対談
先日北海道で開催された、全国各地からローカルプレイヤーたちが集まる祭典『EZO SUMMIT』。名だたる起業家やプレイヤーたちが集まった本イベントだが、その中でも、一際注目を浴びる方の姿が。
彼の名は、古田秘馬さん。『丸の内朝大学』をはじめ、『UDON HOUSE』、『URASHIMA VILLAGE』など数多くの地域プロデュース・企業ブランディングを手がけるプロデューサーだ。
イベント当日、急遽開催された秘馬さんと、川原卓巳さんのスペシャル対談の様子をつい先日公開させてもらったのだが、実はあの記事には書ききれなかった秘馬さんの話がまだまだあった。
このまま、筆者の中に留まらせておくことは勿体無いと、急遽、第二弾のレポート記事を作成。今回は、数々のヒット企画を生み出す、古田秘馬さんの「プロデュース力の鍛え方」へと迫るーー。
両親が渡米した影響で、海外での生活が長かった秘馬さん。毎晩のように繰り広げられるパーティーで、課せられていたミッションが「多国籍、年齢もバラバラなメンバーとパーティーのホストをする」ことだった。
「週8日でパーティーやってたの。4,5歳の時から、“今日はカナダ人のお兄ちゃんと、年下の香港人の女の子、そしてアナタでパーティーのホストをしなさい” と両親から言われてて。まず3人の言語が全然違うわけ。じゃあ、勝ち負けとかではなく、どうやってこの1日を持たせるか? どうやってこの3人を繋げるか? から企画が始まっていくんだよね」(秘馬さん)
どうしたらこの場を成立させられるか? から始まっていた秘馬さんの幼少期。さらに、秘馬さんのご家族ならではのルールが炸裂する。
「僕、今のお小遣い制度が日本を悪くしていると思っていてね。だってさ、小学校1年生から2年生になる時って、なんの結果を出していなくても給料が上がるわけじゃないですか。しかも、いい子にしてなさいとか、静かにしてなさいって言われたことを守っていたら、お金がもらえる。なのに、社会人になってから “もっと創造性発揮しろよ” とか言われてもね。その点、うちはプレゼンテーション制だったんだよね」(秘馬さん)
なぜそのお金が必要なのか? 目的は? 用途は何か? 自分のためだけではお小遣いはもらえないから、いかにみんなのためにどう使いたいのかを小さい時からプレゼンしていた秘馬さん。この時の力が、のちにプロデューサーと呼ばれる彼の原点になっている。
「よく “課題解決” って言われますが、僕は課題解決をしているつもりはなくて。だって、肩が痛いから肩に湿布を貼りましょう、というのが課題解決だと思うんだけど、それって根本的な課題じゃないじゃん。例えば、満員電車が好きな人っていないと思うけど、でももしその満員電車に乗っている人が全員自分が好きな芸能人だったら? 進んで乗りませんか? つまり、満員電車は満員であることが問題なわけではないんだよ」(秘馬さん)
ディズニーランドの帰りの京葉線は超満員だけど、誰もピリピリしていない。でも、同じ人たちが翌朝、丸ノ内線に乗れば途端にピリピリとしたエネルギーが発生する。
サザンのコンサートに行って、誰もいなかったらつまらない。満員だからこそ楽しい。
「満員電車の満員が問題ではないとき、そこにある根本的な問題は何か? って考えると、行きたくない会社や、会いたくない上司がいることなんだよね。だったら、 “思わず行きたくなるような朝・まちをつくったらいいんじゃないの?” から始まったのが『丸の内朝大学』」(秘馬さん)
地域だからどうこうではなく、僕らは「こんなまちになったら面白いんじゃない?」からはじめるね。古田 秘馬 プロジェクトデザイナー
表面上の問題を問題として捉えるのではなく、根本的な問題は何かを捉え、その中にあるニーズに光を当てていく。しかもそれを「自分たちが面白い」と思える形からスタートさせているのだ。
「皆さん高付加価値をつくろうとするんだけど、僕がやっているのは高付加価値ではなく、他の価値をいかにつけられるか? という、“他付加価値” なんだよね」(秘馬さん)
例えば、目の前に1本の天然水があったとしよう。「この水は天然の湧き水で作っていて、すごく希少な上に、こんな効能がある。だから、1本1万円なんです」さて果たして、アナタはこの水を購入するだろうか?
