前略、100年先のふるさとを思ふメディアです。

LOCAL LETTER

やりたいことをやる。その決断の連続で実現した「農業×洋菓子」のキャリア

JUN. 10

HIROSHIMA

拝啓、「いつか」を待って頭でっかちになるアナタへ

「お金が貯まったら世界一周をしたい」
「自分のカフェをやってみたい」
「死ぬまでにスカイダイビングをしてみたい」
「自然があるところでのんびり暮らしたい」

「今やればって?お金もかかるし、仕事もあるし、家族もいるし…いつかね」

誰しも日々の生活の中で、無邪気な自分の気持ちに蓋をしたことはあるのではないでしょうか。

今後の楽しみ・目標として、やりたいことをあえて今はしないという選択もあります。しかし、その「いつか」というのは、本当に来るのでしょうか。また、本当にやってきたとして、その時アナタはやりたいことを素直に選ぶことができるのでしょうか。

広島市内からフェリーで約30分のところに位置する離島・広島県江田島(えたじま)市で「美谷ファーム」を営む美谷勇さんも、かつてはやりたいことを実現するのに躊躇していた一人でした。

美谷ファームがある江田島市は、人口約2万人、瀬戸内海で4番目に大きな面積を持つ島です。島に多く残る戦跡が観光地化されていたり、豊かな自然を活かしたアウトドアが楽しめることから、観光客が増加している注目の場所です。

また、市内で生活に必要な買い物ができ、空き家バンク制度や移住者支援が充実していることから、国内外からの移住者が増えている場所でもあります。

美谷ファームは、「ファーム」という名前にあらわれているとおり、農業を主な事業とする洋菓子屋さんです。2020年3月に創業されました。古民家を改装した店舗で販売されているのは、ケーキやプリン、焼き菓子などのスイーツ。オーナーの美谷さんは農業と兼務しているため、限られた曜日のみで営業されています。

美谷ファームのお店。古民家の玄関を開けると、スイーツが並ぶショーケースが見えます

やりたいことをやる
まずはやってみよう
失敗してもいい

自分の殻を破り、やりたいことを実現し続けた結果、今や島民以外からも愛される洋菓子店のオーナーになった美谷さんの口からは、何度もこの言葉が出てきました。

シンプルな考え方でありながらも、新たなチャレンジをしようと迷っている人にとっては、背中を押される温かい言葉なのではないでしょうか。そんな考えを大事にする美谷さんに、自分の殻を破り、やりたいことを実現し続ける生き方について聞いてみました。

「石橋を叩いて渡りたがる自分」に、あえて逆らったターニングポイント

美谷さんは、出身地である山口県の高校を卒業して、広島市内の有名な洋菓子店に勤務をしていました。農家で生まれ育ったわけではない美谷さんでしたが、洋菓子の販売を通じて、「安心できる果物・野菜を育てたい」「自然の中で仕事がしたい」と次第に思うようになりました。

ただ、「農業をやってみたい」とは思うものの、すぐに始めはしなかったそうです。

美谷勇(Mitani Isamu)氏 美谷ファーム代表 / 山口県生まれ。月・金・土・日に洋菓子を販売。さくさくした生地のクッキーシューが自信作。愛猫のミミと一緒に暮らす。

「足固めをしてから挑戦したいという、心配性なところがありました。だから、この性格を踏まえたときに、定年後などある程度自信がついたタイミングじゃないと農業は始めないだろうなと思っていました」(美谷さん)

迷う中で気が付いたのは、石橋を叩いて渡りたがる自分の性格。同時に「60歳や70歳で定年になったときに、自分は本当に農業をやるのか?」と疑問も感じた美谷さん。

だったらあえて自分に逆らって、今やってみてもいいんじゃない?と、思い切って会社を辞めて自分で農業をやることにしました。ただし、農業で失敗をしても戻れるように、ある程度貯金をしたりはしましたね。たとえ自営でやってだめだったとしても、別のところで経験を積むことはできると思って、とにかくまずはやってしまおうと思いました。

友人にも、『やってみればいいじゃん』と言われたので、その言葉に踊らされてみようという気持ちもありましたね」(美谷さん)

