郷土料理
持続可能性や地産地消が叫ばれる中、さまざまな理由で衰退の一途をたどる「郷土料理」。 “地域の味” として古くから愛されてきた一方で、「時代遅れ」といったイメージも強い。
そんな中、「 “持続可能性” が叫ばれる時代だからこそ、日本の多様な食文化を自分たちらしく守りたい!」という願いを込め、地域×郷土料理をキーワードにしたLOCAL LETTERの特設サイトが新たにオープン!連載記事として皆さんにお届けしていきます。
今回コラボパートナーを務めるのは、公務員界の「松純」こと松本純子さん。公務員フードアナリストとして、平日は国家公務員、休日は食材マニアとしてマルチに活動されています。
第一弾は、本プロジェクトスタートを記念して、松純さんと、本プロジェクト発起人・弊社代表 平林和樹(愛称:ポポさん)が行った対談の様子をお届け!
プライベートで生産者の元を訪れるほどの食愛好家・松純さんと、日本全国のプレイヤーと繋がるポポさんが語る、「郷土料理の魅力」そして「本プロジェクトへ懸ける想い」とはーー。
そもそもなぜ、ポポさんは「地域×郷土料理」に目をつけ、プロジェクトを立ち上げたのだろうか? 原点を辿ると、LOCAL LETTERが始まる前、なんとLOCAL LETTERの運営会社である株式会社WHEREをポポさんが立ち上げる創業期にまで話が遡った。
ポポ:きっかけを遡ると、僕はWHERE創業前に、奈良県東吉野村という人口約1,600人の村にあるコワーキングスペースにあがりこみ半年ぐらい滞在していた時期があったんです。今から7年以上も前の話なんですが、そこの生活がとにかく最高で。誰に頼まれたわけでもなく、勝手に都内の友人らを呼んで、“暮らし” をコンテンツにしたツアーを実施しました。
ポポ:ツアーの中で、奈良県吉野郡を中心とした吉野地方の郷土料理である “めはり寿司” を奈良県十津川村のおばあちゃんたちと一緒につくって食べたんですが、数年たった今でも『最高だった』と参加者から言われるぐらい、心に残るシーンになっていて。でもだからこそ『おばあちゃんたちがめはり寿司をつくれなくなったら、この豊かな風景はどうなってしまうのか?』とも思ったんです。めはり寿司自体はなくならないかもしれないけど、僕らが体感したあの風景は残らない。その風景や想いを伝えたいという思いから、 “ローカルからの手紙” という意味を込めて、LOCAL LETTERが誕生しました。
松純:LOCAL LETTERの原点が郷土料理だったんですか?
ポポ:そうなんです。ツアー中もさまざまなコンテンツを実施しましたが、一緒に食べることの価値を感じた瞬間でした。今回の企画は “地域×食” ということで郷土料理をテーマにしていますが、郷土料理って豊かさを感じる一方で、“時代に取り残された雰囲気” もあるじゃないですか。
松純:わかります。
ポポ:でも『守りたい』というよりも、そもそも郷土料理自体が素敵だから、時代にあった伝え方をすることで、今の人たちにも『食べたい』『(郷土料理由来の場所に)行きたい』と思ってもらえるはず。そのためのプロジェクトのお相手は、食に対しても生産者に対しても偏見のない愛をお持ちの松純さんしかいないと思いました。
松純:嬉しいです。私が皆さんと一緒にプロジェクトを進めたいと思った理由の一つに、LOCAL LETTERのコンセプト(『前略、ふるさとは自分でつくる時代になりました』)への共感があります。
ポポ:ありがとうございます!リニューアルする前のコンセプトがそれでした!
松純:私は、食べること=応援することだと思っていますが、LOCAL LETTERの “ふるさとを自分でつくる” という考え方は、場に縛られないという意味だと感じました。それは郷土料理にも通ずる考えで、どこであっても料理自体は作れるし、食べられる。でも、郷土料理を通して地域と繋がれるわけです。だから今回の連載でいうと、郷土料理に触れることが地域を応援する第一歩かなって。
ポポ:なるほど、そうですね!
松純:郷土料理をご自身でつくって食べる。そこから興味が湧き、結果的にその場所へ行ってみたいと思ってくれたら最高です。まずは情報に触れることに価値があると思っています。私の想いと重なる部分があるLOCAL LETTERだからこそ、プロジェクトを一緒にはじめたいと思えたんです。
食や食材、産地にも多大なる愛をお持ちの松純さん。彼女は一体どんな人なのだろうか。
ポポ:松純さんは、実際に生産者さんの元へ足を運ばれていますよね。これは仕事ではなく、プライベートで行かれているんですか?
松純:そうなんですよ。元々は仕事でいろいろ産地を巡っていたのがきっかけですけど、おもしろくなってきちゃって休日も産地に…(笑)。せっかくなのでSNSにアップしたり、つくった料理の写真を生産者さんへ送ったりしていました。
ポポ:SNSだけでなく、コラムの執筆やレシピの考案まで多彩ですよね。アウトプット量にいつも驚くんですが、松純さんの食好きはどこが起源なんですか?
松純:昔からなんです。幼少期、みんなが折り紙で鶴を折っているときに、私はおにぎりを折ってたりして(笑)。昔から常に食べ物のことを考えていました。大人になっても大好きだった食に仕事でも関わりたくて、『一生食に関わり続けられる仕事は何か』を考え出た答えが、農林水産省だったんです。
ポポ:農林水産省への接続理由が凄いですよね(笑)。愛が深い。
松純:今思えば吉と出たんですが、国家公務員は転勤がつきもので、全国を転々とする生活が大変でした。でも、転勤のおかげで地域の情報を知ることができ、結果的に今の “産地を訪れる” という活動に繋がっています。
ポポ:仕事もプライベートも関係なく、『産地に行こう』と足を運ばれる原動力はどこにあるのでしょうか?