「所詮水に1万円も払うことってないよね。だからこそ、高付加価値ではなく、他付加価値が大事。例えば、香川で実施した一つの事例に『さぬきうどん英才教育キット』があって」
『さぬきうどん英才教育キット』とは、うどんを10玉作れるように、粉や綿棒、出汁の素材などが入ったセット商品。香川県で一つプロダクトをつくろうという話になった時、秘馬さんが提案したアイディアだ。
「プロダクトでよくあるのは、最高級の小麦粉で最高級のうどんをつくろう、というシリーズ。だけどどんなに最高級でも、1玉1,000円のうどんなんて絶対に買わない。でも、香川県の人たちってうどんへの愛やこだわりが深いし、うどんをつくる時の出汁の話なんてすごく学びにもなる。だから、英才教育キットにしたらいいじゃん!って売り出したら、飛ぶように売れたんだよね」(秘馬さん)
「じゃあ、これが誰に売れたのか?というと、香川県のおじいちゃんおばあちゃんたちで。東京に行ったお孫さんに、うどんの魅力や魂を伝えたいと購入した人が多かった。つまり、僕らはうどんを買ってもらったわけではなく、お孫さんとの時間を買ってもらったんだよね」(秘馬さん)
親族が集まった時にみんなでやろうと購入していく人も続出。うどんが食べたい、ではなく、うどんを通じてお孫さんとの時間をつくったことにより、10玉7,000円のキットが瞬く間に売れていったのだ。
「なぜその地域なのか? なんのためにお金を使うのか? を僕はいつも考えていて。さっきの『丸の内朝大学』も、ただ学びにいくのではなく、朝の通勤ストレスを解消して、かつ、学びを得られるから価値を感じてくれる人が多いんだよね」(秘馬さん)
冒頭に記載した「ご両親からの教え」からも分かる通り、幼少期の頃から、プロデュース力を鍛えられていた秘馬さん。今の彼を作り上げていく教えは、まだまだ出てくる。
「本当に面白い両親で、とにかく “何かやるときは、絶対に相談するな” って言われていたんですよ。要は、相談するくらいなら自分でもどこかに不安があるから、面白いと絶対の自信を持てていないんだろうって。だから、“勝手にやって結果を出してから、後で報告しなさい” と言われていたんだよね」(秘馬さん)
「だから大学を辞める時も事後報告したら、“それはさすがに相談しろよ” って言われたんだけどね(笑)」と、ユーモアたっぷりに話しを進めてくれる秘馬さん。自分がやりたいと思ったことを、自ら形にしていくことは秘馬さんの当たり前になっていった。
「僕は “無責任” な仕事しかしないと思っていて。多くの人が言う “責任のある仕事” って、クライアントがとか、補助金をもらっているからとか、誰かに責任を押し付けているんですよ。人から押し付けられた責任のある仕事を、無責任にやっている」(秘馬さん)
僕がやっているプロジェクトは、無・責任。誰かから言われたからやっているんじゃなくて、自分でやりたいと思ったからやっている、それしかやりません。古田 秘馬 プロジェクトデザイナー
自分がやりたいと思った仕事を、責任を持って全うするから “無・責任” 。スキルや経験以上に、彼自身をはじめ、彼のプロジェクトやチームメンバーはいつだって、誰よりも本人たちが楽しそうな姿に、人が集い、惹きつけられ、活気を見せるのだろう。
終始、自身がプロデュースしてきた事例を話しながら、「え、こんなのあったら面白いと思わない?」と、誰よりも心ときめかせて話す秘馬さんの姿に、「この人と仕事がしたい」「この人だったらどんなプロデュースをするんだろう?」と周りがワクワクさを掻き立てられ、挑戦が生まれていく日常が目に浮かんだ。
「新しい関係性をデザインすることが世界を変える一歩である。」をキーメッセージに、より良い未来のために “自分のやりたい” を極めていく秘馬さん。次なる挑戦も、LOCAL LETTERで取材していきたいばかりだ。
Photo by Yuta Nakayama
Editor's Note
対談中もとにかく楽しそうに話をする秘馬さんの姿に、会場にいる全員がワクワクさせられる時間だった。次はどこに挑戦を広げていくのか。まだまだ取材を続けていきたい…!
NANA TAKAYAMA
高山 奈々