やりたいならとにかく今やってみる。だめならだめで戻れるような心持ちと状態を創っておく。
このときが、美谷さんにとって大きな転機となりました。

勤めていた洋菓子店を辞めた後は、広島県内で農業を2年間学び、農業の経験を積むために、江田島市のトマト農家で9年間働きました。

そして、江田島市商工会が主催する創業塾に参加し、2020年春、農業を主軸とした美谷ファームを創業しました。

「理想が現実に負けないよう」努力をし続けて成長した自分とお店

2025年の春で、創業5年目を迎える美谷ファーム。創業当時は、「農業の副業程度に」と考えて、洋菓子の販売を始めました。

「当時、江田島市には洋菓子店がゼロで、誕生日ケーキを買うためにわざわざ呉市まで車で30分かけて行かなければなりませんでした。その状況を見たときに、うちで野菜だけじゃなくて、お菓子のような嗜好品も提供できるようにすれば、需要があるんじゃないかと考えたんです」(美谷さん)

広島市内の洋菓子店で働いていたとき、美谷さんは販売業務がメイン。製菓学校を出ていたわけでもなく、お菓子作りの経験もなかった美谷さんは、コロナ禍で外出ができなかった時間を利用して、レシピアプリや動画を参考に、独学でお菓子作りを学んでいきました。

「農業がメインだったので、店舗はないし、ショーケースさえもなかったです。あるのは、小さなオーブンとハンドミキサーだけでした」(美谷さん)

数年はお客さんが来ないと想定していましたが、友人の誕生日パーティーで出したケーキが美味しいと話題になり、その評判は瞬く間に島に広がりました。

最初は、常時2種類程度が並んでいたケーキのラインナップ。技術の向上で徐々に増えていきました。また、需要の増加に合わせて、本格的な設備投資の必要性を感じた美谷さんは、江田島市商工会に相談して事業のアドバイスをもらったり、紹介してもらった補助金制度を活用したりしました。そのサポートのおかげで設備を整えることができ、現在では常時10種類程度のケーキが並ぶようになりました。

キャプション取材した日のラインナップ。夕方には売り切れるケーキもたくさん見られました(美谷ファームInstagramより)

ひとつひとつのケーキの裏にはドラマがあります。その中でも、定番メニューとして並ぶようになったシフォンケーキのドラマを紹介してくれました。

「お客さんに喜んでもらえるものを作りたいと思っていたので、なんでも作りますよ、というスタンスでいました。そんな中、作ったことがないシフォンケーキの注文がきて。それを受けたときが、一番怖かったです。

最初、試しに作ってみたら、まったく膨らまなくて。でも、注文を受けてしまったからには、なんとか喜んでもらえるものを作るしかないですし…。胃が痛くなるような思いをしながら、人にコツを聞いたり、寝る暇も惜しんで必死に試行錯誤しました。なんとか1週間くらいでお金をもらっても良い、自分でも納得できるクオリティに仕上げることができましたが、一番ひやひやした思い出です」(美谷さん)

お客さんに喜んでもらえるものを提供するために、美谷さんはこだわりを持ちすぎないことを、あえて大事にしていると言います。中でもケーキのデザインは、良い意味でこだわりを持ちすぎずに、様々なアレンジをしているうちの一つです。

「他のお店のケーキも参考にデザインを色々試しているので、1回しか出さなかったデザインもあります。だから、お客さんに『前に出していた形でつくってほしい』と言われても、私自身がわからなくなってしまうんですよね」(美谷さん)

こだわりを持ちすぎないようにする一方で、ブラさないようにしているのが、作る自分自身が楽しむこと。

「私のやってきたことは、こうするべき、ああするべき、みたいな『べき論』ではなくて、こうしたい、ああしたい、という自分の『やりたい』気持ちがスタートになっています。

だから、そのやりたい』と思った自分の理想に負けないように、技術を磨いたり、工夫をしたりするのはもちろんですし、ケーキのデザインを工夫したり、種類を増やしたり、遊び心を持って楽しむことも大事にしています」(美谷さん)

