メディア
ローカルメディア『LOCAL LETTER』が開催する、本業でも副業でもライターとして全国各地で活躍できる人を増やすスクール『ローカルライター養成講座』の特別講義として行われた、スペシャル対談の後編。
『LOCAL LETTER』のプロデューサーである株式会社WHEREの平林和樹と、メディア運営以外の方法で、ローカルを表現・発信し続けているクリエイティブディレクターの坂本大祐さんが対談し、「メディアの強み」を中心に語られました。
いよいよ真髄に迫る後半戦。異色のふたりが出した「ローカルはメディアを必要としてるのか?」その答えとはーー。
平林和樹(以下、平林):今日は『ローカルライター養成講座』の第0回特別講義としてお送りしていますが、僕はどうしても、今日の大祐さんとの話を講座の最初に入れたかったんです。今回「ローカルはメディアを本当に必要としているのか」という問いで話をしていますが、今情報って宇宙の拡張と同じぐらいのスピード感で増えてると思うんです。
そのスピード感の中で発信をするっていうのは、ライターさんの努力で成り立っているからこそ、ライターさんにはその記事が一体なんのために、なぜ生まれていて、どういう影響をもたらすのかを把握してもらうことが大事だと思うんです。更に言うと、僕らはそういう世界観まで共有できるライターさんと一緒に仕事をしていきたいなと考えています。
坂本大祐(以下、大祐):ライターさんって結構大変な世界だよね。
平林:そうです(笑)。
大祐:座学的な問題はある程度レベルアップできると思うけど、取材は戦闘。ライブであり、戦いなんですよね。だからこればっかりは、ロジックだけじゃどうしようもない。ライターって人にものを聞くプロでもあるわけだから、ある種の人間力みたいな部分が必要になってくる。
だから、ライターの次のステージとしての「聞く力」に対しては、どう引き上げていくのかがなかなか難しい課題でもあると思ってて。ライターって書く仕事って思われてるケースが多いけど、書くスキルは多分全体の50%ぐらいなんじゃないかな。
平林:本当にそうです。「聞く力」ってある種、聞き手の人生経験も反映されるじゃないですか。人生経験が豊富であればあるほど、聞く力と対話する力が生きる。文法とか、ですます調っていうライティングスキルは、それこそネットに書いてますし、教えてくれるところは他にもある。でも、ローカルライター養成講座のポイントは取材合宿なんですよね。
大祐:実際に取材までやるってすごいよね。
平林:それこそ大祐さんが言う、「戦い」なんです。
大祐:取材ってある種一発勝負やから、取り返しつかないし、だからこそ真剣勝負。だけど、気負れて来られると、それはそれで怖いしさ(笑)。だからそういう空気感も含めて自然体でやるっていうのが必要だと思うんだよね。ちょっと難しいけど(笑)。
平林:でもそこが出来るか出来ないかで、記事単価も含めてライターさんの大きな差になってくると思いますね。
大祐:それはあるかもね。あとは、ライターの職種って、枠を超えてできることを全部やる人ほど重宝される印象がある。「写真も撮ってきますよ」的な人。ライティングに付加できる要素が多ければ多いほど、頼む側からするとありがたいですよね。特にローカルは、そういう人材が重宝される状況が広がってる気がするし。
平林:取材してくれたライターさんが良かったから、紹介したくなりますし、そうやって広がっていくんですよね。
平林:対談の前編でも大祐さんからもお話がありましたけど、個人でも発信できる中で、数百万フォロワーみたいなインフルエンサーがいて、でもメディアでも数百万フォロワーってなかなか出ない事実があると思うんですけど、僕自身は、インフルエンサーの価値と、媒体としての価値とは比較対象が全く違うと思ってるんです。
大祐:うん、そう思う。
平林:やっぱりそうですよね。
大祐:個人の発信一挙手一投足を見たいっていうのと、メディアであるっていうことは違う。ただ、今はどちらかというと、その個人の一挙手一投足を見たいっていうのが強いんですよ。だってそんなスタイルは今までなかったから。それが世の中に出てきて、面白さを知っちゃったから強いよね。
平林:そうなってきたときに、メディアとしては「いかに検索されるか」を考えちゃうんですけど、その検索って顕在化されたニーズじゃないですか。
大祐:うん。
平林:自分は「これがわからない」っていう、わからないことを知ってる情報であれば検索できるんすけど、自分が知らない情報に出会うっていうのがすごい空白地帯だなって思ってるんです。
大祐:その通りだね。ラジオ的要素。
平林:そうです。全く知らなかったけど、知るべき情報をどうやって手に入れていくか。偶然手に入る情報をどう意図的に作っていくのか。
大祐:俺が思うに二つの方法があるんじゃないかと思ってて。一つはものすごい数の情報を集める。それがあれば、偶然性が上がる。もう一つは、無茶苦茶尖らせる。ある一事象のことしか扱わないっていうところの中に縦軸横軸が出てくるから、そのカテゴリーの中で、深く広くのどっちかじゃないかなって。
平林:深くしていくと、媒体が気になって、ファンになってくれた人たちが、さらに見てくれてって感じですよね。
大祐:あとは、「アウトプットする側も参画できる世界をメディアが作っていく」方向は可能性があると思う。だからローカルライター養成講座でライターになりたい人が受講後にライターとして一緒に、メディアを作っていけるのは価値だと思う。場合によっては取材対象者自身が、そのメディアに参画していくとかもいいかも。
