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LOCAL LETTER

LGBTQ+は「都会の話」ではない。地域での人権を守る、元盛岡市議の取り組み

JUN. 13

IWATE

拝啓、一人ひとりが安心して暮らせる社会づくりに関心のあるアナタへ

近年、地域活性化のキーワードとして「寛容性」が注目されています。地域からの人口流出と、各地域の「寛容性」の間に密接な関係があることも分かってきました

しかし、そもそも「寛容性」とは何なのか、実現に向けてどのような課題があり、どのようにアプローチすればよいのか、具体的なイメージが湧かない方もいらっしゃるのではないでしょうか?

そこで、LOCAL LETTERでは地域の「寛容性」×「地域活性」にスポットを当て、これらを後押しする活動に取り組む皆さんにお話を伺います。まずはプライド月間*に合わせて、性の多様性にまつわる取り組みをしている、かとうまいさんにお話しを伺いました。

*プライド月間…6月は「プライド月間(Pride Month)」と呼ばれ、セクシュアルマイノリティの人権に関わる啓発活動・イベント等が多く実施されます。

岩手県初となるプライドパレード「いわてレインボーマーチ」の立ち上げのほか、盛岡市議として行政へアプローチし、「盛岡市パートナーシップ・ファミリーシップ制度」導入に大いに貢献された、かとうまいさん。

「誰もが生きやすい社会」を目指すアナタへ、活動のヒントをお届けします。

「私は生きていていいのか」、私でいられる社会での居場所。

かとうまいさんは、大学在学中から現在まで、LGBTQ+の居場所づくりや人権啓発活動に尽力されています。そうした活動の背景には、ご自身が幼少期より感じてきた苦悩がありました。

大人になった時、幸せに暮らしていく未来を描けなかったんです」(かとうさん)

レズビアン当事者であるかとうさん。自身の知る限り身の回りに同性同士のカップルはおらず、社会全体においても同性パートナーと暮らすイメージが十分に浸透していなかったために「自分は生きていてはいけない存在なのだろうか」と考える時期があったといいます。

また、自身の活動を通して多くの人と対話する中で、家庭・学校・職場、あらゆる場所であらゆる形態の差別が起きていることを実感したそう。

知識がないことによる、先生や保護者から子どもへの否定的な言動があったり。職場でも、マイノリティに対するからかいの言動や軽視、さらには同性のパートナーがいる場合に福利厚生を受けられないなど。身の回りにある差別の事例は、枚挙にいとまがありません」(かとうさん)

マイノリティを取り巻く「ささやかな」言動。ひとつひとつは小さいことに思えても、塵も積もれば山となり大きな傷を残し、時には人の命をも脅かします。

しかし、そうした感覚を当事者以外の人たちと共有するのは難しい。だからこそ、かとうさんは周囲の価値観のシフトを起こすために、どういう仕掛け・プロセスが必要か模索し続けてきました。

「都会の話」で終わらせない。ローカルから訴える多様性の尊重

学生時代に岩手大学で「LGBTs学生団体 Poi(ぽい)」を立ち上げ、卒業後は岩手県初のプライドパレード「いわてレインボーマーチ」を開催するなど、地元である岩手県盛岡市をフィールドとして草の根活動に邁進してきた、かとうさん。

活動的な姿の反面、「盛岡を出て、関東に行けばもっと自分らしく生きられるのではないか」と考えた時期もあったと言います。それでもこのまちで活動を続けられたのは、「生まれ育ったこの土地で思い出を増やしていきたい」との想いがあったから。

ただ、地域を基盤にした活動には難しさもありました。いわてレインボーマーチの開催に向けてLGBTQ+への理解や多様性の尊重を訴えても、それって都会での話じゃないの?」と、課題を自分事として捉えてもらうことは容易ではありませんでした。

しかし、かとうさんはそのような状況だからこそ、盛岡市でプライドパレードを開催することに意義を感じたといいます。

「LGBTQ+の人たちに対する差別に反対の声を上げることによって、地方にも当事者の人たちがたくさん暮らしていて、決して遠いところの話ではないと知ってほしかった」(かとうさん)