可愛らしいデザインを試行錯誤しています

「身の丈に合ったことから+1歩」を歩み続ける

最近は、農業を営む暇がないほど売れ行きが良いため、洋菓子販売が仕事のメインとなっています。
ラインナップが増え、多くの反響を呼ぶようになった今ですが、意外にもそこまで未来を思い描いて実現してきたわけではないとのこと。

今できることから、プラス一歩進むには何をしたらよいか、ということを考えてきました。だから、農業は家庭菜園よりも大きいくらいの畑から始めましたし、洋菓子店も最初から立派なお店を構えるのではなく、ショーケースがないところから売り始めました。それから、だんだんお客さんが来るようになったので、縁側で売るようになり、今は改装してショーケースで売るようになりました。

だから、やれるその時に応じて柔軟に行動をし、工夫をした結果が今だと思います」(美谷さん)

そんな今できることを大事にする美谷さんが考える、今後のプラス1歩進んだところを聞いてみました。

「江田島市の外から来るお客さん向けに、日持ちのする焼き菓子であったり、江田島市ならではのものを作って喜んでもらいたいと思っています。

あとは、果物を自分で育てて、それを使ったケーキを作るとか。農業の経験があるからこそ、自前のものを使ったレストランを創るのも、独自性としてやるのは面白いと思いますね。やってみたいことは色々あります」(美谷さん)

ドライフラワーやジャムも販売中

やりたいことをやる
まずはやってみよう
失敗してもいい

何度もこの言葉を口にする美谷さん。農業をやろうと決意して洋菓子店を辞めたあの時、まさに美谷さんは自分の殻を破ったのだと思います。そして、やりたいことをやり続け、自分の理想に負けないよう、今の自分よりも1歩先を目指して努力を続けた結果、今に至っています。

「最初、このお店は失敗しても良いと思っていました。失敗をしても、次の工夫につながりますし、他の人の参考にもなりますし。やりたいことをやりたいようにやってみて、やれるところまでやってみてダメだったら、方向転換しようと思っています」(美谷さん)

どんなに小さなやりたい事でも構いません。
アナタは、どんなことをやりたいと考えていますか?

美谷さんの話を通じて、やりたいことをまずは小さくやってみる考え方であったり、失敗をしてもいいという柔軟な考えが、自分らしいキャリアに繋がると気づかされたと思います。

美谷さんが繰り返していた言葉は、新しいことに挑戦をしようともがいているとき、アナタの背中を押してくれるのではないでしょうか。

失敗してもOK。小さな+1歩でも、その+1歩がターニングポイントになるかもしれません。

本記事はインタビューライター養成講座受講生が執筆いたしました。

Information

2025年「WHERE ACADEMY」体験会を開催!

「自信のあるスキルがなく、一歩踏み出しにくい…」
「ローカルで活躍するためには、まず経験を積まなくては…」

そんな思いを抱え、踏みとどまってしまう方に向けて、
地域活性に特化したキャリア開発アカデミーをご用意しました!

「インタビューライター養成講座」「地域バイヤープログラム」「観光経営人材養成講座」など、各種講座でアナタらしい働き方への一歩を踏み出しませんか?

<こんな人にオススメ!>
・都心部の大手・ベンチャー企業で働いているけど、地域活性に関わりたい、仕事にしたい
・関わっている地域プロジェクトを事業化して、積極的に広げていきたい
・地域おこし協力隊として、活動を推進するスキルや経験を身に着けたい

 

まずは体験会へ!
参加申し込みはこちら

Editor's Note

編集後記

「身の丈に合ったところから+1歩」というのが、印象的な言葉でした。
少年のようにわくわくする一面と、石橋を叩いて渡る一面、そして理想に負けないように努力を続けるプロフェッショナルな一面。そんな美谷さんらしさが詰まったスイーツは、見ているだけで幸せになるものばかりでした。自信があるというクッキーシュークリーム、絶品です。

シェアして美谷ファームを応援しよう!

シェアして美谷ファームを応援しよう!

シェアして美谷ファームを応援しよう!

LOCAL LETTER Selection

LOCAL LETTER Selection

ローカルレターがセレクトした記事