Work style
暮らし方
コロナウイルスが急拡大して、1年半が経とうとしている現在。
働き方の多様化が進み、自らの働き方や暮らす場所を考え直している人も多いと耳にします。そこで今回は、場所の制約に縛られないライフスタイルの実現と地域の関係人口を生み出すことを目的とした定額多拠点サービス「LivingAnywhere Commons」事業責任者 小池 克典氏を取材。
小池氏が語った新しい暮らし・働き方のモデルとはーー?
平林(インタビューアー):株式会社LIFULLは「自分らしい働き方/暮らし/生活」を目指されていると思いますが、そのビジョンに会社が果敢に挑戦し、体現している姿が印象的です。その中でも小池さんは特に前進されているイメージなので、今日はそのあたりも含めてお聞きしたいと思っています。
小池 克典氏(以下、敬称略):ありがとうございます。最初に簡単に自己紹介をさせていただくと、僕自身は株式会社LIFULLに所属をしている、37歳のサラリーマンです。実は最初のキャリアは、就活をしないでバーテンダーをしていて。その後、飲食のベンチャー企業に就職しましたが、27歳の時に会社が潰れました。
これはまずいぞと思い、「今のご時世はネット社会であり、かつ上場を目指している会社が潰れたという経験をしたので、経営を学ばなければいけない」と考えまして。上場をしている会社に入ればノウハウを学べるだろうということで、「ネット」×「上場企業」という掛け合わせから、株式会社LIFULLに出会い入社をしています。
小池:株式会社LIFULLは、創業社長が井上で、今は東証第一部に上場しています。従業員数は、現在は1,500人くらいですが、僕が入った時は300人程度だったかな。
事業のメインはLIFULL HOME’Sという不動産のポータルサイトで、不動産会社ではなくネット広告会社です。例えば、アパマンショップ、レオパレス、三井のリハウスといった不動産会社に「こんな広告を出しませんか?」と提案するのがメインの事業。「社会課題を、ビジネスを通して解決していく」ことを創業当初から行なっています。
今でこそ家探しの際にネットを使うのは当たり前ですし、皆さん無料で使われていると思いますが、二十年前までは不動産会社の前に貼ってあるチラシやたまたま不動産会社から送られてきたDMの情報だけで選ぶしかなかった。家を買うって人生の中で大きな買い物のはずなのに、売る側は限られた情報しかお客さんに届けていないし、お客さんもその情報の中でしか選んでいない。この「負」を埋めるために「LIFULL HOME’S」という新しいビジネスモデルが生まれ、広まっていきました。
小池:今、社内サービスは約20個ほどありますが、「負」をビジネスで解決するというところを理念・ベースとして色々とやっています。その中で「Living Anywhere Commons」は空き家、暮らし方、働き方、行政、関係人口創出、建築、スタートアップの支援などを行なっています。
平林:小池さんは、激動な人生を過ごされていますよね。いま「LivingAnywhere Commons」は何拠点あるのでしょうか?
小池:21拠点までいきました。2021年9月までに25拠点まで拡大する予定です。僕らのサービスは簡単にいうと、Co-Living(働く環境と宿泊機能が併設された複合施設)なのですが、
働くことも寝泊まりできる環境があることはもちろん、特徴的なのはここに「コミュニティ」や「プロジェクト」があること。各拠点に、多種多様な人がいるので、地域との交流やプロジェクトの企画などができるメンバーシップ型で提供しているので、25,000円(税抜)でいつでも、どこでも、好きな拠点を使えます。
拠点にずっと暮らしている人もいますし、週末だけの人や二拠点生活をスタートさせる最初の拠点に使う人もいます。今までの利用者さんは、フリーランスの人が多かったのですが、最近は企業の会社員の方が非常に増えてきました。
平林さんと数年前に話したときは、まだ2拠点しかなかったのですが、当時から「2023年には100拠点つくります」と言い切ってしまいました(笑)。今、ようやく形になってきたところです。
平林:こういうサービスは、全国に網羅されて初めて伸びていくサービスだと思いますが、20拠点を超えた今、これまでと違うフェーズに変わりましたか?
