ISHIKAWA
石川
※本レポートは、ふるさと兼業事務局NPO法人G-net主催の「【事例勉強会】奥能登の小さな酒蔵のファンを増やすプロジェクトの事例紹介」を記事にしています。
兼業や副業に興味はあるけれどまだその1歩を踏み出せていなかったり、すでに兼業副業に取り組んではいるけれど、タスクをこなす感覚でどこか味気なさを感じている人は多いのではないでしょうか。
コロナ禍を経て働き方がますます多様化するなか、報酬や待遇、労働時間など仕事をする上で大事にしたいことも人によって様々です。
「ふるさと兼業」は「共感と熱意から、はじまる」をモットーに、自分の地元や愛着のある地域に対して、スキルや経験をプロジェクトを通して還元することで地域を応援できる企業と個人のマッチングプラットフォームを提供。熱量をもってプロジェクトに参画したい人材とビジョンやコンセプトをもって挑戦する企業や団体、そんな両者をこれまでに約700件繋いできた実績があります。
本イベントでは石川県奥能登にある松波酒造の事例を紹介いただきました。
自社のSNSの整理・管理の知見とビジネスに対する新しい視点を得ることを目的に『ふるさと兼業』を利用。奥能登から関東方面へと販路拡大の足がかりを築き、困ったときに頼ることができる人との繋がりをつくることができたといいます。
森山氏(モデレーター、以下敬称略):まずは金七さん、自己紹介からお願いできますか。
金七氏(以下敬称略):石川県能登町で150年やっている松波酒造という酒蔵の若女将をしています。肩書は若女将ですが、家族経営の酒蔵なので業務は多岐に渡ります。毎日米を吞んでますというくらいにはお酒が大好きです(笑)。
森山:私と金七さんとの関係性を簡単に紹介します。今から18年前ぐらい前に『お店ばたけ』という、石川県内でEC販売に取り組む人たちが集まり、運営ノウハウを学びながら切磋琢磨するという石川県産業創出支援機構(ISICO)主催の勉強会がありました。
金七さんとはその勉強会で出会ったのですが、私は当時いしり(石川県能登地方に伝わるイカが原材料の魚醤)を売るネットショップをはじめたころで、金七さんもその頃EC販売をはじめたばかりでした。
金七:当時はメールフォームができたかどうかくらいの頃で、注文もメールで連絡してもらい、銀行に振り込んでもらうか代引きかという時代でした(笑)。
森山:そうなんです。そんな時代から、金七さんはインターネットを通じて県外の人にも商売をしていこうという仲間でした。
全国の地方都市と同じように能登も人口減少が進むなかで、商売を続けていくためには県内だけでなく県外の人たちにも顧客となってもらう必要があるなと。インターネットが出はじめたころから、それを活用して自分たちの商売を続けていこうという取り組みを一緒に行ってきた仲間で、とても長い付き合いです。
商売を続けるためには人材不足がネックになるのではと思い、最近の状況をヒアリングするなかで金七さんに『ふるさと兼業』のプログラムを持ちかけたのが、今回のプロジェクトのはじまりでした。
森山:それではプロジェクトの内容やどんなチャレンジがあったのか、金七さんにお話いただければと思います。よろしくお願いします。
金七:松波酒造は能登の地酒「大江山」をつくっている酒蔵で、150年やっていますが今回兼業受け入れははじめてでした。
森山:150年の歴史ではじめて!