松純:産地訪問の直接のきっかけは食育基本法の担当になったことです。基本計画を各自治体に取り組んでもらうために現地を訪れていたら、そこで出会う人たちが面白くて仕方なかった。みんな、その地域のよさを伝えるためにすごく頑張ってる。私自身の食への知識不足を痛感したことから、フードアナリストや野菜ソムリエの資格もとりました。気が付いたら食にハマってしまって、休日も産地に出向くようになったという感じです(笑)。
ポポ:今回のプロジェクトを始めることが決まってすぐ、松純さんから『取材したい先リスト』を1年間分いただきましたが、候補先はどんな想いで選ばれたんですか?
松純:情報発信をしていく中で、長らく生産者たちに焦点を当ててきたんですけど、最近思うことは、作り手だけでなく『伝え手』の役割もすごく重要なのではないかということなんです。
ポポ:伝え手ですか。
松純:何かを大好きな方って、広めるエネルギーが凄い。例えば醤油の良さを伝える活動をされてる方がいるんですけど、その人が生み出す『知ってほしい』というエネルギーって大切だと思うんです。でも、そういう活動がメディアに取り上げられる機会は意外と少ない。なので、そこに焦点を当てたいという想いで選びました。
ポポ:さすがです。松純さんが食を等身大で好きだから、松純さんの伝えたいことに芯がありますよね。
松純:嬉しいです。私自身、食を通じてたくさんの方と知り合うことができました。そういった方々が紡いでこられた活動を多くの人に知ってもらいたいですね。
ポポ:松純さんは食だけでなく、人との関わりもとても大切にされていますよね。
松純:私、 “共食(きょうしょく)” が好きなんです。食育基本法の中に、共食が重点課題に入っているんですが、一緒に食べるという行為は、人を繋ぐことができますし、食べ物の背景やストーリーを共有することができる。私の夫は料理家(料理家・作家の樋口直哉さん)なので、家にたくさん食材が届きますが、使い切れないともったいなくって、家に人を招いて、食事会という名の共食をしたりしています。
ポポ:共食の考え方がすごくいいですね!今回のプロジェクトでも記事を通じての情報発信だけでなく、共食ツアーといったコンテンツもつくりたいですね。その地域の人たちと参加者の方で郷土料理を食べるとか。
ポポ: “伝え手” であること以外に、取材候補先リストをつくられる際に大事にされたことはありますか?
松純:私の夫は東京出身なんですけど、『東京に疲れたから地方へ移住したという話を聞くと悲しい』と話すんです。地方には地方の良さがあって、東京には東京の良さがある。なので、今回の郷土料理のプロジェクトでも候補地に東京を入れようと思っています。お寿司や天ぷら、おでんだって東京の郷土料理ですよね。
ポポ:すごくわかります。よく地方と都会といった対立構造にされがちですけど、そうじゃない。
松純:そうなんです。郷土料理=(イコール)地方と思われがちですけど、お寿司なんかは、まさに変化をしながら全国に広がった郷土料理の一つ。歴史を紐解くととても面白い。
ポポ:昔のお寿司って驚くほど大きかったんですよね。このことが、まさにだと思いますが、松純さんの発想ですごく好きなのが、『守りながら変えていく』という発想です。
松純:郷土料理っていうと、馴染みがないものに聞こえてしまうかもしれないですが、例えば “B級グルメ” と呼ばれているものも、現代に沿った形で生み出されたもの。今は “B級グルメ” と呼ばれていても、食べられ続ける中で、いずれは郷土料理になっていく。その時代に合わせた変化をしながら、未来に残していくことが大事なんです。
ポポ:本当にそうですね。未来へ残していくことへのヒントですが、外を知ることで、その地域の独自性が見えてくると思うんです。僕自身、海外に住んでいたことがあるんですけど、海外にいることで日本の良さや個性が際立ちました。さっき共食の話がありましたが、外と中を見る視点が、個性や独自性を見つけ出すヒントになるんじゃないかって思っています。
松純:そうですよね。今、ご自身の地域を大事に思われている方も、あえていろんな地域を知ることで、より際立つものもある。そんな発見が詰まったプロジェクトにしたいです。
ポポ:最高ですね。やっぱり松純さんと共食ツアーをやりたい!その地域の人と外の人たちが一つの料理を食べることで、食事を楽しむ以上の発見が双方にあると思います。 “共に食べる” って偉大ですよね!今回のプロジェクト、めちゃくちゃ楽しみです!
プロジェクトに対する想いから、具体的なツアーの中身にまで発展した今回の対談!これこそまさに「共食」ですが、対談終了後には「まずは私の出身地の郷土料理を」と、松純さんが愛媛県の『伊予さつま』をつくってくださいました。
焼いた鯛を伸ばしただし汁を、薬味とともにご飯にかけていただく。夏の暑い時期に、サラサラっと食べられる一品。ぜひお試しくださいね。
本プロジェクトは次回からいよいよ連載スタート!「松純さん × LOCAL LETTERプロジェクト」乞うご期待です!
Editor's Note
写真から伝わるとおり、とても愛おしそうに食べ物の話をされる松純さんが印象的でした!こんな素敵な人に「自分のつくったものを食べてもらいたい!」と思うのは当然のこと!
「食が好き」だけでは語りつくせない松純さんの魅力も、本連載で紐解いていければと思います!
YURIKA YOSHIMURA
芳村 百里香