小池:10拠点を超えてきてから、グラデーションが変わりました。20拠点を超えてくると「この仕組みとコラボをしたい」と企業や団体の方からお話をいただく機会も増えました。
LIFULLも自分たちのサービスを使いながら働き方を変えていて、社員も全国各地でワーケーションをしています。なので、本社の利用率は今、5%くらいで、LivingAnywhere Commonsにいたほうが社員に会うし、拠点が増えたことで僕ら自身も働き方を変えているのも特徴的かもしれないですね。
平林:LivingAnywhere Commonsを利用している人の中で、会社員が増えているという話がありましたが、会社員とフリーランスの割合はどれくらいなんですか?
小池:6割がフリーランスで、4割が会社員です。話を聞いていると、「ずっとテレワークで刺激がないので、ここに来ました」という人が多いですね。
平林:確かに30,000円以下で泊まり放題だったら最高ですよね。
平林:Living Anywhere Commonsのポイントとして、「コミュニティ」があると思いますが、コミュニティがあると、いつもと違う自分や知らないことに出会うなど、出会いのコラボレーションが生まれると思います。このコミュニティの仕組みはどのようにつくられているんですか?
小池:仕組みという部分でいうと、ハードだけがある場所とは提携しないようにしています。僕らが拠点を構えるのは、ファシリテートできる人やコミュニティマネージャーがいるような場所だけ。LivingAnywhere Commonsは、「どこでも暮らせるような社会」という思いで2017年から構想を練っていました。当時は満員電車が当たり前の時代で、それが僕はずっと嫌で、満員電車に乗らなくてもいい自由な暮らしをしたいと思って始めたんです。
そんな中でも、例えば「場所を問わずどこでもいけるなら、どこに行くかな」と考えると景色がいい場所って結局、飽きがきてしまうなと思ったんです。
じゃあ自分が好きな場所にはどんな共通点があるかと考えると「面白い人に出会えるから」といった「人」に紐づいていることが多かった。
平林:企業の利益などを考えると、仕組みにはテクノロジーを持ち込むと思うのですが、そこにあえて属人的な人という要素を組み込むというのはすごいことですよね。
小池:LIFULLのリモート勤務は部署や職種を問わないので、バックオフィスで働く人も利用ができます。僕らは、リモートワークを生産性やクリエイティブが上がる=「会社に還元される価値」と位置付けているので、どんな社員でも行っていいと落とし込んでいます。
平林:実際に、社内にはどのような変化が生まれましたか?
小池:とても変化があって。例えば、会社の若手は社内のことしか知らないことがほとんどなのですが、彼らがフリーランスの人や地域の人と交流をすると、「自分もプロジェクトを立ち上げたい」と思ったり「何か面白い」と思ったりして、気づくと何かしらの行動をしている、みたいなことが多く起きています。
平林:1,000人以上の利用者がいたら、かなりのインパクトがありますね。そういえば、小池さんも引っ越しをされていましたよね?
小池:コロナの前までは東京の神楽坂に住んでいましたが、コロナによりテレワークになると思い、千葉県松戸市に引っ越しました。実はもうすぐ2人目が生まれる関係で、今度は茨城県行方市に引っ越すことになりました。自分のライフステージに合わせてフレキシブルに選んでいますね。
平林:こういう自由な働き方をトップからやるというのが最高ですね。
平林:これまでは「LivingAnywhere Commons」の拠点整備に力を入れられていたと思いますが、拠点の広がりが出てきた中で生まれてきたものはありますか?