金七:そうなんです。でも実は日本酒はもともと副業兼業で成り立っているビジネスなんです。秋にできた新米で冬にお酒をつくるのですが、冬に来る杜氏は普段農業や漁業をしている人たちでした。彼らは能登杜氏とも呼ばれています。
ですのではじめて森山さんから話をいただいたとき、「冬だけ働く蔵人さんのこと?!」と思ったぐらいでした(笑)。
金七:能登に暮らす人も高齢化しています。うちは父母妹と地元の人2人、冬にはさらに2人という体制でお酒をつくっていますが、若い人がおらず楽ではない状況です。
「冬だけお酒をつくる若い人がきてゆくゆくは社員になってくれたら〜」と思ったのですが、リアルではなくオンラインでもお手伝いできる人を募集できると聞いて、何をやってもらえるだろうと考えました。
ここで松波酒造のことを紹介すると、明治元年に創業し私で7代目になります。銘柄は「大江山」で、京都にある大江山に酒飲みの鬼の妖怪伝説があることから、鬼のように豪快に飲んで欲しいという願いを込めて名付けられました。
能登半島は海の幸がおいしいところなので、海鮮に合うキレのいい、やや辛口のお酒をつくっています。家族経営で小規模の酒蔵ですが、梅酒やゆず酒など幅広い商品を製造しており、コロナ前は海外への売り出しも積極的に行っていました。
金七:主な卸先は、県内の酒販店や土産店、EC販売などです。それに加えて各種SNSの運営も私が担当しており、アプリRONGO LIVEで毎週金曜19時からライブ配信も行っていてライブ中に商品を購入できるような仕組みにしています。
ですが、なかなか視聴者数が増えなかったり、効果的な運用方法がわからなかったので、そのサポートとして今回『ふるさと兼業』を利用しました。
コロナ禍でZoomなどでのオンライン飲み会が主流になり、オンラインでできることをより考えるようになりました。
私の家からローソンは車で1時間、近くにあるのはファミリーマートだけ。東京からのアクセスは1日2便のフライトのみで、家から空港までは信号が4つしかない。そんな原風景が広がる田舎だからこそ、インターネットでビジネスを行うことが重要だと感じていました。
一方で、組織としては家族と地元の人だけで行っているため、ECに詳しいのは自分だけで、困ったことがあれば友人に聞いたりFacebookで助けを求めたりと手探りでやっていました。
しかし実情としては、コロナで観光客が減り売上も落ちていました。それまでのオンラインイベントやSNS上での活動で、家族もSNSやECの力は理解していたので、これまで自己流でやってきたところをSNSに詳しい方に知見をいただこうということになり、『ふるさと兼業』の利用を決めました。
金七:まずお手伝いいただく方の募集から採用までについてですが、Zoom会議で事業内容や依頼などを説明すると時間がないため、事前に説明動画をSNSに投稿していました。結果的には私自身の人柄や求めているスキルを理解した4名に応募していただき、1人の女性(キャシーさん)と一緒にやっていくことになりました。
森山さんも交えての毎週1回のミーティングのなかで、能登地域の課題や日本酒のことを話し、松前酒造の強み・弱みを共有した上で主にSNSの広報分析を3ヶ月かけて一緒に行ってくれました。
また、同業他社のみならず、昔からあるお茶や醤油メーカーなどのSNSも分析も行い、それを参考にしつつ松波酒造のSNSの整理を行いました。さらにハッシュタグの整理やプロフィール欄のリバイス、購入サイトへの紐づけなども行った結果、フォロワー数は有料広告を使用せず、半年間で1,083名から1,439名まで増えました。
金七:キャシーさんで良かったなと思ったことは、実際にリアルで会いに来てくれたことです。合計3回会いに来てくれたのですが、初めは金沢で年に1回開催している『サケマルシェ』という食とお酒のイベントに参加してくれました。
うちの家族と会ったり、大江山を飲んでくれて、楽しんで帰っていただきました。実際に足を運んでくれたことで、関東からの距離感も体感できる機会になったと思います。
その次は銀座のアンテナショップで開催された、能登の寒ブリと大江山のペアリングイベントに来てくれました。3回目は冬の幸をもっと堪能したいということで、12月に地元の食やお祭りを楽しむ能登ツアーへ友達と森山さんと参加してくれました。帰る日は大雪の影響で飛行機が飛ばず、帰れないというハプニングもありました(笑)。
金七:能登と東京は飛行機以外の二次交通がなく、都内からもアクセスが悪いということを実際に体感いただきました。そんな彼女から、関東でも飲食店や居酒屋に松波酒造のお酒が広まれば、気軽に楽しむことができるのにという意見が出ました。
そこから、松波酒造のコアでユニークなお客さんたちを巻き込み、女将のファンクラブ(=FANグループ)としてオンラインコミュニティ化しようということになりました。それによって首都圏を中心とした濃いお客様30名ぐらいのコミュニティができて、酒蔵のイベントなどにファンクラブの人たちで一緒に来てくれたりと、これからもっと盛り上げていこうとなりました。
前編では松波酒造の金七さんとモデレーターの森山さんの出会いや「ふるさと兼業」を利用したきっかけ、具体的な取り組み内容をお届けしました。後編では金七さんのオンラインファンクラブを超えたイベント事例や3ヶ月間を通しての成果、「ふるさと兼業」で求めていた人材の裏話をお話いただきます。
Editor's Note
酒づくりには昔から副業兼業の文化があったことと、今回金七さんが『ふるさと兼業』を利用されたことに、何か縁があるなと感じました。遠隔でも多様な仕事が行える現代だからこそ、地方の企業が積極的に都市部の人を副業や兼業として採用することで、事業の幅がより広がると思います。
SACHIO NISHIYAMA
西山 祥央