パレードの開催に先駆けて、パレードの原点であるニューヨークだけでなく、当時東北で唯一パレードの開催経験があった青森県青森市にも足を運びました。先進事例を参考にしつつも他地域の活動をただ真似するのではなく、盛岡の地域性を尊重してローカライズしたといいます。

「地域はよくも悪くもコミュニティが狭い。そのため、特にプライバシーの保護には最大限配慮した」と、振り返るかとうさん。パレード開催にあたって、写真撮影禁止ゾーンを設けたり、取材に来たメディアへの注意喚起を徹底したりなど、参加者が少しでも安心できる環境づくりを心掛けました。

いわてレインボーマーチは現在も開催されており、2024年で4回目を迎えました。LGBTQ+にかかわる啓蒙活動としての役割を担うほか、地方で暮らすセクシュアルマイノリティの方々に向けて「あなたは1人じゃないよ」と力強いメッセージを発信し続けています

パートナーシップ宣誓制度はゴールじゃない。本質的な平等を目指して

このように地道な活動を積み重ねてきたかとうさんは、2019年に最年少25歳で盛岡市議選に出馬。見事2位通過で議席を獲得しました。政治の世界にチャレンジを決めたきっかけは、草の根活動の「限界」を感じ始めたことでした。

性の多様性にまつわる講演登壇やイベントで参加者の方たちと直接やり取りをしていく中で、「打てば響く」と ポジティブな手応えもある反面、時間や金銭、人のリソースなどの面で大変さも痛感。このままずっと活動を続けるのは難しいと感じたそう。

そこで、社会により大きな変化を起こすため、かとうさんは政治の世界に飛び込みました。

しかし、当時の議会は、多様性とはまるで対極のような状態。
「体感として議会の95パーセントぐらいが男性。ジェンダーバランスとか、年齢のバランスとか、偏ってるという表現にも及ばないレベルでした」(かとうさん)

そんな状況を目の当たりにし、「この場に若い人や女性、そしてLGBTQ+の人の声を届けたい」と思ったと言います。

かとうさんの在職期間は4年間。多様な地域課題に取り組みましたが、特に力をいれたのは、公約にも掲げた「パートナーシップ宣誓制度」の導入でした。任期の後半2年間は、「持続可能な地域づくり特別委員会」の委員長を務め、他9名の議員や議長とともに制度導入に尽力しました。

議会で活動した日々について、かとうさんは「委員会のメンバー以外にも、会派を越えて活動してくれる議員や、活動に理解を示してくれる市民の存在に支えられた。皆さんと一緒にパートナーシップ宣誓制度を実現できたのはポジティブな経験だった」と振り返ります。

一方で、「パートナーシップ宣誓制度の導入が全てを解決するわけではない」と、今後を見据えた課題感についてもお話しくださいました。

私たちが本質的に目指すべきは、制度の導入ではなく、基本的人権の尊重だと思うんです」(かとうさん)

そもそも、パートナーシップ宣誓制度は、戸籍上同性同士の婚姻が法律で認められていないなど、一部の人々の権利が守られていないからこそ、地方自治体ができる範囲の対応を検討し誕生した背景があります。