つまりメディアは一つ旗なんだよ。同じ志を持った人たちが集うための目印だと思っていて。だから「俺らはこんなことをいいと思っている」っていう部分を伝えれば伝えるほど、そのメディアが必要とされる部分も出てくるんじゃないかなと思う。
平林:ローカルライター養成講座の活動の他に、LOCAL LETTERでもうひとつ始めた活動が、「だれでも送れるレター」という取り組みで。簡単に説明すると、僕らはメディアなんで「掲載してください」っていう連絡がよく来るんですけど、どうしても「取り上げきれない」現実があるんです。そんなときに、質問フォームに答えていただいたものを僕らで編集して、LOCAL LETTERに載せるっていう企画「だれでも送れる、LOCAL LETTER(通称:#だれでも送れるレター)」をはじめました。
自分の熱量を自分の言葉で伝えつつ、ちゃんとプロの編集が入って、世の中に記事を出しますっていうスタイル。
大祐:なるほど。
平林:著者がいて編集がいてっていう、世の中に出すプロセスをそのままWebに持ってきた感じなんですが、めちゃくちゃ反響がありました。読者の方と一緒につくって、一緒に発信できてっていうのはめちゃくちゃ良かったですね。
大祐:なるほどね。今住んでいるところは、奈良県東吉野村の狭戸っていう人口40人くらいのエリアなんですけど、その中で例えば、月1回発行されるメディアがあるとしたら、それはすごい有用だと思う。隣の家の犬が子どもを産んだとか、今年の大根の出来が良かったとか。これは、ごくごく限られた世界の人たちが喜べる情報じゃないですか。
こういう情報をメディアに流すって、俺はすごい可能性あるなって思ってて。だって、本来的なメディアの価値ってそこだったはずなんだよね。
平林:なるほど。
大祐:例えば、LOCAL LETTER村みたいなのがあるとして、その村の人からしたら「このネタめっちゃおもしろい」みたいなのが価値だと思うんだよね。LOCAL LETTER村の旗に集った人たちからすると、その人たちのパーソナルな情報ってすごく有用な情報。「ローカルにメディアはいるかいらんか」ってよりも、あるとすごくおもしろいと思うわけ。それが辺境であればあるほど。
平林:回覧板に近いですよね。
大祐:そうそう。仮に集落に1人編集者がいるとして、集落の情報を面白おかしく書くこともできれば、事実を淡々と書くこともできるし、回覧板みたいな形でそれぞれが書いているもんが回ってくるみたいな形でもできる。結局はメディアのスタイルなんでしょうね。
でも、限られた人の中で回っている情報っていうのが、今一番取りこぼされてる情報なんじゃないかってとも俺は思ってて。SNSってそれを発信してると思いきや、見られる前提の情報しか絶対発信しないはずなんですよね。
平林:そうなりますよね。
大祐:メディアの多くは、美辞麗句っていうか綺麗なものなんですよ。でももうちょっと、ざらっとした情報が限られた範囲の中で回ってるっていうのは、おもしろいんじゃないかなって思うんですね。
平林:メディアって結構外を意識して発信しがちですが、中に向いたときに面白さって出てくるものですよね。
大祐:昨年『おもしろい地域には、おもしろいデザイナーがいる』っていう本を出したんだけど、その本の中で原研哉さんとの対談があって、原さんが「昔は若い人たちが都会に憧れていて、その情報をメディアから取っていたけど、今の時代って、若い人たちが欲しい情報はむしろ都市の情報じゃなくて地方の情報」って言っていたんです。これには、はっとしたんですよね。
俺たちが東京に憧れたように、若い人たちが仮に地方に憧れてるとしたら、そこから発信されてるメディアってあるんだっけって。そういう、地方に興味を持ってる人たちに対して、地域とか地方の情報ってまだまだ出てないんじゃないの?って思うんですよね。
平林:わかります。
大祐:うちで言うと、「東吉野から発信してるみたいなものが入ってもいいんじゃない」って思う。それぞれの地方に編集部がちゃんとあって、そこから「うちの今一番のホットトピックはこれです。ラーメン屋できるらしい」みたいな感じでさ。
平林:うちに新しく中途で入ってきてくれた高知県の編集の子がいるんですけど、その子は高知で暮らしているというのが強みだと思ってて。これで高知の情報を抑えられるな、みたいな(笑)。
大祐:確かに。
平林:だから、ちゃんとその地域に編集がいるっていう世界を、ローカルライター養成講座を通じて作っていきたい、ライターを増やしていきたいというのは、僕らとしても目指すべきところの一つです。
大祐:47都道府県の情報が、ばさーっと更新されたらおもしろいよね。
平林:47人の編集者!
大祐:その中でも市町村単位とかでもおったら、もっと面白いなと思うよね。取れてない情報ってまだまだあるっていう感覚。
平林:そうですね。今日お話ししていただいたように、メディアってやり尽くされている感を語られたり、感じたりするんですけど、伝え方や作り方でも、できることはたくさんあるなと思いました。ローカルメディアはまだまだ奥深いです。大祐さん、今日はありがとうございました。
Editor's Note
配信後、SNSで多く反響があったのが「取材は戦闘」という言葉。私自身独学ライターでしたが、おそらく独学でされている方が多いからこそ、この言葉がより多くの人たちの心を掴んだのだと思います。文中でもありましたが、「だからこそ、ローカルライター講座の0回目で、大祐さんとの対談をもってきたかった」という意味を、しみじみ感じた、素敵すぎる対談となりました!
YURIKA YOSHIMURA
芳村 百里香