最も大きく町民の皆さんに伝えられた方法は、「東川町は写真の町です」ということを外の人から町民の方に言ってもらうことでした。新聞やテレビ、ラジオなどでたくさんの取材を受けて、露出を増やし、町民の自負心をくすぐると、東川町外に出た人や、もともと町に関心を持ってくれた人が「この前、テレビに東川町が出ていたね」と言ってくれるんですね。
合わせて、1994年から開催している「写真甲子園」をきっかけに、町民の皆さんに「地元の人間として何ができるか」を考えていただき、関わりを持っていただく機会を増やしてから上手く回り始めたと思います。
東:続いて、特に機能した政策や取り組みについて教えてください。
竹中:ふるさと納税を財源に「子育て・少子化対策夢基金」という条例をつくり、認定こども園の利用料完全無料化や、高校生まで医療費を無償化するなどの施策を取り入れました。
上士幌町は単身赴任者が多く、通勤者は多いけれど夜になると人が少なくなってしまう状況があったので、この施策が上士幌町でもきちんと教育を受けることができ、子育てをしていけることを知ってもらう機会になり、若者の移住者を取り込むことに成功していると思います。
小紫:生駒市は株式会社モリサワと連携して、学校や市役所で配布するプリントに、ユニバーサルデザインフォントを導入しています。モリサワさんと勉強会をしたときに、文字が反転して見えてしまったり、ぼやけて見えてしまうことで学習についていけない子が一定の割合でいることを知ったんですね。その中で、モリサワさんから「誰にでも読みやすい文字を上手く使うことで、学習支援をできないか」という提案があり、連携が始まりました。
我々は、地域包括システムやSDGsと言いますが、障がいや辛さを抱えている子どもたちだけのためにやるのではなく、全ての人にとってプラス要素があることに気づかせていただきました。正確な統計はなかなか取れませんが、配布物のフォント変更後は、市民からの問い合わせや苦情の電話は確実に減っています。
連携をスタートするまでには、何度も勉強会を重ねて、お互いの強みや課題感を掘り下げていて。勉強会後には、職員にも意識が根付いたことで、聴覚障害がある方や外国人の方ともコミュニケーションを取りやすくするための配慮を、自発的にやってくれるようになっています。職員の意識や行動改革という意味でも、全ての人にとってプラスの要素をつくれる広がりを持ったという意味でも、とてもよかったと思いますね。
市川:東川町では、町を応援してくださる方がふるさと納税で“投資”をし、東川町の株主となって一緒に町づくりをしていく「ひがしかわ株主制度」があります。町が示す方向や事業に対して直接投資をしてもらい、実際に東川に来ていただくという考え方です。
その後は「企業版ふるさと納税」や、社会課題を共に解決していく「オフィシャルパートナー制度」も連動させて、実行しています。
具体的には、東川を良くしていくためのノウハウを企業から提供いただき、東川町は企業の従業員が福利厚生として使える場所などを提供しています。色々な企業の人と出会い、話を聞き、町を知った上でご提案をいただくことで、事業展開の幅が広がっているのだと思いますね。
東:最後に、これからどんな企業と組んでいきたいかを伺って、終わりにしたいと思います。
竹中:上士幌町の資源に合うような企業に関心を持っていただけたらと思います。例えば、農業や自然に関する分野を生業としている企業であればうまくマッチングができるんじゃないかな。実際に現地へ来ていただいて、繋がっていけるといいなと思います。そこから接点が生まれてくると思いますので、今日のようなカンファレンスの場は非常に大切だなと感じました。
市川:東川のことをしっかり評価して、理解していただいた企業とお話をさせていただきたいですね。お互いが良くなるためにやるわけですから、当然お願いをすることもあるでしょうし、何かを全うすることもある。何でマッチングができるのか、何でタッグが組めるのかをじっくりと話をしたいし、必ず町にも来てもらいたいと思っています。必ず泊まってもらい、しっかり膝を付き合わせて向き合いたいですね。
小紫:生駒市でやっている取り組みや現場を見ていただくことは非常にありがたいですね。あとは、官民連携って言いますけど、行政と事業者だけではなくて、できれば生駒で頑張っている市民の方々も一緒に入る形で、どう連携できるかを考えていただけるような事業者さんだと嬉しいです。そこまでお願いするからには、生駒市も相手の事業者さんのことを理解して、こちらも現場を見に行ったりすることも、もちろん必要だと思っています。
東:みなさん、本日はありがとうございました!
Editor's Note
長年、現場と向き合い続けている方々だからこそ持っている「視点」は、大きな納得感がありました。どのような場面においても、新しいことを始めるときに大切なことは共通しているのかもしれません。
YUKAKO
優花子