そのため、各自治体でのパートナーシップ宣誓制度の導入は決してゴールではありません。

「これさえあればいい」特効薬ではなく、深い傷を一時的に癒す絆創膏にすぎないのです。

だからこそ、ローカルでの行動を少しずつ積み重ね、その声が国に届き、いずれ法律が整備されて当事者の権利が保障されることが大切だと、かとうさんは話します。

加えて、法律などの制度面だけでなく、身の回りで起きる、偏見や差別といった人々の価値観に起因する課題を解消する取り組みも必要です。

「誰もが生きやすい社会の実現」に向けて、まだまだ課題は多いですが、活動の輪は一歩ずつ着実に広がっています。

かとう まい氏 LGBTQ+ユースの保護者支援者 / 1994年、岩手県盛岡市生まれ。岩手大学在学時にLGBTQ+関連の活動を開始。卒業後は岩手初のプライドパレードを開催。その後盛岡市議会議員となり、パートナーシップ宣誓制度導入の実現を後押しした。今後はLGBTQ+ユースの保護者支援に取り組むため、現在準備中。
かとう まい氏 LGBTQ+ユースの保護者支援者 / 1994年、岩手県盛岡市生まれ。岩手大学在学時にLGBTQ+関連の活動を開始。卒業後は岩手初のプライドパレードを開催。その後盛岡市議会議員となり、パートナーシップ宣誓制度導入の実現を後押しした。今後はLGBTQ+ユースの保護者支援に取り組むため、現在準備中。

これからの世代に「自分らしく生きる」バトンを繋ぐ

かとうさんは、今後の展望についても熱を入れて語ってくださいました。

「まず、盛岡市でパートナーシップ宣誓制度が始まってちょうど1周年なので、私も含め制度を利用されてる方々と、実際に利用してみた感想をまとめたい。それを踏まえて、市にも制度改善の要望を出せるといいなと思います」(かとうさん)

 また、パートナーシップ宣誓制度以外へのアプローチにも意欲的です。

行政に望む今後の取り組みとしては「働きやすい職場作り」を挙げ、「外部から見えづらく、被害を受けた側が泣き寝入りするしかない状況になっている職場での被害が、少しずつ改善されていくと嬉しい」とお話しくださいました。

さらに、これからの自身の取り組みとして、子どもの周りにいる大人へのアプローチに力を入れていきたいといいます。

子どもたちが大人の言動によって、ネガティブな影響を受けている部分をどうにかしたい。子どもたちがもっと自由に自分の意見を持ち、表現できるようになってほしいです」(かとうさん)

子どもの意見形成や表明が難しい環境になっているのは、そもそも大人たちが子ども時代、発言の機会を奪われてきたことに原因があるのではないか。もしそうならば、そんな再生産は止めなければならない、とかとうさんは言います。

まずは大人が自分の意見を言えるようにしたい。自分の意見がない人なんていない。けれども、言いづらくしている周りの雰囲気はあると思う。そのことの深刻さを共有しながら『私も意見を言うから、みんなも言ってこうよ』と伝えていきたいです」(かとうさん)

今でこそ「多様性の時代」などといわれる世の中になりましたが、今までも、そしてこれからも、「誰もが生きやすい社会」への道のりは決して楽なものではありません。

あたかも「多様性の時代」が自然と流れてきたように見えているとすれば、その裏で、何人もの人びとが苦悩し、何年もの年月をかけて活動のバトンが繋がれてきたことを見落としているかもしれません。広がりつつある「生きやすさ」は地道に形づくられた、努力の結晶なのです。

「私より先に活動してきてくださった方々がいたからこそ、私はバトンを引き継げたと思っています。そういう方々の存在や労力のことは本当に忘れたくないですし、知り続けなきゃいけないと思います」(かとうさん)

かとうさんは今まで、自分のやりたいことを決断する場面で、周りの人に相談して「背中を蹴ってもらった」からこそ前に進めた経験があるそう。その経験や想いを乗せ、かとうさんは誰もが自由に意見を「言える」社会の実現に向けて人々の背中を押し続けます。

これからの世代が自分らしく生きていける地域や日本社会、世界を創りたい」というかとうさんの願いは、今後も様々な活動として実を結び、さらに次の世代へのバトンとして連綿と受け継がれていくことでしょう。

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Editor's Note

編集後記

取材中、「彼」や「彼女」という代名詞の話題になり、自分も無自覚に使用し、人を傷つけてきたのではないかとハッとしました。他者と自分の価値観は違うという前提で、枠組みで判断せず、目の前の相手への敬意を忘れずにいたいと思いました。

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