小池:LivingAnywhere Commonsの「Commons」とは「共有地」という意味があります。例えば、通常のホテルだと、サービスの提供者と消費者が明確に別れている状態があると思うんですが、Living Anywhere Commonsでは、提供者も消費者も自分のものとして色々行える環境をつくり、彼らを「生産消費者」と呼んでいます。
そうすることで、イノベーションが起きてくると思っています。提供者と消費者が分かれてしまうと、経済合理性がマッチせず、イノベーションも起きずらい。だからこそ「Commons」という「ごちゃごちゃになる状態」を目指しました。
小池:一つの事例をあげるとLivingAnywhere Commonsに住んでいた学生が部屋をDIYでおしゃれな空間にしたり、空いていた空き地を使って畑を始めた人や地域の人とお祭りをつくっている人、LivingAnywhere Commonsの住人に写真を教えている人もいたりしましたね。こういうことが各地で勝手に起きているのが面白いんです。
平林:部屋のリノベーションもやってしまっていいんですね。(笑)
小池:全然OKです。皆さんが月額25,000円でLivingAnywhere Commonsを使える理由は、各拠点を僕らがほぼ無料同然で使わせてもらっているからで、これをどうやって維持・継続していくかというと、ずっと使い続ける仕組みをつくることが大事なんです。
僕らが借りている不動産は現場回復する義務がないんですが、その代わりに場所を良くしていくことを意識しています。「放置しているなら、固定資産税分は僕らが払う形はどうですか?10年経てば資産価値は上がっていきますよ」と、オーナーさんにとってもデメリットがない方法で交渉し、使わせてもらっています。
平林: LivingAnywhere Commonsの拠点として狙っているところは、なかなか他の企業や団体が手を出しづらい物件が多いですよね。
小池:そこはあえて狙っています。古民家などは手がけられるプレイヤーさんがいますが、廃校や旧庁舎、保養所といった中型大型物件は、使いどころが難しいから誰も手を出さないんですよね。
平林:ビジネスという観点から見ると、LivingAnywhere Commonsは、スタートからものすごいスピードで改善を繰り返していると思います。通常、大企業であれば大きな資本を投入する方法もあったと思いますが、いわゆるリーンスタートアップ*2の形でやられた背景にはどのような思いがあったのでしょうか?
*2コストをかけずに最低限の製品・サービス・機能を持った試作品を短期間でつくり、顧客の反応を的確に取得して、顧客がより満足できる製品・サービスを開発していくマネジメント手法のこと。
小池:僕自身がこれまで新規事業を立ち上げてきた経験から、一生懸命事業計画を描いてもうまくいかないことはわかっていたので、少ない予算でやろうと思っていました。なので、最初は全案件を一人でやっていましたね。
平林:そこがすごいですね。次の展開という話で、以前小池さんから新しい領域をやってみたいという話もあったと思いますが、そのあたりってどうなっているんですか?
小池:実は今色々と仕込んでいまして、20以上の案件が動いているところです。LIFULLで僕のミッションは、「小池面白いことやってるな」と思ってもらうことだと思っています。逆に、僕がやろうと提案したことに対して「それってどこにでもありそうだな」と言われたこともあって。そういう時はもっともっとブラッシュアップしないなと思うようにしていますね。
大企業にいても果敢に新しいことに挑戦する小池さん。そこには、社内の理解はもちろん、交流や新しいプロジェクトが立ち上がる仕掛けづくりや、社内メンバーに理解を得やすいような言語化、小さくスピーディーに実践するノウハウ、そして何より担当者自身が挑戦を楽しみ続ける姿がありました。
※ 本記事は、LOCAL LETTERが運営する地域共創コミュニティ「LOCAL LETTER MEMBERSHIP」内限定で配信された「LOCAL偏愛トークライブ」の一部を記事にしたものです。詳細はこちら> https://localletter.jp/membership/
Editor's Note
私が小池さんのお話を始めてお伺いしたのは、2020年1月。WHERE が行うイベントでお話をお伺いしたのがきっかけでした。その時、LivingAnywhere Commonsのお話や小池さんご自身の新規事業のお話をお伺いし、すっかり小池さんファンに。
特に、新規事業のお話はお話を聞いていた当時は、想像することしかできませんでしたが、コロナを経て私も新規事業担当になり、より一層小池さんの言葉が現実的に理解できるようになりました。また、現状にとらわれずに、常に前に進んでいる小池さんのように私も突き進んでいこうと強く思いました。
AZUKI KOMACHI
小豆 小町